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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase01:Virtual Reality Game
5/62

Stage04:2062/12/15/20:07:08【-1011:52:52】

 それから待つ事十分。

 “<眞鍋咲希>さんよりお電話です。お繋ぎしますか?”

「繋いでくれ」

『お待たせしました、速水先輩』

 一枚目のダイアログの表示に答えると同時に、“<眞鍋咲希>Sound Only”のダイアログに続いて咲希の声が聞こえてきた。

 一、二分で済むと思ってたけど、随分と時間がかかったなぁ。

 もしかして、好きなタイミングでセーブできなかったりするんだろうか。

 そうこう考えている内に、警告音と一緒に二枚目のダイアログが開いた。

 “<眞鍋咲希>さんから入室の許可を求められています。許可しますか?”

「入室を許可」

 気のない俺の声と同じように、なんとなく気の抜けた電子音が部屋の中を反響した。

 その直後、ネットの海を一望できる窓際に、一体のアバターが構成された。

 背丈は、だいたい一六〇センチ後半。雪花石(アラバスター)のような透き通った白い肌に、すっと鼻筋の通った美しい顔立ち。

 ナチュラルロングの髪と切れ長の瞳は、落ち着きの漂う深い蒼。

 深窓の令嬢と言うに相応しい、絶世の美少女だと思う。

 白いワンピースと、白いつば広帽子、そして白い日傘なんかも、深窓の令嬢を思わせるのには最適なアイテムだ。

 一流のモデリング職人でも、このアバターを再現するのは難しいだろう。

 相変わらず、すげぇアバター持ってんな。

 俺もかっこいいアバター欲しい。

「遅かったじゃねぇか。何やってたんだ?」

「え、それ聞いちゃいますか?」

 咲希は口元を手で隠しながら、お嬢様なアバターには似つかわしくない嫌らしい笑みを浮かべている。

 何? そんなに人に言う事のはばかられるようなゲームしてたのか?

「そりゃ、気になるなだろ。これだけ待たされてりゃ」

「それに関しては、その、非常に申し訳なく思っています。まさか、あそこからあんなイベントに繋がるとは、私も思っていなかったもので」

 少し強めの口調で言ったのが効いたのか、咲希はしゅんと縮こまったまま、URLを転送してくる。

 一瞬だけ躊躇したけど、俺は転送されたURLを打ち込んでリンク先のページを表示して、そんでもって思わず噴き出しそうになった。

「っておま、咲希! お前、なんてもんやってんだよ!」

「『妹パラダイス!! ~だめぇ、お兄ちゃん。もうガマンできない!~』」

「読まんでいい!」

 俺の叫び声にびっくりして、咲希はまた縮こまって口をつぐんだ。

 まったく、油断も隙もあったもんじゃない。

 開いたページに、頬を赤らめながらあられもない姿の女の子が、あー!! な事になっている絵が描かれていたら、誰だってこうなる。

「これ、エロゲじゃねぇかよ」

「はい。老舗のエリス社から二ヶ月前に発売された、VR環境完全対応のエロゲです。好評発売中です」

「宣伝しろとも言ってない。って、なんでこんなの持ってんだよ!」

「割りました」

「犯罪じゃねえか!」

「嘘です。兄の部屋から、こっそり持ち出しただけです」

 んにゃろう、からかいやがって。

 今度ゲームする機会があったら、ぼこぼこにしてやるからな。

「すごいんですよ、これ。イベントの時には、実際にキャラクターとイチャイチャラブラブ、キャッキャウフフできるんです」

「…………さすが、HENTAI(ヘンタイ)大国、日本だな。VR技術やNPC技術が発達してきたからって、それをエロゲに使っちまうとは」

 思わず開けたままのページをちら見してしまって、モーレツに顔を覆いたくなった。

 またこれが俺の好きなタイプの絵で、正直やってみたくなってしまう。

 なるほど、ちょうどイベント中で離れられなかったわけか。

「どうですか先輩? 承認回避プログラムの入ったデータ、すぐに転送できますけど?」

 咲希はまた口元を覆って、嫌らしい笑いを浮かべている。

 ゲームのバトルだったら戦闘中ずっとポーカーフェイスで過ごせるのに、こういうのはほんとすぐ顔に出るらしい。

 俺の本心を見透かしている咲希は、無言でデータ転送の許可申請を寄越してきた。

 俺の目の前にはダイアログが表示され、“<眞鍋咲希>さんからデータ転送の許可を求められています。許可しますか?”の文字列が表示される。

「…………」

 十秒くらいじっくり悩んでから保存先を自室のPCに設定して、俺はデータ転送を許可した。




 さすがにエロゲのデータをもらうなんてのは恥ずかしかったが、ここは俺の庭とでも言うべきネット空間の中。

 なので俺も、リアルとは違ってかなり堂々とできる。

「んおっほん!」

 苦し紛れに咳払いを一つかましてから、ようやく本題に入った。

「柏木が、パソ研のメンバーで冬休みどっか行こうって言ってたんだけど、咲希はどうなのかなって思ってさ。それで連絡したんだよ」

「……つまり、オフラインで遊ぼうと?」

「まあ、直訳するとそういう事になるな」

「……つまり、太陽の下にこの身をさらせと?」

「じゃなきゃ、外出られないだろ」

「……つまり、私に溶けろと?」

「安心しろ。人間の体は、太陽の光に当たった程度じゃ溶けないから」

「速水先輩、なんて事を言ってるんですか!」

 咲希は両手で力一杯拳を握ると、目をギラギラさせながら俺に向かって豪語してきた。

「人間があの太陽の下で、生きられるわけないじゃないDETH(デス)か!」

「暇なんだな。じゃ、柏木にそう伝えとく」

「スルーしないでくださいよぉ。何かツッコミ入れてくれると思って期待してたのに。まあ、確かに暇ですけど。先輩と同じで、オフラインでは(●●●●●●●)

「うぐぅ……」

 さすが、俺の同類だけあって痛いところを突いてくる。

 まあ、誰かとパーティーを組んで、年末イベントにありがちな大規模クエストに挑戦しようとか、そんな予定はないけど。

 あくまでアカウントを持ってるゲームの中で、面白そうなイベントをしてるゲームをやるくらいで。

 それに俺としては、三枝さんといられるなら、その方が…………。

「速水先輩?」

「あ、うん。どうかしたか?」

「いえ。ぼーっとしてたので」

「そうなのか。いや、何でもない。気にするな」

 いかんいかん、三枝さんの事を考えて、ついぼーっとしてたらしい。

 さすがに、今度はエロゲの時と違って心読まれてないよな。

 とりあえず、念には念を入れて咲希には背中を向けてから、ホログラスのメールフォームを起動する。

 もちろん、柏木にメールを送るためだ。

 咲希が柏木にアドレスを教えればこんな事をしなくてもよかったんだけど、こいつの変人具合はこんな場所でも遺憾なく発揮されていて、アドレスを同類の俺と部長の松井先輩だけでにしか教えたくないらしい。

 あの留年した松井先輩と同類扱いされるのもしゃくだが、まあそこは仕方がないか。

 俺も人に自慢できるほど、成績は悪いし。

 時々見かける自虐レスとか見ると、つい共感してしまうくらいには。

「それで、用事というのはそれだけですか?」

「あぁ。で、結局どうなんだ? 冬休みの予定は」

「先輩が行くのなら、私も行きます」

「お前、本当に暇なんだな」

「先輩には言われたくはないです」

 本文に、“咲希は大丈夫らしい”と入力して、柏木にメールを送信。

 そのすぐ後、柏木から返信が返ってきた。

「松井先輩、年末じゃなかったら、一日くらいは時間作るってさ」

「ネカマの先輩も来るなら、絶対に行きます」

 ついでに言えば、他の部員にも声をかけてみるそうだ。

 来るかどうかは別として。

「それで先輩、この後はどうするんですか? よろしければ、一緒に何かやりません?」

「そうだなぁ。晩飯にはまだちょっと早いし。VR系のシューティングゲームでもするか? 今日松井先輩の作った、アナログのFPSしてたら、なんかやりたくなってさ」

「アナログっていうと、これですか?」

 咲希は箱を持つように手を出すと、指をうねうねして見せる。

「そうそう。コントローラで操作するやつ」

「そういえば、VRゲームの前までは、コントローラが一般的だったらしいですね」

「いいもんだぞ、アナログゲームも。VRゲームっていうと“体感”系ばっかりだけど、アナログゲームはシナリオのしっかりしたゲームがけっこうあるからな」

「ふむふむ。ならば、今度オススメを貸してくださいな」

「おぉ」

 俺は部屋にしまってあるソフトを思い出しながら、机の上にある端末でネットにアクセスする。

 端末の画面には、即座にシューティングゲームの一覧表が表示された。

 でもまあ、最近は基本プレイ無料が減ってきたせいもあって、画面には四つしか名前がないわけだけど。

 その中から一番回線の空いているものを選択し、窓の近くにゲームにログインするためのゲートを出現させる。

「そういや、咲希はこのままゲームに行っても大丈夫なのか?」

「はい。Play Taminal≪プレター≫から没入(ダイブ)してますんで。VRゲームやるなら、やっぱりPCより専用のゲーム機でないと」

 それに関しては、俺も同感だ。

「よし、行くぞ」

「はい!」

 俺と咲希は意気揚々と、火薬とオイルと血の匂いが蔓延る戦場へと足を踏み入れた。

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