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95.二つのダンデライオン一座

「どうしました? ミスターウイル」


「いや……えーと」

僕の心の中の動きを読んだのか、イエティさんは僕にそう問いかける。


ここで自らの父親の話をしてもしょうがない事なので、どうにかごまかそうと僕は言葉を一瞬濁すが。


頭を回転させている最中にとある疑問が浮かぶ。


「えぇと……あぁそうだ、その死霊騎士たちが人であるなら、召喚魔法を使える騎士はいますか? 先ほどデミゴッドは魔法にも秀でているといっていましたし」


もしかしたら、クレイドル寺院の一件は、死霊騎士達が仕掛けたものなのかもしれない。


そうしたらまだ残してあった召喚陣アルフの手がかりになるかもしれない。


しかし。


「いえ、死霊騎士の中で召喚魔法が使えるものはいないはずです……そもそもあれは元は魔界の魔法。 神の血を引くデミゴッドには使えない」


あっさりとその言葉は否定される。


「そっか……クレイドル寺院襲撃犯を割り出せるかと思ったんだけど」


ため息をついて僕は肩を落とすが。


「だが、神の血を引く人間がアンドリューの下についているんだ、どのほかの種族だって否定は出来ねぇな……」


そうアルフは僕の肩に手を置いて慰めてくれる。


「ええ、そういうことです。 私とて万能ではありません、いちいちアンドリュー迷宮株式会社の新入社員の顔までは把握できませんよ」


うっほっほと笑いながらイエティは僕のグラスに蒸留酒を注いでくれる。


香りがとても香ばしく、癖になりそうだ。


「流石に居場所までは突き止められねぇよなぁ?」


「えぇ、残念ながら。 ですが最近は迷宮内にはいないようです……恐らく何かの任務についているのかと」


「今度は何をおっぱじめるつもりだ?」


「其ればかりは分かりかねます……ただ」


「ただ?」


「気付いている方も多いですが、迷宮内に不穏な動きが見られます」


「不穏な動きって言うと、魔物が……その、軍隊を作り上げているって話?」


「おや、流石に博識なウイルさんは知っていましたか」


「いえ……仲間が以前、そんなことを言っていたのを思い出して」


サリアの予感は正しかったのだ。


「そのお仲間の予想は正解ですね……確かに迷宮の罠にかかり、下層の魔物が上層に転移して、群れの長となる、という事例は何度か見受けられました。 しかし、私の知る限りその現象が既にこの二週間で6度起こっている……アルフ、貴方が倒したスケープゴートの群れや、コボルトキングの群れなどを含めてね」


「え……あのコボルトキングって、僕がモンスターハウスの罠を引いたからつれてこられたわけじゃなくて、最初からあの一階層に群れとして存在していたの?」


「その口ぶりだと、コボルトキングを倒したのは貴方みたいですね、ミスターウイル」


「本当に偶然だったんですけれどね」


「あぁ、急なレベルアップの理由は其れか……無茶はするなって言ってるだろうに」


「そ、その時はコボルトキングだなんて知らなかったんだよ!」


アルフは怒りと呆れが入り混じったなんとも名状し難い表情をしてそう僕をたしなめるが、そういわれたって僕が何かをしたわけではない。


「うほん、話を戻しますよ? まぁ要するに、アンドリューは確実に王都襲撃に向けて何かを仕掛ける腹積もりで有るということは確かです。 それがいつになるかは分かりません。 しかし、先日のクレイドル寺院襲撃のことを考えると、アンドリューが何らかの方法で魔物を迷宮から脱出させる方法を得た……そして、先ほどのウイルさんの質問から、その回答が召喚魔法に属するものの可能性が高いということですな」


気が付けばどこから取り出したのか、バナナをかじりながらイエティはそう予想を語る。


バナナ好きなんだ、やっぱり……じゃなくて。


「良く分かりましたね」


この迷宮の中で外の状況をこれだけ把握しているだけでも驚きなのに、僕の発言だけから現在の状況を一瞬で導き出してしまった。


僕はそんなイエティに驚愕を隠せないでいると。


「伝説の騎士が目の前に現れてそういえば、誰だって分かりますよ」


「え?」


「サルだって新聞くらい読みます。 伝説の騎士がクレイドル寺院を救う……街ではかなり有名な大事件ですよ?」


知らなかった……そこまで話題になっていたなんて。


「まさかウイルの奴が伝説の騎士様なんて呼ばれているのは俺も驚いたが……まぁこの装備で街を歩きゃ誰だって勘違いしちまうわな」


アルフは一人酒のつまみにとバナナに手を伸ばすが、イエティの威嚇にそっとその手を引っ込める。


なるほど、バナナは絶対死守か。


「ですが、今はまだ案ずることはないでしょう。 人一人ではどんな魔法使いでも召喚できる魔物の数は限られています。 恐らく魔物を地上に召喚させるための術者は、戦闘に本来不向きなマリオネッターを単身クレイドル寺院襲撃に宛てたことを考えると魔物一体の召喚が限界なのでしょう……流石に今の王都では、たとえファイアドラゴンが出たところでそこまでの打撃は与えられません……。 そのため王都襲撃を成功させるには、魔物を街に少しずつ潜伏させ、一斉召喚を行うこと。 もしくはファイアドラゴンをも超える魔物を一体王都へと召喚するかになります……当然ですが魔物の集団が街に潜伏をすれば誰だって気付きますし、この街で生活できるほどの知恵を有する魔物は多くはありません。

召喚魔法も、ファイアドラゴンをも超える魔物を召喚するには大掛かりな魔法陣と共に莫大な魔力が必要となります。 どちらも時間がかかる上に、成功は至って困難だ」


イエティはそういうが、僕はまだ不安がぬぐえたわけではない。


「まぁまぁ、イエティの奴がそういうなら大丈夫だろうよ、今は祭りの最中だ、アンドリューが襲ってくることはないんじゃないか?」


「ただ、私は町の様子を知らない。 もしかしたらアンドリューが着々と死霊騎士を操り、その準備を進めている可能性もあります、今の内に、何か対策を考えておくべきかと、何が起こっても言いようにね」


そう、イエティは話の最後を締めくくった。

結局サリアの予感は正しく、僕は心の中で謝罪をする。


しかし、何か対策を考えるべきといわれても……僕なんかに何が出来るのだろうか?


町の警護どころか、未だに街の地図を見なければ満足に町を回ることも出来ない僕が……

レベル4の僕が……。


ふと、自分の手を見ると、そこには黒く猛々しい籠手がうつる。


僕の力ではダメでも……伝説の騎士ならば……何かは出来るのだろうか。


「……そうか、じゃあそろそろ俺達はお暇するか。 ありがとうな、イエティ」


「うっほほほ、こちらこそ、こんな辺鄙な迷宮深くをたずねてくれる人間はアルフ、君ぐらいですからね……サルは群れで生きる生き物ですから、寂しいのは苦手なんですよ」


そう本当にしょんぼりとした顔でイエティはそう語り、アルフはその言葉にらしくねぇなと苦笑を漏らして残っていた蒸留酒を一気飲みする。


「色々とありがとうございました」


「こちらこそ……あまりお力になれず申し訳ございません」


「いやいや、アンデッドハントの正体がつかめたのはかなりの僥倖だ。 生きているのと死んでいるのじゃ行動パターンは全然ちげーからな」


「気をつけてくださいよアルフ……」


「分かってるよ、死ぬようなへまはしねーよ……心配性だな」


そういうと、アルフはイエティに手を差し出す。


それは必ず戻ってくるという誓いの様な気がし、イエティも其れを感じ取ったのか、嬉しそうにその手を取る。


「じゃあな」


「ええ、また」


イエティに見送られながら、僕達は迷宮の一室を抜け、帰路に付く。


迷宮四階層は魔物が増えると文献には書いてあったが、今回ばかりは昔を懐かしむ

二人の心に水を差さないように配慮をしたのか……昇降機へと戻るまでに、魔物がその顔を覗かせることはなかったのであった。


                      ◇


「良かったねアルフ」


昇降機を登りながら僕は少しはにかんでアルフにそういう。


「? 何がだ」


「久しぶりに友達に会えて、とっても嬉しそうだったから」


「……あーくそ、からかってるなお前?」


何か含みがあると勘違いをしたのか、アルフは少し照れくさそうにそういう。


「いやいや、そんなことはないよ!? ただ、いつも寂しそうだったから……」


「……そんなことは……いやあるな。 はぁ、すまねえなウイル、お前にまで気を使わせちまうなんて、偉そうに先輩面しているが情けねえ話だ」


「ううん、アルフはとっても頼りになるし、とってもいい先輩だ。 だからこそ、昔のことで苦しんでいる姿を見ると、同じくらい僕も辛いんだよ、大切な仲間だから」


「……ウイル……ははは、そうだよな……すまねえな……昔を懐かしむのも良いが、今も大切だよな」


そう、アルフが単独行動を好むのは、きっと仲間をまた失うのが怖いからだろう。


「うん。 今は一人で行動してるけど、新しい仲間は出来ないの?」


「あぁ、其れなんだが、お前に話そうとしていてすっかり忘れてたよ」


「?」


「実はヴェリウス高原に足を運んだときに面白い奴等がいてなぁ……」


「へぇ、どんな人たち?」


「ふっふふ……それがよぉ、そいつら、最初に出会ったとき、ウオーターリッカーと交戦中だったんだけどよ……武器がないからってフラフープでウオーターリッカーに立ち向かってんの……助けてやったがあれは傑作だった……」


アルフはそう楽しそうに出会った仲間の話をする。


呆れたような台詞が多いが、その表情はとやわらかい。


アルフにもやっと新しい仲間が増えたのだと、僕は少し安堵して、続きを促す。


「随分と仲良くなったみたいだね、その人たちと一緒にリルガルムに来たの?」


「いんや、あいつらはどうやらアリシアの町で公演があるらしくてな」


「公演? というと劇団とか?」


「大道芸人だ」


「へぇ……」


アリシアの街でも、リルガルムと同じ時期にお祭りでもあるのだろうか。


「何て大道芸人なの?」


僕は、王都に来ているダンデライオン一座のことを思い出して、そうアルフになんとなしに聞く……と。


「あぁ、そいつらは、ダンデライオン一座って言うんだ」


「え?」


僕は驚愕に言葉を漏らし……同時に、頭の中で何かが繋がった音がした。



生誕祭まで、あと7時間

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