6.ミスリルの鎖帷子と魔剣ホークウインド
「あ、ウイル君! 来てくれたんだー!」
「今朝はありがとうございました、お約束どおり、装備を見に来ましたよ」
朝食を終えて準備を終えた後、僕とティズは必要になる金貨だけを持ってクリハバタイ商店へと顔を出す。
相も変わらず冒険に向かう前の冒険者達でごった返していたのだが、僕達が中に入るとリリムさんは作業を中断して僕達を案内してくれた。
「約束してた通り、ウイル君にあいそうな装備を探しておいたよ」
そういうと、リリムさんは僕の前に装備を並べてくれる。
「うちのお店で取り扱ってる戦士用の装備なんだけど」
「随分とごついものがおおいのね、まぁ魔物とかとやりあうんだから当然といえば当然かしら?」
そういいながらティズはプレートメイルやブレストアーマーを物色している。
「戦い方によって、装備は変わってくるんだけど、ウイル君はどんな戦い方をしてるの?」
「えぇと」
そういわれて少し言葉をつぐむ。戦闘スタイルなんて考えたこともなかったが……
どちらかといえば盾も持っていなかったのでヒット&アウェイで戦うことが多かった……
気がする。
「どちらかというと、力で押す……というよりは速度で戦ってます」
「ふむ、となると軽くて丈夫な装備……そうなると、これなんてどうかな?」
そういうと、リリムさんは一つの薄紫色に光る鎖帷子を僕に手渡してくれる。
「わっとと」
重いのかと思って持ってみたら想像以上に軽く、すごく滑るため手から零れ落ちそうになる。 肌触りはまるで砂浜の砂を触っているかのように細かい。
「これも、防具なんですか?」
とてもじゃないが敵の攻撃を防げるようには思えないけれど。
「うん、これはね、ミスリル鉱石を加工して編んで作ったミスリルの鎖帷子。魔法耐性もなかなか高いし、ミスリルプレートとかに比べちゃうと流石に防御力は落ちちゃうんだけど、ウイル君みたいなタイプにはぴったりだと思うんだ」
「ミスリルって……三階層冒険者だってそうそう持ってないわよ!?」
ティズが驚愕したように目を丸くする。
「ウイル君の為に、一つだけ在庫抑えておいたんだ」
「ふ、ふわ!? ありがとうございます!」
「……ちっ」
一瞬ティズが妖精がしてはいけない形相でチンピラみたいな舌打ちをしたような気がしたが幻覚の魔法が近くで暴発したのだろう。 きっとそうだ。
「アーマークラスは申し分ないし、重量による速度も落ちないよ、金貨8枚分って結構高いお値段だけど、もっとレベルアップして筋力が上がれば上から防具を着込むことも出来るって言うお得なレアアイテムだよ」
「おおおおおおぉ!?」
重ね着が出来るというのはすごいお得に感じる。 クリハバタイ商店は信用できるお店だし、一流の武器防具鑑定士のリリムさんが太鼓判を押してくれているのだ、これ以上のものは今の僕には存在しないのだろう。
なら迷う必要はない。
「れ……レベル3冒険者の装備じゃないわよそれ……リリム、本当にいいの? 普通だったら他の常連に回すような品で装備でしょ?」
ティズが何か不安そうな表情をしてそう問いかけるが、リリムはコクリとうなずいて笑顔を作る。
「ウイル君のためですから」
「昨日のことを気にしてるんだったら」
珍しくティズが弱気だ……ということはやっぱりすごいものなんだこれ……。
「違いますよ。 知らなかったんですか? 私、もうすっかりウイル君のファンなんです。これは個人的な応援です……君ならきっと、すごい冒険者になると思うから……へへへ、ファン第一号です!」
胸を張ってリリムさんがたれていた耳をぴんと立てる……。
ゆれてる。
「ふぁ、ファンだなんて!? ぼぼ、僕なんてダメダメ冒険者で……」
「ふはははは! そーなのよ! あんた分かってるじゃない! そーよウイルはすごいのよ! わ・た・し・のウイルはいつか最高の冒険者になるの!」
ティズの特徴その一 ウイルを褒められるとちょろい。
「えーと、じゃあこのミスリルの鎖帷子は購入します。後は剣もできれば見繕ってもらえると嬉しいんですけれども」
「うん! ここに並んでるものだったらなんでも購入できるよ! ただ」
「ただ?」
「いい装備を買ってもらっても構わないんだけれどね、是非、ウイル君に使って欲しい剣があるの」
「へ?」
そういうと、いそいそとリリムさんは奥の部屋へと入って行き、中から一本の剣を取り出してくる。
反りのある片刃の刃であり、刀身には文字が刻まれている。
全体的に細身の剣であり、柄と鍔の部分には美しい鳥の彫刻が刻まれている。
レイピアともサーベルともカタナとも違う、独特な雰囲気を持つ剣だ。
「これは?」
「名前はホークウインド、文字による魔法、ルーンを刻み込んだ魔剣と呼ばれるものだよ」
「魔剣……て、御伽噺にも出てきますよね、魔剣の奪い合いで戦争にまでなったって。その魔剣ですか!?」
「うん、その魔剣だね。といっても、御伽噺の円卓の騎士みたいにこの剣を持ってると魔法が使えるようになるわけじゃないよ。魔法が付与されて、特別な上昇効果が得られるってだけ」
「それだけでも十分すごいですよ……でも、これも高いものなんじゃ」
「ううん、もしこれを使ってくれるなら御代は要らないよ」
「あんた、まさか呪われてる厄介もん押し付けようってわけじゃないでしょうね!?」
「ち、ちがいますよ!ティズさん!!」
「でもそうすると……その、いくらファンだからって、それは不味いんじゃないですか? 魔剣だなんて」
「ううん、大丈夫。この剣、ホークウインドは、私が作った最初の剣なの」
「へぇ、最初にねぇ……ってはぁ!?」
ティズが驚きのあまり天上に頭をぶつけている。 あれは痛い。
「えぇ、実は私元々鍛冶師になるのが夢で……仕事の都合上一度は司祭になったんですけど、この前やっと転職して……それでこの剣を作ってみたんですけれども、無名の私の剣じゃ誰も使ってくれないだろうし……だったら、一番信頼できる人に使ってもらって……その、宣伝を」
ぬ……抜け目ねええええ!?
まさかこのひと、朝からか……朝からこうなるシナリオを想定して!?
どうしよう、最初から最後まで気持ちよく手の平の上でコロコロされてる!?
だけど不快感が一つも無いどうしようむしろ全て掌の上だって分かってても断る理由が見つからない!
犬耳か? 犬耳なのかこの魔力!?
「えぇと、だめ? ですかね。品は保証します! 鑑定士として、ここに並んでいるどの刃よりも切れ味も強度も高いことは贔屓目なしで確かです!」
「……えぇとじゃあどんな上昇効果があるんですか?」
「えぇと、全てのステータスに持ってるだけで上昇補正が掛かるよ」
「すごすぎるでしょ!?」
「ただ、どれくらいの上昇かは保障は出来ないの……初めての作品だからルーンがしっかりと機能するかどうかも実証してみないと分からなくて」
「なるほど、ようは実験台ね」
「あう……」
「ティズ!」
「冗談よ。 見た感じ、あんたの言うとおりかなりいい装備みたいだし? どうせエロウイルは使う気満々なんでしょう?」
「え、あ、うん! リリムさんの夢なんだもんね。 僕に出来ることなら、それに個人的にこの剣を気に入りました」
なんかホークウインドって名前もすごいかっこいい。
「本当ですか!」
「えぇ、むしろ本当に御代はいいんですか?」
「はい! 店長にも許可は貰っているから! あとはウイル君がばったばったと敵をこれで切り刻んでくれさえすれば!」
「表現が怖いですよぉリリムさぁん」
「あ~あ、また鼻の下伸ばしちゃってエロウイル」
何かティズのため息が聞こえたような気がしたが、僕はそんなことは気にせず、リリムさんに魔剣の使い方や細かい説明をレクチャーしてもらうことになった。 嬉々として魔剣について語るリリムさんはとても楽しそうで、輝いていて。
頑張らなきゃいけないと、僕はその説明を聞きながら再度頑張らなきゃと自分に言い聞かせた。 リリムさんの夢のためにも。
ミスリルの鎖帷子と魔剣・ホークウインドを手に入れた!