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113.腐敗ワームの到来とアンデッドハント

「な、なんだあの範囲」


騎士団は目前の光景に驚愕する。


「たかがターンアンデッドでこの威力」


「クレイドル寺院……リルガルムの頂点にいる人間というのは伊達じゃねえってところか」


「性格はあれだけど」


戦闘中にも関わらず、目前の敵が一瞬に半壊するという光景に騎士たちは意識を完全に神父へと持っていかれる。


それもそうだ、ターンアンデッドとは確かにアンデッドを一撃で葬る範囲攻撃の魔法であるが、せいぜい多くても20体くらいにしか効果はなく、成功率も50パーセント程度である。 

要は敵のアンデッドのパーティーを半壊させられれば御の字と言った魔法なのだ。


……しかし、この神父はおよそ500のアンデッドの軍勢にターンアンデッドを放ち、見事500体のアンデッドを浄化せしめた。


それを異常と言わずになんと呼ぼう。 


そもそも奇跡とは魔力を必要としない魔法であり、神より貸し与えられた魔力により発動するものだ。


奇跡魔法の威力は当然神が分け与える力に比例し、神のお気に入りになればなるほど威力は上がり、回復量は上がっていく。


そう。 つまり。


認めたくはないし、ありえてはほしくはない話なのだが。


この神父シンプソンはそういう意味では、神にもっとも愛された男と言っても過言ではない。


常識外れの奇跡魔法の威力に、分け与えられる奇跡の膨大さ……そして何より、この神父がいる場所にアンデッドの軍勢が放たれたこと。


そのすべてが神父のために仕組まれたもののように思えてしまう。


これも神の思し召しか。


当然、偶然の可能性は極めて高い……、この(アンデッド以外)無能をここに配置したのは伝説の騎士だ。


伝説の騎士の采配ならば伝説の騎士が偉大なだけだが。


……もしかしたら神様ってああいうやつが好きなのかなぁ。

……そうだれもが考え、大神クレイドルの信仰心が少し薄れた。


「ふぅ……さて、魔力が整ったらもう一発行きますよ!」


あれだけの魔法を放っても、神父は神から舞い降りる魔力の勢いが減ることはなく、またもやターンアンデッドを構える。


と。


【再度魔法陣が出現! そんな………大きいのが来ます! 気を付けて!】


第四地区、錬金術広場の魔力の完治を担当しているノームのナビゲーターの声が響き、同時に新たな魔法陣が展開される。


「……くっこれ以上魔物を増やさせるな! 至急サモンブレイクを!展開しろ!」


「不可能です! 召喚陣の確認ができません!この召喚魔法……おそらく別の場所で唱えられている高等魔法です! 迎撃も妨害も不可能! 止められません!」


僧侶たちの言葉に第四部隊長は焦る。


先ほど通常のアンデッド部隊にも後れを取りエルダーリッチに近づくこともできなかったというのに、我々にはさらに強大な敵を相手にせねばならんのか。


「も、もうだめだ……おしまいだ」


敵の到来、しかも今よりもはるかに大きな敵の存在に、騎士団たちは剣を捨てその場に屈しかける。


敵の数は半数であるが、すでに兵士の士気は最低値まで下がっているのだ。


「クっ! しっかりしろ貴様ら! 敵の数は半分! 同じように敵が出て来ようがもはや敗北は……」


瞬間、魔法による召喚が開始され、一つの爆発音と煙とともに……一体の

巨大な肉の塊が現れる。

「敗北は……」


ない……などともはや第四部隊長は軽々しく発言することはできなかった。


何故ならその魔物は……明らかに異常なまでの力と、恐怖を植え付けたから。

「むり!神父無理あんなでかいの! 肉肉しいのは無理! 生気に満ち溢れてるもんあれ!」


神父はそう叫ぶと一目散に前線から退き、逃走する。


しかし、その逃走を責めるものは誰もいなかった。


その姿はまるで芋虫のようであり、その口はまるでミキサーのように歯が常にぎちぎちと音を立てて回転し、まるでミキサーのように目前にあった瓦礫を砕き咀嚼する。

その瓦礫の中には生き残ったアンデットも混ざっており、口の中で悲鳴のようなうめき声をあげながら巨大なアンデッドワームは仲間のアンデッドもろとも掘削し、こちらに向かってくる。


「……あ、あれは……ヴァンパイアワーム」


見たこともない魔物を前にうろたえる騎士団であったが、その中で一人ティズのみがその存在を知っておりそう呟く。


「ヴァンパイア!? あれで!?」


「ええ、ワームが吸血鬼にかまれた姿の成れの果てよ」


「あれが……普通のワームだって、なんだってあんなにブクブクに」


「さぁ、ヴァンパイアは牙を持たない生物を眷属にするとき、それを血が吸えるように形を作り替えるって話だけれどもきっと変化に対応ができないのね。……ワームは基本丸のみの生物だから、あの牙は人間を咀嚼してすりつぶして血をすするために存在してるのね……だから気を付けなさい」


【ぎゃああああああああああああああああああああああ!?】


悲鳴が上がり、そちらの方向へ視線を移すと、そこには咀嚼されていくゾンビと、仲間の姿があった。


「なっ……」


「……あの口にとらわれたら、蘇生なんて夢のまた夢よ」



冷静にティズは語るが、それを聞いた騎士団たちは全員が一歩引き、隊列を乱す。


当然だ、あの巨大な化け物はパッと見ただけで20メートルの長さと10メートルの高さはある。

それにすりつぶされて消失するのだ……だれもがその口に入る自らを想像して絶望と恐怖に身を震わせる。


が。


「ふっふっふ、どんなにデカかろうが醜かろうが、所詮はアンデッド。


ならばおそるるに足りませんよ……このシンプソンがすべてを解決して見せましょう!」



アンデッドと聞いて安心したのか、神父がどこからか現れ、 経典を構え、呪文を唱えながらそのワームの元へと歩きはじめる。


「馬鹿な! あれだけのデカさを見てるだろう! ターンアンデッドではどうしようもない」


神父の無茶な行動に、止めようと騎士団は必死になるが。


「そんなことくらいわかっていますよ!」


神父はその状態を振り切り。


魔法を行使する。


【呪い打消し!】


ターンアンデッドよりもさらに高尚。


高位なアンデッドや吸血鬼に大ダメージを与える、これまた破格な魔法であるが。


【ぎゃあああああああああああああああああああああ!?】


悲鳴とともに、第八階層の魔物であるヴァンパイアワームは芋虫のような動きをして、その場に横に倒れ伏し、のたうち回る。


「お……おおおぉ」


驚愕をする……迷宮八階層と言えば、未知の魔物しかおらず、その魔物に一撃であれだけのダメージを与えるなんて……。


ターンアンデッドの力と、今の力を見せられて、だれも彼を疑うものはいないだろう。


神父・シンプソンは守銭奴ではあるが、対アンデッドに対しては破格の力を有している男であるということは……。


「ふっふふふふふ! さすが私ですよおおおおおお!」 


まぁ、こうやって活躍するとすぐに調子に乗るのはわるい癖ではあるが。


「や、やるじゃないあんた! ただのあほ神父かと思ってたら結構根性あるのね!」


「ふっふふふ! 相手がアンデッドであるなら負けるわけないじゃないですか!


私神父なんですよーー! ふっふふははっはは! もうなんでもこいやぁ!そして止めだ芋虫いいい!」


「はっはははは! そーよね そーよね! 負けるわけないわよね! やっちゃいなさいシンプソン!」


完全に調子に乗った神父とティズ。


高らかに笑う二人に対し、騎士団も強力な敵の沈黙に士気が上がる。


もはや神父シンプソンがいれば恐れるものなど何もない。 


【全軍! 突撃いいい!】


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


第四部隊長の怒号が響き渡り、騎士団はアンデッドを蹴散らしながら進んでいく。


もはや恐れるものもなければ敗北の要素もない。


そんな勇気が騎士団を奮い立たせ、士気を最高値まで引きあげる。


もはや騎士団の勝利は目前、その光景に神父もティズもそう考えていたが。


【どうやら、ハズレのようだな】


不意に重苦しく氷よりも冷たい声が響き渡り、騎士団、冒険者、クレイドル寺院の僧侶こは凍り付いたかのような錯覚を覚え……一斉に――ただの一人もかけることなく――

その声の主の方へ視線を移す。


そこにいたのは……恐怖。


「……アンデッドハント」


六人の死霊騎士が、この錬金術広場の戦いに参列した。


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