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130. 勝利の宴

書籍発売! ということでお祝いもかねて飲み会編です!



「おっしゃでは勝利を祝して!かんぱああああああああああああああああああああああい!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


ダンデライオン一座のパレードが行われるはずであった王都リルガルムの中央広場……パレード会場は、そんなガドックの号令と同時に歓声が上がり、一斉に――中には割れる音も折混ぜながら――全力でジョッキをぶつける甲高い音が響き渡り、祝勝会が開催される。


本来ならばロバート王の生誕を祝わなければならないところであるが、今日ばかりは皆今日の勝利に祝杯を挙げる。


魔物による王都襲撃の爪痕は残るものの、酒を手に取り勝利に酔いしれる冒険者たちにはもはやそんな傷跡は関係なく、街の人間もいろいろと災難であったが我が国の大勝利に酔いしれ、細かいことは気にせずに勝利の美酒でのどを潤す。


「すごい賑わいですね、マスター」


あの後、僕たちは装備を解除してそれぞれが戦いの疲れをいやした後にチケットを使用してこの祝勝会に参加をした。


サリアは戦闘中ではないため、私服である浴衣に身を包み、シオンはシオンで薄着姿ではなく、いつも通りの服装に戻っている。


「そうだねぇ……。 冒険者だけじゃなくて、街の人たちも参加してるからね」


そして、今日はお休みということもあり、リリムさんも僕たちと一緒に行動をしていた。


「この町の人たちはお祭りが大好きだから……はぐれないようにね? シオンちゃん」


「はぐれたら花火をあげるから大丈夫だよー」


「それはいいわね、さっさと人込みに放り出したら花火大会でもっと盛り上がるわよ」


「ひどいー!」


僕たちはそんなシオンとティズのやり取りに苦笑を漏らしながら蜂蜜酒を片手に乾杯をする。


すっかりとサリアの腕は治っているようで僕は安心して酒をのどに流し込む。


大変だったためか、蜂蜜酒がおなかに染みる。


「っか―――‼ うッまああああい! やっぱり一仕事した後のお酒はおいしいわねえ!それも、王都を守った後なんて……格別よ格別!」


「毎度のことだけどティズちん何もしてないけどねぇ」


「してなくたって死にかけたからいいのよ!」


「一番頑張ったのはマスターでしょう……誰にも悟られることなく、この王都襲撃に対する備えを一人で行っていたのだから……マスター、お体の具合は大丈夫ですか?」


「え……あぁまぁ、大丈夫かな」


「そうですか……」


「サリアちゃんこそ大丈夫なのー? すっごいおっきな手裏剣刺さった状態で戦ったんでしょ?」


「ええ、まぁ大したダメージではありませんよ」


「すっごい筋肉―!? こんな細腕によくそんな強靭な筋肉が詰まってるよねー!」


「き!? し、シオン? 私はそんなに筋肉はありませんよ? ち、力が18というのはあくまで相手に与えるダメージの指標になるものですし!」


「え、そうなの?」


「そうですよ!! 私はエルフなんですよ!? そんなドワーフやオーガのような力が出るわけないじゃないですか! これはすべて技、そう技なんですよ!」


サリアは少し涙目になりながらそう訴え、僕は反省する。


つまりは、サリアが力強く見えたのは、技やスキルを巧みに使用しているから……もともとの筋肉のせいではないということだ……。


「そうなのー!?」


「確かに、スキルで力は補えるって聞いたことあるね、サリアさんくらいの使い手だったら、不思議じゃないのかも」


「筋肉じゃなかったんだ! ごめんねサリアちゃん!」


シオンは驚いたような声をあげて、サリアに謝罪をする。


「いいえ、分かっていただければいいのですよシオン……」


サリアは誤解が解けて安堵したのか、静かな微笑みを向けてそうシオンを許す。


「……本当かどうかは甚だ疑問だけどねぇ、まぁ……そんなくだらないことよりもお酒のほうが大事だけど」


ティズだけは少し疑いの目を向けていたが、それ以上は何も言わず、筋肉談義はここで打ち止めとなった。


サリアが筋肉か否かの話は終了したが、祭りはまだ始まったばかりであり、あちらこちらだ荒っぽい笑い声が響き渡る。


さすがは冒険者主催の飲み会といったところだ……。


パレード会場付近に建てられた屋台も、その材料をすべて無駄にする必要はなくなったらしく、皆が皆王都襲撃の損失を取り戻そうと躍起になっている。


まぁ、そういったほうが活気があっていいのだが。


そんなことを考えているとサリアが思い出したかのように。


「あ、そうだマスター私はこれから用事があるので、また落ち着いたら戻ってきます」


「え? サリア? 急にどうし……」


「そうなのサリアそれは大変ねいいわ楽しんでらっしゃいいってらっしゃいー」


「何やらすごい嬉しそうですねティズ……まぁいいでしょう、それでは失礼します」


「気を付けてね……腕も治ったばっかりなんだから」


「また折ったら今度は30秒で無理やりくっつけるよ、サリアさん」


「うぐっ……き、気を付けます」


「ばいばーい!」


ティズは歓喜の表情を浮かべて、ひらひらと舞いながらサリアを見送る。


あまりにもティズが嬉しそうに追い出すもんだから行先も聞けずじまいだ。


まぁ、サリアのことだから何も心配することはないんだけど。


「ふっふー、邪魔もの……しかも最大の敵が消えたわ、ほらウイル!飲みましょう一緒にたくさん!!」


そういうと、ティズは蒸留酒の中でもひときわ強いもの……~ボム酒~を小さなグラスに入れてよこす……。 あまりの強さに、素面の人間も爆弾のような赤い顔になるのが名前の由来である強い酒の代名詞でもある酒だ。


「ほらほらウイル♪ ライムよライム!塩もあるのよ!」


「何この飲み会……ショットスタイルも用意してるの?」


その中でも特殊な飲み方であるショットスタイル。


まずはライムを齧り、その直後にボム酒を一気に飲み干す。


「おー」


ライムの酸味が、強いアルコールにより中和され、なんとも言えない独特な味と、ボム酒の香りが口いっぱいに広がる。


そして、最後に口直しに塩を一つまみ。


こうすることでまた口の中の味が消え、後味すっきり。 


リセットされた状態でまた次のお酒へと進める、北のほうでは人気な飲み方だ。


ガツンと頭を叩くような刺激が徹夜の体に響いたが、おいしい……。


これで時々飲み比べをする人間もいるが、おすすめはできない。 


ボムのように爆発したいなら話は別だが。


「素敵よウイル! もっと飲みましょう? 今夜は寝かさないんだか…… あぁっあっちに幻の美酒、~ヤマタノオロチ~がある!! その酒もらったぁ! 」


酒の宝庫みたいな会場に、ティズのテンションは最高潮……本当に徹夜させられかねない勢いだ。


「寝かせてほしいかな……徹夜二日はつらいよさすがに」


ティズは聞いちゃいないがそう僕がつぶやくと。


「そんな状態でこんな強いお酒飲んでー、ウイル君大丈夫なのー?」


シオンが珍しく心配そうにそう聞いてきてくれた。


思えば少し頭がふらふらするが、まだまだお酒を飲む余裕は残っている。


「ウイル君がお酒強いのは知ってるけど、私の持っている回復魔法じゃ、疲労までは取れないから、疲れたらちゃんと言うんだよ?ウイル君」


「うん、ありがとうリリム……」


祭りだというのにリリムはあいも変わらずのメイド服姿であり、その犬耳も合わさって、冒険者たちはその姿に目を奪われていく。


いつもであればまたもや求婚者や酔ったふりをして言い寄ってくる不届き物がいたりするはずなのだが。


この王都襲撃の際に、王国騎士団や冒険者により、リリムは伝説の騎士の恋人という噂がまことしやかにささやかれるようになり、皆が皆その美しさを遠目から眺めているだけであった。


「どうしたのウイルくん?」


リリムはそんなことを考えている僕に対し、そう疑問符を浮かべながら問いかけてくる。


どうやらぼうっとしてしまっていたようだ。


「いや、何でもないよ……少し今日の行いを反省してて」


「行い?」


「ほら、僕のせいでリリムが伝説の騎士の恋人だって噂があっという間に広まっちゃったでしょ……その、迷惑だったかなって」


「ああそのこと! 全然気にしてないし……むしろ、その……嬉しかったりなんかして……」


「えっ……う、嬉しい!?」


「ふえっ!あっ違うの! そうじゃなくて、そのお店の宣伝になるし! 私が伝説の騎士の恋人だったら、もしかしたら伝説の騎士目当てにお客さんが増えるから!」


「あっ……ああ!! そそ、そうですよね! なんだ……あ、あはは……そうですよね」


「うんうん……そ、そうなのそうなの! 私はまだ、仕事一筋で頑張ってるから」


リリムはそういうと、一気に手に持っていた蜂蜜種を飲み干す。


あれ? 前にあまり強くないとか言っていたような気もしたけど……気のせいだったのだろうか? 


「ま、まぁでも……」


「え?」


「今日のウイル君は、とっても格好良かったよ……」


にこりとリリムは僕にそう笑いかける。


その笑顔はまるで天使の笑顔のようで。


「あっははははは、飲むわよー!今日はとことん飲むわよおおお!」


すぐ隣で飛び回りながら酒瓶で蒸留酒をラッパ飲みする妖精を見てしまったことを心から後悔する。


「ありがとう、リリム」


どきどきと心臓が早鐘を打つ。 なんだか照れ臭く、だけれどもどうしてだろう。


リリムさんのそのまっすぐな瞳から目をそらすことができない。


「う、ウイル君?」


その感情は、尊敬でも崇拝でも友情でも親愛でもない……見ているだけで胸が苦しくなり、だけれども彼女を視界から外したくない……そんな二律背反するようなこの感情の名前は……。


「ねーねー! キスするのー? 知ってるよー! これ、キスするやつだよねー!」


気が付けば僕とリリムさんの距離は、本当にキスでもしてしまうのではないかと思うほど近づいており、シオンの言葉に僕とリリムさんは正気に戻り、慌てて距離を取る。


「キスですってええ!?」


「ごご、誤解だよティズ!」


両手に蜂蜜酒を持ちながらティズは赤ら顔でこちらに飛んでくる。


おかしいな、さっきから彼女の持つジョッキがすごい勢いで変わっているような気がするのだが……気のせいだと信じたい。


「あんたこの泥棒狼いい! あたしのウイルに手ぇだそうなんざ百年早いのよ!」


「わわっ違うんですよティズさん! そうじゃなくって」


「何が違うのよ、私の目はごまかされないんだからね!」


「ひいいい!?」


「こらティズ……キスする気もいちゃこらする気もないから、安心して」


「嘘つき嘘つき嘘つき! 二人であんなことやこんなことする気でしょ!

だめなんだからね! 私ともしたことないくせに!胸か、胸の大きさが足りないのかこんちくしょー! 構えー! 私に構え――!そして愛せええ!」


どうやら一日中放置されっぱなしで相当さみしかったらしい。


僕はため息を漏らしてティズをつまみ上げると、そっと頭の上に乗せる。


「ごめんねリリム、ちょっとティズが静かになるまであたりをぶらつくことにするよ」


まだまだ話したいこととかはたくさんあったが、このままではティズがどうしようもないので僕はいったんリリムさんと離れることにする。


「仕方ないよ。 私がウイル君を一日奪っちゃったのが原因だもんね」


苦笑を漏らしながらもリリムさんはどこかさみしそうにそういい、僕は胸を少し締め付けられるような感覚を覚えながらも。


「私だけを見なさいよぉ!」


僕の髪の毛を引っ張り続けるティズにため息を漏らしながら人込みに紛れ、ティズの機嫌取り用のさくらんぼを探す旅にでることにする。


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