Stage60:2063/01/26/23:52:10【-0000:07:50】
もっと速く、もっと速く、もっと速く!!
反動ダメージを回復させ、移動補助魔法も使って、進路上にいたインフェルスのプレイヤー達に致命傷を与えつつ、最短距離でレイモンドに斬りかかった。
「これで、増援はもう来ないぞ。さっさと諦めたらどうだ」
「ふふふ、ふはははははははぁっ!」
勢いを乗せた刺突が、片方の剣で上へと跳ね上げられた。もう片方の剣が、下からぶんと振り抜かれる。
もちろん俺はそれをかわして、袈裟斬りにエンシェントブレードを振り下ろした。
「いぃ~ではないかぁ! 余興とは思えない盛況ぶりではないか! なぁに、躊躇う必要などなぃ。だがなぁ、速水瑛太くん」
「んだよ」
鍔迫り合いから互いに押し合って距離を開け、その距離で再加速して無言で必殺技スキルを発動させる。
雷の斬撃を飛ばしながら、同時にエンシェントブレードを横薙ぎした。
「君の罪は、この場で洗い流さなければならない。現実への執着は、それそのものが罪となるのだからねぇ」
だがそれを、レイモンドのやつ同じスキルで相殺したあげく、俺の攻撃を片腕で受け止めやがった。
コイツ、ステータスやスキル以外にも、チートツール使ってんじゃねぇだろうな。
ただそれを抜きにしても、戦闘のセンスが尋常じゃなく高い。なんだかんだで涼しい顔して、こっちの攻撃全部受け流しやがって。
「なにが罪だよ。犯罪者の癖に」
「確かになぁ。確かに私は、現実では犯罪者の烙印を押されている。迷える同士を、ただ真なる楽園へと導いていただけなのだが。嗚呼、なんと嘆かわしや。現実の世界」
「なら、一人でその真なる楽園とやらひ引きこもってろよ! ボルトストライカー!」
大きくバックジャンプしながら、貫通効果のある雷系攻撃魔法を唱える。
突きつけた剣先から、蒼白い雷がレイモンドに襲いかかった。まあ、絶対涼しい顔して立ってるんだろうな。
「私は善人なんだよ。私は純粋な善意から、人々を真なる楽園へと誘っている。報酬も何も望まない」
ほらな、思った通り。
即座にHPを回復して、斬りかかってきた。
「私はただの導き手。ただの善意によって、間違った者の道を正しているに過ぎない」
「独善的な善意の押し売りなんて、誰がいるか。クーリングオフで返却してやるよ」
◇23:53:21◇
双剣を押し返し、必殺技スキル起動。超高速の、二四連の突きを繰り出す。
「構わない。そう言う者には、何度でも交渉するまで。私は君を許そう、速水瑛太くん」
その二四連撃を、レイモンドのヤツは双剣で全てさばいていく。
一撃の威力だけでも、反動ダメージが凄まじいはずなのに、それを全部。
「以前君に情報生命体たる資格はなく、真なる楽園からの永久追放を命じた。だが、人は人を許して成長するものだ」
そして威力の高い必殺技スキルの終了直後には、大きな硬直時間が生まれる。
その時間を突いて、レイモンドは雷を纏った双剣で斬りかかってきた。
「あの後、私は深く反省したさ。君はただ、無知なだけだったのだと。なら、その者に教えを説き、導く事こそが私の使命ではないかと、思い出させてくれた」
ギリギリで直撃はさけたけど、防具があっさりと斬り裂かれて、肩と腹が浅く斬れた。多少痺れて痛むけど、戦闘に支障はない。
硬直が解け、姿勢を低くしてタックルを見舞ってやった。
「うぐぅっ!? 相変わらず、素晴らしい震脚だねぇ」
ちっ、上手いことバックジャンプで合わせられた。
けっこう飛んだけど、ダメージはそんな入ってないだろう。
そしたら大きく開いた距離の間に、また二人のプレイヤーが割り込んできた。
また邪魔しようってのかよ。
「そこをどけぇっ!!」
加速を続けながら、また反動ダメージを回復。MPは、移動補助の魔法を使い続けてるせいであと半分くらい。
「ダンナーブラッシュ!」
エンシェントブレードに激しい雷球を纏わせ、その塊ごと二人にぶつける。
指向性を持って迸る雷撃は、二人のプレイヤーを一瞬で瀕死にするだけの威力は持っている。
「我々を」
「甘く見るな!」
だけどそれを、二人はかわしやがった。
明らかに、今までの有象無象とは違う。コイツら、体の使い方をわかってやがる。
しかもっ、
「はっ!」
「でやぁああっ!」
かなり手強い。
ロングソードを突き出して来たかと思ったら、その頭上を飛び越えて両手にダガーを持つプレイヤーが。
「邪魔だぁあああああッ!!」
風の刃で押し返しつつ俺自身も飛び出し、ダガーの方に三連突きを食らわせる。でもそれは、正面からうまくかわされてしまった。
その間に側面から回り込んできたロングソードの方が、必殺技スキルで炎の刃を飛ばしてくる。
それを後ろじゃなくて前に刃を押し込んでかわし、前にいるダガーの方をパワーで弾き飛ばす。
するとそこに、レイモンドが雷の魔法砲撃を放ちつつ斜め上から迫ってきた。
「はっははははぁああああッ!」
でも、全部直撃じゃない。
「さすがの君も、手練れ二人が相手じゃキツいのかなあ~?」
俺をこの場に縫い止めるためか!?
「キツいから、すぐにでも逃げたいわ」
気付いた時にはもう遅い。
重撃系のスキルで威力の強化された斬撃を、上からまともにくらった。
腕が、千切れそうなくらい痛い。防御の上からでも問答無用に、HPが削れていく。
「その割には、なかなか頑張るじゃないかぁ。ん~?」
接触状態から、雷撃って!?
慌てて押し込みながら、俺も大きくバックステップした。
あんな状態から魔法系との複合スキルなんか使ったら、自分も巻き込まれるっつうのに。
でも、休んでいる暇はない。更に斜め後方にバックステップしつつ、魔法で雷をばらまいた。
くそっ、さっきの二人が、また。
◇23:54:53◇
「フラマブラッシュ!」
「スピアトグラーデ!」
俺の斜め前に展開していた二人は、ロングソードの方は指向性のある爆炎を、ダガーの方わそれを地面に突き刺し、その進路上に大量の岩の刃を突き出させた。
まだ、まだ遅い。
もっと速く動けよ、俺の体!
ステップを踏みつつ、反転して前進する。
炎に肩を焼かれ、岩の刃が足の皮を斬られても、止まるわけにはいかない。
無茶な動きに、体の節々が痛む。
それでも、
「ヴォーパルボルテッカー!!」
地面にダガーを突き刺してるバカに、雷でできた槍をぶちこんでやった。
技の発動中で動けなかったらしい。硬直したままの体の中心に、極太の槍が突き刺さり、呆気なくポリゴンとなって消えた。
「レシナルト」
ロングソードの方を振り返るさなか、回復魔法ですかさずHPを回復。姿勢を低くし、下半身に力を蓄え、炎の向こう側のプレイヤーを見すえた。
信じられないって言ってるみたいに、表情が引きつっている。
それなら、こっちも一つ言いたい事がある。
俺を怒らせたのは、お前らのが先だ。
「ファイア・パーリィ!」
炎の玉が、何十個も俺に迫ってくる。
つってもなぁ、銃弾と比べたらまだまだ優しい速度だっての。
撃ち出される前に斜めにステップを踏み、速度を全く落とす事なく俺はロングソードのプレイヤーとの距離をつめた。
冷静なままでいれたら、もうちょっとまともなプレーもできたのかもな。
飛んでくる炎の斬撃を地面に体を倒してかわし、勢いをそのままに左手で地面を押し返す。
「ブーステッドザンバー!」
ふわりと体が浮き上がり、不思議な浮遊感に頭までひっくり返りそうになる。
それでも、俺の体は止まらない。怒りをそのまま体現するように、強烈な重撃がロングソードのプレイヤーを頭から両断した。
アバターとしての形が崩れ、ポリゴンとなって空間に溶けていく。
これで、レイモンドの野郎に集中でき、
「じゃじゃじゃじゃ~んッ!!」
そのポリゴンの中をくぐり抜けて、レイモンドの双剣が迫ってきた。
くそ、硬直時間で回避が。
「す~んばらしぃよ、速水瑛太くぅ~ん!」
「ぐぁっ!!」
片方の刃が、わき腹をぐさりとえぐった。
バックジャンプしたはいいけど、背中からもろに落ちて。あぐぁぁ、焼けるみたいに、いてぇ。真っ赤に焼けた鉄棒でえぐられてるみたぃ。
「で~もぉ、君の快進撃もここまでだぁ! 大人しく、暗闇の中で反省しなさぃっ!」
雷光を纏った双剣が、だんだんと近付いてくる。
動けよ、動いてくれよ! 今動かないで、いつ動くっつうんだよ!
それでも、俺の意志に反して体は動いてくれない。
ここまでかよ、また、俺は、コイツに…………。
ざしゅっと、二つの刃が突き刺さる。
防具なんてまるで無視して。
生々しい感触が、体全体に広がる。
「なんで……」
雷を纏った刃は呆気ないほど、簡単に体を貫いた。
これなら、現実の体の方がまだだいぶ頑丈だろ。
「どうして……」
こんなもん、信じたくない。
こんなもん、見たくない。
「三枝さんが……」
三枝さんの胸から、二本の刃が内側から突き出していた。
視界端にあるパーティーメンバーのHPバー。ユイと表記されたものが、みるみる減っていく。
「アンビレル」
そしてそれが完全になくなった瞬間、三枝さんのアバターがポリゴンになって消えた。
最後に、俺の反動ダメージを回復させて。
「まぁったくもぅ、邪魔しないで欲しいなぁ。おかげで、手元が滑ってしまったよ」
痛かったろうな。ほぼリアルそのままの痛みフィードバックがある状態で、背中から刺されたんだから。
無理して、笑顔なんか作って。
◇23:56:09◇
「レイモンドォォオオオオオオオオオオオオッ!!」
HPは、残り3000を切っていた。わき腹一発で7000以上。
ただもう、俺の頭の中には回復するなんて思考は残っていない。
一刻も早く、コイツに一発入れないと、気が収まらねぇんだよ!!
「なんだね、迷える少年よ」
「お前だけは、絶対に許さねぇ」
刀身を叩き割る勢いで、レイモンドの双剣にエンシェントブレードをたたきつけた。
二本とも弾いたところに、横から蹴りをぶち込む。
「三枝さんが心臓悪いの、お前だって知ってんだろうが」
「無論な」
ただ、蹴りの方は呆気なくかわされてしまった。
でも、だからどうした。そのまま無理やり体を高速回転させ、またエンシェントブレードを真横から叩きつけた。
衝撃を受け流しきれなかったのか、レイモンドの体がわずかに浮く。
「なのに、そんな場所にそんなもん、突き刺しやがって!!」
その隙、絶対に見逃してやるもんか。
距離をつめつつ、そこに掌底をねじ込んだ。
レイモンドの顔が、今日初めて苦痛に歪んだ。
まだだ。まだ逃がしてやるもんかよ。
「グローム!!」
出の早い魔法を唱えながら、全力前進。直撃はなくても、レイモンドの動きがわずかににぶる。
「はぁぁああああああッ!!」
ギギギギィっと、俺のエンシェントブレードとレイモンドの双剣が火花を散らした。
「それに何で、お前が、三枝さんの心臓の事」
「なに、簡単な事だ。あの日、私もあの場にいただけだよ。無論、仮想空間の方のね」
「なるほどな。違法パッチでも使って、透明にでもなっつたんだろ」
「鋭いねぇ。まさにその通りさ」
咲希も言ってたけど、コイツにはゲス野郎てっ呼び方がピッタリだな。
「姿隠さなきゃ入れないとか、よっぽど悪い事でもしたんだろうな」
「うぅむ、またまたその通りだ。同士を真なる楽園に導いたという理由で、現実では有罪を言い渡されている身なのさ」
「マジで有罪なのかよ」
「正確には、今は猶予期間中さ」
一緒だろ。
そういえば、ユニコーンスタジオの部屋にも一人、有罪判決を受けて執行猶予期間中のヤツがいたな。
もしかして、レイモンドってソイツなのか?
いや、今はそんな事どうでもいい。
「ブラストエッジ!」
実際には殺せなくても、コイツをこの空間から消し去ってやるのが今は先だ。
接触状態から、風の刃を爆発させた。
威力は低いが、反動も小さいし硬直も短い。
レイモンドを後方へ押しやり、同時に魔法で射抜く。
さすがに空中じゃ、どうにもできねぇだろう。
◇23:57:48◇
『よし、ログアウトの設定にたどり着いた! 今から全員をログアウトさせる作業に入る!』
繋ぎっぱなしになっている松井先輩との電話から、そんな声が聞こえてきた。
あと二分、なんとかなってくれ。
こっちは、意地でもそっちには行かせない。
「トライスピアー!」
「無駄、無駄、無駄ァアアッ!」
また出の早い、突きの三連撃。だけど、これもかわされてしまう。
それどころか、技を出し切った直後のタイミングで、レイモンドが攻めてきた。
硬直の短いスキルでもこれかよ。
「ぬふふふふぅ。よく動く。だが、それ故に心躍る。そう思わないか~い、速水瑛太くん?」
「誰が思うか。俺はさっさと…」
ギリギリで間に合った。
エンシェントブレードを上に掲げ、レイモンドの攻撃を受け止める。
「お前には、さっさとこの場から消えて欲しくてたまらねぇよ」
空中のレイモンドを受け止めたまま、風の刃をぶっ放した。
いくらお前でも、空中なら防ぎようがないもんな。
「ダンナースプラッシャー!」
HPを回復させる時間なんかやるかってぇの。
続けざまに雷の刃を飛ばし、着地したばかりのレイモンドをとらえた。
とは言っても、魔法できっちり防御されたっぽいけど。
でも、それならこっちが好都合。視界がふさがれている間に、一気に間合いをつめるまで。
◇23:58:21◇
「ブーステッドスピアー!」
「なにぃ!?」
防御魔法の雷の盾が解けた直後、そこを突き抜けてエンシェントブレードを突き出す。
チャージ系の効果でさらに速度を増した突きに、ようやっとレイモンドが驚いてくれた。まあ、上手い具合に双剣に挟まれて、剣先は届いてないけど。
でもまだだ、まだ終わらせるつもりはない。
「ブーステッドスピアー!」
その防がれた状態のまま、もう一度同じチャージ系の突き攻撃。
レイモンドは逃げる時間すらなく、そのまま俺の攻撃に耐え続けた。
「う~む、これはぁ、想像以上、だぁ」
「いつまでも、余裕ぶっこいてんじゃねぇよ! ダンナーブラッシュ!」
巻き込まれるのも関係なく、魔法系必殺技スキルを起動。
指向性を持った雷撃が、零距離から炸裂した。
防御の上からだろうと、無理やりダメージを押し込む。
「速水瑛太くん、君は何のために、今戦っている」
レイモンドは俺の必殺技スキルに合わせてバックジャンプして、距離を稼ごうとする。
「君には掲げる大意も、思想もないはずだろう。私と違って」
それに合わせて、俺も猛ダッシュした。
「お前みたいな自分勝手な大意も思想もないし、そんなもんはこっちから願い下げだ。ただなぁ……」
移動補助の魔法すら超えるくらい、速く、鋭く、体が動く。
「俺は怒ってんだよ」
着地前のレイモンドに追い付き、
「大好きな仮想の世界を、好き勝手荒らしまくってる、お前に!」
すれ違い際にわき腹を斬り裂いた。
◇23:59:07◇
「ぬわぁああああああああ!!!!」
さすがに痛いよなぁ。
ほとんど現実そのままの、痛みフィードバックがあんだからなぁ。
「こ、これは!? いったいどうなっている、次々とログアウトのログが……」
「そのまんまの意味だよ。こっちの技術屋の人達が、制御を取り返してくれたんだ。真なる楽園とやらでやる宴なら、お前らだけで勝手にやってろ」
膝がもげそうになる痛みに耐えながら一八〇度反転し、膝を突くレイモンドを視界に捉える。
その視界のあちこちで、ログアウトして散っていくアバターのポリゴンが見える。
「やはり、君は賛同してはくれないのかね。この私が許したと言うのに」
「言っただろ。現実にやり残してる事がいっぱいあるんだよ」
必殺技スキルを使おうと思ったら、MPが切れてた。
大技と移動補助使いすぎたかな。
レイモンドは立ち上がって、俺の一撃を防いだ。でも痛みのせいで、受け流すまでの余裕はないらしい。
「言われたからな、現実で聞かせて欲しいって」
ただ問題は、ちゃんと言えるかなんだけど。答えは最初から決まってるからいいとして。
「いつまでも現実に縛られていては、情報生命体にはなれはしないぞ!」
「だったら、旧人類のままでいい!」
エンシェントブレードで双剣を跳ね飛ばし、肘撃ちからタックルを叩き込む。
「ぬぅぅうううううううう!?」
斜め上から振り下ろされる双剣をかがんでかわしたけど、背中が少し斬られた。
◇23:59:34◇
かがみながら足払いをかけるも、ジャンプしてかわされる。
だがそこへ、後ろ向きのまま斜め上にジャンプしてさっき斬ってやったわき腹を肘打ちしてやった。
レイモンドのうめき声が、耳に入る。
「なぜだ、なぜそこまで動ける!! それだけの傷、痛みで動けないはずなのに……」
「どんなに痛んだって、痛み自体は偽物だろ。だから、意思次第でいくらでも動かせるんだよ」
全力で振り抜いたエンシェントブレードが、ついにレイモンドの双剣の片方をへし折った。
「言っただろ、俺は怒ってるって」
いくら全身が痛もうと、それは演算によって導かれた処理を反映しているに過ぎない。
ただ、機械には絶対に導けないものがある。
◇23:59:48◇
「これで終わりだ、レイモンド!!」
人の意思の強さだけは、どんな機械でだって計測する事はできないし、再現する事だってできない。
痛みは偽物であっても、気持ちだけは現実も仮想でも変わらない本物だって。
「黙れぇ! この、大罪人がぁぁああああああああああああああああッ!!!!」
「くたばれぇぇええええええええええッ!!!!」
◇23:59:56◇
『コード4c6f67004f7574を検出、ログアウトプロセスを実行します』




