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1000万PV達成番外編  泉でガーガー 前編

「暑い」

「暑いわねぇ」

「暑すぎるよ~」

「暑いですね」

「暑いの……苦手、です」

一同が全員、寝そべってだらしなくそんな言葉を漏らす。


春も終わり夏が近づく王都リルガルム。


まだ初夏だというのに、気象予報魔導士、タリモ・ゴイフの予報によると、本日は隣国で発生しているトルネードの影響で、進路を変えた熱血渡り鳥、(あせ)()(どり)が大量にリルガルムを横断しているらしく、真夏を更に超えた異常な気温がリルガルムを襲っているらしい。

「今何度よ……カルラ」


「えーと。 あ、だめです。 温度計爆発してます」


「どんだけー……」


「ウイル、あんたアイスエイジ使えるじゃない……使いなさいよ」


「それがですねティズ……」


「なに?」


「実はもう……使ってるんだ」


そういって僕はもう一度スキルを発動するが、ぽすんという音がしてアイスエイジはレジストされる。


「熱血渡り鳥名物、【氷河期崩し】ですね。 この鳥の誕生が、氷河期の終焉だったと言われているくらいですから」


「しぬー……」


ティズはもはや突っ込む気すら失せているのか、その場にしなだれてうなる。


「水浴び……水浴びしたい」


「い、井戸はさっき……枯れ果てましたけど……ど、どうします?」


「しおんー?」


「出てくるのお湯ばっかりだけどそれでもかまわないかなー?」


「良い訳ないでしょーに……はぁ~~……」


あまりの熱さにもはや誰も気力がわかない。


というよりも現在がまだ午前11時だというのだから驚きだ……。


まだあと三時間気温が上がり続ける……そんな絶望的な状況に僕たちは全員力尽きたかのようにソファの上で全員だらける。


まぁ、これだけ暑い暑いと言っておきながら、みんなが一か所に集まっているというのは仲が良くていい証拠なんだけれど……そんなことを喜んでいる暇もないくらい暑いので、僕は窒息しそうな暑さの中、ソファにとろけたチーズのようにだらしなく座る。


……地図……そういえば。


「迷宮に、泉あったよね」


僕はふと、以前地図作りで立ち寄った場所のことを思い出す。


電血のアヒル……ボルトブラッドガーガーが管理をする獣王の泉……。


獣王に襲われて以来行こうとも思わなかった場所ではあるが、思えばもうその問題も解決をしたわけだし……行っても問題はないはずだ。


思えば広さも申し分ない場所だったし。 


獣王のおかげで遊んでいるところを魔物に襲われるということもない。


考えれば考えるほど、迷宮二階層獣王の泉は、ユートピアに思えてしまう。


「行こうか……じゃあ」


「行きましょう……」


「賛成―」


「水着……買わなきゃ……です」


「賛成です……では、クリハバタイ商店で水着を購入後、迷宮二階層へ……それでよろしいですか? 皆さん」


「異議はないよ……それじゃあ」


「行きましょうか」


「行こう行こー!」


「えへへ、行きます」


「行きましょう」


そういう事になった。


                       ◇


クリハバタイ商店。


「いらっしゃいはへー」


うだるような暑さの冒険者の道、太陽照り付ける冒険者の道を歩きながら僕たちは、人一人いないその冒険者の道を必死の思いで歩き、クリハバタイ商店の扉を開けると。


そこには暑さでやられてカウンターに突っ伏してダウンをしているリリムがいた。


「あんた、もてなすきあるのかしら……って言いたいところだけど……つらそうね」


「獣人族だからね~……あーあつい……この犬耳切り取りたい。 この毛が熱持って頭がぽーっとしちゃうの」


さすがのリリムもダウンをしているようでやっとの思いで気力を振り絞り、立ち上がる。


「それで、今日はどんなご用件ですか~?」


「ええと、水着を買いに来たんだけど」


「水着……今どこの川も泉もお風呂みたいに暑いけど」


「秘密のスポットがあるのよ」


「本当? 暑さで頭やられただけじゃなくて?」


「はったおすわよ!? 迷宮に、泉があるのよ……そこで水浴びすんの。 魔物も来ないところだから……安心して水浴びができるってことよ。 それに迷宮なら地下だから、ここよか暑さもましだろうからね」


「へぇ~……」


「もしよろしければ一緒にどうです?」


「え? でも私、まだ仕事が」


「いいじゃない、今日はどうせお客なんて来ないだろうし、そんな状態のあんた置いてても邪魔なだけよ」


「な、なるほど」


「というわけで売り上げに貢献してあげるから、さっさとトチノキに休み貰ってきなさい!」


「わ、わん!」


リリムはそのティズの悪魔の誘惑に敗北をして、一つ返事の代わりにワンとなくと、先ほどまでの暑さによる緩慢な動きはどこへ行ったのか、軽快に階段を上っていき。


すぐさままた降りてくる。


「オッケーがでたよ!」

                      ◇

迷宮二階層。


「やっぱ迷宮の中も暑いですね」


サリアはあきれるようにそう言い放つと、苦笑を漏らしてそうつぶやく。

外よりも幾分かましとはいえ、それでも迷宮の中もうだるような暑さだ。


心なしか光源虫の輝きも元気がない。


「水着も……早くも濡れてるみたいですよ」


そういいながらサリアは羽織っている上着の胸の部分を少し持ち上げて中を覗き込む。


そう、彼女たちは全員水着の上に一枚薄手の撥水性の上着を羽織っているというファッションでこの迷宮二階層に立っている。


というのも、あまりにも暑いということで、クリハバタイ商店で水着を購入した女性陣は、その上に薄手の上着を一枚羽織り、その恰好でここまでやってきていた。


町中をそれで歩くのはいかがなものかと僕は思ったのだが、彼女たち曰く、水着はセーフ

パンツじゃなければ恥ずかしくないから……とのことだ。


まぁ彼女たちがいいのなら僕も深く追求することはなく、僕は少女たちの魅惑の生足に心をどぎまぎさせながらここまでやってきたわけだが……。



「ま、水の中に入っちゃえばおんなじよ! さっさとガーガーの所に行くわよ!」


「おー!」


シオンの元気な声に合わせて僕たちは各々準備を整えガーガーの元へと向かう。


水着に浮き輪、スイカにパラソルビーチボール! そのすべてをクリハバタイ商店で集めた僕たちは、もはや迷宮に何しに来てるんだと怒られてもしょうがないラフスタイルで、気前よく迷宮の壁を破壊しながら一直線にボルトブラッド・ガーガーのいる獣王の泉を目指す。


「が……ガーガーさんって……どんな人、何ですか?」


「そういえばあんたは初めてだったわね」


「私もだよ、どんな人なの?」


「うんーと」


リリムとカルラの質問に、ティズは少し考える様な仕草をして。


「常に電撃放ってる水につかったおばさん?」


合ってるが大事な所を色々と端折っている説明をする。


「え……ふやけちゃう」


カルラ、突っ込みどころはそこなのか。


「そんな人と一緒に泉に入って大丈夫なの? あ、もしかして電撃耐性エンチャントが私を呼んだ目的だったり?」


「大丈夫だよー! この前サリアちゃんが入ったけどなんともなかったしー」


「サリア基準じゃ溶鉱炉の中も温泉でしょうよ」


「サリアちゃん人間やめるってよ」


「やめてませんからね!? というかさっきからひどくないですか!」


「あのー、け、結局問題解決、してないんですけど」


カルラの不安そうな声は小さく響くも、サリアとティズのいつもの言い争いの声に溶けて消え入ってしまう。


僕はそんなカルラを気の毒に思いながらも、ぶっちゃけ僕たちが入っている間だけ泉の外にいてもらう……という結構簡単な打開策を思いついたのであった。


「あーらー。 これはーこれはーいらーしゃいー ぐわーっぱ」


「あ、アヒル……」


「だから言ったじゃない、ガーガーって」


「ガーガーって……そういう事なのね」


リリムとカルラはしゃべるアヒルに少々困惑した表情を見せるも、サリアたちは気にせずにガーガーに声をかける。


「お久しぶりですガーガー。その後調子はどうですか?」


「獣王-さまーもー機嫌がーいいからー! わたーしもお仕事らくだーねー! ぐわーーっぱ」


「それはよかった」


「それーでー、今日はどういったごようけんだーねー!」


「ええとですね実は」


「外があまりにも暑いから、今日は泉に泳ぎに来たんだよー!」


シオンはそう元気よくサリアの後ろから飛び出し、ガーガーを抱き上げる。


ガーガーはアヒルらしく足をバタバタさせているが、どうやらそれは本能なだけらしく、表情や声はまんざらでもないようだ。


「あらあらー、そーとの世界もいろいろ大変だーねー。 お好きにどーぞー! ここは神聖―な獣王の水飲み場―! 人間が入ったーくらいじゃー汚れないさ―ね! ぐわーっぱ」


そうガーガーは言うと、ひょこひょこと泉から這い上がって小さく身震いをして水滴を跳ねさせる。


「いやっほーう!」


そう許可が下りた瞬間に、泉に飛び込んだのはシオンであった。


気が付けば泉のほとりにシオンの服が脱ぎ捨てられており、もう一度シオンを見るとちょうど泉の水面から水しぶきが上がっているところであった。


「濡れたマッチ」


ぼそりとティズが何かを言った。


「気が早いんですからシオンは」


サリアはそんなシオンに苦笑を漏らしながら、パラソルやノリで買ったサマーベッドを組み立てている。


「手伝うよ」


「あ、ありがとうございますマスター」


そういって僕はサリアが組み立てたサマーベッドを一緒に――僕の手伝いが必要かどうかはひとまず置いといてほしい――運び、パラソルの下へ移動させる。


「よいしょっと」


ふと僕はサマーベッドを置いた後に顔を上げると、そこには白い水着に包まれた魅惑の果実が目前にたゆたっていた。


でかい……。


さすがサリアだ……。


「ど、どうかしましたか? マスター」


「え、い、いやいやいや!? なんでもない。 うん、何でもないよ!」


僕は慌てて視線を外し、ごまかすように立ち上がる。


「ちょっと! 早く来なさいよサリア!」


そんなやり取りをしていると、ふと背後から声が響き、振り返るとそこには、上着を脱ぎ捨て、白い肌と色とりどりの水着を身に着けた天使たちがそこにはいた。


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