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122.サリアと呪われた騎士団

 「な……なぐった……あの針のむしろを」

「ち、血の気がひいたよ」


僕とリリムは顔を青くして、サリアとカルラの戦いを見守る。


確かに、飛び道具を使う敵に、拳で戦うとなれば逐一攻撃を避けているのではなく、最低限のダメージで済むように一直線に突撃をするのが一番効率的ではある。


サリアもカルラも互いにマスタークラスの忍と聖騎士であり、恐らくどのような立ち回りをしたとしても、全ての手裏剣を回避して敵まで距離をつめるのは難しいだろう。


ヘタに回避行動を取れば、相手もマスタークラス、確実にサリアを追い詰める行動を取り、それは成功したはず。


だからこそサリアはあえて攻撃を受けて、最短距離、必要最低限のダメージで敵へと距離をつめたのだ。


理屈は正しいし、実際その攻撃は成功している。


だけど。


「分かっちゃいるけど痛すぎる」


見てるこっちも腕を押さえてしまうほど痛すぎる。



「サリアさん、回復魔法を今……」


リリムは見かねてか、回復呪文を唱え始めるが。


「必要ありませんリリム、こんなものダメージの内には入りません、かすり傷です」


サリアは真っ赤に染まり、現在進行形で血が噴出している手を振ってそう回復魔法を拒絶する。


何が恐ろしいって、その表情は本当に痛くもかゆくもなさそうだからだ。


「いやいやいや、手から血がドビューってでてるから! まだ腕に手裏剣刺さってるからね! 変なオブジェみたいになってるから」


「それも含め問題はありません……そんなことよりも、マスターは残存兵力をつれて撤退をお願いします」


心配をする僕達をよそに、サリアは努めて冷静にそう僕達に依頼をする。


「撤退? 一人で君を残していけっていうの?」


「ええ、そうです」


「そんな、サリアさん一人をここに残していくなん……サリアさん後ろ!!」


そうリリムが言いかけると。


またも背後からサリアを強襲するものが現れ。


「はっ!」


サリアは裏拳でその人間を叩き伏せる。


地面に倒れ気を失ったその人間を見ると、それはさきほどまで共に戦っていた騎士団副団長であった。


それだけではない。


その奥を見ると、そこには仲間の騎士団に切りかかる騎士の姿がある。


仲間割れ……というにはあまりにも唐突であり、その光景は狂気に染まりすぎている。


襲い掛かる騎士は、あたかも最初からその人物が敵であったかのように迷いも躊躇いも無く、


共に王に誓いをたてあった仲間へとその白刃をつきたてようと狂ったように剣を振り回す。


「死ねぇ!! 死ね死ねしねしねさぁしね今死ねええ!!」


「まだ敵が!?」


背後からの襲撃……。 僕はとっさに剣を振り上げ対応をしようとするが。


「ひゃあああははははは!!」


それは先ほどまでアラクネと戦い、負傷をしていたはずの騎士であった。


怪我が治ったわけでも、傷ついたふりをしていたわけでもない……そのわき腹からは今だに赤いものが滴り……無理な動きにより折れた白い骨が肉を突き破って飛び出している。


だというのに……こちらも痛みを感じている様子さえないのだ。


その狂気に、僕は躊躇う。 


今はホイッパーを装備しているため……ここで反撃をすると……消滅させてしまう、


明らかに異常な騎士団の変化は、自分の意思ではないことは明白だ。


だからこそ僕の反撃の刃は止まり……そんな中途半端な迷いの所為で、僕は回避の機会も同時に失っていた。


「ご主人様!」


背後から襲い掛かる騎士団の人間をリリムは殴り飛ばして意識を飛ばす。


刃は鎧の隙間に入り込む寸前であり、するりと隙間から落ちて地面に落ちる……。


あとほんの少し遅れていたら、首は切り取られていただろう。


僕はその想像をして血の気が更に引く。


「あ、ありがとうリリム、え、というか、なにこれ!?」


気が変わったというにはあまりにも脈絡がなく、見えたのはその瞳は虚ろでとても正気であるとは思えないそれは、明らかに先ほどの呪いが影響しているはずだ。


そう疑問を抱きながらサリアの前方を見ると、そこには先ほどまで仲間であった騎士団と、アラクネの子……そしてカルラが立っており、半数以下となった騎士団が怯えた様子でこちらまで撤退をしてきている所であった。


「やはり、操作系の呪いか……彼女は呪いで、人を操れるようですね」


カルラにたいして、サリアはいらだたしげにそう呟く。


「どういうこと?」


「昔、何かの文献で読んだことがあります……呪いの魔法の中には、人の心を縛りつけ、操るものもあると……」


サリアはそう人の心を意図的に操る魔法に対して怒りをあらわにする。


聖騎士として、やはりそんな非道な行為を行うのは許せないのだろう。


流石は正義の聖騎士……。


「シノビなんて……魔法が必要な職業じゃないはずなのに……魔法が使えるなんてうらやましい!」


「そっちかい」


どうやら魔法への憧れは克服したとはいえ、消えきらないようだ。


「はっ……失礼、取り乱しました。 とまぁこのように、この少女は部隊の人間を操る魔法を放ちます、幸い百パーセント操られるわけではないみたいですが、何度も放たれれば騎士団は全滅します……ここは私がひきうけますので、マスターは他の援護を」


サリアはそういうと、騎士団の男が落とした剣を拾い上げ、腕に手裏剣が刺さったまま軍で攻めてくるカルラを見やる。


その瞳は今まで異常に険しく、カルラというシノビは彼女が本気で相手をしなければ成らない相手であることを悟らせるには十分であった。


騎士団も、リリムもメイズイーターであっても、カルラを相手にするには足手まといでしかないのだ。


伝説の騎士であろうとも……まだ、彼女には遠く及ばない。


そんな歯がゆさと、サリアという少女の背中を見つめ、僕は決断を下す。

本当は隣に立ち戦いたい……だが今はわがままを言っている場合ではないことも、サリアが勝利するということも当然のように分かっている。


だからこそ。


「十分で片付かなかったら、酒は君の奢りだからね」


僕は軽口だけを置いていくことにする。

ちょっぴりの背伸びと悔しさを染み込ませて。


「ふふ、そんなに時間をいただけるんですか? 五分で片付けて、貴方のお傍に参ります」


そう振り返るサリアの表情はとても優しく、どこか誇らしげであった。


そんな顔をされたら、もう迷いなんてあるわけがない。


故に。


「この戦場はサリアに預ける!! 残存兵力は次の目的地! ロイヤルガーデンへ向かう!!」


次の目的地、ロイヤルガーデンへ向かう決断を下し、残った騎士団へ移動の合図として魔鉱石を上空へと放つ。


上空へと投げた魔鉱石はただの赤い閃光を放つという単純なものだが、あらかじめ残しておいた騎士団には、この合図を送ったらロイヤルガーデンへと向かうように指示してある。


「ご主人様……本当に一人残して……」


リリムは心配そうな表情でこちらを覗き込むが、僕はその肩に手をかけ。


「大丈夫」


リリムの不安をさえぎる。


「……ウイル君は本当に、サリアさんを信じてるんだね……心の底から、少し……妬けちゃうよ」


誰にも聞こえないような小声で僕にそう呟いたリリムは、どこか拗ねているような表情をしている……なんでだろう。


「?? 勿論リリムのことも信じてるよ?」


「……もう……そうじゃないもん」


何か失言をしてしまったのか、リリムは少しふてくされたような表情をしてそっぽを向いてしまった……。


「早く行くよ、ご主人様」


「あ、ああ……全軍! 私に続けぇ!」

リリムの不機嫌の原因は結局分からずじまいであったが、とりあえずそれを追求している時間もないので、僕はホイッパーを掲げ、敵に操られてしまった部隊長の変わりに命令を下し、ロイヤルガーデンに向かい進軍をする。


と。


「逃がすだなんて……誰が言ったのかしらあああぁ、伝説の騎士いいぃ!!」


いつの間に……。


距離は200メートルは離れていたというのに、気が付けばカルラが僕に向かい迫ってくる。


その手にはまたも手裏剣を持ち、その表情はもはやこの世のものとは思えないほどゆがみ


そして何かに憑かれている。


その速度はすさまじく、騎士団はその気迫だけでも恐怖で隊列を崩しそうになるが。


僕は何も心配することなく背を向ける。


なぜなら。


「私が言うさ……」


サリアがいるのだから。


「ぐっ……聖騎士いい!!」


「素手とはいえ、余所見をして生き残れるほど、この私は甘くはないぞ、シノビ」


何が起こったかはわからないしわかる必要は無い……ただ、

僕に放たれそうになった手裏剣を握り砕くような音が一つ、背後で響いた。


                         


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