Stage44:2063/01/24/20:56:07【-0052:04:53】
封印の谷に降りたった瞬間、空気が変わったような気がした。
それは俺の後から降りてきた人達も変わらないみたいで、みんながみんな肩に力が入っている。
周囲を警戒しながらフィールドを進んで行くと、突然足元が激しく震え出した。
地震…………なわけがない。
すると視線の先で、ごぽっと地面が盛り上がる。
魔法使い勢はやや後方に下がり、剣士勢は武器を構えつつ防御体勢に入った。
そして二七人のプレイヤーが見守る中、そいつは姿を現す。エンシェントドラゴン。全長は三〇メートル以上。グロリアスドラゴンをそのまま大型化させたような、二本足と重たそうな威容に、思わず生唾を飲み込んだ。
「で、でけぇ」
「おい、こんなんマジ倒せんのかよ」
「まだまだ後続の連中もいる、大丈夫だ」
「後続なんかが来る前に、さっさと決めちまおうぜ!」
各所で上がる驚愕と恐怖の声。
ゲームとわかってはいても、どうにもならない事はある。これは紛れもなく、その一つなんだろう。
本能的な恐怖には、どうやったって逆らえない。
まあ、そんなのも今の内だけなんだろうけど。
「フィアムント・ハンドリー☆」
その緊張を最初に破ったのは、緊張感の欠片もない舌っ足らずなロリボイスと、
────ドドドドドドドドドドドドォォオオオオオ!!!!
容赦なさすぎる、最上級の火系魔法の大砲撃だった。
それを皮切りに、全プレイヤーが一斉に動き出す。
魔法使い達は包囲するように広がり、剣士達は足元へ殺到した。
てか、でかすぎだろ。上の人達、よくこんなん倒したな。
俺も側面から回り込むように、猛ダッシュをかける。いつまでも正面にいたんじゃ、いつ直撃をもらってもおかしくない。
そして真横まで来たところで急反転、エンシェントドラゴンまで一気に駆け寄った。
「ブーステッドザンバー!!」
斬撃の威力を劇的に跳ね上げる必殺技スキルを叫びながら、大上段から丸太みたいな足めがけて剣を振り下ろす。
でも、
「堅すぎだろ!!」
一応刃は引ききったけど、もの凄く嫌な感触と音がした。
ただ、あんまりデカすぎるから動きもトロい。
エンシェントドラゴンの様子に気を払いながらも、とにかく同じ場所を何度も斬りつける。それから何度も切りつけていると、不意に足が動き出した。
俺は大急ぎでバックジャンプ。
──────グルァァァアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!!
鼓膜が敗れそうな雄叫び、それと同時に振り下ろされた足の衝撃で、地面がめくれ上がった。
俺は寸前で回避できたからまだマシだったけど、逃げ遅れた奴は今のでかなりHPを持って行かれた。
視界端にあるパーティーのHPバーを見ると、ライトフォーゼのゲージが七割くらいごっそり削られてる。
「嘘だろ、あれだけでか」
ワロエナイもとい、マジでワロエナイ。
ただの足踏みでこれなら、ガチの攻撃とかされたら。
と思った矢先、エンシェントドラゴンが億劫そうにのっそりと口を開けた。
それから五秒くらいたっぷり時間をかけてチャージして、
────グワァアアアアアアッ!!
真っ赤なブレスが口から放射された。
いや、ブレスというより、ほとんどビームだな。赤い極太ビーム。
そんなビームみたいなブレスが、正面で奮闘していたプレイヤー達を、根こそぎ焼き払った。ブレスが放射された跡には、プレイヤーが死亡した事を示すアイコンが三つ浮かんでいる。
魔法使いだけじゃなく、剣士も混じっているぞ。
「即死攻撃ですか……」
だが、絶望するにはまだ早い。
フィールドの端や上の方から、エンシェントドラゴンに次々と攻撃魔法が撃ち込まれた。
「くそ、先越されたか」
「まだ始まったばっかっぽいぞ!」
「いけいけぇええええ!!」
第二陣。合計十五人のプレイヤーがなだれ込んできた。
二七引く三足す十五で、合計三八人。まだまだ勝負はこれからだ。
一度下がったおかげで、ようやくエンシェントドラゴンのHPバーが確認できた。
これまでのモンスターと違って、HPバーが多段表示になっている。
計三本。その内の一番下のバーが、数ミリくらいかけていた。
弱点をどっか突かないと、かなりの長期戦になるな。いや、弱点突いても長期戦にはなるんだろうけど。
まずは全身を観察して、背中に登れそうな場所を探す。攻撃は、左足に集中してるっぽいな。
ただ、ほとんどが弾かれてるようにしか見えない。
となると、定番としてはやっぱり頭か。
「嫌だなー、あの即死ブレスは」
でも、これで死ぬと叔父さんの喜ぶ姿が目に浮かぶ。
うん、維持でも死んでやらねぇ。
すると、エンシェントドラゴンがこっちの方を向いた。
狙っているのは足元のやつだけど、嫌な予感がヒシヒシと伝わってくる。
「アレスク!」
移動速度強化の補助魔法を唱え、俺は本能の赴くままにその場から全力で横に走った。
するとその瞬間、背後から焼けるような感触と一緒に、凄まじい爆風が襲いかかってきた。
「うわぁぁああああああっ!?」
別ゲームで身に付けた受け身でダメージは最小に減らしたけど、それでも合計で一割近く持って行かれた。直撃食らった時のフィードバックが怖すぎる。
でも、今のでモーションはつかんだ。
今度はできる限り接近して、顔面を強襲してやる。
エンシェントドラゴンは這い寄る有象無象を蹴散らすように、その場で激しく足踏みした。
やや余裕のあるモーションだったけど、それでも余裕をぶっこきすぎたメンバーが、無残に散っていった。
「ったく、バカが」
そんな連中を口汚く罵りながらも、心は仇討ちに燃えている。
移動速度強化のお陰で簡単に近付くと、MPを温存するのに威力の弱い魔法を連発して顔に放った。
すると、生々しい質感の目が、ギロリと俺の方を見てきた。
来る!
巨大な口を開きながら、首を下に下ろしてくる。
そうは問屋が卸さない、ってな!
ビームみたいなブレスの射線から離脱するように、斜め前へと猛ダッシュした。
エンシェントドラゴンも俺を追って顔を向けてくるが、やっぱり遅い。
────ビョォォオオオオッッッッッドドドドドドドドドドドドォオオオオオッ!!
エンシェントドラゴンのブレスが、背中のすぐ後ろを通過した。
爆風にあおられて危うく足を滑らせそうになったけど、なんとか踏みとどまった。今度は、こっちの番だ。
まだブレス攻撃中のエンシェントドラゴンは、動けない。
「ダンナーシュティーツ!!」
全身をバネのようにして、手元の剣を突き出す。
バチバチと激しい雷光をまとった剣先は、寸分の狂いなくエンシェントドラゴンの目を刺し貫いた。
────ギュワァァァアアアアアアアアアアッ!?
これまで集中砲火を受けて数ドットしか減らなかったHPバーが、今のだけで数ドット減った。
やっぱ、難しいけど狙うのは顔め…………ん?
「うわ、ちょぉっ!?」
痛みにぐわんぐわん首を振ってるエンシェントドラゴンだけど、その吐き続けてたブレスに巻き込まれた俺のHPバーが、一瞬にして溶けた…………がっくし。
その後、顔面に魔法総攻撃、ブレス終了直後に剣士が顔面を総攻撃。
そんな即死プレイを慣行する事十五分後。
「いや~、みんなお疲れ様☆」
とどめを刺したレヴィたんが、集まったメンバー全員に労いの言葉をかけていた。
あれの中身が野郎だって知ったら、みなさんどんな反応するんでしょうか。少し気になる。
「よう、瑛士。大丈夫か?」
「いや、二回死んだ」
「そうか、俺なんか五回もだぜ」
「ふぅぅ。ライトくんよりは少ない。私は四回」
「ユイさんもほとんど変わらないじゃないですか。私は何十人復活させたかわかりません」
参加人数は最終的に百人以上まで膨れ上がった。
まあ、そうでもないとこの短時間にクリアとか無理だ。
「それで、先輩方は報酬何が出ましたか? 私は魔法系素材の、古代竜の血をいっぱい頂きました」
「オレは…………武器素材の古代竜の鉤爪か。まぁ、死にまくったもんなぁ」
「私はぁー、おぉ、防具出てる! エンシェントスカートだって。翼の素材から切り出したって書いてあるよぉ!!」
「すげぇな。まぁ、ライトと違って顔面攻撃しまくってたしな」
「違うの! オレの武器は重いから、素早く移動しなきゃいけない顔面攻撃はできなかっただけ!」
さーて、ライトフォーゼの言い訳は放っておいて、俺のアイテムはぁ…………。
「うそ、マジで?」
「先輩、何かすごいアイテムでも出たんですか?」
「なになに、私にも見せてぇ」
「あ、オレにも!」
全員が俺のメニュー画面をのぞき込んできた。
俺も自分の目を疑ったけど、間違いじゃないらしい。
エンシェントブレード。エンシェントドラゴンの牙から作られた剣で、今持ってる武器の中じゃダントツの火力がある。さっきまで俺の使ってた剣が、ナマクラに見える。
あれもいいものなのに。
まあ、それはともかくとして、
「はぁぁ。今日は疲れたから、もう落ちるわ」
「なら、私は素材を加工してもらってきます」
「オレはもうちょい頑張るわ。さっき野良パーティーに誘われたから」
「それじゃ、私はちょっと家行ってゴロゴロしてよっと」
俺はまだ元気そうな三人と、何か祭り上げられてるレヴィたんを一瞥してから、ログアウトボタンを押し込んだ。




