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のっぺら

作者: まいにくん

 これは悪夢だ。

 スーツ姿の若い男は暗い田舎道を駆けながらそう思った。

 息が切れ、必死の形相である。まるで何かに追われているかのようだ。

 やがて前方に明かりを発見する。交番だ。

 男が慌てて駆け込むと、中では警察官がこちらに背を向けて座っていた。

「たた、助けて下さい! おば、お化けが!」

 男がもう少し冷静であったなら、突然そんなことを言ってもまず間違いなくいたずらだと思われる、というのが分かったのだろう。

 しかし、警察官は振り向かず、

「なんだって! それは大変だ。大丈夫でしたか?」と、男を気遣ってくる。

 男は多少違和感を覚えなくもなかったが、それを聞き安心する。よかった。この人はまともだ。ああ、なんとかなった。

「おかしいんです! 会う人会う人みんな顔が……」

「ほう、それは」

 警察官はゆっくりと、こちらを振り返る。

「こんな顔では、ありませんでしたか?」

 顔のパーツが、なかった。




「べったべたやないか」

「ええーダメですか」

 オレンジ一色に染まった小さな部室に二人の声が響く。

 僕の隣に座った、黒い冬服セーラーを着た、巨乳で黒髪ショートカットの女性……みなみ先輩にダメ出しされた。

 割とよく書けてると思ったんだけどなあ、と言うと巨乳のみなみ先輩は「アホか」と呆れた顔で返してくる。

「よく書けたとか以前に話がそのまますぎるやん。ありがちなのっぺらぼうの話ただ読まされても『お、おう……』ってなるに決まっとうやん……」

「せやな」

 覚えたての関西弁を使ったら頭を平手で叩かれた。痛い。

 そこはハリセンでしょ関西人なら。痛い。

 あっ揺れてる。眼福眼福。

「ふざけとらんではよ書いてくれな困るわ。もう締め切りすぎとうねんで!」

 そうだった。文化祭で配る部誌用の短編を書いてるんだった。お題はホラー。

 といってももうすぐ冬だしあんまりホラー書く季節でもないなあと思ったが、よくよく思い出してみるとテーマが発表されたのは夏休み前だったので、誰が悪いかというと自分なんだなあ。

 肌寒い空気に満たされた文芸部の部室に居残っているのは僕と、部内一の美人で、二年の中でも一、二を争う巨乳のみなみ先輩の二人だけだ。ちなみにHカップとの噂がある。

 もうちょっと二人っきりで居たいなあとかは超思っているが、まあさっさと終わらせてしまおう。

 むんと気合を入れてまたノートPCに向き合う。

「まあこののっぺらぼうの話というのは別にええから、これをベースにせめてもうちょっとひねって」

「了解です」





 これは悪夢だ。

 還暦をとうに過ぎた感じの、白髪混じりの短髪でがっしりした体系の男が、暗い田舎道を駆けながらそう思った。

 息が切れ、必死の形相である。彼のトレードマークである特徴的な形状のマフラーも上下に揺れている。

 やがて前方に明かりを発見する。交番だ。

 男が慌てて駆け込むと、中では警察官がこちらに背を向けて座っていた。

「たっ大変なんだ! 化け物が出た! 助けてくれないか!」

 太い声で情感たっぷりに言う。彼は俳優であったので、それがにじみ出たのだろう。例のマフラーが激しく左右に揺れる。

 警察官は振り向かず、

「なんだって! それは大変だ。大丈夫でしたか?」と、男を気遣ってくる。

 男はそれを聞き安堵する。ああ、まともな人間に巡り合うことができた。彼のマフラーもほっとしたかのように緩んだ。

「おかしいんだ! 何もかもが! 出会う人みな顔が……」

「ほう、それは」

 警察官はゆっくりと、こちらを振り返る。

「こんな顔では、ありませんでしたか?」

 顔のパーツが、なかった。

 男のトレードマークであるひねりマフラーが縮みあがった。




「あんなあ? ゆうくん」

「はい、なんでしょう」

 巨乳のみなみ先輩が語り掛けてくる。幼稚園児に諭すような声色だ。

「ひねれってそういう意味やないんやで?」

 ニコォ……

 やっ、その笑顔ちょっと怖い。

「えーじゃあどういう意味なんででででですみません常識的に考えますだから学ランの上からつねらないでお願い!!」

「しっかりせい!」

 巨乳のみなみ先輩はつねるのをやめて、かわりに僕の黒髪を両手でわしゃわしゃしてくる。やめてください眼鏡がズレてしまいます。

「わかりました……次は全力だします」




 イッツライクアナイトメア。

 ジョニーはそうシンキングした。このジャパンのイナカ・ロードはN.Y.のバックストリートよりダーク・アンド・スリリングで最高にクールってやつだ。

 ブレスが切れ、マスト・ダイなフェイスである。こんなのテキサスでカウの群れにチェイスされた時以来だぜ。

 ジョニーは慌ててポリスオフィスにエンターする。

 ポリスオフィサーはこちらにバックを向けてスィット・ダウンしている。オー・ゴッド。感謝します神よ。

「ヘヘ、ヘルプミー! ジャ、ジャパニーズモンスターが!」

「ワッツ! それはビッグ・ハプニングだ。アーユーオーケイですか?」

「ザッツストレンジ! エブリワンのフェイスが……」

「オウ、それは」

 ポリスオフィサーはスロウリーに、ターンアンドルックアットミー。

「こんなフェイスでは、イズントイット?」

 フェイスのパーツが、ノットイグジスト。

「F●CK OFF!!!」

 ジョニーはデザートイーグルでポリスオフィサーにヘッドショット!

 それがロングロングウォーのビギニングだった……




「『ビギニングだった……』ちゃうわああああ!!」

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 全力でヘッドロックをかけてくる巨乳のみなみ先輩。つまり当たっていて、先ほどのギャーはむしろ嬉しい悲鳴というか、いややっぱめちゃくちゃ苦しいギブギブ。

「もう六時! 六時! 完全下校時刻ブッチしてんねんで! はよまじめに書け!!」

「ごめんなさいがんばります」

 怒っている巨乳のみなみ先輩は非常にかわいいのだが、そうかもうそんな時間だったか。窓から見える空はもう真っ黒だった。

 よし、そろそろ本気を出そう。




 これ悪夢とちゃうん。

 ブルマ姿の飛江田南は暗い田舎道を駆けながらそう思った。

 息が切れ、体操服越しに大きな双丘が暴れまわっいえあうhヴぃう;;f;あえいおwvhぎbwヴあおいgbvねおっうぃぱbいヴ


おわり

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