155. 迷宮教会始動……ターゲット・ウイル
「どおお~~言うことですかねぇえええ?」
冒険者三人が去った後、迷宮教会司祭、ブリューゲルアンダーソンは信徒の一人を呼び出しそう問い詰める。
「……」
「貴方、貴方貴方貴方!! 確かにあの冒険者の妖精と! 腐れ異端教徒クレイドル教会神父、金の亡者シンプソンの記憶と改ざんを行ったのでは、あーりませんかあぁ? 無限頑強のアルフレッドと、そしてアンデッドハントと接触をした人間の、記憶をすべて! 私は、偉大なるラビの名のもとにすべてを完了したと報告を受けたと思うのですがああああぁ!? なぜ、なぜなぜなぜ! あの少年! 少年は……カルラを知っているのですかあぁ!?」
王都襲撃時に、アンデッドハントが目撃されたという情報を聞いてから、神父ブリューゲルアンダーソンは王都中に信徒を放ち、アンデッドハントに関与のある人間すべての記憶を読み取っていった。
その中で唯一アンデッドハントと対峙し、そして戦い、生き残った存在はたった三人のみであり、ブリューゲルは昨日、そのうち協力関係にない二人の記憶を読み取ったばかりであった。
それが神父シンプソン・アルフレッド・そしてあの冒険者の連れていた妖精である。
結局、カルラについての有力な情報を得ることは出来ず、アンデッドハントの情報を少なからず有している人間に捜索の依頼を頼もうとしたアンダーソン司祭であったが。
聖女カルラの名前を出した瞬間に……妖精の主人である少年が一瞬だけ反応を示したのだ。
記憶を垣間見たわけではないが……ブリューゲルはその表情から、あの少年ウイルがカルラの居場所を知っている……そう確信をした。
だがその情報は入って来ていない……もし勤勉に信徒が関係者すべての情報を洗いざらい調査をしていれば……カルラの居場所は手に入っていたはずなのだ。
だからこそブリューゲルは、そんな怠惰な信徒に対して憤慨とも失望ともとれる表情でひたすらに言葉を投げかけ続けている。
「……あのものは、王都襲撃時に戦いに参加していた情報はありませんでした故……」
「だーかーら見逃したと? あなたのその怠惰で、聖女カルラの居場所はわからないまま! さーらーに!? あのものはカルラを迷宮教会に連れてきたくはないという……背信者なのですよ!! また、またまたまた! 聖女が遠のいた!!あなたのあなたのあなたのせいでえええ!」
「がっ!? ご!? し、しさい……ざま」
瞬間、ブリューゲルから伸ばされた黒い靄の様な呪いが走り、信徒の一人を縛り上げる。
「懺悔の時間です! あなたにはラビの寵愛である痛みも! ラビへの言葉も与えません! 苦しんで 死ね!」
「う……ぶうぅ ご……かぁ」
締め上げられた信徒は、確かに痛みを感じることなく、苦しみの中で黒い触手の中で果てていく。
その光景を見ながらブリューゲルは肩で呼吸をし、その様子を信徒たちはうつろな目で見つめていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
殺した死体、もはや痛みというラビの祝福をも感じることのなくなった遺体を、ブリューゲルは怒りのままに触手でもてあそび、ばらばらに引きちぎり解体をする。
「なぜなぜなぜ!? この世界の異端の神どもは、我々のラビを遠ざけるのか! あのガキも、あの妖精もロバートもアンドリューもシンプソンの糞野郎も! 何もかもが何もかもが! ラビをラビをラビをラビを! 敬愛する、熱愛する、渇望するラビを!なぜ遠ざけるのか! ああああああラビ! ラビ! ラビ! ラビ!」
もはや触手により原型さえも理解できないほどの肉塊へと変貌させられた信徒の肉をそれでもなおいたぶりながら、ブリューゲルアンダーソンは狂気を振りまく。
その異常なまでのラビの愛の前に、信徒は黙ってその姿を見つめ続ける。
狂気に染まったその状況は、通常の精神を持つものであれば皆が皆目を背けてしまいそうなそんな冒涜的な光景であったが
信徒のその光景を、嫌悪でも恐怖でもなく……皆例外なく、羨望のまなざしで見つめている。
「あああああああ!!……さて、と」
切り替えは早いブリューゲル……バラバラにし、返り血を浴び続けたその師祭服は真っ赤に染まり……血しぶきを顔に浴びた状態で信徒の方向へ振り返り。
「みなさーん、暗躍の時間でーすよー!」
『ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳! ラビ万歳』
迷宮二階層に潜む第三勢力……迷宮教会。
その膨大で冒涜的な力の矛先が今……一人の冒険者へと向けられようとしていた。
「いいいいいいいいいいですよおおおぉ! さああぁ! 暗躍の時間です! 街にいる信徒たちに今すぐ連絡を! 聖女カルラを、わが手に戻すのです!
ラビ・ばん・ざい!」
◇
「今日は早めの切り上げになりましたね」
獣王の怒りにより、思ったよりも早く迷宮から退散を余儀なくされた僕たちは、いつも通りマッピラ爺さんの力を使ってエンキドゥの酒場の前に戻ってくる。
「時間はまだ三時……酒を飲み始める時間でもないわねぇ……」
「うーん、お買い物でもいこうかなぁ?」
思ったよりも時間が余ってしまった。
そうなれば……。
「じゃあ、自由行動ってことで、あぁ、ティズとシオンはサリアの面倒を見るように、僕はちょっと王城に用事があるから」
「忍の女の様子を見に行くの?律儀なものね」
「まぁ、心配っちゃ心配だからね……王城の人が悪さしてないとも限らないし」
「あっそ……まぁ、あんたが女を不幸にすることなんてありえないからね……思った通りにやればいいわ……ただし、惚れたら殺す」
「心に刻みます」
「じゃあ、サリアちゃんは私と魔法のお勉強しようかー」
「お願いしますシオンおかーさん」
「この子、いつになったらもとに戻るのかしら?」
「まぁまぁ、食費がかかる以外は素直でいい子だしー。 私はこのままでもいいとおもうなー? 子供のほうが覚えが早いっていうし!」
「うー、それは魅力的ですけど、ウイルに―とお付き合いができなくなるので、この体のままだとダメなんです!早く大人に戻りたーい!」
「ふっふふ、もー、おませさんねサリアったら」
「ほんとー、かわいいねー」
ティズも、齢十歳のサリア相手に噛み付くほど子供ではなく、笑顔でその言葉を許容する……。
「あっはは……大人になってもそういってもらえると、僕も嬉しいんだけ……」
「あん??」
「いえ、何でもないです」
「ほらああー! この体だと信じてもらえないのおおおおぉ!」
「はいはーい、じゃあ行こうねーサリアちゃーん」
「むっきーーー!」
サリアのかわいらしい声が響き渡り、僕たちはとりあえず夜までは自由行動とすることになった。




