Stage36:2063/01/14/12:07:46【-0299:52:14】
それからもう少しして、やっとパーツの注文が終わったと先輩から電話がかかってきた。
NoVAの性能拡張パーツに張り付いて離れない咲希を、三枝さんと二人で引っ剥がして下の階に向かう。
「速水…………疲れた…………。次からは、多少高くても良いから、普通の買う」
よっぽど疲れたらしい柏木は、なんかもうかわいそうなくらいげっそりしていた。
本人が蚊帳の外状態で、先輩と店員がマニアックな話してるのを聞いてたんだろうな。目の裏に浮かぶ。
「組み立てとかソフトのインストールも先輩がしてくれるんだから、素直に従っとくんだな。普通に買うよか安いから」
さて、視界右上の時計を見ると、そろそろ昼食にいい頃合いだなぁ。
「ネカマ先輩、なんか奢って」
とか思っていたら、欲望に忠実な先に咲希がもう言ってた。
「あのなぁ……。多少は出すが、俺だって高校生なんだぞ? バイトもしてないんだから、持ってたとしてもお前ほどじゃない」
「え、なになに? 眞鍋の家ってかなりのお金持ちなの?」
「咲希ちゃんって、リアルお嬢様だったんだ」
「………………」
って、なぜそこで無言で俺の後ろに隠れる。
お前は俺の妹か。
……………………いや、もしかして、ちょっと可愛いかもしれん。
「そこは割り勘でいいでしょ。それより、本気でお腹すいてんでどこか行きましょうよ。オレもう限界ですよ」
「そうだな。なら、久々にあそこに行こうか」
この時、俺達はまだ知らなかった。まさか、松井先輩に案内された場所で、あんな大惨事が起こるなんて。
『お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!』
悪い予感はしてたんだ。松井先輩に任せた時点で。
でもまさか、柏木と三枝さんがいるのにメイド喫茶に連れてくるなんて、先輩、恐ろしい人。
ピンクと白を基調にしたエプロンドレス。スカート丈はかなり短め。頭にはネコ耳、スカートの下からはネコ尻尾があって、ひょこひょこ動いている。
一瞬目を疑ってホログラスを外してみたけど、ARの重畳表示じゃない。本物の耳と尻尾だ。
「メニューはテーブルのホログラムからご注文いただけます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
案内してくれたメイドさんはお冷やを出して軽く説明を終えると、慌ただしく厨房の方に走っていった。
忙しそうだなぁ。
それはともかく、メニューメニュー。
テーブルの端の方にあったそれっぽいボタンを押すと、目の前にメニュー一覧の書かれたホログラムが出力された。
……………………何、このぼったくり価格。
「松井先輩、これちょっと高くありませんか?」
お財布の中身が既にすっからかんに近い柏木が、苦い顔をして松井先輩に苦言を呈する。
俺も来たの初めてだから知らなかったけど、これは高すぎる。普通の店の四割から五割は盛ってる。
「先輩達、頼まないんですか?」
俺達が松井先輩に対して抗議(主に柏木だけが)している内に、このお嬢はごく自然に“幼馴染みのスペシャルジャンボパフェ”を注文していた。
こんな時だけ、リアルお嬢様発動させんなよ。
「そうだぞ。早く注文しないと混むだろ」
自然と顔を見合わせる、俺と柏木と三枝さんの三人。苦笑いしかでてこねぇ。
でも、腹減ってるのは事実なんだし、早くこの空間から出たいなら素直に従うしかない。お財布には厳しいけど。
そんなわけで、松井先輩は“ツンデレメイドの愛情たっぷりオムライス”、俺は“萌え萌えかるぼな~ら”、柏木は“ドSカレー”、三枝さんは“へるしぃはんばーぐ”をそれぞれ注文した。
写真を見た感じだと美味しそうではあるんだけど……。味の方が心配だ。
「そういえば、十二時丁度にブレゴス公式サイトからメルマガが届いたわけなんだが、みんな見たか?」
注文が一段落したところで、先輩がP2Pでデータリンクしながらブレゴスの公式サイトを開いていた。
こうすると、相手の操作しているホロがリンクした相手からも見る事ができるようになる。
俺達が反応するより先に、先輩は新着情報のページが俺達からも見えるよう、向きを変えて拡大表示してくれた。
「待ってる途中に見たから知ってますよ」
「来週末のやつ、ですよね?」
「え? 何? そんなのあったの?」
顔を見合わせる俺と三枝さんに付いてこられなくて、柏木が首をかしげる。
こいつ、メルマガ登録してないのか? 三枝さんも登録してたのに。
「ほら、これだってさ」
三枝さんはブレゴス公式サイトから届いたメルマガを、柏木に転送。
柏木は送られてきたメールを開き、内容を目で追いかけていく。
「一月二六日に、全サーバーを挙げての大規模イベント戦。未開ゾーンだった中央マップが解放されて、その奥の魔城を攻略。一番最初に一番奥にたどり着いたサーバーの国の所属者には全員、豪華アイテムをプレゼント!?」
「プレイヤー間の取引はできないアイテムらしいからな。欲しいなら、自分で手に入れるしかないってわけだ」
目を丸くする柏木に、松井先輩が説明を付け加えた。
もう少し詳しく言うと、マップ中央にはいかにも怪しげな洞窟があって、そこにポータルがあるらしい。
で、ポータルから魔城のあるサーバーに行く。つまり、俺達の出入りしているサーバーとは別のサーバーって事だ。
途中、新モンスターや新ボスがでてくる事は書いてあるけど、詳細は不明、か。
「ねぇねぇ、確かそのくらいの時期ってさ、テスト週間中じゃなかったっけ?」
…………三枝さん、それだけは思い出させないで欲しかったです。
「テスト週間、次の週から。その次週から…テスト」
さすが咲希様。テストの日程を完璧に把握しておられるようで。
成績が下から数えた方が近い俺達とはデキが違うぜ……。
「また赤点になったらどうしよぉ」
「俺も数学がぁ……」
「誰か、オレに国語と古典を教えてくれ」
「は、甘いなお前ら。俺なんて全教科ヤバかったんだぜ…………。今年は卒業できるかなぁ…………」
お花畑より明るいお店のはずが、なぜか俺達のテーブルだけ闇の底みたいな状態に……。
まあ、テスト始まる前から沈んではいても、前日にならないとテスト勉強とかしないんだけどね☆ 三年生だからもう学年末テストの終わっちゃった松井先輩を除いて。
いや、実際はマジでシャレにならんのですが、ほら、なかなかできるもんじゃないじゃん? 勉強って。
「あ、きたきた」
ただ一人だけそんな心配のない咲希は、メイドさんに運ばれてきたパフェを、可愛くデコレーションされたスプーンで食べさせてもらっていた。
こいつだけは、ホントぶれねぇなぁ。
「まあ、その時はその時だ! 今は楽しもうじゃないか!」
そう言うと、先輩は“まついせんぱいLOVE”と書かれたオムライスをやけ食いし始める。
俺達二年生三人も、運ばれてきた料理に箸をつけた。
「せめて、赤点は取らないように頑張ろうね。速水くんも、柏木くんも」
「三枝さんも、英語頑張ってね。せっかく追試うかったんだし」
「オレも、今回はちょっとは勉強する」
でも、ぜったい口ばっかなんだけどね、みんな。試験勉強しようっての。
それよか、イベントが楽しみだ。それまでには、MP自動回復スキルを習得せねば。
俺の頭の中はテストの事なんかどっか端っこで縮こまっていて、俺の中では今日からイベント当日までのレベル上げ計画が着々と練られていた。




