Stage45:2063/01/25/19:17:52【-0028:42:08】
突然ですが、発表したい事があります。
最近、嬉しいんだけど緊張しすぎて困った事があるんです。
「でさぁ、スキルポイント貯まってるから何か覚えたいんだけど、どれがいいのかなぁって思って」
現実でもお昼ご飯を一緒に食べさせていただいておりますのに、仮想の方でもちょくちょく俺の部屋に来る頻度が上がっておられるのです。三枝さんの。
「何か条件満たしたっぽいやつは、ちょくちょく出てくるんだけどね。ただ、スキルポイントは使ったら戻したりできないし、攻略Wikiだっけ? あれ見てもよくわからなくて」
これってどういう意味なんでしょうか。てか、意味とかあるんでしょうか。
いや、嬉しいんだけど、上手くいきすぎて心配になるんです。小心者なんで。
「って、聞いてる? 速水くん」
よし、まずは冷静になってみよう、うん。
混乱したままじゃ、わかるものもわからなくなる。
「速水く~ん」
えっと、今日は三枝さんが、スキルポイントを消費して習得するスキルの事を聞きに来て、それで…………。
「え、瑛太……くん?」
「は、はい!?」
え!? はぁ!? えぇっ!?
「あの、私の話、ちゃんと聞いてる?」
「き、聞いてる聞いてる!! スキルの事でしょ!」
いいいいい、いま、下の名前、でぇ……呼ばれた、よね?
「あ、あの、三枝さん、いまのは?」
「な、なんでもないから、忘れて。お願い」
「は、はぃ」
うぉ、顔真っ赤にして俯いた。
三枝さんが可愛すぎて生きるのが辛い、辛すぎる。
忘れてとは言われたけど、忘れられるわけがない。くそ、これなら録音アプリでも入れておけば……。
あ、でも叔父さん前、ブレゴスやNoVAのメモリーから視界データや聴覚データを抽出して再生させてたよな。ってことは、頑張れば今の音声も復元できたりも?
「速水くん、今変なこと考えてたでしょ」
「い、いや!? 全然、そんな事ないよ…………」
ダメだ。目が直視できなくて泳いじゃう。
「名前で呼ばれるの、そんなに変だった?」
「変じゃない! 全っ然変じゃない!! けど……」
「けど?」
「び、びっくりしました、はい」
いかん、場が完全に静まり返ってる。
話題、話題を探って、そんな技能俺にあるかぁ!!
「なんで敬語なのよ」
「いや、なんとなく、なってしまったと言うか」
「はぁぁ、もういい」
視線を外しちゃう三枝さん。
でも次に待っていたのは、心臓が止まりかねない、もっとびっくりな事だった。
「ささ、三枝さん!?」
ううう、腕に三枝さんの腕と肩が、肩には三枝さんの頭がががが!?
「な、何をしてるん、でしょうか」
「────んーっとねぇ、言っても全然気付かないゲームバカに、全身で表現、してみた……」
き、聞いてるだけで恥ずかしくなってくる。
ただ、本人はもっと恥ずかしかったらしく、肌の見える場所全部赤くなってた。
その温度差のお陰からか、まだなんとか考えるだけの思考力は残っていた。
「ごめんなさい、ゲームバカで」
「あぁもう、そうじゃなくてっ!!」
顔がぐいっと引っ張られて、三枝さんの方を向かされた。
視界が全部三枝さんになるくらい、近くに顔があって。仮想の体なのに、胸が痛いくらい鼓動しているのがわかる。
「もっと他に、言う事あるでしょ」
頬を両側から三枝さんの手にはさまれて、動かす事ができない。
思ったより小さくて、冷たいくて、柔らかい手だ。
「えっと、例えばぁ、どんな?」
「……はぁぁ。速水くんに期待した私がバカだったわ」
三枝さんは手を離すと、俺から離れるようにベッドの縁を移動した。
あぅぅ、またやっちゃったよ。今のやりとりで、どこかに三枝さんを怒らせるような事言っちゃったんだろうな。
だって仕方ないじゃん、ボッチ歴長かったから空気読むの苦手なんだって。
でも、緊張からも解放されて、ようやく頭が回るようになってきた。
「あ、そうだ。三枝さん」
「なによ?」
うぉ、すげぇ不機嫌になってる。目ぇ座ってるし……。
それはともかく、いやともかくとも言ってられないんだけど、とりあえず今は置いておいて。頭が回り始めたお陰で、ある事を思い出した。
ホログラスのデータフォルダからそのアプリを選んで、三枝さんに転送する。
「速水くん、これ何?」
「前に言ってた、英語の学習アプリ。いいのがあったから」
「あ、あれ本当に探してくれてたんだ」
え? ならあれって、冗談で言ってたの?
「はぁぁ、ほんとにもぅ。速水くんったら」
あ、でも声からは完全に毒気が抜けたみたい。
三枝さんはその場でアプリをインストールして、起動させた。
この位置からだとよくわからないけど、三枝さんからは【Learning English】のロゴが大きく表示されているはずだ。
「仕方ない、今日は帰って、これで勉強しよっかなぁ。来週からテストもあるし、赤点だけは回避しないと」
「がんばれー」
「棒読みで言われても、気持ちが感じられませんよーだ」
三枝さんはたんっとベッドから跳ねると、ログアウトメニューを開いた。
俺も数学の勉強しなきゃな。間違っても、松井先輩みたいにはなりたくない。
「ねぇ、速水くん」
「ん?」
三枝さんは俺の目の前まで回り込むと、ベッドの縁に座ったままの俺と視線を合わせて、
「私、速水くんのこと、好き、だよ」
「え?」
と一言。
「返事は、現実で聞かせてね」
「ちょっと、待っ、三枝さん!」
慌てて手を伸ばしたけど、その時には三枝さんの体はポリゴンになって散っていて。
俺がその後しばらく茫然自失していたのは、言うまでもない。




