Stage42:2063/01/20/13:28:15【-0154:31:45】
松井先輩の出したサイトに掲載されてたURLからリンク先にアクセスすると、俺達はどこかの仮想空間にログインしていた。
IDもパスワードの入力もなかったけど、大丈夫なんだよな。
「ここはNoVAの開発会社の片方、山内電子が一般公開している公共レジャーフィールドだ。山内電子から発売されたVRゲーム機にライセンスが組み込まれてるから、山内電子製のハードなら入れるようになってんだとさ。他社製のハードでも、月額五〇〇円で利用できるらしいぞ」
ぼけーっとしてた俺達三人に、紹介ページを見ながら松井先輩が説明してくれた。
公共レジャーフィールドって簡単に言ってるけど、ここもかなり……というかムチャ広い。
初ログインというのもあって、目の前には簡単な説明の付与された地図が表示されている。下は海水浴やサーフィンから、上の方はスキーやスノボーまでできる。真ん中辺りにはキャンプ場、森の中にはアスレチックス施設まであるみたいだな。
他にもテニスコートや、予約は必要だけどサッカーグランドとか野球スタジアムなんかもある。まさに、致せり尽くせり。
すげーな、山内電子。
「ちなにみ、もう片方のSonizeの方は、屋内遊戯施設の解放をやってるらしいぞ。使った事ないから知らんがな」
つまり、山内電子が屋外で、Sonizeが屋内って役割分担してるわけか。そう考えると、効率いいな。
「まあ、美夏は体動かしたいらしいから、今日は山内電子のレジャーフィールドがいいなぁと思ったわけなんだが。瑛太と咲希はどうだ?」
「いいですよ。仮想なら、運動も自信ありますから」
「ふっふっふっ。速水先輩の超人的反応速度に、恐れおののくがいい!」
「なんでお前が偉そうにしてんだよ」
「あぅっ!?」
とりあえず、調子に乗ってる咲希に軽くチョップを一発。
それはともかくとして、これだけ広いと何するか迷うな。俺は何でもいいから、とりあえず先輩に任せとくか。
「というわけで、何やるか? 一応二四時間開放されてるが、そんなにいないからな」
「俺はみんなに任せます」
「スキーしたい!」
意外にも、咲希がぐいっと手を挙げて意見を出した。
気象データにバグでも発生して、雨降ったりしたりしないだろうなぁ。
「スキーかぁ。この海はこの前やったし、私もそれでいいかな」
「この前? 三枝先輩、ここにはよく来るんですか?」
「え……あぁー。前にぃ、一回来ただけなんだけどね。あはは、あはははははは……」
咲希に聞かれて、三枝さんはきまずそうに目をそらした。
確かに前は海だったけど、それは山内電子のレジャーフィールドじゃなくて、ユニコーンスタジオのプライベートフィールドだからな。
みんなが羨ましがるだろうからってんで、こっちも内緒にしている。
もちろん、一番の内緒事項はインフェルスの過激派の事。
「それじゃ、雪山のポータルに飛ぶぞ。行き先、間違えるなよ」
いい感じに松井先輩がまとめてくれたところで、俺達は雪山近くのリンク先へ飛んだ。
飛んだ先でメニュー画面からスキーウェアとスキー道具一式を呼び出すと、さっそくリフトに乗り込んだ。
とは言っても、最初は一番低い所で練習だけど。
「スキー板をハの字にして、曲がりたい時は行きたい方と逆の足を開いて、止まりたい時は逆ハの字か……」
ヘルプから一応、スキーの滑り方のページを呼び出して確認。スキーなんてリアルでも仮想でもした事ないから、なんか緊張する。
シューティングゲームでなら、銃かついで雪山滑って敵陣強襲した事あるけど。
「どう? 速水くん。滑れそう?」
「先輩なら大丈夫ですよね!」
で、リフトを降りたのはいいんだけど、なぜか三枝さんと咲希から超期待の眼差しが。
「おーおー、リア充爆発すればいいのに」
「先輩、ここ仮想空間ですからね。全然現実じゃありませんよ」
あと、現実ならスポーツそんな得意でもないから、スキーとか絶対滑れないです。きっと。
あと、寒さって絶対こんなもんじゃありませんもんね。死ぬほど寒い中、わざわざ外に出たくないです。
そう言ってる間に、松井先輩が滑り出した。おぉ、けっこう様になってる。
「まあ、いったん滑ってみればわかるか」
ストックを雪に突き刺し、松井先輩に続いて俺も斜面を滑り始めた。
こうしてみると、リフトで見ていたより傾斜が緩やかに見える。
顔に当たる風が気持ちよくて、体にかかる加速に全身が引き締められるみたいだ。
まるで戦闘中みたいに、気分が昂揚してきた。こうなっちゃうと、もう自分でも止められない。
もっと速く、速く、速く!!
広げていた足をだんだんと閉じていくと、みるみる速度が上がっていく。
ゆったり滑っている人を追い越し、わずかに足を開いてかわし。
ただ、それも長くは続かず。
「お前、飛ばしすぎだろ。スキージャンプでもするつもりか?」
「いやぁ、ついー、いつもの調子で」
あっという間に、麓までたどり着いちゃいました。
途中で抜かしちゃった松井先輩が、すげージト目で見てくる。
「速水くん、速すぎだって」
「さすが先輩、私達にできないような事を平然とやってのける。尊敬します!」
「どうせされるなら、リアルでされたかった」
うん、今の滑りも仮想だから出来たんだからな。
現実だと怖すぎてできるかあんなもん。
「でも咲希、どうしてスキーだったんだ?」
一回滑って慣れたところで、ふと思った疑問を聞いてみた。
俺以上に虚弱貧弱なインドアラーな咲希が、なんでスキーなんかやりながったのだろうか。
それは松井先輩も三枝さんも同じだったらしく、俺同様に咲希の方を見ている。
「正月をパパの実家で過ごした時に、おじいちゃんに連れられて裏庭でやらされて。それが思ってたより面白かったから」
なるほどなぁ、実家でかぁ。実家でなぁ。実家なのかぁ。
いや、それ自体は別にいいんだけどさ。さらっと言ってるけど、裏庭でスキーっていったいどんな状況なんだよ。
見てみろ、俺含めて全員苦笑のまま固まっちまったじゃねぇか。
「さ、さて。じゃあ、次はもっと上から滑ってみるかぁ」
「そうですね」
まさに気を取り直して、って感じで松井先輩はリフトに移動し始めた。
俺もその後ろに続いて、雪上を滑る。
それじゃ俺も気を取り直して、もっとぶっ飛ばしてみよう。
内心ワクワクしながら、俺はリフトに乗った。
「ほんとにもう、調子に乗るからこうなる」
「ほっとけ美夏。バカにはいい薬だ」
「大丈夫ですか、先輩?」
一時間半ほど滑りまくった俺達は、ゲレンデから少し外れたかまくらエリアでくつろいでいた。
で、なぜ俺が二人から呆れられた視線、一人から心配気な視線を向けられているのかと言いますとぉ……。一番最後に頂上からブレーキなしでぶっ飛ばしてたら、麓付近で足がもつれてすっ転げて、頭からゲレンデにダイブしたから。
スゲー痛かったけど、一定以上の痛みはリミッターでカットされるからそれなりに平気だったりする。それでも、痛いもんは痛いから、こうしてかまくらで休憩なうなわけだけど。
「おぉ、俺のあんこ餅も、いい感じに焼けてきたな」
「ネカマ先輩。なぜにあんこ餅?」
「別にいいだろ。七輪であんこ餅を焼いちゃいかんなんてルールないんだから」
「あ、私もきなこ用意しないと」
「んじゃ、俺はぜんざいがいいからあんこの汁的なやつを」
現在、俺達はかまくらの中で七輪を囲んで餅を焼いている。
咲希は砂糖醤油、三枝さんはきなこ、俺はぜんざい。松井先輩は一人だけあんこ餅を、網の上で転がしていた。
「はぁぁ、雪に囲まれてんのに、暑いなぁ」
「だねぇ。噂には聞いてたけど、かまくらの中ってかなり暑いんだね」
そう愚痴をこぼしながら、俺と三枝さんはスキーウェアを緩めた。
「さすがに、現実はここまであったかくないと思いますけどね。……はい、お餅焼けましたよ」
「あんこ餅ウマー」
抜け駆けした先輩をのぞいて、焼けた餅を咲希はトングでそれぞれの用意した容器に入れていく。
なんか、お餅パーティーみたいだな。
「はふはふ。これ食ったら、今日はお開きでいいな?」
「はい。……う~ん、砂糖が足りない」
「ん~、おいしぃ。良い塩加減。私もいいですよ」
「ずずずずぅ、同じく」
それはともかく、これなかなか美味いな。
現実でも食いたくなってきた。冷蔵庫に入ってないの知ってるだけに、虚しくなってきた。
「味の再現度高いな、山内電子。ごちそうさん」
「所詮はデータですよ、ネカマ先輩。美味しいだけに残念ですけど」
「本当にねぇ。うちも、きなこの材料あったかなぁ……」
みんなも、味に関しては同じ感想をだったみたいです。俺も大満足でした。
「今度は、柏木も連れてきます?」
「そうだな。ブレゴスのサービス再開も、さすがに明日じゃ無理だろうからな。明日は琢磨も誘って来よう」
「あんなバカな先輩はほっとけばいいんです。ごちそうさまでした」
「あははぁ、咲希ちゃんキツすぎ」
なにはともあれ、今日もなかなか楽しかった。
ログアウトしたら、また叔父さんに現状を聞いてみよう。
「そんじゃ、俺は落ちますね」
「おう、また明日な」
「私も、これで失礼します」
「咲希ちゃんも、また明日ね~」
メニュー画面を呼び出し、四人そろってログアウトボタンを押し込んだ。




