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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase05:Growing vernal feelings
41/62

Stage40:2063/01/19/23:45:59【-0168:14:01】

 俺達はすぐさま、怒号の聞こえてきた方に向かった。

 せっかくの気分が台無しにされてしまったのもあるけど、こんなんが頻繁にあったらたまったもんじゃない。ここに家があるって事なんだろうから上位のプレイヤーなんだろうけど、最低限のマナーくらいは守って欲しい。

 でもそんな呆れ半分な気分は、次第に聞き取れるようになってきた言葉の前に、あっさりと崩れ去った。




「何を躊躇う事があろうか。今こそ勇気を持って現実(リアル)から決別し、真なる楽園(エデン)へ旅立とうではありませんか! 肉体という頸木(くびき)から、己が魂を仮想(ネット)へと解放する時なのです!」




 背中から、ぞぞぞぉって寒気が這い上がってくる。そう思った時には、もう野次馬が見えていた。

「過激派連中か!?」

「みたいですね」

「ウソウソ、マジもん!?」

 思わず素の出るレヴィたん、レヴィたんに同意するラピス、若干興奮気味のライトフォーゼが、どんどんわきをすり抜けて、人垣一歩手前と化した野次馬に突っ込んでいった。

 あんな事がなかったら、俺もあの中に入っていたんだろうな。

 足を止めて、背後を振り返る。

「ユイさん」

「……私、いい」

 亜麻色の髪のアバターが自分の肩を抱いて、小さく震えていた。

「なら、俺もいい。今日はもう落ちよ」

「うん、そうだね」

 俺とユイさんはメニュー画面を呼び出し、ログアウトボタンを押し込んだ。




 “《三枝美夏》さんから入室の許可が求められています。許可しますか?”

 ログアウトした直後、目の前にはもうお馴染みになったダイアログが表示されていた。

「許可」

 俺は迷わず、入室を許可する。電子の海が見渡せる窓際に、黒髪のアバターが構成された。自分自身をモデリングして作られた、デフォルトのアバターだ。

 そういや、ユニコーンスタジオからこっち、アバター設定そのままにしてたな。

「三枝さん」

「ごめん。でも今は、一人じゃ、怖くて…………。ねぇ、そっちに行ってもいい?」

「──────いいよ。てか、断る理由ないし」

 そう言うと、三枝さんはとぼとぼと俺の座るベッドに腰を下ろした。

 それも、肩をくっつけるように。

「手、握ってていい?」

「いい」

 一瞬前までそうだった亜麻色の髪のアバターと同じく、その肩は小さく震えている。

 俺の右手を包み込むように握る両手も、同じく。

「ごめん。ホント、ごめんなさい。迷惑ばっかり、かけちゃって」

「いいよ、謝んなくて」

「うん、ごめん」

「ほら」

「ぁ……ぅん」

 黙っちゃった。

 でも、俺も何て言えばいいのか。

 気の利いた台詞の一つや二つ、出てくればいいのに。

 三枝さん、こんな不安そうにしてるのに、何とかできないのかよ、くそ。

「左肩」

「ん?」

「左肩、もう大丈夫なの?」

「あぁ、うん。何回も言ったでしょ、もう大丈夫だって。リアルで怪我してたわけじゃないし、あくまで仮想で再現されただけの痛みだったから」

 ただし、あの時はフィードバックのリミッターが低い場所だったから、かなり本物に近い痛みらしいけど。

 斬られた瞬間は興奮してたからまだ平気だったけど、あとからすぐに痛みがて……。それが気絶するくらいの痛みで、ネットへの接続を強制解除されるっていう貴重な体験までさせていただいた。

 あ、そういやネット接続の強制解除って脳にダメージがあるかもしれないから、もし起きた場合は病院を受診するようにって、NoVAの説明書に書いてあったな。

 気絶するくらいの痛みとか関係なく、病院には行かされてたわけか。

 と、気まず過ぎて別の事考えていたら、いつの間にか三枝さんが俺の事を見ていた。

「本当に、本当?」

「本当だって。幻痛って言うんだっけ? そういうのもないし、痛み止めも飲んでない。なんなら、診断書でも見せようか?」

 言いつつ、叔父さんが言って作ってもらった診断書のデータを呼び出して、三枝さんに見せた。それと一緒に、各種検査結果のデータも。

 少しは信じてくれたのか、肩の力が少しだけ抜けたような気がする。

 それでも、心配そうなのは変わらず、か。

「俺はそれよりも、あの仮面野郎(あいつ)がどうやって三枝さんの病気の事を知ったのか気になる。そんなデータ、セキュリティーのしっかりしたでっかい病院にしかないだろ? それも小学生の頃なら、けっこう前のデータになるし」

「そう、よね。私の事、どこで知ったんだろう」

 震えと手を握る力が、一層強くなった。

 やっぱり、警察に通報すべきだろうか。でも、物証があまりに少なすぎる。

 あるっていったら、痛みの過剰フィードバックでネット回線への接続を強制解除した履歴と、そのフィードバックによって脳に多少のダメージを受けたっていう病院での検査結果、プライベートスペースでいきなり肩から血を出した俺の映像くらい。

 通報したとしても、門前払いを受けるのは目に見えている。

 せめて、音声データでもあればなぁ……。

「くそっ! やっぱあの時、とっちめてふん捕まえてればよかった」

 そうすれば、万事上手くいったのに。

 過激派連中を捕まえる、格好のチャンスになったかもしれないのに。

「もう、そういう事言わない。前それでひどい目に遭ったのに」

「まあ、仮想だし。銃で撃ち合ったり、剣やナイフで斬り合ったりしてるから、そっちの感覚でついつい」

 ついでに、そういうゲームの成績もそれなりにいいから、どうしても思考がそっち方向に行っちゃうんですよ。

 そりゃ、多少は俺だって怖いけどさ。

「心配、かけないでよ。私、あの時だって……」

「あの時?」

「ううん、なんでもない!!」

 聞き返すと三枝さんは、顔を真っ赤にしてぶんぶん頭を振った。

 ナニコレカワイインデスケド。

 と、なにか墓穴を掘ったらしくて変な事になってる三枝さんを見ていると、ブレゴス内からの新着メールのアイコンが点滅した。

 もしかして、先に落ちちゃったから先輩達からの連絡かな。もしくは、クエストのお誘いか。

「三枝さんも?」

「速水くんもなの?」

「なら、先輩からかな。ま、俺は今日も徹夜プレイなんだけど」

「あははぁ、私は今日はいいや。速水くんといたら、なんか落ち着いてきたし」

 今日はなにすんだろ、また木の伐採は嫌だなぁとか思って開いてみると、差出人はレヴィアーナ・メルクルストじゃなかった。

 レイモンド・アイファルマ? もちろん、フレンド一覧にはない。見た事も聞いた事もない名前だなぁ。

 そうは思いつつも、俺はメールをタップして本文を呼び出す。




レイモンド・アイファルマ

【魂を肉体に縛られし者達へ】

──────────────────

        01月20日 00:00:00

──────────────────

 やあ、諸君。私は導きし者達(エル・クワン)代表の、

レイモンド・アイファルマである。君た

ちにとっては、顔無し共(インフェルス)過激派、と名乗

った方がわかりやすいかもしれない。

 既に各報道機関から、我々の情報を入

手している者達もいるだろう。我々の掲

げている思想を簡潔に述べれば、肉体と

いう現実(リアル)に捕らわれた魂を、真なる楽園(エデン)

──ネットの世界へと解き放とう、とい

うものだ。そうする事で、我々と共に新

人類たる情報生命体へ進化する事ができ

るだろう。ただ残念ながら、公平なジャ

ーナリズムの失われた昨今の報道のため

に、我々を自殺集団などと勘違いしてい

る者も多々居るであろうが。

 さて、本日は仮想の世界を愛して止ま

ない君達──我々の同士たる資格を持つ

君達のために、ささやかな宴を用意した

。これは、その招待状だと思ってくれて

構わない。日取りは、七日後の午前零時

を予定している。君達に楽しんで頂ける

よう、私も誠心誠意努力する事を誓う。

それでは、今宵はこれで失礼させていた

だく。

 当日を、楽しみにしているよ。

──────────────────




 ったく、今度はどんな悪趣味なイベントを計画してやがんだよ。

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