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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase01:Virtual Reality Game
4/62

Stage03:2062/12/15/19:37:11【-1012:22:49】

 それから約二時間、俺と柏木は先輩の作ったFPSを心ゆくまで堪能した。

 あ、でも実際に楽しんでたのは、俺だけかもしんないけど。

 先輩はプレイヤーのレベルをどれくらいと想定していたのか、ゲーム難易度が明らかに高かった。

 あれだと、俺みたいな――コントローラを使う――アナログゲームに慣れてないと、一ステージ目からクリアもできないだろ。

 実際、柏木が一ステージ目を十回以上プレイしてる間に、俺は第三ステージまでほぼクリアしてたし。

 なんか、物凄く引かれてた。やっぱり、もう少し手を抜いた方がよかったのかなぁ。

 三枝さんもなんだか…………呆れてた、みたいだし、はぁぁ。

「でさ、体育の時間なんだけどさぁ……」

「ぷっははははは、それホントなの? 柏木くん」

 柏木と三枝さんが、楽しそうに話してる。

 四限目の体育の時間に、先生が調子に乗って一緒にバレーしてて、顔面レシーブした話か。

 派手に鼻血出ちゃって保健室に駆け込んじゃったから、授業が半分自由時間になって、みんな好きな事して遊んでたな。

 俺はすみっこで、ホログラスのゲームしてたけど。

「でさ、三枝さんは、冬休みに予定ってあるの?」

「う~ん、どうだろ。友達とどこかに行こうって話はしてるんだけど、まだ何にも決まってなくて」

「じゃあさ、パソ研のメンバーでどっか行かない? オレも冬休みは全然予定なくてさぁ。なぁ、速水はどうなんだ?」

「えっと、何もない、と思う」

 ふぅぅ、いきなり振られてびっくりしたぁ。

「そんじゃ、部長にはオレから言っとくから、速水は眞鍋(まなべ)に頼む」

「お、おぅ。わかった。それ、じゃあ、また明日」

 分かれ道に差しかかったところで、俺は二人に別れの挨拶をする。

「おう、またな!」

「それじゃあね、速水くん」

 軽く手を上げて見送ってくれる二人を見ながら、俺はそそくさと家に帰った。




 ホログラスからの解除キーを受信して、電子錠のかけられた扉がひとりでに開いた。

「ただいま」

 って、返事なんて返ってこないのに、何言ってんだろうな、俺は。

 鞄を居間に放り投げて、冷蔵庫からジュースのボトルを取り出すと、コップに注いで一気に飲み干す。

「っぷはぁぁ」

 今頃、柏木と三枝さんは、楽しい会話でもしながら帰ってるんだろうな。

 俺の家も三枝さん()の近くだったら、もっと一緒にいられるのに。

 帰り際に見た二人の姿が、頭から離れない。家の近い柏木が羨ましい。

 まあ、それもこれも、話しかける勇気のない俺が悪いんだろうけど。

 ジュースを冷蔵庫に戻したところで、視界の右上に新着メールを告げるアイコンが表示された。

 メールの差出人はだいたい察しがつくけど、もしも違ったりしたらいけないし。

 一瞬だけ迷ったけど、俺はアイコンをタップした。

 そしていつものように、やるせない気持ちになる。

 相手は思っていた通り、仕事中の母親から。

 内容も実に淡白で『今日は帰れないから、夕食は一人で食べてね』の一文だけだ。

「『今日()』じゃなくて『今日()』の間違いだろ」

 毒づいてから、俺はメールフォームの受信フォルダを開いて、思わず笑ってしまう。

 受信メールの九割以上が母親からのもので、内容は全部同じ一文だけ。

 今日は帰れないから……。

 俺の事、なんとも思ってないんだろうな。

 いや、もしかしたら、嫌われてるのかも。

「じゃなきゃ、こんなに顔会わせないとかないもんな」

 いつも深夜に帰ってきて、俺の登校した後から起きて。

 前に母さんの顔見たのって、何日前だろ。

 いや、それどころか、最近は会話すらしてない気がする。

「……潜るか」

 適当なお菓子の袋にジュースをお盆に乗っけて、俺は部屋に向かった。




 部屋に入ってパソコンを立ち上げると、さっそく無料の動画サイトを開いた。

 お菓子で小腹を満たしながら、ホログラムのディスプレイに目を向ける。

 今画面を流れているのは、来期のアニメの予告PV。

 最近の作品にしては珍しく、CGをほとんど使っていない。

 スタッフも声優陣も豪華で、批判を浴びつつもけっこう人気の出そうな感じだ。

「さてっと、腹も膨れた事だし、潜るか」

 ゲーム機の主電源を入れ、ホログラスの上から細身のHMDヘッド・マウント・ディスプレイを装着する。

 視界には“Play Tarminal とリンクします。よろしいですか?”と赤文字で警告メッセージが表示されている。

「接続」

 このHMDこそが、脳波による操作を可能とするコントローラ。

 そしてコントローラから有線(ワイヤード)で接続されている平たい箱のような機械こそが、ゲーム機の本体。

 その名も、“Play Tarminal”。

 大手電気メーカーから発売された第二世代のVRゲーム機で、スペックを追求しすぎたあげく独自部品を使いすぎて、ソフト開発が難しくなったので有名な機種だ。

 でもその代わり、スペックは第二世代機の中ではトップクラス。

 ただし、販売台数は必ずしもトップではないってのが、悲しいところ。

 そのせいか、俺みたいな重度のネトゲユーザーにしか人気がない。

没入(ダイブ)

 パソコンの電源を落とすと、ベッドに体を投げ出して起動ワードを口にする。

 途端に俺の意識は反転し、ネットの中へと落ちていった。




 ま、落ちたっつっても、すぐにはっきりするんだけど。

 俺が今いるのは、自宅のローカルネットに作られた仮想空間。もうちょっとだけ言うと、仮想空間内に作った自分の部屋の中だ。

 その中に、自分をモデリングして作ったアバターでログインする。

 さすがに、ネットワーク上のVR空間に入る時は別のアバターを使うけど、自宅のVR空間くらいはラフな格好でいたい。

 廃人らしく、室内はちょっと凝った空間になっている。

 十畳くらいあるスペースの中には、仮想のベッドと作業机に本棚、あとアバターのしまってあるタンスがある。

 机の上にはPCを模したネットワーク接続端末と、写真立てを模したフォトギャラリー、他にも学校の課題がちらほら。

 本棚には本の形をした電子書籍や画像ファイルに、ディスクの形をした楽曲データや動画データがしまってあってある。

 集めるのにはかなり苦労したんだよなぁ、こいつら。

 天井は色を変えられるライトがあって、気分によって好きな色に調節できてある。

 そして一番は、壁一枚を丸々くり抜いてはめ込まれた、一枚ガラスの窓。

 その向こう側には、広大なネットの海が広がっている。

 深い青の中を、緑色の閃光がせわしなく行き交う。

 この景色を見る度に、この時代に生まれてよかったと思う。

 こいつを見ていれば、さっきまでの暗い気持ちなんぞ、どこかに吹き飛んじまうってもんだ。

「さて、咲希(さき)に連絡でも入れるか」

 眞鍋(まなべ)咲希(さき)。俺の知るパソコン研究部の中では、唯一の後輩である女の子だ。

 前にやってたネトゲで知り合って、近くの学区に住んでるってだけで俺と同じ高校に来た、まあ文字通り変な奴である。

 特にゲームに関する技術で俺に憧れていたとかで、『自分なんて下の名前で呼び捨てにしてください、先輩』なんて言ってる、本当に筋金入りの変な奴なんだよ。

 俺の方は、お前の学力に憧れるってのに。

 なんでも、中学の頃は全国模試でもトップの常連だったとかで、今の高校にもあっさり入学を決めたらしい。

 こちとら、公立の高校に行くのに、夏休みから勉強ばっかさせられてたのに、不公平ってこういう時のためにあるんだな。

 まあ、昔を思い出すのはそのくらいにして、柏木に頼まれた事を伝えるために、俺はアドレス帳から真鍋咲希の名前を呼び出した。

 その中からの名前をタップして、電話をかけ……、

『せせせ、先輩!! ななぬぁなな、何事デしょうか!?』

 って出るのはえぇなおい。

 “<眞鍋咲希>Sound Only”というダイアログの出現と共に、裏返ってる上に噛みまくりの声が聞こえてきた。

 俺と同類の、重度のネトゲユーザーの女の子。

 まだワンコール目開始してから、〇.一秒くらいしか経ってないんじゃないのか?

 まさかとは思うが、いつでも電話に出られるように待機していたとか……は、さすがにないか。

「妙に慌ててるみたいだけど、何かあったのか?」

『いえいぇっ! そんな滅相もない。それにもしあったとしても、先輩の手を煩わせるような事……。わわわわ、私には、できません!!』

「いいから落ち着けって。ほれ、深呼吸してみ」

『すー、はー、すー、はー』

「落ち着いたか」

『は、はぃ。すみませんでした。って、速水先輩、今没入(ダイブ)してる感じですか?』

「あぁ。どうせ暇だから、この後過疎ってる所のゲームでもしようと思ってさ」

『なら、ちょうど私もゲームしてる最中なんで、セーブしてそちらに向かいます。速水先輩の家のローカルネットでいいんですよね?』

「あぁ」

『わかりました。すぐに参りますので、それでは』

 声と一緒にダイアログも消滅し、部屋の中はまたしんと静かになった。

 それにしても、セーブが必要なゲームって、なにやってんだろ。ちょっと気になるな。

 (大規模)(多人数参加型)(オンライン)ゲームなら、サーバーにオートセーブされるはずだし、だとしたら完全なオフライン系のゲームとかか?

 でも、そんなゲーム作ってる会社なんて、今頃あるとも思えないしなぁ。

 まあ、来てから聞いてみればいいか。

 左手を横に振ってゲーム機のメニュー画面を呼び出すと、本棚にしまってある楽曲データランダム再生して、ふかふかのベッドに体を投げ出した。

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