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90.聖女とラビの三つの封印

「聖女というのはラビの力を宿した少女のことです、我ら迷宮教会の宝であり、ラビの肉体の封印を解くカギとなっているのです! ラビ万歳!」


「ラビの力?」


「そうです! かつてラビはアンドリューとの死闘の末、薄汚く姑息な罠によって封印をされてしまいました……だがしかし、そこは偉大なるラビ、たかが魔術師の封印などではその端倪すべからざる力を封じきることはアンドリューごときではできませんでしたざまあみろ。 DE・SU・GA姑息なアンドリューは、偉大なるその力を三つに分けることで封印に成功してしまったのですファッキン!」


雑音が多いが、とりあえずラビという魔物は三つに分けて封印されてしまったということらしい。


「その封印の一つが、その女の子に宿っているっていうことなの?」


「ええ、 ラビの封印は三つ、魔力の封印 力の封印、そして存在の封印です」


「肉体と魔力は分かるけど、存在っていうのは?」


「これは私たち迷宮教会でも解明できない謎の一つなのですが、一説によればラビにしか使用できない、ラビをラビたらしめる偉大なる特殊能力のことを指しているとされています」


……要はスキルのようなものだろうか?


「それで、その聖女が封印のカギというのは?」


「ええ、清らかなる聖女はラビに寵愛され、アンドリューの封印からラビの力を奪い取ることに成功したのです!」


「奪い取った?」


「迷宮の奥深く、力の封印は5階層の一室に隠されていた……その封印を、どうやったのかはしらねーがその聖女様とやらはその力で封印の中からラビの力だけを抜き取ってその体に降ろしたのさ……その力をどこかにあるラビの体に戻せば、理論上ラビはその力だけは取り戻すことになる。 まぁ、ほかの封印の場所は分からねえから完全復活とまではいかないがな」


「聖女はラビの力を自らの体を通じて他人に移すことができるユニークスキルを持つのです、彼女がいなければラビの復活はできない! それだけではなく、ラビの力を封じた聖女がさらわれたということは……ラビの復活が阻止される可能性までもあるのです!ああああああ嘆かわしい! ラビよ! おおマイラビリンス! どうぞご無事で! 聖女の帰還を! ラビの帰還を!」


「とまぁ、そんなわけで、俺はとりあえずその聖女様ってやつの居場所を探してるのさ」


「なるほどね……」


「居場所さえわかれば、我が迷宮教会全兵力をもってして聖女の奪還作戦を開始します! 

ラビを冒涜したアンドリューの配下どもに、信仰の鉄槌を! あ奴の持てる一切を信仰の嵐で吹き飛ばして見せましょう! 信仰は力、信仰は輝き……この薄暗い迷宮を照らすには、偉大なるラビ様への信仰こそがふさわしい!」


返り討ちに合う未来が見えたが、僕はブリューゲルさんが楽しそうなので黙っておくことにした。


「その信仰の嵐を見たいのは山々なんだがなブリューゲル、悪いがこれ以上の情報はない……」


「いえいえ、ご苦労様ですアルフレッド。 犯人があのアンドリューであることが分かっただけでも大殊勲です」


「アルフだ」


「失礼アルフ……して、確かあなたぁ、もう一つ話があるとか言っていましたねぇ? 

もう一つの要件とは?」


「あぁ、再誕の青を取りに来た……」


「あぁ……なぁるほど、どちらかというとそっちがここを訪れた理由のほとんどでありますみたいでございますですねぇ。 あなたと伝説の騎士がそのようなご関係だったとは……道理でこのお方が我が迷宮教会の門戸を叩くわけだ。 どうぞこちらへ」


「壊してねえだろうな?」


「ご冗談を……壊そうとしたって壊れませんでしたよ」


「壊そうとしたのかよ」


「言葉の綾でございますよアルフ……だぁいじょうぶです、安心してください、我が敬虔な信徒たちが二十四時間しっかりと見張っておりますゆえ……」


「それだから心配なんだよなぁ」


ぼそりとアルフは呟くが、ブリューゲルには幸い聞こえていなかったようで、司祭は鼻歌を交えながら僕たちを迷宮教会内の奥の部屋へと案内をする。


司祭の異常さに気づかなかったが、教会の奥には悪魔だか人間なのだかよくわからないいびつな形の像が存在し、迷宮のいたるところに表の屋根に飾ってあった迷宮をかたどった紋章が描かれている。


絨毯も壁の色も何もかもがくすんだ赤色であり、一歩を踏み出すと、血がしみているのではないかと錯覚してしまう。


「こちらです」


そんな不快感を押し殺しながら僕たちは案内されるまま教会の一室へと入り、建物の二階へと続く階段を上る。


階段を登り切るとそこには二人の信徒がいた。


見張りであるはずなのに顔には麻袋がかぶされており、司祭が来ると一例をして扉を開ける。


麻袋のはずなのに前が見えているのだろうか?


「しばらく使っていませんでしたからね……しばしお待ちを」


僕は疑問に思いながら隣を通り過ぎて中に入ると、司祭はランタンに火をともしてくれる。


オレンジ色の光がへやを照らし、僕はあたりを見回すと、そこには儀式用の短剣や、槍、金でできた杯などが安置されていた。

倉庫と言ったところだろうか。


僕はそんな感想を抱きながら、アルフたちについていくと、ふとランタンのオレンジ色の明りではない青い光が倉庫の奥から発せられていることに気が付く。


「あの光は?」


光源用の魔鉱石にしては色は小さいし、そもそも青い光を発する魔鉱石など聞いたことがない。


「あれがブルーリボーンだ」


僕の問いかけにアルフはそういうと、司祭はランタンを再誕の青の前においてあたりを照らしてくれる。


重厚な魔方陣の上に置かれたその青い宝石は、人間の握りこぶしほどもあるかと思うほどの宝石であり、僕はその美しさに一瞬目を奪われる。


「これが、再誕の青」


「そうだ……これから行く場所を通るのに、こいつが必要なんで、取りに来た……」


「律儀ですねぇ、わざわざこれを取らなくても、貴方の頼みならば私のを貸しますのに」


「盟約だからな……それに、お前に借りは作りたくねぇ 」


「んんっきびっしいいいいい!」


「ん? どういうこと? これを取るのって何か大変なの?」


「ああ、こいつはこれから向かう場所に入るために必要なアイテムなんだが、もう二度と手に入れることはできないかなり貴重なものなんだ……だからここに預けて盗まれないように封印までしてもらっているんだ。

んでもって、頼みっていうのはほかでもない。ここにお前について来てもらったのはこれを取るためだ。 こいつは昔俺の友人が張った結界でな、本当に信頼し合った仲間二人が同時に取らないと取れない仕組みになっている。 この王都で、心から信頼し合える仲間なんてのはウイル、お前だけだったんで来てもらったんだよ」


「なんだ、そういうことだったのか」


アルフに心から信頼し合える仲間と言ってもらえて僕は心の中で少しばかり小躍りをする。


僕がアルフを信じているのは昔からだが、アルフも僕のことを信じてくれているという事実は、たとえお世辞であったとしてもうれしい。


「すばあああらしいいっ友情に! 私感激でございますううう! 司祭感激いいい!」


水を差すな司祭。


「特別な呪文とかは必要ねぇ、ただ同時に手を入れる。それだけだ。

じゃあ行くぞ」


そういうとアルフは、前置きもなくそう僕に言い、僕は一瞬慌てながらも手を出して

アルフの合図を待つ。


「準備はいいか?」


「いつでもどーぞ」


「わかった、じゃあ三・二・一……いまだ!」


僕はアルフと心を合わせ結界のようなものの中に手を入れる。


不思議な感触。 


たとえるならば薄い水のヴェールの中に手を突っ込んでいるような感覚が僕を襲い、僕の魔王の鎧の腕と、アルフの太い毛むくじゃらな腕が同時に宝石をつかみ引き上げる。


「よぉし、息もぴったり……大成功だ。 ウイル」


アルフは喜びながらそう僕の背中を叩き、僕は手を放してブルーリボーンをアルフの手の中へと納めさせる。


青く光るその石は神秘的かつ蠱惑的で、見ているだけで吸い込まれてしまいそう。


「んんんんすううううばらしいいい! これこそが仲間というもの! 信頼関係、コンビネーション! 腕の消失という恐怖を背負いながらも、息一つ乱すことなく平然とこの試練を超えるとは……まさに伝説の騎士! そしてアルフ! この美しき光景を見れる私は限りなく、いや疑いようもなく全知全能のラビに寵愛されている!?」


ブリューゲルは今の光景に感動を隠し切れなかったのか、滝のごとく流れる涙をほこりまみれの床にこぼしながらラビに信仰を捧げる。


少しばかり大げさすぎやしないか……そう思った僕であったが。


「ん? 腕の消失?」


ブリューゲルの言葉の一説に聞くもおぞましく名状しがたいセリフが織り交ぜられていたことに気が付き、復唱をしてアルフへと確認をする。


「おぉ、言ってなかったっけか? これ失敗すると腕ロストするんだよ。 結界にやられて」


「言おうよ!? いや僕を頼るのに理由は後でも良いとは言ったけどそこは言おうよ!?とんでもない試練を平然と乗り越えちゃったよ!」


「いいじゃねえか成功したんだし。 それに言ってたら緊張して失敗するかもしれんだろ?」


「気軽にやって失敗して腕消えてたらどうするつもりだったんだよアルフ!?」


「はっはっは、すまんすまん。 だが、もうその試練をすることはねーよ。

こうしてブルーリボーンは回収したからな……ありがとうよ」


道理であるふがこんな夜分遅くにやってきて頼みごとをするわけだ……こんなの他の冒険者なんかに任せられるわけがない。


「はぁ……もう本当にいい加減なんだからアルフは」


「まあ、失敗する心配なんてなかったからなぁ、なんたってお前と俺の仲だ」


どうしてこうアルフと言いサリアと言いティズと言い、僕のすることに対して絶対的な信頼を寄せるのだろうか……。


正直こちらとしては毎度毎度心臓に悪いのでやめていただきたい。


「いいですねぇいいですねぇ! 言葉にせずとも友情というものの前には試練など意味をなさない! 素晴らしいですよアルフ、その美しさはラビに通じるものが、いやラビを信仰すればそのすべてを大きくすることができる! ぜひ入信を!」


『しない』


「あ、そうですか。 ありがとうございましたー」


                      ◇


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