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十何回目かの切り替えでようやく映った部屋は、俺の探していたサーバー管理室でほぼ間違いない。テスト稼働の場面には何度か立ち会ったし、叔父さんにすごいだろって自慢された覚えがある。
だけど叔父さんは椅子に浅く腰掛けたまま、じぃぃっと天井を眺めていた。
いや、叔父さんだけじゃない。十人ちょっといる職員の全員が、気の抜けた顔で天井を見つめている。
思い出したようにパソコンに向かってキーボードを打ち込んで、また上を向く。
「音声って、拾えないんですか?」
「マイクはついてないらしいから、それは無理だ。ただ……」
室内の監視カメラ映像を映しているプレイヤーの人が、映像の一部を切り取って、拡大表示した。
なにやら、ドアの横にある長方形のプレートに、赤いランプが灯っている。
「電子キーだ。職員のID情報を発信していれば、普通なら通れるはずなんだ」
「つまり、職員の人らは、この部屋から出られんなっとるっちゅうわけか?」
「だろうな」
二人のプレイヤーの会話を聞きながら、俺はもう一度監視カメラの映像を見やる。
叔父さん、大丈夫なのかな。
「次、いくぞ」
そして、また映像が切り替わった。
消灯さる真っ暗になった部屋が続くけど、しばらくしてまた明るい部屋に出た。
サーバー管理室よりも、少し人数が多い。それに一部の人は、NoVAのコントローラーを頭に着けている。
でも、全然慌てている様子はない。
それどころか、
「こいつぁ、アタリやな」
扉から自由に出入りしている。
それに、首から社員証を下げた人間も。なるほど、手引きをしたのはこいつらか。
内部に協力者がいるんなら、多少の事はどうとでもなる。こいつらが夜勤の人たちを閉じ込めたのは、ほぼ確実だ。
それだけでも十分怪しいのに、次の瞬間にはもっととんでもない事が起きた。
「みたいだぜ」
NoVAのコントローラーを付けていたヤツが、いきなりそれを頭から外しやがった。
別のゲームをしている可能性もなくはないけど、場所がユニコーンスタジオってのを考えると、現在絶賛ログアウト不可能なブレゴスに間違いないだろう。
「なぁ、この真ん中にいるやつ、もっと拡大できないか?」
不意に別の作業をしてうたプレイヤーが、監視カメラに映る一人を指差した。
「ちょっと待ってろ」
カメラ映像の操作をしていたプレイヤーは画像を抽出し、映像を拡大する。
するとそこには、どこかで見た事のある顔が映っていた。
確か、テレビのニュースとか、まとめブログとかで見た事があるような気がするんだけどなぁ……。
すると、映像の拡大を頼んだプレイヤーの人が、誰なのか教えてくれた。
「こいつ、ちょっと前に逮捕されたインフェルス過激派の一人だぞ!?」
反応して思わず検索をかけるけど、そういえばネットには繋げないんだった。
頭の中の記憶だけを頼りに、俺は拡大された画像の人物を見た。
画像は荒いけど、人相はよくわかる。なんか、どこかトんでるような雰囲気がある。
「確か、最初の頃に逮捕されたリーダー格の一人ですね。野田晋也。懲役刑が決まっていて、今は執行猶予期間中のはずです」
レヴィたんはしゃべりながら、簡単なデータを作成して送ってくれた。
写真に付随して、各新聞社の記事がいくつか表示される。
罪状は、仮想空間の違法改造。痛みのフィードバックが百パーセントの空間で、被害者を一方的に剣で斬る、銃で撃つ等の残虐行為を何十件も繰り返したって……。
「残虐極まる行為にも関わらず、仮想空間を規制する法律はまだまだザルで、これもその一例です。仮想空間はリミッターが効いた空間って前提の法律だから、仮想空間でいくら暴力行為を働いても罰する刑法はないんです。だから、五感のリミッター制限を解除したり、空間則を無視した物体を構成可能にするために、構造情報を書き換えた罪しか問えなかったみたいです」
「それって!?」
この前、俺とユイさんが仮想空間で遭遇したやつと、まるっきり同じ……。
痛みフィードバックは、プライベートスペースは元々リミッターが低めに設定されているから除外したとしても、空間則を無視した物体の構成はまるっきり同じだ。
怒りを通り越して吐き気がしてきた。
「そんな犯罪者がいるとなると、またろくでもない事考えてそうだな」
ライトフォーゼのバカが……。
ただでさえみんなピリピリしてるのに、余計な事言うなよ。
限界まで張り詰めていた緊張が、爆発寸前のところまで来ている。
痛みフィードバックが百パーセントの空間で、剣や銃で被害者を一方的に攻撃するようなヤツの考える事なんて、絶対にろくでもない事折り紙付きだ。
「もしかして、この前の一斉メールって、この事なんじゃないですかね?」
メールボックスから例のメールを選択しつつ、俺は全員に向けて言った。
差出人、レイモンド・アイファルマ。導きし者達。インフェルス過激派代表。真なる楽園の園。
「ここにある『宴』の開始時間は、ぴったり明日の零時になってますけど……」
「逆だ。明日の零時に何かをするつもりで、俺達をゲーム内に閉じ込めているんだろう」
俺のつぶやきに答えるレヴィたん。
暗い表情の下には、心当たりがあるんだろう。
それはもちろん、俺も含めて全員がわかっている。だから誰も言わない。
ヤツらの掲げる教義とやらに、メールの中にはっきりと書かれている。
新人類、肉体という器を捨てて純粋な情報生命体となり、真なる楽園を目指す。
頭の中がお花畑すぎて笑いも出てこねぇ。
仮想で死んでその情報生命体とやらになれるなら、もうかなりの人数がなってるはずだろ。仮想に入ったまま死ぬ人間の数は、毎年一定数いる。
違法改造して没入時間制限を解除したり、没入したまま一酸化炭素やガス発生させたり。
でも、死んだ人間が仮想世界に現れたなんて例は、一つたりとも存在しない。
創作物なんかではそれなりに出てきても、現実には有り得ない。
沈黙が場を支配する中、視界の端に新着メールを知らせるアイコンが点滅した。ブレゴスのメールじゃなくて、ホログラスの方の。
開ける前から、嫌な予感がぷんぷん漂ってくる。でも、開けずにいるわけにもいかない。
周りの人を見ても、みんな一様に斜め上を見ていた。
現在、通信可能なエリアは、サーバー内部にとどまっている。
そんな中でメールの一斉送信をしてくるような送り主なんて、一人しかいないだろう。
俺達は順々に、新着メールのアイコンをタップした。




