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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase06:Play the myself , as the melody of Fortissimum
54/62

Stage53:2063/01/26/20:49:53【-0003:10:07】

 十何回目かの切り替えでようやく映った部屋は、俺の探していたサーバー管理室でほぼ間違いない。テスト稼働の場面には何度か立ち会ったし、叔父さんにすごいだろって自慢された覚えがある。

 だけど叔父さんは椅子に浅く腰掛けたまま、じぃぃっと天井を眺めていた。

 いや、叔父さんだけじゃない。十人ちょっといる職員の全員が、気の抜けた顔で天井を見つめている。

 思い出したようにパソコンに向かってキーボードを打ち込んで、また上を向く。

「音声って、拾えないんですか?」

「マイクはついてないらしいから、それは無理だ。ただ……」

 室内の監視カメラ映像を映しているプレイヤーの人が、映像の一部を切り取って、拡大表示した。

 なにやら、ドアの横にある長方形のプレートに、赤いランプが灯っている。

「電子キーだ。職員のID情報を発信していれば、普通なら通れるはずなんだ」

「つまり、職員の人らは、この部屋から出られんなっとるっちゅうわけか?」

「だろうな」

 二人のプレイヤーの会話を聞きながら、俺はもう一度監視カメラの映像を見やる。

 叔父さん、大丈夫なのかな。

「次、いくぞ」

 そして、また映像が切り替わった。

 消灯さる真っ暗になった部屋が続くけど、しばらくしてまた明るい部屋に出た。

 サーバー管理室よりも、少し人数が多い。それに一部の人は、NoVAのコントローラーを頭に着けている。

 でも、全然慌てている様子はない。

 それどころか、

「こいつぁ、アタリやな」

 扉から自由に出入りしている。

 それに、首から社員証を下げた人間も。なるほど、手引きをしたのはこいつらか。

 内部に協力者がいるんなら、多少の事はどうとでもなる。こいつらが夜勤の人たちを閉じ込めたのは、ほぼ確実だ。

 それだけでも十分怪しいのに、次の瞬間にはもっととんでもない事が起きた。

「みたいだぜ」

 NoVAのコントローラーを付けていたヤツが、いきなりそれを頭から外しやがった。

 別のゲームをしている可能性もなくはないけど、場所がユニコーンスタジオってのを考えると、現在絶賛ログアウト不可能なブレゴスに間違いないだろう。

「なぁ、この真ん中にいるやつ、もっと拡大できないか?」

 不意に別の作業をしてうたプレイヤーが、監視カメラに映る一人を指差した。

「ちょっと待ってろ」

 カメラ映像の操作をしていたプレイヤーは画像を抽出し、映像を拡大する。

 するとそこには、どこかで見た事のある顔が映っていた。

 確か、テレビのニュースとか、まとめブログとかで見た事があるような気がするんだけどなぁ……。

 すると、映像の拡大を頼んだプレイヤーの人が、誰なのか教えてくれた。

「こいつ、ちょっと前に逮捕されたインフェルス過激派の一人だぞ!?」

 反応して思わず検索をかけるけど、そういえばネットには繋げないんだった。

 頭の中の記憶だけを頼りに、俺は拡大された画像の人物を見た。

 画像は荒いけど、人相はよくわかる。なんか、どこかトんでるような雰囲気がある。

「確か、最初の頃に逮捕されたリーダー格の一人ですね。野田晋也(のだしんや)。懲役刑が決まっていて、今は執行猶予期間中のはずです」

 レヴィたんはしゃべりながら、簡単なデータを作成して送ってくれた。

 写真に付随して、各新聞社の記事がいくつか表示される。

 罪状は、仮想空間の違法改造。痛みのフィードバックが百パーセントの空間で、被害者を一方的に剣で斬る、銃で撃つ等の残虐行為を何十件も繰り返したって……。

「残虐極まる行為にも関わらず、仮想空間を規制する法律はまだまだザルで、これもその一例です。仮想空間はリミッターが効いた空間って前提(●●)の法律だから、仮想空間でいくら暴力行為を働いても罰する刑法はないんです。だから、五感のリミッター制限を解除したり、空間則を無視した物体(オブジェクト)を構成可能にするために、構造情報(アーキテクチャ)を書き換えた罪しか問えなかったみたいです」

「それって!?」

 この前、俺とユイさんが仮想空間で遭遇したやつと、まるっきり同じ……。

 痛みフィードバックは、プライベートスペースは元々リミッターが低めに設定されているから除外したとしても、空間則を無視した物体(オブジェクト)の構成はまるっきり同じだ。

 怒りを通り越して吐き気がしてきた。

「そんな犯罪者がいるとなると、またろくでもない事考えてそうだな」

 ライトフォーゼのバカが……。

 ただでさえみんなピリピリしてるのに、余計な事言うなよ。

 限界まで張り詰めていた緊張が、爆発寸前のところまで来ている。

 痛みフィードバックが百パーセントの空間で、剣や銃で被害者を一方的に攻撃するようなヤツの考える事なんて、絶対にろくでもない事折り紙付きだ。

「もしかして、この前の一斉メールって、この事なんじゃないですかね?」

 メールボックスから例のメールを選択しつつ、俺は全員に向けて言った。

 差出人、レイモンド・アイファルマ。導きし者達(エル・クワン)。インフェルス過激派代表。真なる楽園の園。

「ここにある『宴』の開始時間は、ぴったり明日の零時になってますけど……」

「逆だ。明日の零時に何かをするつもりで、俺達をゲーム内に閉じ込めているんだろう」

 俺のつぶやきに答えるレヴィたん。

 暗い表情の下には、心当たりがあるんだろう。

 それはもちろん、俺も含めて全員がわかっている。だから誰も言わない。

 ヤツらの掲げる教義とやらに、メールの中にはっきりと書かれている。

 新人類、肉体という器を捨てて純粋な情報生命体となり、真なる楽園(エデン)を目指す。

 頭の中がお花畑すぎて笑いも出てこねぇ。

 仮想で死んでその情報生命体とやらになれるなら、もうかなりの人数がなってるはずだろ。仮想に入ったまま死ぬ人間の数は、毎年一定数いる。

 違法改造して没入(ダイブ)時間制限を解除したり、没入(ダイブ)したまま一酸化炭素やガス発生させたり。

 でも、死んだ人間が仮想世界に現れたなんて例は、一つたりとも存在しない。

 創作物なんかではそれなりに出てきても、現実には有り得ない。

 沈黙が場を支配する中、視界の端に新着メールを知らせるアイコンが点滅した。ブレゴスのメールじゃなくて、ホログラスの方の。

 開ける前から、嫌な予感がぷんぷん漂ってくる。でも、開けずにいるわけにもいかない。

 周りの人を見ても、みんな一様に斜め上を見ていた。

 現在、通信可能なエリアは、サーバー内部にとどまっている。

 そんな中でメールの一斉送信をしてくるような送り主なんて、一人しかいないだろう。

 俺達は順々に、新着メールのアイコンをタップした。

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