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175.迫りくるブリューゲルアンダーソン

「迷宮教会!?どうしてここに……」


それよりも、これだけの数の人間に、どうして私が気づけなかったのか……動揺していたとはいえ……。


「ちょっ、なんであんな奴らが私たちの家を取り囲んでるってのよ……依頼断ったから? 心狭すぎでしょちょっと!?」


「いや、どうやら少し様子がおかしいですね」


いつもなら不思議な邪神への賛美の歌を唱え続けている彼らだが、誰一人として一言もしゃべることなく、全員が全員家を取り囲むだけで襲い掛かってこようとはしていない。


「奴さんかーなり高度な認識阻害の魔法を施してるね~、多分囲んで動かないのは、まだ私たちが気づいていないと思ってるからじゃないかにゃー?」


シオンはそういって横目で外にいる迷宮教会の人間に目を合わせるが、相手は微動だにしない。


「私がこうしてみんなに教えたから見えてるけどー、多分言わなかったらみんなには見えてないはずだからねー……」


「隠密行動に絶対の自信ありってか……」


「何が目的でしょう」


「楽しく闇鍋パーティーってわけでもなさそうだし、十中八九襲われるねぇこれ」


シオンはやれやれとため息をついて、トネリコの杖を構え。


「焼く?」


そんな物騒な発言をする。


「殺すのはよくありませんよ、マスターもきっと同じことを言うはずです」


「確かに……」


「でもどうするのよ、今にも乗り込んできそうよ?」


「中にこもるのは得策ではありません……もしかしたら和解の道もあるかもしれないので……話だけ聞いてみることにしましょう……案外話が通じるかも」


「それ、本気で言ってるなら正気を疑うわよ?」


「それならよかった、私はまだ正気を失ってはいないようです」


私は心底うんざりという心を込めてため息を漏らし肩をすくめると、シオンもティズも同調するようにため息を一緒につき、家の外に出る。


瞬間、私たちの存在気が付いたのか、それとも外に出てくるのを待っていたのか。

迷宮教会の信徒たちは家を取り囲んだ状態で静寂を破り。


【ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳!】


邪教の神への賛美の言葉を詠唱する。


近所迷惑も何も考えないその名状しがたき狂気の声は、少なからず私たちの正気を削り取り、私は胸に不快感を覚えながらも、剣の柄に手を置いて敵の出方をうかがう。


「迷宮教会が、ここに何の用だ?」


「おやおやおやぁ!? どうもぉ! これはこれは……ついせーんじつぶりでございますねぇ~」


仰々しい耳にまとわりつくようなねっとりとした声が響き渡り、それと同時に信徒たちは道を開け、その道の真ん中を悠々と体を揺らしながら一人の男が私たちの元へと歩いてくる。


この異常で狂気に染まった空間を、男は満ち足りたような薄暗い笑みを浮かべながら、狂った瞳でやってくる。

青白い顔をし目の下に大きなクマのあるエルフの司祭。

言うまでもなく、ブリューゲルアンダーソン司祭であり。


私達はこの時点で和解を諦める。


「あぁ、一番でてきてほしくないやつ出てきた」


ティズはため息とともに私の頭の上にとまる。


「こちらにぃですねー……聖女をたぶらかし誘拐した不届き物がいらっしゃると―情報を得たのですが―……たしかぁ名前が、ウイル……ウイルと言いましたねぇはい……ウイルさんはぁ、御戻りのはずぅ……さぁ、どちらにいらっしゃいますかねぇ?」


ブリューゲルはそう息を切らしながら言うと、感情を押さえているのか、青筋を頭に浮かべながら興奮気味にそう問うてくる。


「マスターは不在だ……私たちの方が知りたいくらいです」


しかし、こちらとてマスターの行方がしれないというのは同じである。


「嘘はよくない……ッ聖女はここにいるはずです!! 傷ついた聖女! クレイドルの毒牙にかからないように入念に入念に呪いをかけたあの子です!! クレイドル寺院を頼ることができなくなったならば! 必ず! 必ずあなたがたを頼るはず! あの男は聖女をたぶらかし、聖女を連れ去り奪い去った!! 不浄で、不潔で、なんっとも恥ずべき無知蒙昧な男なのでしょう! 背教者であるだけならいざ知らず! あの男は!! 我々迷宮教会のラビを! ラビに通じる女を! 奪い去り姿を消したのです!」


話を要約すると、マスターは忍と行動を共にしており、現在迷宮教会に追われている……という事か。


なるほど、マスターがこの家に戻らないわけだ……。


私はマスターが家に戻らなかった理由に納得をし、同時に剣を構え直す。


「あいにくだが貴様らの行動などマスターはすべてお見通しだ……」


「そうだよー! ここにはウイル君はいません! 忍の女の子もーいません!」


「いないですとぉ!? いいえ、いるのです! 聖女はいるのです! ここにここにここに!? あああぁラビ! ラビ! いえ、この際いなかったとしても関係はありません!? あなたたちを捕らえれば、おのずと自ら聖女を差し出しに来るはずです! 心が痛みますがすべてはラビのため!! おぉラビよ! 背教者の血をもって我らに祝福を!」


「流石に話が通じないわねぇ……」


「痛みこそ力!痛みこそ祝福! さぁ、うつくしき柔肌をラビに捧げ、祝福に泣いて狂乱し、浸透し、脳髄の奥の奥までラビを刻み込むのです……」


ぞわりと、背中に悪寒を感じ、私は一歩引いてしまう。


「どうしよう……こ、この人わかってたけど色々とやばい」


「吐き気通り越してこいつに触れられただけで自殺したくなるわね」


ティズはそう呟き息を飲むと同時に、信徒たちはいっせいにフレイルやナイフを取り出しじりじりとこちらに迫ってくる。

さすがに少しまずそうだ。


「どうしますか?」


「焼き払っちゃうのは簡単だけど」


迫りくる信徒に対し、シオンはそうぼそりと私の耳元でつぶやくが。


私は首を横に振って拒否する。


「敵の総数がわからない以上、ここの敵を大魔法で消し飛ばすのはむしろ逆効果です……ここで火柱を上げて増援を呼び寄せれば、あなたの魔力切れが起こるまで人が集まる可能性もありますし……何よりもその分マスターが遠ざかる」


「それは、あんたがこいつらとやりあっても同じことでしょうに」


「その通りですティズ」


ティズに指摘され、私は素直に認める。


私の剣なら、この程度の僧侶であれば簡単に蹴散らせると言えども……。

やはりそれは剣士としてであるため、範囲攻撃や殲滅攻撃に優れる魔法に比べれば言うまでもなく魔法が勝る。


それに、逃げる敵を追いかけられない私では、シオンに言ったように増援を防ぐことは難しい……。


マスターの元へ駆けつけなければならないというのに……。


私は歯がゆい思いをしながら、迷宮教会信徒に刃を引き抜き防御態勢をとる。


状況は絶体絶命、この状況を最短時間で切り抜ける方法は思いつかず、なおかつあの狂信者たちを殺さずに制することなど本当にできるのだろうか。


「ミスターうい~る~……出てくるなら今のうちです、今ならば偉大なるラビの名のもとにあなたの罪を赦しましょう……そうです、だぁれにだって間違いはあるのです、それを乗り越えることにぃ……ラビは心を開くのです……はやくしないとぉ~、お嬢さん方の身の安全は保障しませんよぉ~」


どちらにせよ私たちの身の安全は保障されないことはそのブリューゲルの表情を見れば一目瞭然であり、何も対処法の思い浮かばない私は仕方なく最終手段である強行突破のため、剣を振るおうと一歩前へ出ようとすると。


「……こうなったらー、とっておきを使うしかないみたいだねー!」


そうシオンが一人つぶやき、トネリコの杖を高く掲げる。


「シオン? 一体何を……」


「恨みっこなしだよ! そっちが先なんだから……実験台になってもらうよ!」


「? 何をなさるおつもりかな?」


反抗する態度に、ブリューゲルは少し興味深げにシオンへと視線を向け、同時に呪いをシオンへと振りまこうとするが……。


「っ! させるか!」


私はその放たれた何かを、ムラマサの一閃で両断し霧散させる。


「なんという……なんというなんという!?」


ブリューゲルは驚愕と狂気に顔をゆがませながら発狂しようとするが、それよりも早く。


「ナイスフォローだよサリアちゃん! 魔力充電完了!……スーパーシオンちゃんバリアー! 始動!!」


シオンが作り上げた結界が発動をするのであった。


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