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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase02:Bravery Symphonia Gothic
8/62

Stage07:2062/12/18/15:19:48【-0944:40:12】

 あの後、俺と咲希は晩飯を食べるのも忘れて、仮想の戦場で銃を撃ちまくっていた。

 二〇時過ぎから始まったシューティングゲームは二三時過ぎまで続き、夜食を食べた後も次の日の三時まで対戦(セッション)は続いた。

 おかげで久々にシューティングゲームに熱中してしまった俺と咲希は、土日の間ずっと仮想の戦場に入り浸っていた。

 昨日も四時過ぎまで没入(ダイブ)していたせいで、朝から劇的に眠たい。

 正直、昼から登校しようと思っていたくらいだ。

 結局、母さんは週末家には帰ってこなかったし。

 でも、そんな事すると柏木経由で三枝さんに怒られそうだったから、こうして朝から頑張って来たわけ。

 ただし、それだけが理由ってわけでもない。

 というか、本命は別にある。

 週末の金曜、咲希とシューティングゲームの最中に届いたメールこそ、月曜の朝から頑張って来た理由だ。

 本当はすぐにでもみんなに話したいけど、楽しみは最後まで取っておいた方があとあと面白いだろう。

 咲希なんて、週末のゲーム中ずっと顔がにやけてたし。おかげで相手に怖がってくれて、ポイント稼げたけどさぁ。

 あの調子だと、今日も朝からずっとにやついたまま、なんて事もあり得る。

 クラスの連中から、気味悪がられなきゃいいんだけど。

 そんな感じで咲希の心配をしながら、授業の大半を寝るか昨日のメールを眺めて過ごしている内に六時限目の授業も終わり、

「やっと放課後か」

 HR(ホーム・ルーム)の終了と同時に、俺は部室である情報処理室に向かった。




 いち早く部室である情報処理室に向かった俺であるが、そこには珍しい先客がいた。

「咲希じゃないか。今日は来たんだな。普段はほとんど来ないのに」

「そそそ、そんなの。き……金曜のメール、話聞いたら。早く来ます!」

 俺の目の前でちょこんと揺れる、大きなアホ毛が一本。

 そこからもう少し視線を下げていくと、最小サイズのブレザーでもぶかぶかな――もしかしたら小学生にすら間違われかねない女の子が両手を力強く握って俺の事を見上げていた。

 そう、これが例の美少女なお嬢様アバターで俺の部屋にやってきた、眞鍋咲希のリアルの姿。

 身長は驚きの一三九センチ。

 一部のマニアックな方には、たまらない体型をしている。

 そのあまりに小さ過ぎる身長の反動で、アバターの身長は自分の身長より二〇センチから三〇センチは高くなっているんだが、本人は断じて認めようとしない。

 先に断っておくが、俺にそっちのケは全くないぞ。

 可愛いが正義の論理には賛成だが、ロリコンとかじゃ絶対にないからな。

「それはそうとさ。お前、いい加減寝癖ぐらい直して学校来いよ」

 俺の位置からだと咲希の頭頂部が丸見えないわけなんだが、ろくに手入れしていない俺よりも酷いとは、いったいどういう了見なんだろうか。

 髪伸ばしてんだから、手入れくらいすりゃいいのに。でなきゃ切るとか。

 そうすりゃ、俺に輪をかけて暗い顔も、もう少しはマシになるだろう。

 しかし、咲希は悟りでも開いたような顔になって、こう返してきた。

「ふん、三次元に、の、望みなんてない。今の時代、画面の向こうに、嫁いる。私たち、勝ち組です」

「いや、普通に負けてるからな。確かに、三次元の望みなんて紙よか薄いけど」

「妹、可愛い。ぐへへぇ」

「妹を嫁にしてどうすんだよ」

「アカリちゃん可愛い、マジ天使」

「あぁ、昨日のエロゲの話か……」

 メインヒロインもとい、主人公の妹の一人が、そんな名前だった。

 ちなみに、実妹はもう一人いて、他にも妹同然の近所にいる幼馴染みとか、妹のような学校の後輩とか、その他サブキャラも含めれば、妹は全部で七人もいるようだ。

 授業中にホログラスで評判を検索してみたんだが、シナリオはそこそこ良いらしい。

 ただ、アナログゲームでそういったシナリオゲームを経験している俺から言わせれば、VRの体感ゲームばかりしてる世代の人間の『そこそこ良い』なんて、これっぽっちもアテにならねぇわけなんだけど。

「な、なかなか来、来ませんね。先輩方」

「そりゃ、今日はいつもより早く来ちまったからな」

 咲希はPCを起動させると、デフォルトで入っているフリーゲームをやり始めた。

 存在自体は知っていたが、こうしてプレイしているところは初めて見る。

「なにやってんだ?」

「トランプゲームの、一種。数字、順番にそろえていくと、クリアです」

 言いながらも右手は鮮やかにマウスを駆り、次々と数字をそろえてゆく。

 マウスの止まる気配は一切なく、一組分そろったカードがどんどん場から消えていった。

 そして二分もしない内に、

「先輩も、やってみます?」

 場のカードは全てなくなってしまった。

「いや、そういう頭使いそうなのはいい。今のも、見てただけで頭痛くなってきた」

 場にあったトランプのカードは全て消え、ゲームクリアのちゃちな文字列が並んでいた。

 やっぱ、こいつ頭良いんだなぁ。

 俺はこういう頭使いそうなゲームはからっきしなんだが、何考えてプレイしてんだろ。気になる。

「ちわーっす!」

「こんにちわーって咲希ちゃんじゃない!」

 そこへ俺達より少し遅れて、柏木と三枝さんが部室に入ってきた。

 柏木のヤツ一緒に来るとか羨ましすぎる、なんて俺が思っている間に、三枝さんは駆け足で寄ってきてがしっと咲希の頭を抱きしめていた。

 俺と松井先輩以外とはちゃんと話せない咲希は、捨てられた子犬のような目で見てくるんだが、別にイジメられてるわけじゃないし、ほっといても大丈夫だろう。

 先輩の尊厳はどうしたかって?

 そんなもんで人とちゃんと話しができるなら、俺だってそんな苦労しちゃいねぇよ。

「どうしたんだよ、速水。今日はえらく早いじゃねぇの。あっ、もしかして、真鍋と密会でもしてたのか!?」

「ち、違うって。その、伝えたい事があってだな。そういや、松井先輩ってまだなのか?」

 わざとらしいリアクションをする柏木にため息をついてやってから、ないないと手を振っておく。

 こんな見た目が小学生も同然の咲希と密会でもするような関係なら、俺ロリコン決定じゃねぇか。

 無い無い、それだけは断じて、絶対に無い。

 あと、仮に俺と咲希が密会しようとすれば、それは仮想空間でって事になるだろうから、間違ってもリアルでやる事はないぞ。

「あぁ、咲希ちゃん毎日来ればいいのに」

 三枝さん、まだ咲希を抱きしめながらモフモフしてる。

 完全に上がってしまって何もしゃべれない咲希は、すがるような目で俺を見てくる。

 まったく、なんて贅沢な……。

 俺だってモフモフされたいっ……て、俺の場合どこにもモフモフするとこないじゃん。

 まあそれはそれとして、うっすら涙目になってる咲希をこれ以上放っておくのも気が引けるし、そろそろ助け舟でも出してやるとするか。

「さ、三枝さん」

「ん~?」

「そろそろ、離してやった方がいいと、思うんだけど?」

 頭の上にクエスチョンマークでも浮かべてるような顔で、三枝さんは咲希の顔をのぞきこみ、

「わぁっ!? ごめん、咲希ちゃん!」

 涙目の咲希を見て慌てて腕を離した。

 ようやく解放された咲希はばっと席を立ったと思ったら、俺を壁にするように後ろに回り込む。

 そこまでするほど苦手なのかよ。

 ほんと、背がやたら小さいのもあるから、小動物みたいに見えてくる。

「それで、その伝えたい事ってのは何なんだよ?」

「松井先輩が来てからな」

 柏木が不思議そうに首を傾げるのを見ながら、俺は妙にうきうきした気分になっていた。

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