181.リキッド・リオールはまだ終わっていない
一方そのころ……ウイルの家では。
「ここがあの男のハウスだな……」
王都リルガルムの外まで流された男、リキッドリオールは、その全身をリキッドまみれになりながらも、その卓越した情報収集能力と読心術、思考読みの魔法により、深夜零時にしてようやくウイルたち……つまりはカルラが潜伏しているであろう冒険者の道の途中にある少し大き目な家にたどり着く。
当然家には灯りはない。
「不用心だな……この家を知られるわけがないと慢心したか?」
そう感想を漏らし、好都合と家の中に侵入しようとするが。
「っと、あぶない」
目前に、罠があることに気が付きリオールは歩を止める。
あちこちに張り巡らされた糸……触れればその場所に指定された魔法が放たれるという仕掛けが施された魔法である。
「ふむ……なかなかに高度な仕掛けだ、飛ばしてくるのは恐らく下位の魔法だろうが、あたりに漂っている魔力の残滓でこれだ……触れるのは得策ではない……か。 それなら」
リオールはそう呟くとスキル、液状化を発動し、地面を張っていく。
「私に襲われた後だというのに、液状化に対する策を何も用意していないとは……」
少し呆れたような言葉をリオールはつぶやきながらも、それでも最新の注意を払い、罠を潜り抜けていく。
裏口から、台所の排気口を通り抜けて中へと台所へと出る。
王城への侵入、そしてカルラの捉えられていた地下牢へと侵入した方法と全く同じ方法でリオールは、トラップをいともたやすく潜り抜けたのだ。
「ふぅむ……家の中にまで罠がびっしりか……となると、留守……か。外に見張りがいないのもうなずける……恐らくはカルラの傷を治しにどこかへ向かったか……何か手がかりを……いや、その前にこの罠を解除しなければ」
困惑したような表情でリオールは、この家の住人の異常性にため息をつき……糸ではないがあちらこちらに地雷式に仕掛けられている魔法陣に触れないように注意しながら、根源を探す。
「これだけの魔法陣……必ず核となる魔法陣が存在するはずだが」
描く魔法陣を集中管理する根源……核と呼ばれる魔法陣を探しながら、リオールは
うっかり地雷を踏まないように注意を払って、魔力の流れ出ている中心点を探す。
と。
「あった」
奥の奥の部屋、恐らく女性の魔法使いの部屋であろうその部屋の机の上……そこに置かれている小さな本。
隠匿魔術により魔力の出どころは隠されているが、急ごしらえで作ったのだろう、魔力が流れ出る道筋がこの本でぱったりと消えている。
「まぁ、よもやここまで早く結界が打ち破られるとは思わなんだろう……しかし、このリオールに、この程度の罠は通用しない……他愛なし、というものだ」
そういうと、リオールは短剣で本を突き刺す。
入念に防護術式がかけられていたようだが、マスタークラスの忍であるアンデッドハントの一閃の前には、紙切れも同然であり、結界は解かれ地雷式に設置された魔法陣も、外の蜘蛛の糸さえもその姿を消していた。
「ふむ……罠かと思ったら【現状保存】の魔法か……この核さえ作りあげれば何度も再利用が可能と……ふむふむ……恐らくレベルは11以上のアークメイジ……だがムラが多い……恐らくおおざっぱな性格で、才能に恵まれている。 炎系の魔法の本が多い……ふむ、これは呪いの手引書……くっくっく、この女、魔界と悪魔に魅入られているのか。 ブラックボックスに隠しているところを見ると……ここの人間は知らないようだが……くっくっく」
リオール、いやこれはアンデッドハントすべてに言えることだが、侵入した家の人間の特徴を考察することが、彼らの決まり事となっている――別に女の子の部屋だから入念にチェックして妄想に浸っているわけではない――。
特に誰かが取り決めた掟というわけではないが、情報とは隠密にとっては最大の武器となる。
そのため、どんな些細な物であっても、アンデッドハントは家に侵入した場合、その家の情報すべてを持ちかえる。
いつどこで手に入れた情報が役に立つのかなど、誰も分かるわけがないからである。
「ここにカルラの手がかりはない……次だ」
リオールはそういうと、奥の部屋から出ていき、さらにほかの部屋を調べて回る。
罠はすでに解除され、何も警戒することのないその家は、調べれば調べるほど普通の冒険者の家であり、カルラの情報も、さらにはカルラが帯びていたはずのラビの呪いの残滓すらっ見あたらない。
罠が大量に仕掛けられていたことにより、この家がカルラを奪い去った男の家であることは明白だが……。
「……この家には帰っていない?」
大方の個人情報を入手し終えた後、リオールはそう結論を出す。
家を襲撃されると踏んで、あえてあの男はあの後単独行動をとった……その線が濃厚になり、リオールは苛立たし気に舌打ちをし、外に出ようと振り返ると。
「なぁあんだ……結界が消えたのは、偉大なるラビのお力と思いましたがあぁ……あなたがこの結界を解いたのですねぇええ……いや、正確には偉大なるラビが、貴方を遣わしたのですね……どちらにせよぉ……あなたに感謝を……」
玄関の扉が開き、何者かがこの家に侵入をしてくる。
「貴様は……」
「この偉大なる聖女の家に侵入し……我々の手助けをした……あなたもしかして……入ううううううぅ信希望者ですかぁああぁ?」
そのいびつな声に狂ったような瞳と仕草……間違えることなどなくその男は迷宮教会司祭ブリューゲルアンダーソン司祭であり、その周りには迷宮教会の信者たちである。
「……まずいことになった……か」
すでに迷宮教会がこの場所をかぎつけているということは、リオール自身予想外の出来事であり、この出会ってしまったことをリオールは舌打ちをする。
ブリューゲルアンダーソン。
高度な呪い術師であり、戦士でもあるこの男は、あまりにも危険な呪いを保有することから、アンデッドハントでさえもうかつに聖女の暗殺や抹殺を行えなかったほどだ。
そのため、ここで出会うのはリオールにとっては不幸としか言いようのない出来事であった。
「んんん? その身なり、漂う邪教神のかおりぃ? おやおやあああぁ? あなたぁ……もしかして……アンデッドハントではありませんかぁあああ?」
「だとしたら……どうする?」
「ぶち殺す♪」
 




