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163.アンデッドハントの川流れ

「いい返事だ!」


その返事に僕は覚悟を決めると、逃走のスキルは新たなる最善手を僕に導き出し提示する。


そして向かった先は。



「おお……どおり?」


カルラは言葉を詰まらせる。


そう、僕はあえて大通りへと出た。


そこは先日ティズと訪れた、大きな橋の並ぶ、川の対岸を結ぶ場所……大橋広場。


現在ここの住人はすべて、王都襲撃の街を修繕するために全員駆り出されていることはすでに分かっている。


だからこそこの大通りには人はおらず、騒ぎにもならない。


だが反面、人がおらず、身を隠すものも何一つないこの場所。通常考えれば逃走に、こんな大広場を通り抜けることはありえない。


カルラの驚愕も疑問の声ももっともだが……僕は迷わず橋へと走る。


【ふっふふ! どうやらここまでのようだな! ゾーンの息子よ!】


もう追いついてきたのか、アンデッドハントは少し後ろから僕たちのもとへ剣を構えて走ってくる。


障害物も剣閃を遮るものは何一つない。


今追いつかれれば僕はその身を切り裂かれることだろう。


だが、僕はひるむことなく橋へと疾走する。


【対岸へ逃げるつもりか? 無駄無駄無駄あぁ! それよりも先に! 追いつけるぞ!】


僕の考えを推察し、その考えを否定するアンデッドハント……しかし。


「そんなつもりは……毛頭ないよ! じゃあね! アンデッドハント!」


僕は橋の途中……橋の柵を飛び越して川へと飛ぶ。


【ばかなぁ!】


アンデッドハントは叫ぶ……当然だ……高さは20メートルを恐らくは超える大橋……そこから僕は飛び降りたのだから。


【くっそ! 逃がさんぞおおぉ!】


アンデッドハントは慌てて液状化をして、続くように大橋から飛び降りる。


「あれ? 行っちゃうの?」


―――――――計画通り。


【ゑ?】


素っ頓狂な声を上げるアンデッドハントに対し、僕は口元を緩めてそう煽る。


橋を飛び降りた瞬間に発動をしたのはスキル【蜘蛛の糸】橋の手すりに糸を付着させ、僕はそのままカルラを抱いたまま橋から飛び降りたように見せかけてぶら下がり、なすすべもなく無様に川に落ちていくアンデッドハントを見てほくそ笑む。


カルラを抱いているため手を振ってやれなかったのが残念だ。


【んなあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?】


いかにアンデッドハントであろうと、空中では身動きが取れずそのまま絶叫を響かせた後、むなしいぽちゃんという水をたたく音が響き……静寂と水の流れる音のみが響く。


高い橋であり、上るところは下流まで行くしかない。


恐らく彼はこのまま、排水にまみれながら王都リルガルムの外まで流れていくことだろう。


とりあえずひとまずの安心を得た僕は一つため息を漏らし、腕の中のカルラの様子を見る。


「す、すごい……リオールさんを……こんなあっさり……ウイル君……あなた、一体」


カルラはそう驚いたような表情をして僕を見る。


顔色は未だに蒼白であるが、その表情にはやはり安堵の色が見える。


「話はとりあえず、怪我の治療が終わってからだよ、カルラ……。 今はとりあえず身を隠さないと」


「身を隠す? ……え、えと……私、王城で処刑されるんじゃ?」


「処刑!? なんで!?」


「え、え? だって、わたし……王都襲撃の……主犯ですし……アンドリュー様の……部下……ですし」


「そんなことさせないよ……君は僕の友達だ。処刑だなんて、絶対許さない」


「ほ、本気で……言ってるんですか? ウイルくん」


カルラは驚いたように瞳を丸くするが、僕はいたって真面目である。


アンドリューの部下であろうと、王都襲撃の主犯であろうと、彼女は僕の友達である。


そもそもこの国に来たのは一か月前で、愛国心などないし……国と友達をはかりにかけるなら当然友達を取る。


おかしいと言われるかもしれないが、僕にとっての世界とは僕が守りたいと思う手の届く範囲全てのものだから、その世界だけは壊させない。

「とりあえず怪我の治療をしよう……クレイドル寺院へ向かうよ」


僕はそうこれから先の予定をカルラに話すと、ゆっくりと糸を手繰り寄せ、橋の上へと昇っていく。


「……はい」


カルラは小さくそう返事をし僕の言葉を了承する。


傷は深く、橋の上に上ると、足元にまた一滴血が滴り落ちる……急いだほうがよさそうだ。


「少し急ぐけど……傷は痛まないかい?」


「だ、だいじょうぶです……これくらいなら……そ、その……ウイル君が……抱きしめてくれるから……」


「わかった……じゃあ行くよ!」


人のいない大橋広場を駆け抜け、僕はカルラをクレイドル寺院まで運ぶ。


今はまだ話せてはいるが、この調子で血を流し続ければ失血により命の危険がある。


少しの焦りが僕の歩幅を大きくし、その不安が僕の歩みを早くさせる。


カルラの体温は低く、一歩一歩、一滴一滴血が滴るたびに、その体は死へと近づいてしまっているような感じがして……。


それなのにカルラは、自分の死さえも受け入れてしまっているようなそんな表情をしていて……それが無性に腹立たしくて、僕はクレイドル寺院へと続く道を走っていく。


そんな道中。


「少し……意外でした」


カルラは僕の腕の中でそう弱弱しくつぶやき、僕はその表情を見る。


カルラの表情はどこか救われたような表情をしており、とろけるような二つの瞳で僕を見つめていた。


「意外?」


「ええ……ウイル……君は、もっと優等生で素直で……いい子なんだと……思ってたから……案外……わがままなんですね?」


「幻滅した?」


「いいえ……そんなあなたも素敵です」


その表情は幸せそうにそう言い放ち、寒いのか僕の胸に顔をうずめる。


「それは嬉しいね」


僕はそんな発言に、自分でもわかるくらい顔を赤くしながら……クレイドル教会へと向かうのであった。


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