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あの後、午前一時からブレゴスの緊急メンテが行われた。情報によれば、全てのユーザーに同じ内容のメールが送られたらしい。
調査によれば、外部からアクセスされた形跡はなく、わかったのはせいぜい、あれが正規の手続きを経て送られたメールって事くらい。
メールを送ったユーザーには、当然ながらアカウント停止処置がなされている。
もちろんこれは叔父さん経由で入手した情報で、ブレゴス公式サイトや、製作会社であるユニコーンスタジオからの発表はまだだ。
「それにしても、変にカッコ付けたメールですね。気持ち悪くて鳥肌立ちます」
「あれ、お前ってこういうの好きじゃなかったっけ?」
「だよねぇ。咲希お姉ちゃんにしては、珍しいよねー」
そしてメンテを開始して半日を過ぎた今現在、俺の仮想の部屋には残念お嬢様アバターな咲希と、ブレゴスのアバターに小悪魔尻尾と羽を生やした松井先輩が来ていた。
で、口を尖らせて批判してるのは、残念お嬢様アバターさんの方だ。
いつもなら、『廃人は褒め言葉』『中二病は誉れ』的な事言ってんだけど、今日はどうしたんだ?
ちなみに全然関係ないけど、美少女との絡みも好きだけど(エロゲやってるくらいだし)、ダンディーで渋いオジサマも興奮するらしい。
「なんか、かっこの付け方が中途半端な気がして気に入りません。あんなんやるなら、動画データを投稿サイトにでも載せて、メール開いた瞬間に強制再生させるくらいすればいいのに。それか、ユーザー全員の個人情報抜き取って、ホログラスやパソコンに直接メール送ったり」
あぁ、気に入らなかったのは内容じゃなくて演出の方でしたか。誤解した私めを許してください。
でも、個人情報ぶっこ抜かれるのは勘弁して欲しい……。
メアド以外にも、IPアドレスなんぞぶっこ抜かれた日にゃあ、名前や住所その他諸々まで特定されちゃう。いや、クレジットカードとかは作ってないから、そういう心配はないんだけどさぁ。
「確かにねぇー。実際、過激派と穏健派の間で、情報戦やりまくって、個人情報の抜き合いしてんだし。できなくはないんだろうねー」
「先輩まで。そういう事言わないでくださいよ、不安になるんで」
こっちは一回ガチで襲われた事があるんで、シャレじゃ済まないんですよ? とは思いつつ、心配をかけたくなかったのもあって、誰にも話してない俺も俺だけど。
叔父さんの方もセキュリティーをどうやって突破されたかわからないから、とにかく今は強固な防壁を作るしかない。
今回の緊急メンテも、目的はそれなんだろう。今週末の大規模イベントの事を考えれば、鬼畜な物量の作業がお待ちかねだ。
当日まで一週間を切ってるけど、間に合う…………よな?
「でも松井先輩、あのメールってどうやって送信したんでしょうね」
「あぁ、あの一斉メールねぇ。う~ん、お兄ちゃんの叔父さんは、正常に処理されてたって言ってたんだよね?」
「えぇ、まぁ」
それをもう一度確認した松井先輩は、少し考えてから、
「メルマガなら、サーバー関係なく一斉送信できるかな~って、思ったけど」
「いや、差出人はちゃんと、レイモンド・アイファルマになってますよ」
とか言いつつ、視界共有モードでブレゴスのメールボックスから、例のメールを表示した。一応、フィールドに入れないだけだから、メールとかのやり取りはできるんだな、これが。
先輩も咲希も、同じようにメールを開く。三つとも同じ相手、同じ件名、同じ内容のメールだ。
ただし、アカウントを停止されているせいで、返信ボタンを推してもエラーを吐かれてしまう。
「ホント、迷惑だから祭りならよそでして欲しい。今日もレベル上げとお金稼ぎに、マッドハンド大虐殺しようと思ってたのに」
俺の本棚から電子書籍を読み漁っているお嬢様の口から、字面にするとそれはそれはおっとろしい言葉が。
それはそうと、よそでやられても迷惑なだけだから、どこでやってもダメだからな。
「それで、咲希も先輩もどうすんですか? 暇だから来たのは知ってますけど」
「う~ん、どうしよっか。ねぇねぇ、お姉ちゃんはどうすればいいと思う?」
「それはそうと、いい加減気持ち悪いのでそのアバターやめてくれませんか。ハァハァしたりペロペロしたいくらい可愛いのは認めますから」
あぁ、コイツもうダメだな。わかってたけど。
「え~、しょうがないな~」
先輩はホログラスとNoVAとブレゴスのメニュー画面を開き、アバター設定をデフォルトのものに戻す。
レヴィたんのアバターがポリゴンの破片に崩れ去ったかと思うと、それがまた集まって男性型アバターを再構成した。
「これでいいか?」
「はい、その方が遠慮なく罵れますから」
「やめろ、咲希。それ、ただのご褒美だから」
「いや、さすがの俺も、リアルで罵られたら傷付くぞ。もちろん、二次元とNPCなら別だが」
自分で言っときながら、なんちゅう会話してんだろ……俺ら。
それはそうと、どっかいい場所ないかなぁ。
一応インテリア的にパソコンは置いてあるけど、あそこまで行くのも億劫だ。
なんとなくホログラスのブラウザを立ち上げて、時間の潰せそうなゲームを探し始める。
“《三枝美夏》さんから入室の許可が求められています。許可しますか?”
その途端に、最近ではすっかりお馴染みとなったダイアログが目の前に表示された。
「入室を許可」
「お、誰が来たんだ? 琢磨か? 美夏か?」
松井先輩の質問に堪える前に、窓際に一体のアバターが構成された。
男性型じゃなくて、女性型。それだけで、二人とも三枝さんが来たのを察した。
「よう、美夏。お前も暇してたのか?」
「えっとぉ、はい。そんなところです。って事は、先輩と咲希ちゃんも?」
「あぁ」
「右に同じく」
三枝さんの質問に、先輩と咲希が答える。
「なんか最近、二人とも来る頻度がかなり増えてんですけどね。俺の部屋、部室じゃありませんよ」
「いいじゃないですか。外出るのダルいし寒いし行くとこないし」
そう言いながら、咲希はさっきまて読んでた電子書籍を棚に戻して、次の巻の電子書籍を読み出した。
お前それ、来てからずっと読んでるよな。十巻目だぞ。全巻読むつもりかよ。
「ま、まあ、寒いから出たくないのは、わからなくもないかなぁ。でもどうせなら、仮想空間いるんだし、私は体動かしたいんだけど」
「ん? それならいい所があるぞ」
三枝さんのつぶやきを聞いた松井先輩は、あるサイトのページを開きながら俺達にも見せてきた。




