Stage56:2063/01/26/22:12:48【-0001:47:12】
ようやく四ヶ国の代表団がそろったわけだけど、悠長に構えている時間はない。
SE組は即座に作業に加わり、大量のホロウィンドウを広げてホロキーボードを叩く。
「よし。先輩、回線のオブジェクト化完了しました」
「よくやった、美夏!」
「なら、ホログラスとNoVAの制御端末と繋ぐぞ」
二ヶ国の到着から少し遅れて、セキュリティーに繋がる回線を仮想空間上に構成する作業も完了。いよいよ、十六桁のパスワードを解析する作業に入った。
残り二時間弱。お願いだから、間に合ってくれ。
「四ヶ国との接続状況はどうなってる?」
「順調……なのかな? 合計接続数は、五七一三、一八、二四」
「人数が人数だし、受け渡しやインストールに時間がかかってるのかもしれない」
「それにしても、すごいスペック……。下手なスパコンよか、よっぽどすごいわよ、これ……」
「いいじゃねぇの。計算量が増えていきゃ、それだけパスワード解析にかかる時間も減るんだし」
「でもさすがに十六桁はキツいな。このペースで解析してたら、最低でも一時間以上はかかるぞ?」
「そうは言っても、これしか現実的な案ってないじゃない。そもそも、ホログラスはともかく、ネット回線経由でNoVA同士を並列接続するプログラムなんて、よくこの短時間に組めたわね。しかも、どの回線も不通になってるのに」
「だよな、そっちのがすげぇ」
最低でも、一時間以上か。
全然襲ってくる気配もないし、俺達のホログラスやNoVAも、一緒に繋げればよかったんじゃないかな~、とか思ったりするけど……。
「どう思う?」
っていうのをラピスに耳打ちしたら、
「楽観視するのは危険ですよ。こういう時こそ、最悪を想定して動くべきです」
見事に一蹴されてしまいました。
言われなくても、俺だってそれくらいわかってるよ。
でも、本当に誰も迎え撃ってこなかったら、俺達完全に役立たずじゃん。だったら、少しでもセキュリティー突破の助けになりたいって、普通そう思うだろ?
「それに、たかだか百人ちょっとを繋げたって大して変わりませんよ。今五〇〇〇ユニット以上繋げて一時間かかるんですから、百ユニット加えても一分変わるかどうかってレベルですから」
「つまりオレ達は、どーんと待ち構えてればいいって事なんだろ? 敵さんが来なけりゃそれに越した事はないけど、もし出てきたら全力で応戦するってな」
どーんと厚い胸板を自慢気に叩きながら、ライトフォーゼはにっと笑って見せた。
こんな状況なのに笑ってられるって、けっこう肝がすわってんのなぁ。
「たまには良い事言いますね。ライトさんのくせに」
「……瑛士、オレもう帰りたい」
「我慢しろ。二時間以内には、絶対に帰るんだから」
そうだな。帰らなきゃ、絶対。
現実に帰って、ユイさん──三枝さんに返事しなきゃならないんだから。
すると、いきなり肩をトントンと叩かれた。
振り返ってみると、なかなか上等な装備を身に付けたダンディーなオジサマアバターがいた。
「用心のためだ。こいつをインストールしておけ。全員に、コイツを回してるんだと」
「あ、はい。わかりました」
P2P接続で直接データを受け取ると、そのままインストーラーを起動。
警告メッセージがでたけど、無視してインストール。そしたらなんか、いきなり接続機器にアクセスし始めた。
ホログラスの接続機器だからNoVAしかないわけだけど、何する気なんだ?
そしたら次は文字化けしたブレゴスのメニュー画面が出てきて、またなんか文字化けした文章がでてきた。
ただ、“Yes”と“No”だけはちゃんと表示されてる。改めてプログラム名を見てみたけど、名前なしって……。
まあいっか。どうせ“Yes”にすればいいんだろ。
若干不安になりながらも、“Yes”の方もボタンを押す。
すると今度は複数のバーが視界に現れて、ちょっとずつゲージが貯まり始めた。
この調子なら、一、二分で終わりそうだ。
ラピスもライトフォーゼもデータを受け取って、インストールを開始している。
「あの、これってなんのソフトなんですか?」
データをくれたオジサマアバターのプレイヤーに、何の気なしに聞いてみた、割とびっくりな答えが返ってきた。
「ステータスを上書きするチートツールなんだとさ。キャラクターのスペックデータは、ユニコーンスタジオに記録されてるが、ユーザーがプレイする時にはNoVAにデータをダウンロードする仕組みになってるらしい。そのダウンロードしたデータの方に、細工をするんだとさ」
ぎょっとなってメニューからステータスを開いてみると、HPやMPはもちろん、攻撃力、防御力とか、とにかく目に入る全部の数値が“9999”になっていた。
「これをプログラミングしたやつは、普通は手動でやってるらしいんだが、それを全部自動でできるようにしてたらけっこう時間がかかったらしくてな。配布するのがこんな時間になっちまったんだそうだ」
まあ、確かにこれなら向こうがどんな手段に出てきても、なんとか守れきれるだろうけど。
でも、複雑な気分だ。これまで色々な苦労をしてレベルを上げて、条件解放の情報を読みあさってスキルを解放したりしてきたのに、こんなボタン一個押しただけで最強スペックにまでなるなんてなぁ。
これからやる事を考えたら正しいんだろうけど、複雑な気持ちだ。
あ、スキルポイントも限界値まで貯まってるじゃん。
どうせスキルもほとんど解放されてんだろうから、スキルの取得でもしとこう。一時間近くはする事がないんだから。
スキルポイントを消費して獲得するスキル一覧表を見ると、予想通りほぼ全てのスキルが表示されていた。その中から、開発に協力してモーションを考えたスキルで、特に威力の高いものを中心しスキルを獲得していく。
「なんというか、残念ですね」
俺と同じくスキル選択をしているラピスが、ぽつりとこぼす。
「だな。なんか、虚しくなってくるな」
やっぱり、こういうツール使って強くなっても、楽しくないよな。
苦労して育てたキャラクターだから、愛着も湧くんであって。
お、バーが全部端までいった
「インストール、完了」
「こっちはもう少し」
「ウソ、オレまだ半分終わったばっかりだぞ」
それって、ホログラスの性能が低いからだろ、絶対。
それはそれとして、今回仕方なくチートツールを使っちゃったけど、後でデータ削除されたりしないよな。
いや、こんな努力もせず無敵になったデータなら削除されてもいいんだけど、アカウント凍結されるのだけは勘弁して欲しいなぁ。
さぁて、チートツールの配布具合はどんなもんかなー。
ふむふむ、SE組みの方まで順調にいってるっぽい。
とか思っていると、何人かのプレイヤーが不意に後ろの方を振り向いた。俺もその方向を向いてみるけど、あいにく全然わからん。
でも、何かが近付いているんだろう。
まさかとは思うけど、インフェルスの過激派…………とかじゃないよな。
「ボーンバイパー」
「なんや、けっこうな大群やないか」
「まさか、バレた?」
「いいえ、恐らく違いますよ」
不安と緊張の色を表情を浮かべていたプレイヤー達に向かって、職員の人があっさり否定する。
「村からこんな離れた場所に百人規模のプレイヤーが集まって、しかもじっとしていれば、いくらフィールドの端でもモンスターが寄ってきますよ。モンスターにとっては、絶好の狩り場みたいなものですから」
つまりこれは、元々モンスターに組み込まれているアルゴリズムってわけね。
まあ確かに、百人規模のパーティーがフィールドの端でぼけーっと集まってるの見たら、俺もモンスターに襲わせるようアルゴリズム組むわ。
「各人戦闘準備! 魔法使いの半分と盾役の剣士はSE達の護衛に回れ! チートツールまで使ってんだ、絶対に死ぬなよ!」
本番前の前哨戦ってか。
身体慣らしたりスキルの感触を確かめるには、絶好のタイミングだ。
俺はエンシェントブレードを抜き放つと、これまでにない超加速で、地平線に現れたボーンバイパーを迎え撃ちに向かった。




