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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase01:Virtual Reality Game
6/62

Stage05:2062/12/15/20:15:22【-1011:44:38】

『IDを承認しています…………承認しました。ようこそ、“Bullet(バレット) World(ワールド)”へ。ゲームモードを選択してください』

 感情なんて欠片も持ち合わせていない合成音声が、脳内に響き渡った。

 クッションのないパイプイス、硬質的なテーブル、そして白く味気ない部屋。

 無味乾燥なんて言葉がピッタリな部屋に、俺と咲希のアバターが構成される。

 ここではまだ俺も咲希も、部屋にいた時と同じアバターをしている。

 視線を移せば、壁にかけられたモニターにいくつかゲームモードが表示されていた。

 一昔前の言い方をするなら、メニュー画面ってとこかな。

 ただ、シナリオモードと対戦モードと、あとゾンビモードの三つにオプション設定の四つしかないのに、分ける意味ってあるんだろうか。

 久々にログインしたゲームにそんな感想を抱きつつ、俺達は対戦モードを選択した。

 対戦モードとは、そのままプレイヤー同士で戦闘を行うモードだ。

 フィールドに海辺のリゾート地を選択すると、入室確認のダイアログが表示される。

「じゃあまず、ここでいいか?」

「はい。先輩と一緒なら、どこへでも!」

 まったく、目なんかキラキラさせやがって。

 こんなんされるから、敵チームに振り分けられた時、撃ち辛いんだよ。

 まあ、咲希なら『先輩、私にとってはむしろご褒美です、もっと撃ってください!』とか言いかねないけど。

 …………自分で考えといてアレだけど、本気でありそうで怖い。

 最後に咲希とパーティー登録をして、俺達は対戦モードのルームへと向かった。




 ゲーム内の兵士姿へとチェンジした俺達は、対戦モードの部屋へとやってきた。

 もっとも、アバター本体はそのままなので、着替えただけみたいな感じというのが正しい。

 リアル割れの危険を避けるために、既に自分をモデリングしたアバターから別のアバターへチェンジしている。

 その名も、平均的な日本人の顔立ちシリーズCタイプ。どっかの時間を持て余したプロの暇人が作ったフリー素材で、個人制作のCG作品やゲームなんかにも使われている。

 実際、出来映えもなかなかのもので、こうして俺も使っているほどだ。

 部屋の内装は、モード選択の時の部屋をそのまま大きくしたような空間になっている。

 味気ないパイプイスと机に、趣なんてものは微塵もない無地の白壁。

 そんな部屋の中では、マッチング待機中の四人のプレイヤーが待っていた。

「こんばんは」

「よろしくです」

 ネットゲームのマナーとして、まずはしっかりと挨拶。

 俺の軽い挨拶に続いて、咲希はリアルの姿からは想像もつかないほど、丁寧なお辞儀をしていた。

 すると、

「ばんは~」

「こっちこそ、よろしく」

 という普通の返事の他に、

「女の子キタァァァアアアアアアアア!!」

「あの、フレ登録いいですか!?」

 なんて、頭の悪そうな台詞を口走ってるヤツもいた。

 でも確かに、こんなガチな戦争ゲーしてる女子なんて、俺も咲希以外は見た事ないけど。

「そんな事言ってると、背後からフレンドリーファイヤーしますよ、この豚○郎」

 こらこら、あまり汚い言葉使ってるから、システムから規制かけられてんじゃないかよ。

 しかも、これから一緒に戦うメンバーも引き気味だし。

 ホントに、こいつほっといたらネトゲでもボッチになるんだから。

 そういや、俺と初めて会った時も、ボッチだったっけ。

「すいません、こいつ口悪くて。でも腕はいいですから」

 咲希の頭をムリヤリ下げさせて、俺達は軽いブリーフィングを始める。

 といっても、コールサインと役割分担決めるだけなんだけなんだけど。

 そもそも、一回限りの即席メンバーで、細かい作戦なんか決められるわけないし。

 でも、こんな事でもやるのは極少数で、雑談だけして好き勝手に撃ち合うのがほとんどだ。

 ひどいのになると、いきなり喧嘩が始まって、フレンドリーファイヤー地獄になった事も……。

 あぁ、思い出してまた頭痛くなってきた。

戦闘開始(オープン・コンバット)一分前です。プレイヤーの皆さんは、兵種と装備を確認してください』

 メニュー設定の部屋と同じ合成音声が、近付きつつある戦闘の時を教えてくれる。

 俺の役割は咲希と一緒に敵前線を突破し、一直線に破壊目標のオブジェクトに爆弾を仕掛ける事。

 他のメンバーは、こちらの拠点防衛と俺達の護衛。

 なんか装備的にも、俺と咲希は防御力が一番高いらしい。

 そこまでやりこんだ記憶はないけど、他のメンバーから見たら保有してるポイントはなかなか高いようだ。

「カウント開始。Ⅹ、Ⅸ、Ⅷ、Ⅶ、Ⅵ」

 合成音声がテンカウントを数え始め、否が応でも緊張が高まっていく。

「Ⅴ、Ⅳ、Ⅲ」

 プレイヤーを殺す(キルする)ゲームってのもあるけど、やっぱり銃の重量感と火薬や油の匂いが、そうさせるんだろうな。

「Ⅱ、Ⅰ、戦闘開始(オープン・コンバット)

 視界が真っ白に染め上げられたと思った瞬間には、俺達は塩の匂いが強烈な所に立っていた。




 清潔感満載の白いコテージが立ち並ぶ中を、マシンガンを引っさげた俺と咲希は駆け抜ける。

 建物の向こうや隣から、耳をつんざく銃声が聞こえてきた。

 視界の端に表示されるデータを見ると、既に戦闘開始から三分以上経過していた。

 相手はこういうのに経験があまりないらしく、俺の戦績は五(キル)(デット)

 咲希の方も、三(キル)(デット)となかなかの好調だ。

 コントローラの時代なら軽く二桁はキルしてたプレイヤーもいたらしいけど、脳の反射神経や体の運動神経が重要になってくるVRでは、初心者では一桁どころか一人ですら厳しい状況となっている。

 スコアの方も、当時の三割から五割減のが普通って具合に。

 それでも、超絶的な廃人になれば、一回のマッチングで三〇を超えるような人もいるらしい。ちなみに、俺はマックスで十五前後で、良くも悪くも微妙なところだ。

 いや、最近はあまりやってなかったから、もっと低くなるだろう。

 俺は咲希にハンドサインを送ると、腰だめにマシンガンを構えて建物の壁から飛び出した。

 あとを付けられているとは思っていない相手の頭めがけて、引き金を引く。

 ダダダダッとくぐもった音に、腕を痺れさせる激しい振動。

 そして敵アバターの頭から飛び散る、赤いライトエフェクト。

 血にしてはお粗末過ぎる演出だけど、遊び感覚でやるならやたらリアルよりこの方がいい。

 硝煙の香りが立ちこめる中、俺は視界端のキルポイントの増加を確認して倒れた敵に近寄った。

 それに、咲希が後方を警戒しながら続き、俺達は敵から使えそうな武器を奪う。

「マグナム拳銃っていうんだっけ。こんな反動のデカいやつ、使えんのかよ」

「でも、火力は桁外れですよ先輩。私らの防御でも、一発キルですから」

「おーこわ。とりあえず、これだけいただいとくか」

 そう言って俺は手榴弾三つを咲希に渡し、自分はマシンガンとそのマガジン二本を奪い取る。

 肩紐に腕を通すと、ずっしりとした重みで紐が防弾ジャケットに食い込んだ。

 俺は脳内にマップを描きながら、無線で拠点の連中と連絡を取った。

「こちら、チャーリーワン、並びにチャーリーツー。敵防衛線の内側に侵入。一応、敵の警備の薄い場所を教えてくれ。現在地は、C3エリアの一番下の横道」

「アルファワン了解。敵は防衛線を下げて、防御を固めるつもりらしい。勝てそうにないから、ポイント確保のためにオブジェクトの護衛を最優先にしたんだろう。今の道を西側に抜けたら、二つ目の交差路で北に行け」

「チャーリーワン、了解」

 本来なら無線傍受でも気にするところなんだろうけど、残念ながらそんな機能はこのゲームにはない。

 俺はハンドサインで咲希に付いて来るよう指示を出すと、指定通り今の道を西に向かって走り、二つ目の交差路を北に向かって走る。

 連絡の通り、本当に籠城しているらしく、会敵したのはなんと〇人。

「全員そろってイモるとか、面白みの欠片もないな。咲希、手榴弾何個ある?」

「奪ったのを合わせると、七つ」

「俺のと合わせて十個か。どうする? 相手の拠点に全部投げ込んでみるか?」

「…………面白そう」

 凶悪というか、ほとんど凶悪犯罪者みたいな顔になってるぞ、咲希。

 そりゃ、提案したのは俺だけどさぁ。

 でも、向こうが積極的にゲームに参加してくれないんじゃ、面白みもなくなるってもんだろ?

「突撃兵というか、これじゃ工作員みたいな気分だ」

「先輩、ならゲーム盛り上げるのに、上のルートとかどうですか?」

 咲希が銃身で指さす方、上をちらりと見た。

 なるほどね。

「よし、行くか」

「はい」

 俺達はまず、近くの建物へと侵入した。

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