Stage57:2063/01/26/23:19:24【-0000:40:36】
ボーンバイパーは、全長が二〇メートル近くもある骨でできたヘビ型モンスター。レベル帯も六〇台で、今現在だと最強プレイヤーくらいしか、相手にできるプレイヤーはいない────────はずだった。
でも、どっからか流れてきたチートツールでステータスが全項目カンストしちゃったプレイヤーが百人近くいたら、どうなるだろうか。
いやー、色んな意味でひどかった。
どんな強力な攻撃を受けても、ダメージ二桁しか入んないんだぜ? で、HPは9999もある。
うん、イジメだ。盛大なイジメだ。しかもこっちの攻撃は、普通に斬りつけるだけでも相手が怯むくらいの威力。イジメ以外の何物でもない。
二〇体規模の群れではあったけど、チートツールで全ステータスがカンストしたプレイヤー百人にタコ殴りにされた結果、一分と経たずに殲滅させちゃった。
レヴィたんじゃないけど、思わず『てへ☆』とか思っちゃったよ。
その後も高レベル帯のモンスターが何度も来たけど、もう全然相手にならない。
もうあれじゃ、エンシェントドラゴンを十体くらい連れてこないと、勝負にすらならないって。
そんな事を十回近く繰り返したところで、ようやくパスワードの解析が完了した。
かかった時間は当初の予測通り、一時間と少し。
ピーーーッ、ていう甲高い電子音がしたと思ったら、空間がいきなり四角に光った。
あ、あそこはフィールドの端だから、あの光ったとこは壁なんだった。
光った箇所には周囲からポリゴンが吸い寄せられ、いかにも重厚そうな暗褐色の鉄の扉が構成される。
「みなさん、準備はよろしいでしょうか?」
ドアノブに手をかけた職員の人は、最後にもう一度背後の百数十人を振り返った。
「システム中枢に侵入すれば、向こうにも必ずバレます。本当に、準備は終わったんですね」
そう念を押すと、グループの一角からそろそろと手が挙げられた。
「ちょっと、いいですか?」
【ウェンディーヌ】のSEの人達だ。
「はい、いいですよ」
【ウェンディーヌ】のSEの人達の内、数人が互いの顔を見て頷き合う。
「こちらも、外部と連絡する回線が確保できました。ただ、一回でも使うとバレてしまいます」
どうせバレるんなら、外にも連絡を取って助けを求めようってわけか。
「でもよ、警察に通報したって、真面目に取り合ってくれると思うか?」
「ゲームの中に閉じ込められたって言っても、信じてくれないだろうな……」
それどころか、からかうなって怒られそうな気がする。
今だって、俺達は現実感皆無なそんな状況だから、割と冷静でいられてるのは否めない。
閉じ込められてる人でもこれなんだから、夜遅くに電話番なんてしてる人に話したって、仕事の邪魔するなって怒られそうだ。
聞いてくれるかわからないのに電話をかけるかかけないかで悩んでいるなら、時間の無駄だからさっさと突入しよう。
そんな意見も飛び出し始めた時だった。
「あの、私話聞いてくれそうな人いるんですけど」
ラピスが【ウェンディーヌ】のSEさん達の前に出た。
「あの、君は?」
「眞鍋咲希。鳴海高校の一年生です」
【シルフィーダ】のSEさん達に見せた時みたいに、咲希は学生証の電子データを渡す。
「それでこっちは、父の名刺です」
で、次に父親の名刺データを渡す。
あの、なぜ父親の名刺を?
ただ、【ウェンディーヌ】のSEさん達の目が、ぎょっとなった。
「M&Gエレクトロニクス社長、眞鍋慶三!?」
でもって、今度はこの場にいた全員がぎょっとなった。って、M&Gエレクトロニクス!?
それってホログラスの国内シェア六〇パーセントの、世界展開もしてる日本の電子機器メーカーの名前なんだけど……。
咲希のお父さんって、M&Gエレクトロニクスの社長なのかよ!
リアルお嬢様なのは知ってたけど、そこまでとんでもないところのお嬢様ってのは今知ったぞ。
「M&Gエレクトロニクスの社長かぁ。それなら確かに、娘の言う事を信じてくれるかも」
「いえ、電話する人は違いますよ」
『へ?』
全員が、すっとんきょうな声を上げた。
え、違うの? すでにものすごく話聞いてくれそうな人なのに?
「私のお爺ちゃんで、マナベグループ会長の、眞鍋賢一郎です」
『…………』
う、うわぁ、もっとすごい人がでてきたよ。
会長だってよ、会長。
マナベグループも、ちょくちょくニュースで聞く名前だよ。
そこの会長って、いや、もうどうリアクションすればいいのか……。
「お爺ちゃんなら、警察の偉い人にも顔が利くから、伝えるなら一番だと思うんですけど。それに、孫の私にはすごく弱いし」
「あ、あぁ。なら、お願いするよ」
なんかもう、完全に気が抜けちゃってるSEさん達は、ラピスに回線を回した。
もちろん、反論する人なんて誰もいない。
下手に他の人に電話するより、よっぽど効果が見込める相手なのは、みなさんわかってるようです。
ラピスは音声をスピーカーモードに設定して、話の内容が全員に伝わるようにした。
そしてアドレス帳を開き、そこから一つのナンバーに電話をかける。
『おぉ、咲希ちゃんじゃないか!! 正月ぶりじゃのう。それで、こんな夜中にどうかしたのか?』
夜中なのに随分テンションが高いな、お爺ちゃん。孫娘からの電話で、舞い上がっちゃったんだろうけど。
「お爺ちゃん、時間があまりないからよく聞いてね。私今、Bravery Symphonia Gothic ってゲームしてるんだけどね」
『おぉ、ユニコーンスタジオのアレか。データリンク関連で、慶三のとこにも来たらしいな。で、面白いのか?』
「話……聞いて」
『す、すまんかった』
孫娘つえぇなオイ。
「そのゲームの中に、閉じ込められちゃったの」
『なんじゃと!?』
「しかもインフェルスの過激派が社内のシステムを乗っ取ってるみたいで、警察にも連絡できなくて。この回線も、ギリギリまでやってようやく回復できたの」
『わかった! すぐ警視総監の小僧に連絡してやる!』
うわ、本当にあっさり通った。
「あと、零時には何かやらかすみたいで」
『なんじゃと!? もうほとんど時間がないじゃないか!!』
「だから、私はこれから仲間の人と一緒に、内側から脱出してみる。だからお爺ちゃんは、ユニコーンスタジオの方のシステムをクラックしてくれる?」
『任せておけ。国内外のIT関連の会社を、総動員してくれるわ!』
「……ちゃんと補償はしてあげてね」
『もちろんじゃて。なんなら、新型の機材を提供してやってもよいぞ』
さすが会長。太っ腹だなぁ。
「あと、もしかしたら脳に影響が出るかもしれないから、プレイヤーの人達への保障も、できたらお願い」
『孫娘のために一緒に働いてくれた者達じゃ。それくらいしてやらにゃ、眞鍋の名が廃るわい!!』
「ふふふふ。ありがとう。お爺ちゃん大好き」
『はっはっはー、お爺ちゃん頑張っちゃうぞー! すぐ助けてやるから、待っとるんじゃぞ!』
「はーい」
ぷちんっと、音声が途切れた。
早速、各方面の手配に回ってくれたんだろう。
ただ、向こうも俺達の存在に気付いて、それなりの対抗策を講じてくるはずだ。
「これで、準備は完了ですね。それではみなさん、行きますよ!」
『おぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!』
職員の人が、人数に対して小さな暗褐色の扉を開ける。
俺達は事前に組んだフォーメーションの順に、扉へと走り込んでいく。
さあ、くるなら来やがれ。仮面野郎とその手下共!




