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123. ネイキッド・シノビ

呪いの匂いが充満し、すべてが呪いによって支配された繁栄者の道。


その場に立つは一人の聖騎士と、すべてを操る忍の少女と、それに付き従う呪われた駒。


その兵力差は500対1であり、数字の上ではどちらが優勢かなど問うまでもなかった。


しかし。


「はぁ……はぁ……はぁ」


「……どうした? 息が上がっていますよ、忍」

その聖騎士は、たった一人でその戦力を圧倒している。


五百いた駒のうち半分……アラクネの子はすでに母親のあとを追い。


「五百の軍勢を、まさかこうやって無力化するなんて……」


騎士団もすでに戦闘不能状態にまで追い込められている。


伝説の騎士の軍勢がロイヤルガーデンに向かって二分が経過していた。


あとを追うためにカルラは大軍をひきいてサリアを強襲したのだが、そのことごとくを聖騎士はたたき伏せた。


もはや伝説の騎士の姿は視認できず、カルラは背後に下げた騎士団を見る。


全員剣も盾も持たずに、だらりと腕を下げている状態で立ち尽くす。


カルラが命じたわけではない。


サリアによって騎士団全員が腕を折られ、上がらない状態にされてしまっているのだ。


騎士団との衝突時、サリアは騎士でありながら、その二本の細腕で、丁寧に一本一本騎士団の腕をへし折った。


あたりに散らばるは騎団全員分の剣と盾。


数による圧倒的暴力による蹂躙のはずが、一人の少女の圧倒的暴力により、沈黙させられたのだ。


「剣が持てなければ、さほど脅威ではありませんからね、それ」


「くっ……聖騎士ぃ」


苛立たしげにカルラはサリアをにらみつけ、


カルラは背後へ下がらせた騎士団を見てもう一度思案する。


彼らの使い道は残されているか?


答えは何度考えてもノーである。 


普通であれば、まだ肉壁としてなら利用できるだろうが、先ほどの拳の一撃からすべてを吹き飛ばしたうえで攻撃を喰らうだけだと判断をする。


この少女にはおおよそ盾というものはただの飾りにしかならない。


正真正銘の化け物だ。


また、腕をすべて迷いなくへし折ったということから、彼女は騎士団の命を気にして戦っているわけではない。


サリアは確実に、足手まといを増やしているのだ。


ここでカルラが呪いを解けば……騎士団は正気を取り戻す……そうなれば、腕が折れている程度なら魔法で回復をして敵に回ってしまうだろう……かといってカルラがここで駒の回復をしようものならそんな大きな隙をこの聖騎士が逃すはずがない。


腕を迷いなくすべてへし折ったことから、人質は無意味……肉壁にしてもすべて散らされて先ほどと同じような一撃をもらうだけ。


騎士団の命を気にしているのではなく、完全にこの騎士団さえも利用して戦っている。


カルラはそんな聖騎士の戦い方にもう一度唇をかむ……奪ったはずのものが、完全に裏目に出てしまったのだ。


今すぐにでもこの足手まといの騎士たちを殺してしまいたいが、腕が折られているため自害もさせられない……。


もはやカルラは、この状態で戦うことを余儀なくされてしまっている。


「私……あなた嫌い」


そんな状況下で、カルラはそうサリアに向かってつぶやく。


「そうですか、よく言われます」


「本当……なんの苦労も知らないで、聖騎士だってみんなからちやほやされて、神様に愛されて幸せでそれでいて強くて誰にも負けなくて……信頼もされてて……誇り高くて気高くて、人間は美しく正しいものだって信じて疑わない……私と違って、日の光を浴びて生きてきたのよね……私みたいに、ごみ箱のパンをかじって、全身を切り刻まれながら、薄暗い迷宮の中で苔とカビの中で生きてきた私の気持ちなんて、分かるわけないわよねぇ。

ねえ、教えてよ聖騎士サリア……どうして私とあなたはそんなに違うの? 私はマスタークラス、あなたもマスタークラス……私のほうがずっとずっとずっと苦労をしてきた、痛い思いも苦しい思いもずっとずっと苦しんできた……なのになんで私は……あなたに追い詰められているの?」


「……ごみ箱のパンにあたったのでは?」


サリアは興味ないと言いたげにそう適当にあしらうと。


「殺す」


カルラは怒りをはらませた表情で一気にサリアへと走る。


その手には手裏剣……だけではない、無数の武器を全身の魔法陣から召喚し、忍としてもてる、すべての武器すべての暗器をサリアにたたきつけ、殺すためにとびかかる。


手裏剣に始まり、苦無、鎖鎌、爆弾、毒針、短刀、マキビシ……。


一人の人間がすべてを喰らえば、もはや影も形も残らない……それほど大量の武器が塊となってサリアを襲う。


しかし。


「確かに、扱える数は多くさすがです。 ですが」


サリアは騎士団の落としたロングソードと鞘を拾い上げ。


 

「すべてが拙い……」



 極める……ということを叩き込む。


【黒龍葬送奥義】


すべての音が消える。


技術も、小細工も一切ない渾身の一撃は、苦無を、手裏剣をすべて両断しながら

カルラへと迫る。


鉄も、鋼も、大気でさえも……触れるもの皆すべて両断し。



されどその一閃に波紋は立たず。



ただ無音のまま……その白刃はカルラへと迫る。


響くは、収めた唾鳴りの音ただ一つ。


【獨響】


それにより、カルラの武器はすべて薙ぎ払われ、カルラ自身もまた吹き飛ばされ崩れた建物の中にまたもや身を沈ませる。


「安心してください……峰打ちです」


またもや折れてしまったロングソードを捨て、サリアはカルラのもとまで歩いていく。


立ち尽くす騎士団たちは、先の一撃でカルラの意識が完全に一度解けたためか、その場に糸が切れた人形のように倒れ、うめき声をあげながら正気を取り戻している。


そんな彼らを無視し、サリアはさらに吹き飛ばされカルラがいる瓦礫へと歩く。


「なぜ、あなたは武器を使うのですか? 忍」


かつんと音が響き、さらにサリアは一歩進んでいく。


「拙い技を使い、慣れない武器を使い……武器を仕込んで己の足を遅くする」


さらにかつんと音が響き、サリアはまた一つカルラに問う。


「あなたの極めたもの、その研ぎ澄まされた一閃でなければ私には届かない!


その身にまとった余分なものをすべて捨て、全身全霊で!


来なさい忍! 武器なんて捨てて、かかってきなさい! 怖いのですか!?」


瞬間、がれきの中のカルラが爆ぜる。


その姿は衣服も身を守る防具も、重い武器も何もかもを脱ぎ捨てた。


 (ネイキッド)忍者(シノビ) 


振るわれる一撃はカラテと呼ばれる忍のみが扱える至高の一撃であり、研ぎ澄まされたその拳がサリアの心臓を抉り出さんと走る。


「ぶっ殺してやる!」


「それです!!」


しかしサリアが浮かべたのは歓喜の表情であり、


その一撃に応えるように拳を振るい、その一撃と正面から打ち合うが。


「ぐっ」


マスタークラス、先ほどまで敵を蹂躙していたはずのサリアの拳が、カルラのカラテにより砕ける。


「ぐっ!? さすがは忍……」


腕を折られながらも、サリアは好敵手の登場に喜びながら、こぶしを構えて戦いを再開する。

が。


「…………が、は」


互いの全身全霊をぶつけ合うよりも早く……先のサリアの峰打ちが効果を発揮したのか。


その場に糸が切れたかのようにその場にカルラは崩れ落ちてしまった。


「へ……終わり? 」


呪いの痕跡もすでになく、サリアはあっけにとられた様子でそう一言つぶやき、今ここに繁栄者の道の防衛が終了するのであった。


                     ◇


カルラの格好については、個人の自由といたします。


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