Stage51:2063/01/26/20:01:19【-0003:58:41】
俺達四人は移動用アイテムを使って、【シルフィーダ】まで戻ってきた。
辺りはもちろん、不穏な空気に包まれている。
そりゃ、魔城フィールドに続く洞窟を目の前にしていきなり全員撤退と言われても、納得しないだろう。
それも、俺達みたいな知り合いから言われたならいざ知らず、今日初めて会った人に強要された人がほとんどなんだから、当たり前の結果でもある。
かくいう俺達も、どういう状態なのか気になる。
それからもう少しだけ待っていると、数十人のプレイヤーと一緒に、レヴィたん達が門をくぐって帰ってきた。
でも、明らかに人数が少ない。ブレゴスの販売本数は十万本を軽く超えている。
四〇ヶ国あったとしても、一国辺りのプレイヤーは二五〇〇人以上。
もちろん、全員が参加しているわけじゃない。でもそれを考慮したとしても、始まる前はゲート前を埋め尽くすほどいたプレイヤーがいたのに、今はまばらにしかいない。
「先輩、【シルフィーダ】にプレイヤー全員を戻したのって、これが関係あるんですか?」
レヴィたんに、視線で人数のかなり減ったゲート前の事を聞いた。
するとレヴィたんは、重々しい雰囲気でコクリと頷く。
「ちょっと前に、ルーキーの知り合いがいるヤツに、連絡が来たんだ。『ゲート前に全然リスボーンされないんですけど、大丈夫なんですかね?』って」
レヴィたんは話が周囲に漏れないよう、他のプレイヤーから少し離れた位置に移動して話してくれた。真面目な時ほど徹底してる口調も、今は素に戻っている。
つまり、それだけヤバい状態だって事だ。同じく話を聞いていたユイさん、ラピス、ライトフォーゼにも驚きが走った。
「しかも話によると、ブレゴス関連のメニューが全然動作しないらしい」
俺達は慌てて、手を払ってブレゴスのメニュー画面を呼び出す。
よかった、正常に動作する。
アイテム一覧からアイテムを取り出せるし、各種ステータスの確認もできるし、装備の変更、スキルポイントの振り分けもできた。
各種設定で、ホログラムのデザイン変更も同じく。
「俺達のは、大丈夫みたいですけど」
「あぁ、まだ死んでないからな。でも一度死亡すると、真っ暗な空間に放り出されて、ブレゴスの全機能が使えなくなるんだそうだ」
つまり、一度死んだら何もできなくなる?
メニュー画面が開けないとなれば、確かにどうする事もできない。
それはもちろん……
「ネカマ先輩。その人達、どうやってログアウトするんですか?」
ラピスがずばり、核心を突いた。
それにレヴィたんは、力なく首を横に振る。
ライトフォーゼが慌ててメニュー画面を開き、ログアウトボタンを押そうとしたけど、
「それなら、もう済ませた」
レヴィたんの覇気のない声に重なるように、エラー音が鳴った。
“不正な処理を検出しました 【繝ュ繧ー繧「繧ヲ繝医・繝ュ繧サ繧ケ】をブロックします”
表示されるダイアログが、全てを物語っていた。
「ログアウトの命令を不正処理として検出されるよう、誰かにプログラムが書き換えられてある。どうやったのかは、全然わからんがな」
「だったら、助け呼べばいいじゃないですか。さっき先輩も使ってたんですから」
「なら、やってみろ」
ライトフォーゼが、空中に向かって指を押し込む。
どこかに電話しているのだろう。
でも、ライトフォーゼの顔は全然晴れていない。
「P2P接続に限定すれば、サーバー内部での連絡はできる。それはさっき確認した。他の三国と連絡が取れたからな。だが、他のサーバーとは不通だ。電話回線だけじゃない。通常のネット回線、VR専用の大容量回線もだ。つまり、ここは完全にネット上からも現実からも孤立した世界になっちまったってわけだ」
ライトフォーゼが愕然としているのがわかる。
ラピスの方も、表情には出していないが怯えている。
ただ、俺とユイさんだけは違った。俺達はこれと全く同じ状況を、既に別の場所で経験していたから。
「外部との回線切断に、コマンドの上書きって、瑛士くん」
「あぁ、たぶん合ってると思う」
「どうした? エイジ、ユイ。思い当たる事でもあるのか?」
レヴィたんが俺とユイさんを見る目が、一層厳しくなった。
「はい、正月の始めくらいなんですけど……瑛士くんに誘われて」
「コミケであんな事があったから、ちょっとでも仮想世界を楽しんでもらおうと思って、叔父さんのつてで、ユニコーンスタジオのプライベートスペースに招待したんです。そこで、インフェルスの過激派に襲われました」
これには、レベルたんも含めた三人が驚いた。
ライトフォーゼはユイさんを、ラピスは俺の方をじっと見つめてくる。
内緒にしてたのは、やっぱり悪かったかなぁ。非難の視線が、ザクザクと突き刺さる。
でも、余計な心配もかけたくなかったしなぁ。あとで、全部まとめて謝るか。
「その時に、外部との回線が全部切られて、ログアウトも不可能、普通だと実体化できないアイテムを、プライベートスペースの制限を無視して出現させたりしていました」
ラピスとライトフォーゼの刺だらけの視線を無視して、俺は続ける。
レヴィたんもそれを、ただ無言で聞いている、ように見える。何考えてんのかまではわかんねぇけど。
「そうか、ありがと」
しばらくの間何かを考えてたみたいだけど、レヴィたんは何も言わずにどこかへ行ってしまった。
取り残された俺、ユイさん、ラピス、ライトフォーゼの間に、後味の悪い沈黙が広がる。
そういえば、戦闘中にメールが一通来てたな。
周囲の空気から逃げるようにメニュー画面を呼び出し、メールボックスの新着メールを開いた。
ただ、
BSG運営サイト
【無題】
────────────
19:33:53
────────────
TyHk3487
v2ty9BUk08F4kTaZ
────────────
「……なんだこれ?」
届いていたのは、件名の無い、本文も半角英数字が書かれただけの、運営サイトからのメールだった。
普通なら定時に自動配信されるはずだから、こんな中途半端な時間に送られているのはおかしい。
「なあ、これなんだと思う?」
ホログラスの視界共有モードで、届いたメールを三人にも見せた。
ユイさんはもちろん、不機嫌なライトフォーゼも、無言の圧力を加えてくるラピスも、目を通してくれた。
「これ、何だ?」
一番最初に、ライトフォーゼが口を開く。
「さぁ。たださっき、戦闘中にいきなり届いたから、放っておいたんだけど」
答えながら思考をめぐらすけど、なんとも気持ちが悪い。
どこかで見た事があるような気がするんだけどなぁ。もしかしたら、思い過ごしかもしれないけど。
でも、思い過ごしじゃない気がするから、妙な感じがするんだろう。
「でも、何で二つあるんだろう」
言いながら、ユイさんはまたメールとにらめっこ。
確かに、よく考えてみれば、二つある事にも意味があるんだろう。
いや待てよ、半角英数字の文字列って、俺達もよく使ってるじゃねぇか。
「これ、何かのIDとPASSじゃないですか?」
「あっ!」
ラピスの一言で、頭の奥で引っかかっていたもやもやが形になった。
もし俺の考えが当たっていたとしたら、今ユニコーンスタジオは大変な事になっているかもしれない。
サーバー内の電話は、まだ生きてるんだったよな。
ホログラスからアドレス帳を開き、俺はレヴィたんに電話をかけた。




