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127.伝説の騎士・フォース

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


ひときわ大きな歓声がロイヤルガーデンに響き渡り、歓喜の声に騎士団は盾や兜を上空に放り投げ、勝利を喜ぶ。



実際にお前たちは何をしていたのかと問われれば皆が皆目をそらし口笛でも吹くのだろうが、今はそんなことに突っ込みを入れる無粋な輩はいないようで、誰もが同じように勝利に酔いしれている。


「騎士殿……かたじけない」


レオンハルトは横になったまま息一つ切らさずに戻ってきた伝説の騎士に礼を言うが。


「気にするな……私はあのでか物とフランクの素材を、私名義でエンキドゥの酒場に届けてくれれば問題はない」


「その程度であれば喜んでさせていただこう……本当にお世話になった」


【報告します! フランク、ココア、ストーンオーガ、その他強大な魔物のせん滅を確認!まだ残党兵力は残っていますが、もはや烏合の衆! この戦い!われわれの勝利です!】


歓声が上がってから少し遅れて、ほかの地区での戦いも勝利で終了したことが告げられ、騎士団はさらに大きな歓声を上げる。


しかし、気を抜いてはいられないことをレオンハルトは理解していた。


「まだ気を抜くな馬鹿者! 残党兵力が残っているならば、すぐにでもせん滅を開始しろ!……市民の皆様はまだ、避難したままなのだから!」


レオンハルトの叱責に、騎士団員は勝利の余韻から現実に戻される。


そう、これからが大変だ。


魔物の残党がゲリラ戦、人間に姿を変化できるものだとしたらテロ行為に走る可能性だってある。


そうならないためにも迅速な残党狩りを行う必要があり、むしろ騎士団が大変なのは戦いが終わったこれからである……。


しかも、取り逃がした敵の数を正確に理解することは不可能であり、長きにわたり、残党勢力との戦いが懸念されるだろう……。


勝利はしたが、この戦争はこの王都に深い不安と闇を落とした……もはやこの王都は、希望の街でも誰もが平和に暮らす街でもなくなってしまったのだ。


そんな現実に、騎士団は影を落とす。


そんな中。


【ほ、報告! ロイヤルガーデン付近に先ほどまでの比ではない膨大な魔力の奔流を確認! 至急対処を願います!】



「なっ!? 何いいいい!?」


不意に訪れた次なる攻撃の連絡に、騎士団はおろかレオンハルトでさえも驚愕する。


先ほど敵の主力は壊滅させたという報告があったというのにも関わらず、ここで再度強力な魔力の奔流が流れているということは、まだ裏で糸を引いているという何者かがいるということ……そしてその魔力量が尋常でないということは、先に戦っていたフランクよりもさらに高位の魔物だということ……そんな存在に、レオンハルトは絶望をし。


「探せ! すぐに探し出せ! 」


すぐさま騎士団の人間にその魔力の主を探させるが。


「い、いや、団長それが」


「なんだ?」


「どうにも、魔法唱えてるの……伝説の騎士たちみたいなんですよね?」


「は?」


【其は始原にして終焉の受け継がれし火、われとともに歩むは始原の火を継ぎし者、わが言葉に応え、その身に灯る炎熱をたぎらせよ、その力をもって、愚者に終焉をもたらさん】


確かに、ふと痛むからだを起こし、部下の指さす方向を見てみると、そこには杖を掲げ、なにやら物騒な魔法の呪文を唱えているシオンと、それをただ見守る伝説の騎士とリリムの姿があった。


「え? 何してるのあれ?」


レオンハルトは疑問に思い、そう部下に聞いてみるも、あの光景に誰も声をかけることができないらしく首を横に振るう。


まぁ確かに、伝説の騎士が行うことだから間違いはないのだろうが。


「じゃあ、あの魔法がなんの魔法かわかるやつは?」


レオンハルトは今度は質問を変えてそう部下に問うと、魔術部隊の人間が一人手をあげ。


「あ、あれ、メルトウエイブっですね」


そう震える声でそう言い。


「え、なんでそんな魔法とな……」


【メルトウエイブ!!】


レオンハルトが、疑問を口に出すよりもはやく、シオン史上最大の魔力を練り上げた最大威力最高範囲の一撃が、王都を包み込む。


クレイドル歴 XXXX年……王都は、核の炎に包まれた。


                    ◇


目を覚ますといや、走馬燈からよみがえるとそこはロイヤルガーデンが広がっていた。


「あれ? 確か核の炎に包まれて」


メルトウエイブに包まれ、レオンハルトは走馬燈を見ていたのだが……気が付けば無傷でその場に立ち尽くしていた。


【ほ……報告します……先ほど究極魔法アルティメットスペル メルトウエイブが王都を直撃……街全体を覆いつくしたのですが……えーと ひ、被害報告をどうぞ……っていうかなんで私たち生きてるの?】


指令室のほうもメルトウエイブの直撃を受けたらしく、報告する人間の戸惑ったような声が響き渡る。


レオンハルトは一度あたりを見回してみるが、古龍が破壊し灰塵と化したロイヤルガーデン以外の場所は破損一つなく……街も焦げ一つ見当たらない。


ただ一つ違うことがあるとすれば、それは古龍とドラゴニュート、フランク以外のすべての魔物が消え去っていたことだった。


「こちら王国騎士団長レオンハルト、爆心地はここであるが、先の爆発による死傷者、被害はゼロ……繰り返す、被害ゼロ……そして、敵影、残存兵力含めすべてが沈黙」


残存兵力、死体……それ以外はすべて沈黙……。


「き、騎士団長……これは」


騎士団の人間はようやく走馬燈から帰ってきたのか、気が付くとレオンハルトにそう問いかける。



ただ、目前に広がる灰塵と化したロイヤルガーデン……そして失われたレオンハルトの腕が先の戦いが夢ではなかったことを示しており……。


「魔術師殿……敵だけを焼いたのか」


そうレオンハルトはそのすさまじき魔法にため息を漏らす。


「て、敵だけを?」


「あぁ、それしか考えられまい」


騎士団員は全員身震いをする。


そんな魔法使いを聞いたことなどないし、魔術研究部がどんな技術を用いてどんなに知恵を絞りあったとしてもそんな魔法の開発は不可能だ。


「な、何者なんですか……彼らは」


「直接……騎士殿に聞いてみたほうが早いかもしれないな……騎士殿は?」


「あれ? 騎士殿?」


走馬燈を見ていたとはいえ、爆発からさほど時間がたっていないことはわかる。


騎士団員は慌ててあたりを見回すと。


「あ、あっちです」


冒険者の道の方面から、その場を静かに立ち去ろうとする三人の人間を発見する。


「これだけの偉業を成し遂げておきながら、音もなく去ろうというのですか」


レオンハルトはそうつぶやき、騎士団員に支えられながら三人のあとを追いかける。


リリムの魔法は効いており、崩れた足は早くも歩ける程度には回復していた。


「……騎士殿!……お待ちください!」。


レオンハルトの声に伝説の騎士はゆっくりと振り返る。


「なにかあったか?」


「いえ、ですがまだお礼も……」


すると、伝説の騎士は何でもないといったような表情で――あくまで鎧で顔は見えないが――

「用事は終わった……ならばここにいる意味もないだろう?」


そうあっけからんと言い放つ。


「そうはいかない! せめて、せめて王城にて感謝を……この国を救った英雄として……最大の栄光を……」


しかし、伝説の騎士は片手でレオンハルトを制止し。


「それは……困る」


そう言い放つ。


今度こそレオンハルトは読み違えることはなかった……そのセリフは、伝説の騎士の中ではすでに新たな戦い……アンドリューとの戦いが始まっており、そんなことをしている時間などない……そういう意味をはらんでいる。


もうすでに、次の戦場を見据えるか……伝説の騎士……。


そして、ここで自らに頼みごとをしないということは、我々はこの先足手まといにしかならないということ……本当にかなわない。


「……なるほど、あなたにとっては、そんなものよりも、もっと大事なものがあるということですね……あなたはまだ、先を見据えるのか……伝説の騎士」


本当にかなわない……何もかも先を見据え、我々の数手先を読み、謝礼も栄光もすべてをかなぐり捨て……故郷でも何でもないこの町のために戦ってくれた……。


伝説の騎士……この世界に確かに存在する、最高の騎士……。


「伝説の騎士殿……感謝を……深く、感謝を!!」


もはやこの国には、彼の働きに見合った報酬など払えるはずもなく、レオンハルトはその代わりにただただ頭を垂れて感謝の言葉を述べる。


頭を下げると同時に、自らの不甲斐なさ、無能さがのしかかるようで、レオンハルトは静かに瞳に涙があふれる。


しかし。


「きにしなーいきにしない!」


「魔術師殿……」


レオンハルトの鬣を、魔術師は軽くなでて、天使のような笑顔を向ける。


「……また、何かあったときは力を貸してくれ……レオンハルト」


「はっ……必ずや! このレオンハルト、このたびの恩義に必ず……」


「えっ!? いやいや、水臭いな! 僕たちもう、友達だろう?」


「え」


レオンハルトはきょとんとした表情で伝説の騎士を見やる。


その表情は冗談でも何でもなく自らを友として認めてくれた……そんな表情をしていた。


「騎士殿……」


先ほどの数倍の涙がレオンハルトから滝のように流れ落ちる。


「うわっ!? えっ? えっ? どうしたの!?」


「わかるーわかるよー! ボッチはさみしいもんね! じゃあ、私とも友達だね、猫ちゃん!」


「あっ……す、すみません……その、感動してしまって……こんな私を、友だなんて」


「え……あ、うん。 これからもよろしくね、レオンハルト」


「はい……騎士殿」


くいくいと、伝説の騎士の隣にいたリリムが、伝説の騎士のマントを引っ張ると、伝説の騎士は思い出したかのように。


「あ、あとそれと、武器や防具が量産品とはいえ、少し粗悪品が目立つ。 クリハバタイ商店にて装備の買い替えをおこなうがいいだろう! またこのような事態がいつ起こってもいいように、準備を万端整えておいてくれ」


「はっ!!」


「うん、じゃあええと、これくらいかな……それじゃあ私たちはもう行くから……いろいろと助かった」


「そんな、もったいないお言葉です……騎士殿……えーと」


「どうした?」


「いや、その友人を……いつまでも伝説の騎士と呼ぶのは……なんとも」


「あ、そっか……うーん」


伝説の騎士はそういわれると、少し悩んだような表情を見せる。


名を明かす……確かにアンドリューとの戦いに身を投じるものとして、情報が敵に漏れると不利になる可能性が大きくなるということは重々承知している。


それに、その名前から素性が割れれば、弱点や弱みを握られる可能性すらある。


兜を決して脱がず、名も明かさないのはそれ相応の理由あってのこととレオンハルトは理解していたが、しかし……それでも名前を知りたいとレオンハルトは願ってしまった。


その思いを伝説の騎士は汲み取り、はかりにかけているのだ。


その苦悩は計り知れないだろう。


そして。


「……フォースだ……」


伝説の騎士は、友であるレオンハルトを信頼した。

フォース……あなたにふさわしいお名前ですね」


「ありがとう。 じゃあレオンハルト……また」


「ええ、フォース……次は、私があなたをお助けします……必ず」


「その時は頼む……」


短い挨拶をおえ、伝説の騎士・フォースはゆるりと帰路につき。


【全員! 敬礼!!】


気が付けば全員がレオンハルトのもとまで集まり、戦いを勝利に導いたフォースに敬礼をささげていた。


その様子に振り返ることなく、伝説の騎士・フォースは太陽が昇り切った雲一つない空の下を歩いていく。


【報告します! 各地の被害報告ですが……】


このまま自分たちも倒れこんで勝利に酔いしれたい気持ちもレオンハルトにはあったが、


伝説の騎士が去ったと同時に、様子を見ていたのかと疑いたくなるタイミングで指令室からの報告が雪崩のように押し寄せる。


最小限に抑えられはしたものの、被害は甚大。 繁栄者の道は半壊しているし、

副団長率いる部隊は壊滅状態……。


経済部大臣が卒倒しそうな状態であり、レオンハルトはあの会議にまた出席すると考えると、古龍を前にした時よりも頭が痛くなる。


「やれやれ……これからが大変だ……なんかヒューイも重症みたいだし……」


レオンハルトはため息を漏らし、伝説の騎士とは反対の方向へ歩いていった。


 


フォースとウイル……。


意思と力……意思のちか……おや、誰か来たようだ。

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