Stage37:2063/01/16/19:13:41【-0244:46:19】
二六日のイベントに備えて昨日までレベル上げにいそしんでいた我等パソコン研究部ですが、今日は珍しくフィールドには出ずに一つの街にいた。
いや、正確にはこれから街になる、って言った方が正しい。
日曜にイベント発表と同時に、ブレゴスのアップデートが行われたんだけど、なんと各国の初期スボーン地点(プレイヤーからは首都って呼ばれてる)の街の郊外に、大規模な住宅街が新しく設置されたんだ。
ようは、これで自分の家が持てるようになったわけ。
でまぁ、こっからが松井先輩の恐ろしいところなんだけど……。
プレイヤーズランキングって、経験値上昇率や貢献度、ヘイトなんかから算出されるランキングがあるんだけど、その内のトップテン――最強プレイヤーに知り合いがいるらしくて……。
【シルフィーダ】郊外の一等地、しかもS・M・Lの三サイズの中で一番でっかいLサイズの土地を買うだけの資金をいただいたらしい。
上の人、凄まじいな。そんな稼いでんのかよ。
俺も割と荒稼ぎしてる方だけど、Lサイズなら三等地、頑張っても二等地のSサイズが限界だ。
「と、いうわけで、家を作りたいと思います☆」
だいぶ嬉しいらしいな、レヴィたん。
「いやいやいや、作るってどうやって作るんですか!?」
俺達全員の意見を代弁するように、柏木ことライトフォーゼが一言。
あ、でも俺とラピスは、建て方が聞きたいだけで、ライトフォーゼみたいな家を建てるのがどういう意味なのかは聞いてない。
「そうだねぇ……。ログハウスっぽくしたいからぁ、木材で作ろっか。ここから東に行った場所に、ジフの樹海があったでしょ。あそこに行こぅ!」
「でもレヴィたん、あそこってけっこうレベル帯高いですよ? 上位プレイヤーが攻略したのだって、つい最近なんですから。正直、俺もちょっと自信ないです」
「だ~か~ら~だ~よ~。それにぃ、余ったら売ってお金にすればいいんだから!」
「あぁ、なるほど。そういう事ですか」
ラピスちゃん、あっさり納得。モンスターのレベル帯もなかなか高いから、ついでに多少は経験値の足しになるだろう。って思う事にしておこう。
ちょっと辛いけど、そろそろ今の狩り場もレベルのせいで稼ぎ悪くなってきたし。
「あのぉ、オレが言いたいのはそういう意味じゃあ……」
「ではでは~! ジフの樹海に向けて、レッツゴー! リューフ!」
レヴィたんが呪文を唱えた途端、俺達の身体は光に包まれてジフの森へと長距離移動した。
ジフの樹海は、レベル帯三〇台後半のモンスターが跋扈するエリアだ。
モンスターも動物系が中心で、ボノボノの上位種ボノフル、カロッコの上位種クロッコなんかがいる。他にも、狼型のファンリル、ハリネズミ型のアオアラシとか。
しかも小型から中型ばかりですばしっこくて、なかなか面倒なモンスターだ。
でも、一番の問題は俺達のレベル帯。俺やラピスは適正レベルだけど、レヴィたんはギリギリ、ユイさんとライトフォーゼに至ってはまだ三〇台に到達していない。
色々と、心配になるパーティだ。
まあ、それはともかくとして、
「はぁぁ、疲れた~」
「私もぉ。さすがに、あちこち痛む。瑛士くん、なんでそんな平気なの?」
「レベルとか、各種パラメータのせいじゃない? 表示されてないだけど、スタミナのパラメータもあるらしいから」
ジフの樹海入り口付近で、俺達は木材の回収に当たっていた。
しかも、木材回収用のオノまで準備してて、とか思ったら、資金やオノ提供してくれた人達からも木材回収頼まれたんだと。
それで、魔法使いのラピスとレヴィたんがモンスターの監視+撃退で、俺とユイさんとライトフォーゼは、オノで木材回収なぅ、てな感じ。
切り倒した木はアイテムポーチに収納できるからまだいいけど、木を切り倒すのはなかなか骨のいる作業だ。
「二人とも、もう倒れそうだから下がって」
「おっけー」
「うっほ、はえぇはえぇ」
ユイさんとライトフォーゼが下がったのを確認して、俺は力一杯オノを振り下ろした。
ミチミチと低く豪快な音を立てながら、木がゆっくり傾いていく。
音の反響もそうだけど、散っていく葉っぱの一枚一枚まで、怖いくらい再現されてるな。リアルと見分けなんてつかねぇわ。
「これで二〇本目。レヴィたん、まだ足りませんか?」
「まだまだ! 最低でも百本! ガンバってね、お兄ちゃん、お姉ちゃん☆」
あぁ、とりあえず露骨にぶりっこぶってるのがムチャクチャ腹立ってきた。俺よか二歳上のいい年した人が、何やってんだよ。
俺だってモンスター倒してる方が楽でいいよ。それに、MP自動回復スキルがまだでてないんだし。
あ、HP自動回復スキルは、一昨日やっと出たんだぜ。これで、ポーション代を装備に使える。あれ、けっこうバカになんねぇからな。
「必要な本数はわかりましたから、いったん戻りましょう。さすがに一時間半もやってたら、疲れますよ」
「そっかぁ……。じゃあ、一時撤収して休憩ね。こっちもちょっと、キツくなってきたから。ん、ん~」
「先輩、魔法攻撃に極振りしすぎじゃないですか? 回復魔法くらい、覚えてもいいと思うんですけど」
「ちっちっち~、甘いなぁラピスちゃんは。昔のえらい人も言ってたんだから。『当たらなければどうという事はない! キリッ!』って」
「どこの大尉ですかそれ」
それ、とんでもなく昔のロボットアニメのネタで、別に偉い人が言ったわけじゃ……って、レヴィたんだけじゃなくて、ラピスも知ってんのかよ。まあ、俺も知ってるんだけど。
そんなわけで、レヴィたんの移動魔法で、俺達はいったん【シルフィーダ】の首都に戻った。
あれからまた二時間ちょっと木材の伐採をしたところで、本日はお開きとなった。
さすがに、木材回収ばっかり何時間もやっていられない。てか、精神的に疲れるわ。
というわけで、現在はお部屋で休憩中だ。今日はどうしよう、このまま寝ちまおうか。
咲希と松井先輩はまだやってるけど、柏木と三枝さんは帰ったしなぁ。
ブレゴスの起動画面からフレンドのログイン状況を確認してみたけど、二人共ログアウトしている。
にしても、ゲームの中とはいえ家かぁ。なんかこう、来るものがあるよなぁ。
どんな家ができるのだろうか。今から楽しみだ。
でも、よく考えてみれば他の職業も必要だよなぁ。
ホログラムにブレゴスの公式ページを出力させ、今回のアップデートで追加された家作りの項目をタップした。
基本は木工技師だけで大丈夫だけど、家具を作るなら革職人や裁縫技師、料理も作れるから料理人なんかも有りか。
レベル上げもそうだけど、家作りの方も頑張らないとな。
とか思っていると、
“<エギール・クラリッサ>さんよりお電話です。お繋ぎしますか?”
「エギールさんか。何の用なんだろ? 繋いで」
『よ~っす、ハーディン……じゃなかった。こっちでは、瑛士なんだっけ』
合成音声のアナウンスに許可を出すと、“エギール・クラリッサ”と書かれたホロの下に、ダンディーな顎髭をはやした兄貴が出てきた。
俺のゲーム仲間のエギルさんで、来年から社会人らしい。この前ようやっと内定もらったって喜んでた。
「そのアバター、ブレゴスですか?」
『あぁ。さっき知り合いからメールもらってな、攻略Wikiに載ってないクエ見つけたから、精鋭連れてきてくれって。パーティー人数は十人までで、あと三人足りないらしいんだけど、今から大丈夫か?』
時計を見てみると、まだ十二時前だ。
多少木こりやった疲れは残ってるけど、ふふふふ。HP自動回復スキルを試す絶好のチャンスだぜ。
「もちろん、行くに決まってるでしょ。あ、あと精鋭プレイヤーなら、二人心当たりがあるんで、確認とってみますね」
『よっしゃ。今夜は寝かせねぇぜ』
「そういうのは、自慢の彼女に言ってあげてください。この前リア充宣言してたでしょ」
『うるせぇ! もう別れちまったよ、ちくしょう!』
長くなりそうだったから、もうこっちは切りゃいいや。
エギールさんとの電話を切ると、俺はアドレス帳から咲希と松井先輩の番号を押し込んだ。




