149.幼女サリアにシオンママ
「もー、ウイルにーもシオンねーもどーしたですかー? 褒めてくださいよ!
サリア、一人でできたよ!」
「え、ああ……よ、よくできたね。 偉いよサリア」
「えっへん!」
サリア(幼)の登場に僕は困惑しながらも、とりあえず僕は差し出された頭を撫でてあげると、サリア(幼)は得意げに胸を張る。
意外と……小さくても……大きい。
「ウイル……あんた」
「はうあ!? いや、ち、ちがくて」
ティズが汚物を見る様な瞳で僕を見ていた……死にたい。
「はいはい! ティズねー! ティズねーが欲しがってたものとってきたです」
頭を撫でられるのに満足をしたのか、サリアはてちてちとかわいらしい足音を立てながらティズのほうへ走っていき、手に持っていた金色のお宝を差し出す。
それは、金色のアヒルのおもちゃだった。
「なにこれ」
「あひるしゃん!」
サリアはにこりと笑うと、ティズはその金のアヒルを受け取り、ガーガーをにらみ。
「シオン」
「はいはい?」
「焼き鳥」
「はいさーい! ファイアー……」
「ぐわーーっぱ!? やめてーよ! やめてーよ! 死んじゃう―よ!大丈夫だ―よ!
不老不死の水、選ばれないと一時的に急激に若返っちゃうんだーよ! あの女の子はしばらくしたーらすぐにもとにもどるーよ!」
「手羽先だけにしてあげるわ……で? これは何かしら?」
「金のアヒルだ―よ!」
「シオン……」
「ぐっわわわーー! はやまらないでー! はやまらないーで! これ、すごいアイテムだ―よ。 この金のアヒルは―、水の中で息ができるようになるというマジックアイテムだーよ!」
「こんなアヒルにそんな力があるとは思えないわ」
「ぐわっ! ぐわっぱ!? ほんとだーよ、ね? ね? そこのキュートの女の子―!」
「ほんとだよー! お水さんの中でもー、全然苦しくないの―」
「ちっ……」
「なんで舌打ち―!?」
ティズは悔しそうな表情を見せた後、シオンに命じてその杖を下ろさせる。
「そもそも迷宮に潜る場所がそうそうあるとは思えないから、正直丸焼きにしてあげたいところだけれども、それなりに高価そうなマジックアイテムみたいだから許してあげるわ」
「ぐわーっぱ、まだ私子孫残していないからここで死ぬとおやくめつぐものいないーね!……助かってほんと一息だ―よ」
バチバチと泉の外で放電をさせながら、電血のアヒル(ボルトブラッド・ガーガー)は
おしりを振りながら、誰もいなくなった泉へと戻っていく。
「どうするのよ……いくら筋肉エルフだからって、こんなんじゃ危険な場所は連れていけないよ」
「遊んで―! にーもねーもあそんでーよー!」
「というか、このままじゃ僕たちもここにくぎ付けになりそうだね」
元気いっぱいにはしゃぎながら、サリアはほほを膨らませながらシオンのマントを引っ張っている。 その光景が町や公園等で繰り広げられているのであれば、ほほえましく眺めていられるのだが、迷宮の中でやられると石化の魔法の罠よりも始末が悪いかもしれない。
「ほらサリア……シオンおねーちゃんが困って……」
そうシオンからサリアを引きはがすために諭そうと声をかけると。
「わ……私」
「ん?」
不意にフルフルと肩を振わせてシオンはそう言い。
「この子のお母さんになるーー!」
「はあああああ!?」
なぜか母性本能のようなものがこのタイミングで現れたシオンがサリアを抱き上げてそんなことを言ってきた。
「何言ってるのシオン? 本気!?」
「ほんきだよー!」
「おかーさん? シオンねーはサリアのおかーさんなのー?」
「うんうん! そうだよー、シオンおかーさんなのだ!」
「感動の家族の再会―だーよ! ぐわーっぱ……なみだーが」
「違うからね、シオンがおかしいだけだからね!?」
「おかしくなんてないよー、この胸のときめき、私はサリアのおかーさんなんだよーきっと」
「んなわけあるかぁ!」
ティズが渾身の突っ込みを入れるが、シオンの決意は固いらしく、サリアを抱き上げて頬ずりをする。
「えへへー! おかーさん! おかーさん! サリア、シオンおかーさんの子供になるー」
しかし、思ったよりもサリアはまんざらでもないようで、シオンもその様子をこれ見よがしに見せつけてきてはどや顔で僕たちのほうを見てくる。
少しイラつくが、まぁサリアが気に入っているなら僕たちが何かを言える立場でもないため、シオンの謎の行動にも目をつぶってもいいかもしれない。
「じゃあ、サリアの面倒はあんたに任せるから、しっかりと面倒をみなさいよ!」
「わかっているよー! 任せておいて―!」
自信満々なシオンであったが、僕たちはサリアにご愁傷さまと心の中で合唱をするのであった。
◇
「一人になったから……大変だ」
結局、僕たちはあまりあの水飲み場で時間を取られるわけにもいかないため、サリアがもとに戻るまで、小さいサリアを連れて迷宮攻略を行うことにするのであった。
「はーいサリアちゃーん……この木はーいたいいたいだからー触っちゃだめだよー?」
「クモリクグモリ草っていうんだよね!シオンおかーさん!」
「そうそう! さすがは私の子供だねー、サリアちゃーん」
「えへへへー!」
サリアがいなくなった分、つるやツタの排除は僕の仕事になり、僕は一度背後で楽しく親子している二人を見て、ため息を漏らす。
「あれどうする?」
「まぁ時間がくれば勝手にもとに戻るっていうし……放っておけば?」
シオンとサリアの背後でのやり取りは先ほどから愛娘を猫可愛がる母親のものであり、なんとも緊張感のないやり取りにあきれながらも僕たちは地図作りをティズと二人で続行させる。
獣王の聖域と呼ばれる地点までは、酒場の冒険者の話の通りであればもうすぐである。
「ねえねえ……シオンねー」
「どうしたのーサリアちゃん」
ふとそんなことを考えていると、シオンに抱っこをされているサリアがふいにシオンに対して急に不機嫌そうな表情をして。
「……おなか減った」
そうつぶやいた。
「おなかすいちゃったの?」
シオンはきょとんとした顔でサリアにそういうと、サリアはばつが悪そうな表情のまま、
小さくこくりとうなずいた。
「かわいいな……」
そうご飯をおねだりするサリアに対し、お弁当を差し上げたいという気持ちはたくさん生まれてくるが、残念なことに先ほど食べてしまったばかりであり、小さなサリアの空腹を満たせてあげられそうなものは何も残っていない。
「育ちざかりは大変ね……」
さすがのティズも、そんなサリアをしかることができなかったらしく、苦笑を一つ漏らしただけで何も言うことはなかった。
「おなか減ったー」
「わ、わー! ちょっと待っててねー! えーとえーと」
ぐずるサリアをあやしながら、シオンは困ったような表情をしてはおろおろとする。
ハッピーラビットでもいればすぐにでもウサギの丸焼きをあげることができるかもしれないが、先も言ったとおりここは獣王のせいで魔物一匹近づかない場所である。
食べ物はおろか生物も存在しない。
「どど、どうしよー……」
「おかーさーん!」
「ひゅいいいい!?」
お母さんになると息巻いていた割には大したことなかったシオンに対し、僕は苦笑を一つ漏らしながらも、サリアもシオンもかわいそうなので助け舟を出してあげることにする。
「シオン、さっきこの場所に丸い赤い実がなってたでしょ……あれ食べられる奴だから、少し戻って取ってきたら?」
他に毒になりそうな植物もなかったし、あれならば安全に食べ物を採取できるだろう。
僕はそう判断をしてシオンにその場所を教えてあげると、シオンは瞳をさらに輝かせて。
「うわーーーん! ありがとー! サリアちゃん、いこー!」
「果物―! すきー!」
大声で僕たちに感謝の言葉をひたすらに唱えながらシオンはもと来た道を戻っていく。
地図を与えてあるのでたどり着かないところはないだろうし。
迷子になることもないだろう。
気が付けばシオンは小走りをしたのか、すでに背後にはその姿は残っておらず、迷宮は静寂を取り戻した。
「いいの? 行かせて」
「うん、獣王はそんなに人間は襲わないみたいだし……うるさいと集中できないからね」
くすりとティズは笑いながらも、その通りだわ……といい、僕はまた一度鉈を振り下ろし、つると蔦を斬って草と木々をかき分ける……。と。
【がぁるぐがああ?】
「前言撤回……失敗だったよ」
「そのようね」
木々をかき分けた先、そこに運悪くたまたまお昼寝をしていたのか、ちょうどぼくたちは獣王にぶち当たり、ここにきて絶体絶命を迎えてしまうのであった。