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170.シフトチェンジと性質変化

「……ウイル……さん」


女の子の前だ、少しくらいは格好つけなきゃ。


僕はそう言って迷宮の罠へと挑む。

深呼吸を一つして全五感を集中させ……迷宮の変化、迷宮の起動音すべてに神経を研ぎ澄ませて歩を進める。


先ほどからの罠の多さに、本当に地雷原のごとく一歩一歩歩くたびに罠が設置されていることも覚悟はしたのだが、そこまで鬼畜じみた試練ではないようだ……。


そう僕は一瞬安堵をし、気を緩めてしまう。


と。


カチリ……。


「!」


不意に感圧板を踏むような感触が走り、すぐ近くの壁より矢が放たれる。

「っはっ!?」

僕はそれを反射的に横に飛んで回避してしまう。


地味にスキルとして習得していた【回避性能】と【見切り】のおかげで、僕は矢を回避することができた。


そこまではいい。

問題は。


カチリ。

その先にも罠が設置されていたという事であった。


「しまっ……」


僕はそう驚愕に声をゆがませるが遅く、回避も見切りも間に合わずにその迷宮の罠は作動し、僕はその餌食になる。


独特な何かが発動する魔法の様な音が響きわたり、眩暈が僕を襲う。


いや、眩暈というよりかは、目前の風景が一瞬にして塗り替えられたような……そんな感覚という表現が正しいだろう。


ともかく、その急激な視界の変化により僕は一瞬目を細めると。


「わっ!? わふっ!」


「へ?」


それと同時に、目前にカルラが現れ僕は慌てて落下をする少女を抱きとめる。


「え? か、カルラ? なんでここに?」


僕は突然の出来事に驚きながらあたりを見回すと、気が付けばそこは迷宮三階層入り口付近。

視界が塗り替えられたのではなく、どうやら本当に僕はこの場所まで転移をしてしまったのだろう。


「テレポーター?」


転移魔法と言えばテレポーターだが……しかし何か違和感を感じる。


たしかテレポーターの罠は迷宮四階層以降にしか存在しないはずである。

まぁ、この裏迷宮の様なものが発動すると三階層にも設置されるのかもしれないが。


もう一つ気になる点がある。

それは。


「シンプソン?」


そう、先ほどまでカルラを抱えていたシンプソンの所在である。


一人勇ましく迷宮三階層に挑んでいったとも考えにくいし。

カルラが降ってきた……ということはつまりシンプソンも同時に転移させられたと考えるのが自然だろう。


しかしそれだとテレポーターとは異なるし……。


「あ、う、ウイル君……も、もしかしてシフトチェンジの罠を……踏みました?」


「シフトチェンジ?」


聞きなれない言葉に僕は一つ首を傾げると、カルラはきょとんとした顔で。


「迷宮の、罠の一つです……その、罠にかかった人間と、その、仲間の中で、一番体力の多い人間の……位置を入れ替える……嫌がらせの罠です。 普段は冒険者は固まって動くので……あんまり意味ないんですけど……戦いのときに、これを踏むと……後衛と前衛が入れ替わったりして……た、大変……です」


カルラの話により、どういうトラップかは理解し、同時に。


「うぎゃああああああああああああああああああああああ!?」


シンプソンの身に何が起こったのかも理解する。


結局シンプソンは、地雷原に近い迷宮の中心に投げ出されてしまったのだ。

「しししっしぬううううぅ!?」

迷宮の駆動するような音はさらに大きく響き渡り、同時に槍が飛び出て矢が乱舞し、高圧電線に火炎放射、石化した挙句に七色に吹く状態異状の風が吹き荒れるなか、生命保険を発動させながらシンプソンは迷宮の中をめちゃくちゃに走り回っては、罠を発動させていく。

「す、すごい……シンプソンさん……あれ、全部躱してます」

さすがは四千回も罠で死んでいるためか、先ほどのレーザーとは異なり、シンプソンもなかなか死亡することはなく、すでに20を超える罠を解除して回っている。


この調子ですべての罠を解除してもらえればそれで万々歳なのだが、しかしシンプソンも人間、体力の限界というものはあるようで、奮闘むなしく。


【ゴッドハンド!】


「あべしぃ!?」


軽快な音声と共に足元から伸びる拳の罠に吹き飛ばされ、そのまま十メートルほど吹き飛ばされて地面にたたきつけられ、同時にけたたましい音が迷宮中に響き渡る。


「……まずい……」


鳴り響く音は以前にも聞いたことがある警報の音。

あまりにも痛めつけすぎたシンプソンの呪いか、はたまたたまたまか、シンプソンがゴッドハンドの罠に殴られて着地した場所には、運悪くモンスターハウスのトラップが仕掛けられていた。


〖生命保険〗


「あああああああああああ!? また死んだああぁ!」


無事に、シンプソンは天高く後光をさしながら生き返ると、そのまま着地をして。


かちり。


「あれ?」

「あっ……」


二度目の警報装置を鳴らしてしまう。


「ぎゃあああ!?なな、なんか警報装置踏んでるんですけど! ま、魔物来る! マスタウイル! ヘルプ! ヘルプミーです!ここにいると魔物に、私魔物におそわれちゃう!」


けたたましく鳴り響く警報音は二倍の音量になり、恐らく迷宮三階層全体に鳴り響いたことであろう。


「面倒なことに……なっちゃったね」


「そう、みたいですね」


「むしですかー? 神父のこと無視ですかー!?」


とりあえずは軽業と剛力化……火と氷は使用できるため――出力は問題だが――僕たちは迎え撃つ用意をして待つ。

迷宮の入り口であるため、まだ魔物は姿を見せてはいないが、僕はとりあえず戦闘が始まるより早く、シンプソンを置いてカルラを安全な場所に避難させようと後ろを振り返ると。


【侵入者……侵入者……排除します】


なにやらやけに角ばった鉄でできた人間が僕に対してそんなことを言ってきた。


「き、機械兵士ですウイル君!」


カルラの叫びに、僕は反射的にホークウインドをぬき、カルラを片手で抱えながら

不意打ちも何も関係なしに振り下ろされた機械兵士の一撃を防ぐ。


「ぐっ!?」


苦悶の表情を浮かべて僕はその攻撃で受け止める。

その一撃は重く、僕は腕の筋が少し痛むのを感じ。


【排除・排除……】

「なんかやばそうだ!」


このままでは押し負けると判断し、僕は一度機械兵士の腹部?をけって距離をとる。


「さっき話していた自動機械というのはこいつのこと? 一体どうやって」


「モンスターハウスは警報を鳴らすと同時に召喚も行います……きっとそれで」


「随分とピンポイントで嫌な所に出てくるなぁ!」


僕はそうため息を漏らすと同時に、ホークウインドを引き抜いて切りかかる。


【迎撃】


「温い!!」


僕に対し攻撃を仕掛ける機械兵士、しかしサリアやアンデッドハントに比べれば止まったように遅いその一撃を僕は一歩前に踏み込んで回避をし、一線を叩き込む。


が。


【融解】


「なっ」


僕は驚愕に声を漏らす。


当然だ……なぜならばその目前の機械人形は、鉄でありながら水の様な液体に自らの体を性質変化をさせたからだ。


【攻撃再開】


「うわっ」


何事もなかったかのように再開される攻撃。


僕はそれを何とか回避をし、同時に頭を悩ませる。


剣での攻撃があぁやって防がれるとなると、僕の対抗手段は火と氷しか存在しなくなる。


だが、この状態でどちらかでも放てば、間違いなくカルラは死亡してしまう。


【しねっ!】


横なぎに振り下ろされる刃を僕はホークウインドで弾き、だめもとでもう一度刃を振るうも。


【無駄だ】


やはり機械人形は性質変化により確実に攻撃を回避していく。


「くっ……このままじゃ埒が明かないな」


振り切ってにげようにも、この罠の中では逃げ切ることはできない。


案外困った状況ではあり、僕はまた少し距離を離して考えると……と。


「こ、ここ、これくらいなら……て、手伝います」


不意にカルラが、そう言葉を漏らしたのだった。


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