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162.エスケープ フロム ナイトストーカー

【なっ!? 古代魔法……貴様……一体何者!?】



全てが凍てつき絶対零度の魔力が渦巻き、避難地区の通り一体に氷の柱が覆いつくす。


ローブの男の驚愕の声が響き渡るももう遅い。


液体であるその体は、絶対零度の風により凍てつきその身を氷塊へと変貌させる。


出力は出来るだけ抑えるように念じたというのに、見渡せる場所すべてが一斉に凍り付いてしまった。


「っと」


僕はそんな凶悪な【氷】のスキルに嘆息をしながらも、【軽業】で飛び上がり放り投げたカルラを受け止め、家の屋根へと着地する。


「きゃっ」


小さくかわいらしい声を上げるカルラは、見たところアイスエイジで被害を受けた様子はなく、僕はそっと傷口に触れないようにカルラを抱いたまま屋根の上を歩く。


「ごめんよカルラ……痛む?」


「い……いえ……その、や、優しく受け止めてもらえたので、だ、大丈夫……ですが、その、血が止まらなくて」


「……すぐにクレイドル教会に連れていく。 もう少し我慢して」


「は、はい……ありがとうございます」


カルラの表情は依然蒼白であるも、どこか安堵したような表情をしており、僕は少しほっとしてそのままクレイドル教会へ向かおうとするが。


【終わったと思ったか?】


その追跡はまだ潰えていなかった。


振り返るとそこには、全身を凍らせながらも、屋根の上に這い上がってくるローブの男……液体だから凍らせれば動けなくなると考えていたが、どうやら凍っても動くことは可能ならしい。


「アイスエイジも効かないなんて……」


【正直、古代魔法の登場は予想外であったが……私も偉大なるアンドリュー様に仕える騎士の一人……そう簡単に絶えはしない】


「アンドリューの騎士? ってことはまさか」


アンドリューの騎士……そういわれ思いつくのは一つしかない。


ボロボロのローブに亡霊の様な姿……しかしそれは定命のものであり、各地でアンドリューの為に活動をする隠密部隊。


【……いかにも、アンデッドハントが一人、リキッド・リオール。名乗った以上……貴様に対し油断はもうしない、全力で狩らせてもらう】


「アンデッドハント……」


ぎりっと奥歯をかむ。


アンデッドハントにさらわれた、女の子一人追いかけて……父さんは一人森へ行き。

冬の森の中、父さんを追いかけた先に残された……赤い赤い一つの血だまり。


――お父さんは帰ってこない、今日も明日も……これからも―


「……お前が、父さんを殺した?」


【父? んん? お前のその面影……赤い髪……あぁ】


一瞬僕の言葉にいぶかし気な表情をしたリオールは、僕の顔をまじまじと見つめた後。


【お前、ゾーンの息子か】


そう父の名前を口にする。


その言葉だけで十分だった……それだけで、あの血だまりを作り上げたのが、この男たちであることが確定したのだ。


「父さんを……やっぱり知っているんだね」


何かが心を覆いつくし、ざわめき立つ。


――喰らえ……喰らいつくせ――

メイズイーターが敵を喰らえとざわめきたち、その左腕が脈打つようにうなる。


だがまだ我慢できる……ここで殺しては、その答えが聞けないから。


だから、喰らいつくしたい欲望を押さえ僕はその答えを待ち、アンデッドハントの言葉に耳を傾ける。


【あぁもちろん……くっくく、ゾーン。 あぁゾーン……ダメじゃあないか、こんなところに一人……子供を残しちゃぁ】


「……!!」


決まりだ。


こいつは父さんを知っていて、殺した。


怒りと復讐心、そしてメイズイーターの咆哮が僕を塗りつぶし……その右腕を伸ばす……が。


「ウイルく……」


痛みに耐える様な表情で、カルラがそっと僕の袖を引く……。


気が付けば、僕は抱きかかえているカルラを、力強く抱きしめてしまっていた。


「あっ……」


一度僕は口を開き……そして何も言葉を発することなく噤む。


【かたき討ちか? それもいいだろう……さぁ来い、ゾーンの息子よ】


煽り立てるアンデッドハント……メイズイーターは僕の迷いに反応をしたのか、心の中でそれでいいのかと騒ぎ立てるが……。


「いいや、逃げようか」


僕は過去(父さん)を押し込み、カルラを守るために踵を返し、屋根から道路へと飛び降りる。


【んなぁ!?】


予想外の出来事に、またもや不意を突かれたアンデッドハントの声が、響き渡る。


逃走の開始である。


―――――。


「はぁ、はぁ、はぁ」


僕は息を切らしながら、王都の中を逃走する。


【逃がさぬぞ! 決して、決してなああぁ!】


背後から迫るは、半分溶けかけの氷状態でがしゃがしゃと独特な足音を立てながら迫るアンデッドハント・リキッドリオール。


僕は怪我をしたカルラを抱きかかえながらも、必死になってリオールの追撃から逃げている。


スキル【疾走】 自らの素早さを増幅させるスキルであり、ステータスの足りない部分を補う。


元のステータスでは到底アンデッドハントから逃げることは出来ないが、疾走のスキルのおかげで、何とかすぐに追いつかれるという事態は防げている。


しかし。


【遅い! 遅い遅い遅い!】


カルラを抱えた状態では、やはりリオールを引き離すほどの速力は出すことができず、徐々にだが追いつかれてしまう。


「う……ういる……くん……だめです……置いて行って……私のせいで、あなたまで」


カルラはそんな背後のアンデッドハントを見ながらそう弱弱しい声で自分を見捨てろというが。


今の僕には逆効果だ。


「大切な君を、手放すわけないだろう? それをするなら、斬られた方がましさ」


友達を守れる……そんな経験、初めてだから。


「たっ!? たいせ……」


【もらったああぁ!】


リオールの一撃が背後から伸び、僕の背中をとらえるが。


「こっち!」


僕はその剣を軽業で飛び、狭い道に入ることで回避する。


【ちぃっ!? おのれちょこまかと……】


完全に入ったことのない道……見たことのない風景があたり一面に広がり、僕は直感だけで狭い道を走っていく。


逃走経路など考えてもおらず、いつ袋小路になってもおかしくはないめちゃくちゃな逃走。


だがしかし、僕の体はこれが正しいと、常に最適解をたたき出す。


コボルトから得たスキル。 【逃走】の効果である。


このスキルのおかげで、僕は今、逃走の手段や経路で常に最善手を打つことが可能になっている。


通常であれば決して逃げ切ることなど不可能なアンデッドハントの追跡に。

現在僕は【逃走】と【疾走】そして、逃走経路の可能性を広げるための【軽業】のスキルによって、リオールからかろうじて逃げ回ることができている。


【くそ……なぜ追いつけん】


被害が広がらないように、人目のつかない場所を選んで僕は走り抜ける。


裏道を抜け、壁をけって屋根を伝い、そしてまた裏路地を縫うように進んでいく。

打ち捨てられたごみ……僕はそのすべてを軽業で回避しながら、アンデッドハントは液状化することによって障害物をすり抜け、お互い速度を殺すことなく逃走と追跡を続ける。


障害物が意味をなさないならば、大通りを走ればいいのではと僕は一瞬逃走のスキルの直感に疑問を抱くが。


【ぐっ……邪魔な】


その疑問はすぐに解消される。速度を殺すことはなくとも、振り下ろされる剣は障害物に邪魔をされる。


突き出たむき出しの鉄パイプは剣を絡めとり、狭い通路の壁に阻まれてアンデッドハントは攻撃をすることができないなど……この狭い路地の障害物に僕は何度も助けられている。


だが……これだけのスキルを駆使しつつも、アンデッドハントとの距離を離すことができないでいる。


【馬鹿な……わが追跡のスキルをもってして……なぜ追いつけん】

苛立たしい言葉が背後から聞こえ、僕も苛立たし気に立ち入り禁止と書かれた看板を飛び越え、鉄パイプと排気管が絡まる鉄の樹海の様な場所へ足を踏み入れ、角を曲がる……と。


『―――――ジュウ――――!』


【ぬっ!?】


僕が走り抜けたその瞬間。 タイミングよく排熱管から蒸気の様なものが噴き出し、アンデッドハントがその熱に一瞬足を止める。


高温の蒸気……その身に浴びればやけどは必須……。


僕は自分のタイミングの良さと幸運21に心の中で感謝をすると同時に、ここが工業地帯……王都東側であることにようやく気が付く。


「となると……やるしかないか」


恐らくこの距離はすぐに詰められる。


せっかく手に入れた一瞬の好機……これを逃せばいずれ体力切れでデッドエンドという奴だ。


「カルラ……」


走りながら、僕はカルラに問いかける。


「はい」


「少し賭けだけど……乗ってくれるかい?」


失敗をすればその時点でゲームオーバー……だからこそ僕はカルラにそう言葉を投げかける。

と。


「……あなたとなら……どこまでも」


もうお気づきかと思いますが、ナイトストーカーのナイトは騎士のKnightという意味もあり、Night

迷宮教会のこともさしています。


たくさんの人に追われる話って意味です。

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