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180.カルラの幸せ

カルラは申し訳なさそうに半泣きで懺悔をし、僕は苦笑を漏らしてカルラの頭を撫でる。


「気にしないでいいよカルラ……君はあの時普通じゃなかったんだろ?」


「……い、以前ウイル君を襲ったっていうローグを見つけてしまって……私、我慢しようって思ったんですけど……どうしても、許せなくて……怒りで我を忘れて……呪いに、ラビに飲まれてしまったんです」


「……ローグって……」


あぁ、確か王都襲撃の際に、呪われて操られたローグたちがパレード会場で囮をやっていたと、サリアが言っていたな……。


あれだけのことをされた後にカルラと出くわすなんて……ついていない人たちだ。


「まぁ、それはいいよ……それで……アンドリューの部下になった経緯を教えてもらってもいいかな?」


「は、はい……ブリューゲル司祭から逃げ出した後……わ、私はそのまま迷宮下層に逃げ込みました……ひたすらめちゃくちゃに逃げ回ってたら……気が付いたら迷宮九階層にいて……そこで……アンデッドハントに出会ったんです」


「アンデッドハントに?」


「ええ……彼らはアンドリュー直属の隠密部隊で……あったことはないんですけどアンドリュー軍参謀、オーバーロードさんの命令で……ラビの封印を探していて……私は封印を解除したものとして……仲間になるように勧められました……ずっと、ラビの封印を解除したときから監視をしていたけど……ブリューゲル司祭のガードが固すぎて……連れ去ることができなかったとも……」


「アンドリューがラビを? 確か敵対しているはずなのに?」


「さ、再封印をするよりも、ラビの力を利用して、ロバートとの戦いの戦力にしようと……オーバーロードさんは考えていたようです……そ、そのあとはオーバーロードさんの命令で……私はアンデッドハントに隠密部隊としてのスキルを与えられ……迷宮結界の解除法や、魔物を外の世界に出す方法を……各国を回って調べたり、王都襲撃の際には……フランクさんに従って、く、クレイドル寺院にマリオネッターさんを召喚したり……フランクさんが作り上げた魔物軍の召喚をしたり……リルガルム各地に、通常の魔法陣と……呪いの魔法陣を描いたりしていました……」


結構な暗躍頻度である……。


今まで起こってきた事件のほとんどを……アンデッドハント特にカルラが行っていたという事か……。


これはレオンハルトの尋問が始まる前に回収ができて良かったかもしれない。


「じゃあ、最初に出会った時ってもしかして」


「ごめんなさい……クレイドル寺院を襲撃しに向かっていた途中だったんです……本当にうっかりして、人にぶつかってしまって……今までこんなことなかったのに……その時だけ」


「へぇ……でも、そのうっかりが無ければ、こうして君を助けることもできなかった……てことか。 なんだか、運命を感じちゃうね」


「う、うんめい!?」


なぜかカルラの顔が赤らみ、声が上ずる。


「へ? ど、どうしたの?」


「い、いやぷっ!? な、にゃんでもございません!」


「そ、そう? それならいいんだけど……それで、王都襲撃の後はどうしてアンデッドハントに追われることになったの?」


「ラビの力が、ロバートにわたることをオーバーロードさんが恐れたからと……言っていました。影に生き、その存在は知られてはいけないのが隠密の基本……私はいささか目立ちすぎたと、そういわれました。 そしてリオールさんは……自分がラビになるとも」


「そう簡単になれるの?」


「分かりません……ですが、アンデッドハントのスキルをすべて知るものは少ないです……もしかしたら、リオールさんも私と同じスキルを習得しているのかもしれません」


「なるほどね……」


「結局私は……どこまで行っても、迷宮で生まれた子……なんです」


迷宮で生まれたこ子として忌み嫌われ……そして迷宮で生まれたことして聖女になり……呪われて裏切られて……利用されて捨てられて……。


彼女の人生に僕は怒りすら覚えてしまう。


だが。


「でも、貴方だけは違った」


カルラはそう、どこまでも幸せそうな表情で、僕を見て笑うのだ。



「貴方は私を……カルラとして見てくれて、カルラとして接してくれた……それがとっても嬉しくて……友達だなんて言ってくれて……本当に……嬉しくて」


言葉が溢れ出して、整理がつかないように……カルラは自分が幸せであることを語る。


自分をカルラとして見てくれたことがどれだけ幸せで嬉しかったのかを僕に語る。


その喜びが……感謝の言葉が……突き刺さっていくように感じる。


教えてあげたい……。


もっと世界は美しくて、もっと君を受け入れてくれる人がいるのだと。


もっと楽しくて、幸せなことが世界にはいっぱいあるんだと……。


そして……教えてほしい。


それを知ったとき……彼女は一体、どれだけ美しい表情で笑うのかを。


「ウイル君?」


「え? ああ! ごめん! とっても嬉しそうだったから」


「はい!」


「……少しでも力になれて良かったよ……それで、少し気が早いかもしれないんだけど、傷が治ったらどうするつもりなんだい? もし住む場所がないなら、しばらくは家に部屋の余りがあるけど」


「ありがとう、ウイル君……でも、アンデッドハントに迷宮教会、更には王国騎士団にも追われている私です……ウイル君に迷惑が掛かりますし、危険が大きくなります……私の話を聞いても、そういってくれるのはとてもうれしいのですけれども……ウイル君が危険な目に合うのは……私が嫌と言うのと……少し、探したい人がいるんです」


「探したい人?」


「両親です」


「……え?」


カルラの言葉に僕は聞き返す……。


「探して……どうするの?」


全ては、彼女を迷宮に捨てたことから始まった彼女の不幸……。


迷宮に捨てたことから、殺意があったことは明確であり……もはやカルラ自身も、両親に受け入れられるとは思っていないだろう。


だとすれば……。


「ご両親が許せない?」


許せるはずがない……。


迷宮に捨てたことから、明確な殺意があったことは明らかであり……両親のせいで、カルラはこれだけつらい思いをして生きてきたのだ……。


そうなれば、行きつく先が復讐になるのは当然の結果とも思える。


しかし。


「いいえ、確かに寂しくて悲しいけれど……それでもお父さんもお母さんを恨むことはありません……ただ……幸せになってくれているかだけ……知りたいんです……ちゃんと幸せになっててくれるか心配で」


カルラはそう、曇りのない瞳でそう言った。


「……え?」


言葉に詰まる。


当然だ……カルラの人生を喰らって……幸せに生きている人間がいる。


それも、自分の身勝手でだ……。


其れなのに、カルラはそんな人間の幸せを望んでいると……そういったのだ。


 

「……わ、私……確かに不幸だったのかもしれません……お父さんに甘えたかったし……お母さんが恋しかった時もあります。 覚えてないけど……あったこともないけど……なんでだろう、やっぱり、私はお父さんとお母さんが大好きなんです。 私を捨てた人だけど……死んでほしいと思われたのかもしれないけど……それでも、想像するだけでお母さんが恋しくて……お父さんに甘えたくて仕方がないんです……だから……ちゃんと、幸せになってくれてるか確かめたいんです。私を捨てて、ちゃんと幸せになったのか……私は捨てられて、大好きなお父さんとお母さんを幸せにできたのか……ただ……それが知りたいんです。 ちゃんと、幸せになっていてほしいんです……それなら、私の人生にも意味はあったのかなって……そう思えるから……」


僕は、何も言えなかった。

捨てられて、拷問されて……殺されかけて……ずっとずっと耐えてきてなお。


カルラは自分よりも父と母の幸せを願っている。


なんでこんな子が……ひどい目に合うのだろうか。


なんで僕は……もっと早く、彼女を見つけ出してあげられなかったのだろうか。


そんな、どうしようもないやりきれない思いが胸を駆け巡る。


「……ウイル君?」


「え? ああうん……大丈夫だよカルラ……きっと幸せに暮らしてるさ……きっと」


「はい……それで……そのあとなんですけれども」


「?」


「えと……両親を見つけた後なんですけれど……その時にはほとぼりも冷めていると思うんです……だから、その時こそは……ウイル君たちと……一緒に生きてみたいな……と思うんです……私のことを全部話しても、ウイル君は私の手を……離さなかった。やっと、私をカルラと認めてくれる人に出会えたんです……だから」


「うん……うん……もちろんだよ。 カルラ……両親の次は君がもっと幸せになる番だ……。 僕たちと一緒に探そう……」


「はい……ごめんなさい……頼ってばかりになってしまって」


「カルラ……そういう時は、ありがとうでいいんだよ」


「……そうなんですか? じゃあ……ありがとう……ウイル君」


そう、幸せそうに笑うカルラの瞳には……うっすらと涙が浮かんでいた。

  

                         ◇

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