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96.恋するレオンハルトと騎士の訪問

「う~む……この毛並み……艶、全てが美しい。触れてもよろしいですかな?」


そう手を伸ばそうとした無礼なオスに対し、高貴な猫は一瞬威嚇をするように鼻を鳴らし、

慌てて男は手を引っ込める。


「はっはっは、出会ってもう二ヶ月たつと言うのに……貴方はとても気位が高いですね……ですが、安心してください、私はプラトニックな関係にも対応できる猫ですので」


「みー」


男の言葉に、本当にそうかしら? とでも言いたそうなジト目で、その猫は一つ鳴く。


王都リルガルムロバートの王城にて、レオンハルトは王城の自室にて椅子に腰掛けて机に頬杖を付き、目前の迷い込んだメス猫の毛づくろいに見とれている。


彼曰く、二人の出会いは感動的であり、恐らくこの話を劇場公開すれば満員御礼間違いなしの一大スペクタクルであるらしいのだが、最後まで話を聞いてくれた部下は一人もいないらしい。


時刻はただいま深夜二時を回っており、そろそろ明日の仕事のために仮眠をとらなければならない時刻だが、つい先刻からレオンハルトはこの三毛猫の毛づくろいを見守るという重要任務を達成するために、鎧も脱いでいない状態だ。


ふと視線を外して目前の鏡を見てみると、そこには王国騎士団長なんて言葉が最も似合わない、マタタビを嗅がされた猫のような崩れた顔が映っている。


生誕祭前日の騎士の顔とは到底思えない。 


明日の生誕祭におけるロバート王の身辺警護。

王国騎士団長、ロバート王の懐刀として最も緊張し気を引き締めなければならない立場にいる自分が、こんなことで良いのだろうかとレオンハルトが我に帰ることはこの一時間で三度会ったが、しかし護衛とは始まる前から全てが決まっている。

 

配置は抜かりなく行われており、優秀な副団長の綿密な計算により割り出された人員配置に、王がパレード中に回る馬車には魔導国家エルダン特性の防護魔術が施されたチャリオットを使用し、その周りを移動しながらこの国随一のレベル6魔術師達による防護結界を四層に重ねがけをする手段がレオンハルトにより命じられている。


これにより側面からのファイアーボール・ライトニングボルトによる狙撃はまったく持って無意味と化す。


物理的手段は確かにもろいかもしれないが、彼の有するスキルの前にそれはいらぬ心配である。


たとえ巨竜が馬車を強襲しようが、王を無傷で守りきる自信と実力が彼にはあり、その自信でさえも彼の実力からいえば謙遜に近いものである。


そのため、物理的手段の国王暗殺はほぼ不可能といっても良いだろう。


そうなれば、暗殺をするならばレオンハルトが唯一苦手としている――といってもあくまで噂であり、実際の所は異なるのだが――魔法による暗殺しか術はない。


魔法は多種多様であり確かに未知の魔法の前に、レオンハルトであっても不意を付かれる可能性は捨てきれない。


そのため万が一、いや億が一の場合を想定し、チャリオットを引く馬は東の国の森林深くにのみ生息する霊獣麒麟と西の国最高峰の霊獣とされるユニコーンが王を運ぶ手筈になっている。


麒麟は、魔法防御力に長け、第6階位魔法以下の魔法全てを無効とする力を持ち、ユニコーンは霊的呪術的干渉を感知、本能的に遮断する力を有している。


つまり、この霊獣が二体並んだ段階で物理攻撃以外の手段による正面突破はほぼ不可能であるということだ。


たとえメルトウエイブであったとしても、その障壁を完全にすり抜けることは不可能だ。


それが分かっているからこそ、レオンハルトはこうして猫に視線を向けてふやけたにやけ顔を披露してしまうのも無理のないことであった。


というよりも、元々レオンハルトは優れた騎士ではあるが軍師ではないため、何をどうすればよいかなどの実権は全て副団長であるヒューイにある。

なので、適材適所、小難しいことや護衛に関する諸々は全てヒューイに任せ、己は不足の自体が起こったときに全てを剣一本で解決をして責任を取る。


それが、自らの弱点である知力不足と頭の固さを克服する方法と考えており、その姿が部下とロバート王からの信頼を得ている要因ともなっている。


「みー」


「おぉ、美しくなりましたね……」


「ミー?」


猫は毛づくろいを終えてかけられた声に、お世辞はやめてといわんばかりに一鳴きするとレオンハルトを見て小首をかしげるような仕草をする。


美しい。 レオンハルトはそうその猫に見とれながらうっとりとし、感嘆のため息を漏らす。


と。


不意にドアをノックする音が静かな空間に響き渡り、猫は驚いたようにレオンハルトの元へと飛び込んでくる。


「おやおや、大丈夫ですよ」


これがこの猫とレオンハルトのファーストタッチになるわけであり、レオンハルトはこの幸運に髭をピコピコ動かしながら、必死に声を押し殺す。


そんな愛くるしい姿にレオンハルトはすっかりと心を奪われながらも、猫を抱きかかえたまま表情を必死に変える。


こんなマタタビを嗅がされた猫みたいな表情をして部下の前に出ては、王国騎士団長の沽券に関わるからだ。


なので、レオンハルトはもう一度ノックがされる前に表情を険しくし、二度目のノックの際にどうぞと言葉を発する。


「失礼します」


「どうした?」


レオンハルトは立ち上がり、威厳ある表情のまま――実際は猫を抱きかかえたまま表情だけが凛々しいため、部下は噴出すのをこらえるのがやっとだったのだが――そう問う。


「ぷっ……はっはい! その、夜分遅くで大変恐縮なのですが、レオンハルト様に面会を求むものが来ております」


「ふむ」


レオンハルトは思案する……部下からの報告はとてもおかしなものであったからだ。


通常、こんな夜分遅くに面会を求めるということは何か問題があったからであり、一般市民程度であれば衛兵達が追い返すはず……。 しかし、現にここまで報告が上がるということは貴族や大臣のような部下達がむげに追い返すことが出来ないものだからだろう。

しかし、だとすれば、求むものではなく、その大臣、貴族の名前を言うはずだ。


つまり、無名であるが部下達が無視できないほどの存在が王城を訪ねてきたということ……。

だがあいにくそんな友人も、心当たりもレオンハルトには思い当たらなかった。


そのため、そんな矛盾した存在の登場に、レオンハルトは人差し指で鬣をなぞり、困ったような表情をする。


「一体何者だ?」


本来であれば、そんなもの捨て置けという所だが……時期も時期のため、レオンハルトは部下にそう確認をすると、部下はなぜか瞳を輝かせて。


「なぜか、名前は言えないとの事であり、指南書にのっとれば追い返すべき者なのでしょうが……おそらく、外見的特長から……巷で噂になっている伝説の騎士……かと思い報告をさせていただきました」


「なにぃ!?」


レオンハルトは驚きに猫は驚いたのか、不機嫌そうに床へと飛び降り、不満を表現するかのように一つ鳴くいたが、レオンハルトの耳にはその声は届かなかった。


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