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142. シオン先生と魔法のお勉強

王都リルガルム、冒険者の道から、寺院へと向かう関所の先にある


歩くには少しばかり長いクレイドル寺院へと続く道のり……。


周りに建物はなく、各関所から続く道のみが続いており、それ以外の場所は草原が広がっている。


ゆえに、魔法をいくら使っても目立たず、破壊できるようなものは存在しない。


なので、私たちはここを特訓の場として使用することに決めた。


春の陽気に心地よい風に揺られて身を揺らす草花の音……そして舞い踊る蝶たち。


そんな緑豊かな静かな場所に、シオンはホワイトボードに白衣、そして眼鏡を装着して

私のために教鞭を振るう。


青空教室というやつらしく、私は黙って草の上に正座をして授業を聞く。


これより、魔法の特訓が始まるのだ。


「いい? サリアちゃん! これからサリアちゃんの現状と、魔法の仕組みを教えるから、そのながーいお耳でしーっかり聞いてね!」


「はい!シオン!」


シオンから提案された魔法の習得、グリモワールによる魔法の習得は盗人のせいでかなわなんだが、シオン直々に魔法を教えてもらえるということになり、私は胸の高鳴りを抑えられない。

 

父と母の悲願……そして私の悲願が今……叶おうとしているのだ。


「……まぁ、魔法についての知識はもはや不要だと思うけど、これは復習程度に考えておいて。 まず、魔法なんだけれども、魔法っていうのは体内の力、いわゆる魔力というものを変換して使う技。 例えばファイアーボールを放つとき。 体の魔力を放出して呪文を唱える。 その呪文は魔力に形を与え、こうしてファイアーボールが出来上がる」


「ええ、それは知っています。 魔力は原料であり、呪文はそれに形を与える型のようなものだと……そして私には魔力が存在しないため、魔法が使えない、そう父と母に教わりました」


かつて父と母に教えられたその事実を、私はもう一度反芻する。

しかし。


「はーいそこで間違いその一!」


シオンはやかましいほどの大声で、人差し指を私に突き付けてくる……やけに張り切っている。


「魔力というものは人間の魂の源だよー! 呪文は確かに技術だから練習しないと使えないけど! 魔力というものは多かれ少なかれ人間には必ず存在しているものなの! ちなみに私この前こーっそりサリアちゃんの体まさぐって魔力量を調べたけど、サリアちゃんの魔力は並みのエルフの80倍、エンシェントドラゴン並みのバカみたいな魔力の持ち主でしたー! あ、ちなみに私はその5倍の魔力があるけどねー」


「はっ!?はち!? そんなはずは! 子供のころ父と母に」


「生まれた時は小っちゃかったんだよー! だからきっと勘違いしちゃったんだねお父さんとお母さんは! けど魔力量は修行次第でいくらでも増やせる! サリアちゃんの魔法習得のための努力は決して無駄にはなってなかったんだよ! よかったね!」


シオンは拍手をしながら飛び跳ねる。


心からの祝福に私は照れ臭くなるが、同時に一つの疑問が生まれた。


「では、どうして私は魔法が使えないのでしょうか? 呪文はその、練習をかなりしたので魔力さえあれば使えないはずがないと思うのですが……」


「うん、そう……魔力と呪文があれば、本来であれば魔法は必ず使用できる……でもサリアちゃん、それができないのは、サリアちゃんの体質のせいなの」


「体質?」


「そう、私が調べたのは、サリアちゃんの体の中に内包している魔力量……でも、私がさっき言ったように、魔力は外に放出しなければ……魔法は発動しない」


「……魔力の放出……まさか」


「そう、通常生物の体には、そういった魔力を放出する魔力穴というのがあるんだけど……。

サリアちゃんには、それがないの……はっきり言うね……だからサリアちゃんは一生、どんなに努力をしても……人のように魔法を使うことはできない」


ぞわりと背筋が凍る……。


努力ではどうしようもない、生まれつきの問題……。


魔力がないのであれば、修行をして魔力を作ればいいと思っていた……技術がないのであれば、人の何百倍でも努力をすれば、必ずできるようになると思っていた……。


だが、シオンの話が本当であれば……それはもはや、努力ではどうにもできない問題である。


頭がぐらりと揺れる……世界が暗く閉じてしまいそうな……そんな感覚が私を襲う。


「そんな……それじゃあ、私は……」


「うん、これは仕方ないこと。サリアちゃんは放出系、外界に干渉する魔法は使えない……諦めて……でも」


「でも?」


「外に出さない魔法であれば習得することはできる」


自信満々な笑顔、そしてどこか幸せそうな笑顔で……シオンは私にそう言葉をかける。


それは紛れもなく、私にとっての一筋の希望の光であった。


「外に出さない魔法というと?」


「大地と森の魔法……エルフはなぜか森に生きる種族なのに好まないけど、トレントとかワービースト種がよく使う魔法……身体強化だよ」


「身体強化?」


「そう、己の肉体を純粋な身体能力だけでなく、魔力の補助により力をブーストする魔法。

サリアちゃんでもこれならば理論上は習得ができる」


「しかし、私は以前も身体強化の魔術の習得には挑みましたが失敗でしたよ?」


「もちろん、普通にやったんじゃだめだよ。 身体能力強化の魔法だって、放出した魔力を形にして体内に取り込むんだもの」


「それでは意味がないのでは?」


「そんなことないの。 つまりは外に放出したものをもっかい取り込んでいるんだから……そもそも外に放出せずに、呪文を使って体の中で魔法にしちゃえばいいんだよ!」


「なっ!? そんなことができるのですか?」


「理論上はね? ただ、魔力とは常に流動している。 だからこそある程度を切り分けて外界に放出しておくことで、無駄な魔力の消費を防いだり、扱いやすくしているの。

それをひたすらに流れている魔力を感じ取って追いかけながら魔法とするんだから……普通の魔法を習得する何十倍も難しいし、下手をすれば魔法に魔力を全部注ぎ込んでしまって、死んでしまうかもしれない……もう一度聞くけど、サリアちゃんはそれでも後悔はしないんだよね?」


「ええ」


これだけのチャンスを与えられて終わるようなら私はそれまでの女だったというだけのこと。 この程度の試練を乗り越えられぬようでは、どのみちマスターに仕える資格はない。

ゆえに私は迷うことなくそう答える。


「即答……ふふ、さすがはサリアちゃんだね。 安心した……じゃあ、さっそくやり方だけどねー!」


シオン教官の手ほどきを受けながら、私は一緒になってやり方を習得する。


魔力……というものが肌で感じられない体質の私が魔力という概念を理解するのは

一苦労であったが……今までのような不安や苦痛は存在しない。


私は生まれて初めて……希望をもって魔法習得に当たれていた。


やり方や唱える呪文、意識するポイントをある程度教わった後。


私はとりあえず一回試しにやってみることになる。


シオン曰く魔法は習うよりも慣れろらしく、結局用意したホワイドボードは一度もその身にインクを付着させることなく用済みとなった。


内側にある魔力を感じ、常に流れる魔力を認識し……すべてではなく一部を魔法へと変換させる。


今まで魔力というものを己の体から感じたことすらない私にとっては雲をつかむような話ではあるが、とりあえずシオンの言うとおりにやってみる。


シオンは私の腕に触れ、魔力の流れを感じてくれて支持を出してくれる。


「そう! そこで魔力を感じて―! 呪文を唱える!」


魔力がうまく形を得たのを感じたのか、シオンはそう大きく一度叫ぶと同時に、私は言われた通り呪文を唱える。


【び、ビルドアップ!】


瞬間爆発音が響き渡り、私とシオンは吹き飛ばされる。


「きゃっ!?」


「くっ! シオ……ぬう?」

大した爆発ではなくシオンも尻餅をついただけであったが。


反面私はその場に倒れ伏し、起き上がることができなくなる。


「あれ? どうして私は?」


「あたたたた……魔力欠乏ってやつだね……この前の私と同じ、魔力量の調整を失敗して、魔力をほとんど使いきっちゃった状態……しばらく動けないよ~」


「あ、なるほど……」


疲労も痛みもないが動けない……これが、魔法を失敗した感覚。


「まぁ、失敗に終わっちゃったけど、失敗ができたよ! だからそう落ち込まず……」


「す、すごいですよシオン! わた、私今! 魔法が、一瞬魔法が!?魔力が、すごい! すごいです!?」


「……うーんそこまで喜ぶのも違うと思うんだけど~」


「次を! 早く次をやりましょうシオン! 次なら! 次ならもっとうまくできます!」


「えーと、とりあえず自分の足で立ってから言おうかサリアちゃん……今の状態で魔法使ったら、間違いなく死ぬよー」


「大丈夫、気合があれば」 


「いけるかい!」


「あうっ!?」


ぱこんと杖で私は頭をはたかれる。


「もー! サリアちゃんこれだけは覚えておいてね! 脳筋が陥りやすい罠なんだけど、魔力は体力と違って魂に近いエネルギーを放出して発動してるの! 疲労と違って、気合でなんとかなるものじゃないんだよ! 無茶をすれば即、死につながるの!」

「……なるほど……」


私の里のスローガンが常に優雅に命に余裕をもってだったのは、あれはのんびり屋だったわけではないのか……。


「ウイル君にとってサリアちゃんは一番大切な人で、サリアちゃんしかウイル君のことを守ってあげられないんだよ! 剣と盾は、折れたら主人は死んじゃうの!」


「……両の腕さえあれば……」


「サリアちゃんは存在自体が兵器だからでしょうが!」


「そんな……」


「ウイル君にも同じ事しろっていうの?」


「それは、いえません」


「でしょ? サリアちゃんはウイル君の剣と盾! 折ってはいけないし壊れてもいけない……だから、死んでもいいなんて中途半端な考えなら、魔法教えるのやめちゃうよー!」


「わかりましたシオン、わが命脅かす全てをわが力をもって喰らいつくします」


「すごーい肯定のはずなのに何もわかってなさそー! まぁいいや、とりあえず、約束だからね!」


シオンはそう苦笑を漏らし、私は倒れて動けない情けない格好のまま笑いあう。


こうして、私の魔法習得の修行が始まった。


いろいろなものを学び、いろいろなものを習得してきたが、おそらくこの修行よりも楽しく心躍るものはないだろう。


青空の下、私はそう笑みをこぼしながら、体が動くようになるまでシオン教官の言葉を一言一句反芻し、次に備えるのであった。


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