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14.サリアとメイズイーター

迷宮 第一階層 -入り口ー 


「さて、仲間になったサリアにここで教えておくことがあるんだけど」


パーティーを組んで初めての迷宮探索。 


午後のお昼下がり、サリアの体力の回復を待って遅い時間に侵入した迷宮の最浅部で、僕はパーティーの連携と僕の能力を教えることに今日一日を使うことにした。


「はい? 教えておくことというと……ダンジョンに入ると性癖が変わるとかそういうものですか? 大丈夫ですよマスター 私はどんなマスターでも大切な人に代わりはないですから」


「違うからね!? 何変な妄想繰り広げてるのサリア!?」


「はっこれは失礼しました!? では一体どのような内容なのでしょうか?」


「僕のスキルについてだよ」


「スキル? あらかたのスキル効果は私は熟知しているつもりですが……まさか何か特別な能力を保持しているとか?」


「まぁそのまさかね、なんで私達駆け出し冒険者がアンタを助け出せたのか……その答えがこれよ」


「答え?」


「百聞は一見にしかず、その目かっぽじって良く見ておきなさい……ウイル!」


 なんでティズが偉そうなのかは良く分からないが、僕はとりあえずスキルを発動する。


「メイズ イーター!!」


壁に触れると同時に、昨日と同じように崩れ落ちる壁。

そう都合よくアイテムは現れなかったが、ガラガラと音を立てて壁が崩れ、同時に壁の向こう側にあるはずの通路がその姿を現した。


「な………ななな」


「なんじゃこりゃ?」


「なんじゃこりゃあああ!?」


いかに知力がカンストしている状態のサリアであってもこのメイズイーターの存在は完全に予想外であったらしく、凛々しい姿とか聖騎士としての姿とかを全て忘却の彼方に小旅行させて悲鳴に近い叫び声を上げる。


それはそうか……いま彼女の中の常識がこの壁よりも大きな音を立てて彼女の中で崩れ去ったのだろうから。


「な……か、かべ…かび」


「落ち着きなさい筋肉エルフ」


「これが落ち着いていられますか!? 何ですかこの能力は! 長年生きていて、こんな能力は聞いたことがありません!? 最高の破壊力を誇る核撃魔法でさえも、この迷宮の壁を破壊することは不可能なのですよ? それを、こんなあっさり!?あと筋肉エルフってなんですか!」


「僕も昨日手に入れたばかりなんだけど……どうやら僕には、迷宮の壁を壊したり、壊した迷宮を直す力があるみたいなんだ……それ以外の能力は……というかそれ以外の能力があるのかすらも良く分からないけど、とりあえず迷宮攻略にはすごい役に立つ能力だと思うんだけど」


「役に立つなんてレベルではないですよマスター! この能力があればダンジョン攻略の難易度が3段階は下がることになります、 なぜならこの力があれば、迷宮の罠も魔物でさえも全てを回避して進んでいくことができる!? 本当に、本当にマスターはすごいです!?」


べた褒めである。


確かにすごい能力だと自分でも思うのだが、肝心の自分の能力がそんなに高くないため、深部に行くのが容易になる能力を保有していようとも宝の持ち腐れなのではないかと思ってしまう。


まぁ、サリアほどの仲間がいればその力不足も補えるのだろうが。


「あれ、つまりこの能力があったから私が助けられたということは?」


「そうよ、アンタは全裸で石の中にいたってことよ、しかも二年も」


「我ながらよく五体満足でいられたな」


「本当よ……魂が変質してそろそろアークデーモンにでもなるんじゃないのあんた?」


「ティズ、私はあくまでも聖騎士だ、悪魔はないだろう悪魔は……せめて天使にしてくれ」


ティズは苦笑を漏らしてそう言葉を漏らし、サリアもその言葉に苦笑を漏らす。


二人とも随分と仲良くなったようで、女の子同士でしか分かり合えない部分があるのだろう、僕が嫉妬してしまうくらいに、サリアとティズはすっかりと打ち解けてしまっている。


僕としてはティズとサリアの仲がいいことに越したことはなく、唯一の懸念だった部分が解消され、安堵のため息を漏らす。


「オーガをはるかに凌駕する筋力の天使がいるわけないでしょうに。 悪魔もはだしで逃げ出すわ」


「確かに悪魔に逃げられたことは何度かあるが……そういうティズこそ妖精にしては品がないぞ、お互い様ではないか?」


「あんですってえええええ!?」


仲が良かったように見えたのは幻覚だったのかもしれない……。

いつの間にか二人の間……というよりティズからは怒りの炎の幻影が背後より見える。

なんだか先行きが不安になってきた。


「あー……えーと二人とも、というかティズ」


「何よ! 今この新参者に先輩として礼儀というものを百八の秘奥義をもってして分からせてやる所なのよ!」


「うん、返り討ちにあうだけだから其れはやめる方向で」


「ティズ。貴方が何で怒っているのかは良く分からないが、マスターの言うとおり声のトーンを抑えるべきだ」


「何よ二人そろって私が悪者みたいじゃない!」


話を聞いている限りではその通りだったが違うのだろうか。


といいたかったが、小うるさい金切り妖精はキーキーと甲高い声で抗議の意を過大すぎるほど示し続けるため、言うタイミングを得られなかった。


というよりも、ティズをとめることが優先だ。


「ええとだね、ティズ。迷宮内は声が反響しやすくなっていてだね……君の声が良く響くんだ、そうすると当然……」


瞬間、サリアが何かを悟ったように剣を構え、それに遅れるように僕の五感が敵の襲来を告げた。


一閃。 聖騎士は敵の攻撃よりも早く、妖精の金切り声に引き寄せられるようにやってきた愚かな魔物に対し先制攻撃を仕掛ける。


「ぎゃん!?」


悲鳴と共にか弱き? 妖精を狩ろうと集まってきたコボルト。

その先頭にいた者が、サリアの先制攻撃により迷宮に倒れ命を散らす。


「このように、魔物を呼び寄せてしまう」


冷静に細身の剣を振るい血のりを落とし、サリアは僕達をかばうように敵へと対峙するが

気が付けばコボルトの群れに取り囲まれており、二日前のモンスターパニックを思い出させる状況に陥っていた。


「何よ何よ!? 全部私のせいみたいに! サリアだって叫んだじゃない! 私のせいだけじゃないもん!」


「その点に対してだが、私は迷宮に入る前に防音の魔法を使用している。 大声を出してもパーティーにしかその声は聞こえない。神聖魔法の一つだ」


「そんなものがあるなら私にもかけなさいよ!?」


「一日一回しか使えない」


「アンタだけマナーモードになってどうするのよ! そういう魔法は私にこそかけなさいよ!」


「あ、自覚はあったんだ」


というか、マナーモードってなんだろう?


「うるさい! っていうかウイル話が違うじゃない! コボルトは自分より強い敵には

近づかないんでしょ!? ここにマスタークラスの怪物がいるならコボルトなんかに狙われるわけないじゃない!」


「あーそのことなんだけどねティズ。 前回は僕もコボルトよりもレベルが低かったからそう伝えたんだけれども、正確にはパーティーメンバー全員がコボルトよりも強いと判断したときだけコボルトは逃げ出すんだ……つまり」


僕とサリアの視線がティズへと集中する。


「結局わたしのせいかー!」


依然騒ぎ続けるティズに引き寄せられ、どんどんとコボルトの数が増していく。


気が付けばコボルト23体がかわいく見えるほどのコボルトに囲まれていた。


絶体絶命のピンチとはこのことなのだろうが、サリアは勿論、僕でさえもなぜだか余裕を持っていた。


「まぁしかし丁度いいでしょう。ウイル、ティズ。今度は私の力を見せる番だ、といっても肩慣らしにもならないでしょうが」


そういって刃をサリアは抜き、僕達を守るように構えを取った。

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