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11.そして従者へ

「では、早速今日から……といいたいところだが、私も生き返ったばかりで体が思うように動かないから、指南は明日からで構わないだろうか?」


「え、ええ」


「では明日正午に迷宮の入り口で待ち合わせでいいかな?」


「あ、はい」


しかし、こちらの礼ははるかに好待遇だ。

マスタークラスの、しかも上級職のエルフの美少女(ここ大事)に冒険者としての指南をしてもらえるなんて……。


ティズはまだつまらなそうな表情をしているがまぁいいだろう。 


「ではそろそろでようか、この寺院にいてまた何かむしりとられても困るからな……とその前にこの格好じゃ外に出られないな」


そういうとサリアさんはローブを羽織ったまま更衣室へと向かい、司祭がサービスとして用意してくれた洋服に着替え始める。


「覗いちゃダメよ」


「覗かないよ!」


ティズは下種を見るような目で僕をまだ見続けている。 


死にたい。


「待たせたな」


出てきた少女は聖騎士らしい美しい白と青を基調としたドレスに身を包んでいた。

司祭の趣味だろうか、クレイドル神のシンボルがあしらわれたそのドレスは少女にすごく似合い、これだけでもう金貨十万枚を払ってよかったと思ってしまう。


「うむ、高い金を取るだけあってよいものを用意するな……これなら人前にでても恥ずかしくはないだろう……では行こうか」


少女はそういうと、僕を連れて寺院を出る。


外はすっかりと暗くなっており、思っていたよりも長い時間サリアさんの救出に時間を使ってしまっていたことに気が付く。


「それじゃあここで分かれようか」


「いいんですかサリアさん? 今日の宿代とかくらいは、出しますよ?」


「いや、そこまで世話になるわけには行かない。 家もまだ残っているかもしれないからな」


「そうですか」


その瞳は遠慮している……というよりも本当に自分で何とかしちゃうんだろうなと思えてしまうほど自信と余裕に満ち溢れていた。


これがマスタークラスの冒険者か……全てを失って尚ここまで理路整然としていられるとは。


金貨十枚で落ち込んでいた自分が情けない……。


「では……」


そんな僕の考えなど露知らず、サリアさんは笑顔のまま手を振り寺院を後にする。


「すごい人だったね。 なんというか本当にマスタークラスって感じで、冷静でたくましくて……憧れちゃうな」


「なにが憧れちゃうよ! アンタのこと完全に見下して……私の装備を売ったですって?

素っ裸で死んでたくせに!? 何を売るって言うのよ!」


「しょうがないだろティズ、嘘をついているようには見えないし、第一僕達が金貨十万枚を持っているって言うほうがうそ臭いよ……感謝してくれているし、僕達を育ててくれるって約束してくれたんだし、それでいいじゃないか」


「よくないわよ! ウイルがすごいから助けられたのに、ウイルがすごいからお金もたくさん手に入ったのに……全部奪われて、それでいて見下されて……悔しいのよ」


「ありがとうティズ……君がしっかりと知っていてくれるだけで十分だよ。

それに、金貨は結局昨日と比べたら20枚も増えてるんだし、装備もホークウインドにミスリルの鎖帷子っていうすごいいいものをそろえられたんだから、いいじゃないか」


「……むぅぅぅう。アンタがそういうならいいんだけど」


ティズはそういうと力なく僕の肩にとまり、大きなため息を漏らす。


「お金はまた明日ためればいいじゃないか。 正午から集合ということは、朝早くにメイズイーターの力で宝探しをすればいいんでしょ?」


「はぁ、それもそうね……一日であれなんだから、これからいくらでもお金は手に入るわよね」


夜はまだ冷えるせいか、ティズはすぐに冷静さを取り戻す。


夜の風の中、僕達はとりあえずエルキドゥの酒場を目指す。煌々と胡散臭い光を放つ寺院を背に、オレンジ色の魔鉱石の光が宿る冒険者の道へ。


明日に備え、今日は飲まないでおこう……そんなことを考えながら、もう鼻歌交じりにさくらんぼの歌を歌っている相棒に苦笑を漏らす。


三歩進んで二歩下がるようなそんな一日であったが、とりあえず確実に一歩前進を出来たことを今日は素直に喜びたい。


                     ◇


そんで次の日。


特に何事もなく僕とティズは次の日を迎える。


まだ日の昇らない城下町は静寂に包まれており、布団から出ると隙間風が僕の体を震わせる。 春が来たとはいえ、まだ早朝は冷えるようだ。

相棒の様子を覗いてみると、ティズは机の上においてある特製ベッド―バスケットの中に小さな布団をつめたもの―の中ですやすやと寝息を立てている。


「よく寝てる……」


元気そうな相棒の姿に少し笑みをこぼし、僕は起こさないように寝室を出る。


迷宮にもぐる準備を整えた後に、ティズと僕の朝食を作る。今日の朝食は昨日酒場の店主から貰った形の悪い訳ありベーコンとコカトリスの卵を使ったハムエッグ。

そして昼食はスクランブルとベーコン、そしてトマトとレタスをパンにはさんで軽く焼いたホットサンドを作ろう。


今日からはサリアさんもパーティーに参列するわけだから、少し多めに作らないと。


きこりの頃からかかさず続けて来た朝のルーチンワーク。


思えば父が死んでから、これは一度も欠かしたことがない……。


食は体の資本であり、体は仕事の資本である。きこりであった父の言葉を思い出し、

僕は懐かしい父の姿をふと思い出す。


父さんの死は突然だった。 

森に突如として現れた謎の死霊騎士たち。 

それに連れ去られた子どもを連れ戻すといって父は行方不明になった。


残されたものは父の愛用していた斧と、大量の血痕のみ……昔は冒険者だったこともあると聞いたことがあるが、どれ位強かったのか、どんな職業でどんな冒険をしたのかは、一度も聞いたことがない。


もしもう一度会えたのならば……父の冒険譚を聞いてみたい……。


蜂蜜酒を飲みながら、冒険者になった今ならきっととても良い夜になるだろう。


「うーいーるー。ごはーーん」


そんなことを考えていると時間が経つのは早いもので、気が付けば外には太陽の光が差し込み始め、パンとベーコンの香りに釣られて我が家の寝ぼすけ妖精がフラフラと寝室から這い出て飛んでくる。


「はいはい、もうすぐできるから座って待ってて、あ、ちゃんと顔洗ってからね?」


「うーい」


ティズはそう生返事を返すと、またもやフラフラと洗面台へと飛んでいく。


洗面台には水がめが設置しており、その水を汲んで顔を洗うわけだが。


「あー、ういーーる。 お水切れてるー」


そういえば昨日切れているのをそのままにしていたままだった。


「はいはいー! 今汲んでくるから待ってて」


食器に朝食を盛り付けて、僕はエプロンを外し、外にある井戸まで水を汲むために家の扉を開ける……。


と。


「え?」


目の前に、土下座をして鎮座する聖騎士がいた……。何かの間違いかと思ったが、その姿はどうにも見たことがある。


「サリア……さん?」


どこからどうみてもこの麗しい金色の髪に美しいとがった耳はサリアさんだ……

それはいい、問題はどうしてサリアさんがこんな朝早くからここにいて、そしてなぜ土下座をしているのかだ……。


「え、えと……とりあえず何をしているんですか? サリアさん」


とりあえず、混乱を収めるためには状況分析が必要だ。

必要な情報を収集し、相手方からしっかりとした聴取をすることで混乱や誤解は解消される……うむ、人との接し方の基本であり、情報分析の基本だ。


こうやって話を聞けばきっと混乱も……。


「私を仕えさせてください! マスター!」


       余計に混乱した。


                    ◇



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― 新着の感想 ―
[一言] 巨人をも一撃で倒せるというほいっぱー螺旋剣でしたっけ? それだけ強力なのに10万もしないんですか。 武器やにもっていって売ればもっといい値段付いたのに。
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