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121.サリアVSカルラ  

「なっ!? かる……」



驚愕に声を漏らす。


カルラはこの瞬間を狙っていた……。


誰もが勝利に酔いしれた、気の緩んだ勝利の一瞬。


張り詰めた緊張の糸が一瞬緩むその時を、暗殺者はねらい。


見事成功を果たしたといえる。



この魔王の鎧をもってしても、マスタークラスの忍びによる一閃を防ぐことはかなわず、


僕は忍による奇襲攻撃により……あっけなく首をはねられることになるのだ。


「いやあああああああああああああああああああ!?」


回避もリリムさんも間に合わず、僕は振り下ろされる白刃をただただ見つめることしかできなかったが……。


「私のマスターに何をする……シノビよ」


聞きなれた凛とした声が響き、ふいに目前に青きクレイドル寺院の衣を身にまとった少女が現れ。


カルラの手首と顔面を両手でつかみ、僕への奇襲を失敗に終わらせる。


「なっ!? あんたは!」


カルラの驚愕の声も何もかも聞くことはなく、現れた少女はそのまま一気に投げ飛ばす。


「きゃあぁっ!」


高いカルラの小さな悲鳴が響き渡り。


同時に少女は振り返る。


「お怪我はありませんか? マスター」


「……サリア、助かったよ、だけど何でここへ?」


「敵が、マスターの命を奪うことを最優先事項と変更したと知らせを受け、急いでマスターの居場所を推測して向かったところ、ちょうど襲われている最中でしたので割って入りました」


「なるほどね、あと少し来るのが遅かったら僕の胴と首はさようならして立ってわけだ……本当に間に合ってくれてありがとうサリア」


僕はサリアが間に合わなかった場合のシチュエーションを想像して身震いをして、サリアに心からの感謝の言葉を贈る。


「ウイ……ご主人様! お怪我は!」


そんな会話をしていると、リリムさんが心配そうな表情で僕のもとへと駆け寄り、慌てて治癒呪文を唱えてくれるが。


「大丈夫だよリリム……サリアのおかげで怪我はないから」


僕はそんなリリムさんを片手で静止する。


「本当?」


「この状態で強がりは言わないよ……」


「そう……よかった」


安堵したように胸をなでおろすリリムさん……かわいい。


「あ、そういえばリリム! 聞きたいことがあったのですが」


「へ? な、何? サリアさん」


「依頼していた剣なのですが、まだ完成はしていないですか?」


「え、あの剣折れちゃったの!?」


「はい、ぽっきりと……あるいはリリムならと思ったのですが」


「ご、ごめんなさい……完成してないよ……あと数日は無理、研ぎがまだ終わってないの」


「そうですか、あれ相手に素手は少しつらいですが……勝てない相手でもありません」


サリアは少しばかり困ったような表情を作り、投げ飛ばされた忍を見やる……。


投げ飛ばされ、がれきの下敷きになったため、カルラはピクリとも動く気配はない。


「死んだの?」


「いいえ、様子を見ているのでしょう……証拠に先ほどから殺気が一度たりとも途切れていません」


サリアはそういい終わると同時に、瓦礫が爆ぜ、中から黒い触手の様なものを湧き出させながら、カルラが現れる。


その表情は僕の知っているいつもおどおどしている優しい表情ではなく、狂気にまみれた瞳をしていた。


一体彼女に何があったのか………。


「あれは危険ですね……正気も何もかもを失っています」


サリアは冷静にそう分析をし僕もリリムさんもその言葉に同意をする。


「すごい呪いのにおい……きっとさっきのにおいと同じ……おそらく全部呪いのあと……」


やはりサリアたちにはあの呪いは見えていないのか、そう黒い触手の様なものには触れず、カルラの危険性について語る。


「ふっふふふ……聖騎士サリア…邪魔をしないでもらえますかねぇ?」


不気味な笑い声を浮かべ、カルラはゆっくりとがれきの中から立ち上がり、うっとりとした表情でこちらを見やる。

その狂気にまみれた瞳に僕は一度身構えてしまう。


凄い殺気であり、サリアは無表情、無刀で構えを取るが。


「みんなみんな、私のものになってしまえ!」


カルラはそう叫び声をあげながら黒い触手を僕たちへと伸ばしてくる。


いや、それは僕たちだけではない……背後で戦っている兵士たちにもその触手は伸びていき。



『あああああああああああああああああああああああああああ!』


【ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?】


響き渡るのは二種類の呪いであり、そんな悲痛なバッググラウンドミュージックを背負いながら、呪いの触手が僕たちへと走る。


「まずい! メイズイーター!」


当然二人にはその攻撃は見えるわけもなく、僕は慌ててメイズイーターで食らうべく手を伸ばし、一本の呪いを喰らうが。


「! このっ!」


カルラは直感で僕がこの呪いに対処しうると判断したのか、僕へ向かっていた呪い二本の軌道を変え、サリアとリリムさんへと走らせる。


「しまっ!?」


僕の脇をすり抜け二つの呪いが無防備なサリアとリリムさんへと襲い掛かり、カルラの勝利が決まるはず……だったのだが。


「……なんかこのあたりですかね」

サリアはそんなことを言うとその呪いを素手で両断し。


「……呪いのにおい……」


リリムさんへと走る呪いに至っては近づいたのちにとんぼ返りをしてしまった。


「あ、あれ?」


無事なのはよかったが、僕はこうもあっさりと呪いに対処をしてしまった二人に呆けてしまう。


「……えと、サリアはまぁともかく、リリムさんはどうして」


「あ、やっぱり呪いをかけられそうになってたんだ……でも大丈夫、人狼族は呪いは効かないの、そもそも人狼という種族であること事態が、強力な呪いをもっているという証だからね。 一つの体に内包できる呪いはだいたいが一つのみ……だから人狼族は生まれながらにして強力な呪い耐性を持ってるの」


リリムさんはそうはにかみながら説明をしてくれ、僕は人狼族の神秘に納得しながらも、リリムさんの無事に安堵する。


「なっななっ!? 馬鹿な、私の呪いが!?」


呪いが発動しなかったことに驚愕を隠し切れないのか、カルラはそう驚きの声を漏らし、同時にサリアが今度は仕掛ける。


「ちょっサリア! 君武器は!?」


武器を持たぬサリアの特攻を僕は阻止しようとするが、間に合うわけもなくサリアはカルラへと殴り掛かる。


「! 武器も持たずに! なめないでください!」


その攻撃に怒りを感じたのか、カルラは短刀を投擲用の武器に持ち帰る。


召喚により取り出した巨大なそれは星のような形をした鉄の飛び道具であった。


「あれは……手裏剣!? いけないサリアさん! その武器は!」


「死ねええ!」


放たれた手裏剣と呼ばれる武器は、風を切る音を響かせながらもサリアへと走る。


「よけて!」


リリムさんはその攻撃に対しそう叫びサリアに忠告をするが。


サリアは躱さず、両の腕を盾にし、サリアはその攻撃をあえて正面から受け入れる。


ザクリ……という音がし、同時にサリアはその細腕から赤いものを噴出させるが……。


その程度ではサリアの動きを止めることはできない。


「うそ……忍の最高装備、手裏剣をまともに喰らって……速度が落ちないなんて……」


驚愕の声を漏らしたのはリリムさんであった。


はたから見ている僕たちがそんな感想を抱いているのだ。


カルラはきっと正直ありえない……そう心の中でつぶやいていることだろう



「くっ!」


しかし、たかが一つ予想外の行動をしただけで瓦解してくれるほど、忍は甘くはないらしく、カルラは手裏剣を捨て、召喚魔法により何かを引き寄せる。


 それは……。


「針のムシロ!」


無数の針が見込まれた鎧のような衣……。


しかも針と言っても裁縫針のような細い物ではなく、レイピアのように細くそれでいて人を貫くことに特化した形状と材質であることは遠目からでも理解できる。


カルラはそれを身にまとい、サリアの攻撃をひるませようとする。


サリアには獲物はない……となれば攻撃手段は打撃によるこぶしのみ。


だれもが己のこぶしが刺し貫かれるとわかっっていて自らその拳を貫かせるものはいない……。


そして、その動きが止まった隙に喉笛に確実に食らいつくのが……忍というものである。


だが。


「それがどうしたあ!!」


「なぶふっ!?」


サリアはその針を気にする様子もなく針の上から、カルラを殴り吹き飛ばしたのであった。

              


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