182.ブリューゲル・アンダーソンVSアンデッドハント・リキッド・リオール
「おおおおぉ! マイラーービリンス!」
瞬間、ブリューゲルの言葉に呼応するように、迷宮教会の人間がリオールへと攻撃を仕掛ける。
テーブルやソファを蹴散らし、破壊しながら迷宮教会の信徒たちは手に持ったナイフとメイスをもってリオールに切りかかった信徒たちは、狂人とは思えないほど洗練された連携攻撃により、アンデッドハントの首と胸……ありとあらゆる人体急所を狙ってとびかかる。
が。
「やれやれ」
リオールはため息を漏らしてゆっくりと歩き……狂信者たちはリオールを素通りする。
「!?」
とびかかった狂信者たちがリオールとすれ違う瞬間……皆が皆例外なく血を巻き上げ、丸太切りにされた狂信者がぼとぼとと床の上に零れ落ちる。
「わが名はリキッド・リオール……偉大なるアンドリュー様に仕える隠密機動隊……」
「あなたは……あなたはあなたはあなたは! 聖女を連れ去るだけでなく……またしても私を聖女を、ラビの寵愛から私たちを引き離そうとするのですか! また、またまたまた!聖女を奪い去るつもりか!!」
気が狂ったかのように叫ぶブリューゲル。
狂人の絶叫にも似た怨嗟の言葉は、呪いの触手と共に放たれ、常人であれば正気でさえも保てないであろうその気迫に対し。
「……あの女は目立ちすぎた……ラビは私が引き継ごう」
リオールはそう剣を抜き、触手を切断する。
「ぶちころす!! 聖女を奪うだけならばいざ知らず……あなっおまっ……貴様の様な下賤な邪教の神のくそったれな匂いがするような貴様ごときが、偉大な絶大な尊大なラビを、ラビをラビをラビを引き継ぐとは、脳髄をかき回されてミックスジュースにされている気分ですよ……今に、今に今に今に! あなたにもその私の屈辱を味合わせてあげましょう!」
「ふん、そういうセリフは」
絶叫をしながら呪いの触手を振りまくブリューゲルに対し、リオールは剣にて触手を両断しながらブリューゲルへと走り寄り。
「……この剣を見切ってからいうんだな」
心臓を一突きにする。
ブリューゲルアンダーソンの呪いの触手は、触れればアウトの代物であるが……初動が遅いという弱点がある。
一度発動がかなってしまえば襲い掛かる触手すべてを払うことは不可能であるが、この密室でこれだけ距離が近い状態であれば、身体能力に勝るリオールに軍配があがるのは当然のことであり、力なくブリューゲルはその場に倒れ伏す
マスタークラスによる……剣の一突き。
ろっ骨をすり抜けて綺麗に突き刺さったその切っ先を引き抜くと、心臓から溢れ出した血液が大げさにゾーンの家の中に飛び散る。
「……ふん、他愛なし……オーバーロード様は、一体なぜこんな愚物を……」
警戒していたのか……。
そうつぶやこうとした瞬間に、リオールは殺気を感じてその場から飛びのき
背後から放たれた呪いの触手が台所を破壊する。
「……馬鹿な……」
その呪いの触手は間違いなく殺したはずのブリューゲルから放たれており、その数は減るどころか次々に増えていく。
「痛い……あああぁ痛い……痛い痛い! やっぱり痛い! 痛みこそ寵愛! あああぁ私はやはりラビに愛されている! 寵愛され、敬愛され……こうして今も生きながらえる!
ああああラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳!」
「馬鹿な……貴様不死身か?」
「痛み続く限り私は死ぬことはない……痛みを感じるためには……生きていなければいけないですからねえぇ! それがラビの愛! 痛みこそ愛! 愛の為に生き! 私は痛みの為に何度も何度もこの世界にしがみ付く! それこそがラビに与えられた私の力!!!私への寵愛!【痛苦の残留!】ひいいぃぃひひひいひ! この力こそラビ! この力こそ偉大なるラビの力! 痛みが私への愛を証明する、痛み、痛み痛み痛み!!!」
ブリューゲルアンダーソンは、愛を叫びながらも短剣を懐から取り出し、自らの心臓へと突き立て……その心臓をえぐり取り、それを握りつぶす。
司祭は握りつぶした直後に、口をパクパクと動かしたのちに絶命をするが、その直後に息を吹き返し、傷がふさがっていく。
「化け物め」
リオールはそう呟き、怒りをあらわにするが。
「化け物ではない……ラビです」
瞬間、家の床がはじけ飛び、足元から触手が生え、リオールを襲う。
「しまっ!?」
狂気にまみれたような発言は完全なる気を引くためのトリックであった。
叫び壊れ怒りを振りまくような演技をしながらも、ブリューゲルは呪い床の下へと忍ばせ……リオールを捕らえるタイミングを狙っていたのだ。
「ちいいいいぃ!」
リオールは襲い掛かる触手を飛んで回避し、ソファーを持ち上げ盾にして呪いの一撃を防ぎきる。
だが、その勢いを殺しきることは出来ず……吹き飛ばされ冒険者の道に弾き飛ばされる。
広い道……密閉空間では有利だが、これだけの触手を召喚された後に、さらには道幅の広い冒険者の道……この時点でリオールの勝利は絶望的になる。
「くそったれ」
リオールは怒りをあらわにするように言葉を漏らし。
「逃がしませんよ!」
放たれる触手二本を剣で迎撃する。
「ちっ、ふざけやがって……もはや人間じゃないな」
家から現れる司祭は、玄関を破壊しながらゆっくりとリオールの前に現れる。
その姿はもはや司祭ではなく、触手が全身から伸び、そして体中を触手で巻き付かれた異形の魔物そのものであった。
その見た目の醜悪さと、呪いの濃度に……あらゆる精神的拷問を耐える修行を行ってきたリオールでさえも、目をそむけたくなるほどの嫌悪感と名状しがたき冒涜的な光景に、視界がゆがむ。
あれに包まれて正気を保てるわけがない。
リオールはそう判断すると、決着を急ぐ。
「それが呪いだというなら……見せてやる……神の力を」
「神の力なら目前にあるではないですか! ラビこそ神! 異端の神の力などおそるるに足らず! ラビをあがめラビを信じラビを敬愛しラビのみに目を向けるのです!!世界はラビを信じるべきだ! それ以外のものなど殺してしまえ!」
「それがお前の本音か……だが……その戯言もここまでだ!」
そう言うと、リオールは剣に一度触れ。
「ガーアルド……」
ノームを作りだした神の名を呼ぶ。
と。
アンデッドハント、リオールの剣に、神の力が宿る。
「あぁそうか、貴方ぁ、半神なのでしたねぇ!? 邪教の神との混血!なんだ、化け物はあなたの方ではないですかぁ!」
煽り立てるブリューゲルに、リオールは一度鼻を鳴らすと。
一瞬にしてブリューゲルの背後を取る。
「終わりだ」
「なっ!? はやっ!」
ブリューゲルが振り向くのなど間に合うわけもなく、振り上げたリオールの剣は神の光をまとい、その呪いを浄化する。
「がっ!? しかし、しかししかし! 私は、ラビの寵愛により……があああ!????」
一閃……それに両断をされたブリューゲルは、絶叫と悲痛な声を上げながらその場に崩れ落ちる。
神の光には呪いや闇の力を打ち払う能力がある……ゆえに、呪いの塊となっている今のブリューゲル司祭には絶望的なダメージとなりうるのだ。
「無駄だ……神威を織り交ぜた我が一部を液状化し貴様の体内に混入させた……邪教の呪いは……神の光により浄化される……お前の虚像もここまでだ」
「馬鹿な……ごふっ!? ここで!? この私がここで!??? 終わり?! ラビの寵愛が……痛みが……ここで……終わり……」
ばたりと、ブリューゲルは息絶え、同時に全身から大量の血が流れ出る。
リオールはその姿に一つ鼻を鳴らして背を向け。
「じゃなあぁぁい!」
触手に背後から貫かれる。
「んなあああああにいいいいいいぃ!?」
驚愕の声を上げ、すかさず触手を切り離そうと剣を抜こうとするが、それよりも早く触手はリオールへと巻き付いた。
なおも諦めずにもがき苦しむリオールであったが、もはや勝負はついており、触手は体の外側だけでなく、全身の穴と言う穴からリオールの体へと侵食していく。
「今すぐにでも磔刑に処すが正しいですが……ですがですが、愚者には愚者の使い道がある……」
そういうと、呪いにからめとられたアンデッドハントは、触手の中に埋もれていく。
「グッ……ぐぐぅっ!? わ、私は迷宮教会の一人、リキッドリオール……。 ノームを作りし神ガーアルドが実子! ゆえに呪いなどに侵されは……」
半神であるリオールは、ノームを作った神、ガーアルドと人間の混血であり、それゆえに魔界の技法である魔法も、呪いも受け付けない。
だからこそ、本来であれば呪いも浄化してしまうのだが。
「……するんですねぇこれが! 私の呪いは侵食性!! 邪神を染め上げ! 唯一神となる物語! これこそがラビ! これこそが我がラビのフェアリーテイル! そう、この呪いこそラビの再現なのです! あああぁぁ! ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳!」
「がっ?あああああああぁふぁへ⒮ンvjrねくぃjwfンくぃんfqw@ンンqンtイq????!」
アンドリューへの忠誠も……ガーアルドの加護も……その呪いの前では一切無意味であり。
染め上げられた神の子は……なすすべもなく触手のゆりかごの中で、名状しがたき狂気の世界へと堕ちていった。
「ようこそおおおぉ! 寵愛の世界へ!」




