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94.死霊騎士の正体

「イエティ……それってもしかして、あのフロストティターンの?」


過去の対戦で、戦争地帯ではない北の山に住む部族が、平和のためにロバートに協力をしたという伝説を聞いたことがある。


魔物でありながらも平和を愛した種族はフロストティターンと言い、その中の一番の戦士の名前がイエティだったはずだ。


アルフと友達とういうことはもしかして。


「おや、よくご存じで……若いのに博識なのですね、アルフとは大違いだ」


アルフは少しむっとした表情でにらむが、イエティさんはほほえみを浮かべて無視し、来客用の椅子を出してくれる。


すっかり迷宮四階層のこの部屋は彼の家と化してしまっているようで、扉の中には机や椅子、簡易の台所のようなものまで用意されている。

その中でも一番目を引いたものは大量の本と本棚、そしてスクロールであり、机を見ると、スクロールに何か図面のようなものを引いている。


なんだろうか、魔法陣に見えなくもない。


「先の戦いに微力ながら国王陛下へお力添えをさせていただきました」


「すごい……おとぎ話に出てくる人だよ!?」


ルーシーに出会った時も感動したものだが、まだ生きているとなると感激もひとしおだ。


「それだけじゃねえぞ、こいつはこの迷宮が出来上がる直前までアンドリューと戦って、片腕を引きちぎったほどの実力者だ」


す、すごい……。 となるとこの人も、マスタークラスの人間なのだろうか。


「うっほほ、昔の話ですよ」


あ、笑い方はやっぱりうっほほなんだ。


どうでもいいことが判明し、笑ってしまいそうになるが、あまりにも失礼なので僕は表情を変えないように唇を噛む。


「そんでもって、アンドリューと決着をつけるために迷宮に潜ったはいいが、迷宮を攻略してる間に例の結界を張られて外に出られなくなっちまったっていう間抜けでもある」


「王への献身故の悲劇とでも言ってほしいですね」


「ものはいい様だな、あぁイエティ、いつもの頼む」


アルフはからかうように笑った後、イエティが用意してくれた樽でできた椅子にどっしりと腰を掛けて斧を迷宮の壁に立てかけて、くつろぐ。 

その様はまるで行きつけの酒場にでも来たかのような態度だ。


「はいはい……ここは酒場じゃないんですけどねぇ」


呆れたような言葉を漏らしながらも、イエティは~蒸留酒~というラベルの張られた酒樽の蛇口をひねり、お酒を用意する。

「はいどうぞ……いつも通り蒸留酒のイエティですよ」


氷も何も入れられていないただの蒸留酒、迷宮の中は常温であるためそんなに冷えてはいない筈なのだが。


「これこれ……♪」


アルフはなぜか嬉しそうに手をさすり、グラスをもって口につける。


……なぜだがそのグラスに霜が降りているような気がしたが、気のせいだろうか?


「あなたもいかがですか? ミスター……えーと」


「ウイルです」


「失礼、ミスターウイル」


「ありがとうございます、いただきます」


思えば結構な距離を歩いていてのどが渇いている……ここは無理せずにお言葉に甘えさせてもらおう。


そう判断して、僕も椅子に腰を掛け、イエティさんが渡してくれたもう一つのグラスを受け取る……と。


「っつめた!?」


常温のグラスかと思って触れたグラスは、まるでドライアイスでも触ってしまったかと思うほど冷えており、僕は驚愕する。


「あぁ、すみません……博識のようだからてっきり知っている物かと……。 私たちフロストティターンの平均体温は-36℃なので、こうやってグラスを握っただけでいつでもキンキンに冷えたお酒が楽しめますよ」


なるほど、だからこそこうやって高級な蒸留酒をストレートでしかもこんなに冷えた状態で飲むことができるのか。

なんてすばらしい。


「気に入ってもらえたようで何よりです」


イエティはそう笑みをこぼすと、自身用の大きめの椅子に腰を掛けて用意する。


「して、どのような用向きですかアルフ、旧交を温めに来たと言うわけではないのは一目でわかりますが」


どうやらこちらの目的もある程度絞れているらしく好都合と言わんばかりにアルフは口笛を一つ吹く。


ちなみに僕もどうして彼を訪ねたかはわからないため、聞き洩らさないように全神経を集中させる。


っそして。


「アンドリューの配下、死霊騎士について教えてほしい」


「え?」


言葉を発したのは僕だった。


当然だ、そんなことは一切聞いていない。。


「ほう、アンデッドハントですか……」


どうやらイエティは知っているようで、首をかしげながらふむと考える素振りを見せる。


「知っているんですか?」


「ええ、私はこの迷宮の魔物のことは何でも知っている。 12年間、すべての階層の魔物の研究をし続けてきましたからね……しかし、私でさえもアンデッドハントの存在を知ったのはつい最近です」


「奴らの正体が知りたい……」


「簡単に言ってしまえば、アンドリューが誇る騎士団です。 騎士とは言いますがその任務は、迷宮内外を問わず、情報の収集や暗殺任務など、多岐にわたります。 いうなれば精鋭集団といったところでしょう……」


「迷宮内外を問わず? どういうことだ、魔物が迷宮の外にどうやって出る」


魔物は迷宮の外には出られないはず、もしそのルールを犯すことができる魔物がいるとすれば、それはかなりの脅威に他ならない。


しかし、イエティの返答はとてもシンプルであった。


「ええ、私もそのことが気になっていたのですが、簡単な話です死霊騎士団・アンデッドハントは魔物じゃない……人間です」


「人間?」


「ええ、正確にはデミゴッドと呼ばれる種族ですね長寿であり魔法の才と剣の才に恵まれる、大神クレイドルの血を引く者たち……神の血を引くから、結界も意味をなさないというわけです」


「いや、何を言っているんだお前は? 死霊騎士が人間だなどと」


「ええ、疑う気持ちは分かりますが事実です。 死霊騎士のように彼らは行動をし、その証拠を残さずに、まるでゴーストのように任務を遂行する。残るのはおとぎ話の死霊騎士の目撃情報だけ……ゆえにアンデッドハント、そう彼らが自らを自称もしています」


「いやいや……デミゴッドがアンドリューの手下になるだなんて……あり得るのか?」


「デミゴッドは力のあるものに惹かれやすいものです……その力の崇拝対象がアンドリューというのならば、納得はできます」


「……はぁ、なるほどねぇ、堕落したとて神は神ってか……畜生め」


アルフは困ったように首をかしげながらそう呟いた。


「情報は入っていますよアルフ……迷宮教会の聖女を追っているようですね」


「その通りだ……お前さんよくもまぁこんなところに引きこもってるのに情報が手に入るな」


「私にもそれなりのパイプがあるので……どうして死霊騎士が迷宮教会の聖女をさらったかですが、おおよその予定通り、自らの脅威となるラビの復活阻止のためでしょうね」


「そうか」


アルフはその点に関しては予想通りといった表情をして、何か考え込むようなしぐさをする。


「おそらく近々会いまみえることにもなるでしょう」


「その時に直接口を割らせるさ」


「気を付けてくださいよ、アンドリュー直属の配下である彼らは、迷宮最下層の魔物をやすやすと屠る力を有している……私がアンドリューと直接対決をしたときには存在しませんでしたが……迷宮内で起こった変化等を鑑みるに、十年前からはアンドリューのもとで働いていると私は考えています」


「十年」


僕は呟いた。


それは……紛れもなく自らの父親を殺害したアンデッドハントは、アンドリューの手下であったということだ。


「……」


 心の中で、何か黒いものが蠢いた気がした。



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