Stage35:2063/01/14/11:23:31【-0300:36:29】
日曜の朝から、パソ研の五人のメンバーで俺達は電器屋をうろうろしていた。まあ、朝って言うか、もう昼前なんだけど。
昨日の夜は松井先輩のレベルも上がってきたとかで、久々に五人でプレイしていた。
俺・松井先輩・咲希の知り合いとかとマルチパーティー組んで、大型モンスターの連続討伐もしたりで、けっこう盛り上がったなぁ。
で、その時に柏木が家のパソコンが壊れたとか言い出して、気付いたら全員で遊ぶ事になっていた。
遊ぶためにする外出って、何ヶ月ぶりだろ。いや待て、何年ぶりだっけ?
ま、気にしなくても良いよな。だって、気にしたら負けな気がするんだもん。
「それで琢磨、どれくらいのスペックがあればいいんだ? デスクトップなら、色々とカスタムできるんだが」
「う~ん。オレ、パソコンはネットサーフィンするだけっすからねぇ。VRはNoVAのお陰で、だいぶ快適になりましたし」
「……なら、けっこう安く……済みそう」
「だな。VR環境がいらないなら、一世代前のモデルでも十分だろ。それで琢磨、予算の方は大丈夫なのか」
「それなんですけど、この前のブレゴスの分が響いてます。多少余裕はありますけど、そしたら俺の小遣い底尽きますよ」
ふむ。柏木のやつ、どうやら分かってないみたいだな。なんで俺達が家電量販店じゃなくて、パソコンの専門コーナーがある店に来ているのか。
明らかに、普通のコーナーと展示品が違うだろ。
「ふふふ。だからここに来たんだぞ、琢磨」
「……自作PC、作る」
「自作ですか!? 俺無理ですよ!?」
「大丈夫だ。咲希もいるしな」
と、松井先輩は咲希の頭をぽんぽんした。
うぅ、周囲からの視線も痛い。先輩、それするのはせめて学校の中か、仮想の中だけにしてください。
「え? 眞鍋もパソコン自作できるのか?」
「ふっ。パソコンくらい、自作できて当然……キリッ!」
「効果音を口で言うヤツがあるか」
とまぁ、久々に先輩と咲希のコントも見れたところで、
「それじゃ、俺は琢磨とパーツ選んでくるから、三人は適当にブラブラしといてくれ」
松井先輩と柏木は、ショップの店員さん捕まえて話し始めた。
さて、どうやって時間をつぶ…………、
「あれ、咲希は?」
気付いたらどこぞへ消えてんだけど。
迷子属性はないはずだぞ、一応。
「咲希ちゃんなら、あっちにぃ……」
三枝さんの指差す方を見てみると、今月に出たばかりの最新ホログラスのコーナーで、食い入るように見てるヤツが一人。
あんな小学生じみた身長でこんな店にいるヤツなんて、咲希くらいしかいないだろう。
「こら、勝手に消えるな。心配するだろ」
「す、すいません……。これ、見てたら、つぃ……」
申し訳なさそうに、咲希が俺に件の最新機種のホログラスを献上してきた。
うぉ、レンズがもっと薄くなっとるがな。
「うわぁぁ。ほんとに薄い……。これで透過型ディスプレイなんだよねぇ。指でつついただけでも割れそうだけど」
という三枝さんの感想に、
「……大丈夫。これより薄いの、電子ペーパーで……使われてる」
咲希がハンドバックからひょいっと取り出したのは、電子ペーパー製の手帳。
これって確か、半年前に発売されたエロゲの店舗特典じゃなかったっけ。
普通に見ただけだと、ヒロインズがきゃっきゃしてるだけでまだ一般向けっぽいけど、実は表紙も電子ペーパー製で、スイッチ一つで服がなくなったり、ケフィアがかかったりの三バージョンが楽しめるなんていう、トンデモ特典だ。
ちなみに、発売から三ヶ月経ったら表紙CGのデータを差し替えたバージョンが、オフィシャル通販されてた。けっこう売れてるらしい。
開いた手帳の中を見てみると、真ん中にひも付きのペンがあって、電子ペーパーは二つ。左側が一月分のカレンダーで、その日付をペンで押すと右側に予定やら書き込みやらが表示されるようになっている。
普通に便利そうだな……。
ホログラスにも似たような機能はあるけど、こっちの方が断然使いやすそう。
『ちなみに、ソフトマップさんから、データ受信、して……ゲームの発売日を、自動更新する機能もあります』
『便利なのはわかったけど、それって思考発声しなきゃいけないような内容なのかよ』
それはともかく、確かにとてつもなく薄いな、手帳の電子ペーパー。
基礎フレームの厚さは持ちやすさも兼ねて一センチくらいだけど、ペーパー部分は本物の紙くらい薄い。
「おぉぉ……。電子ペーパーすっごい。そりゃあ、透過型ディスプレイがこんなに薄くなるわけだ。ねぇ、速水くん」
「だな」
見てたら欲しくなってくるから、早く別の所に行った方がよさそう。
メインメモリとか、クロック周波数とか、各環境下での通信速度とかがぁぁ……。
「あ、新しいペンタブ……」
ホログラスを戻して、咲希は今度はペンタブのコーナーに。
アニメやゲームとか、パソコン関係になると急に生き生きしてくるな、アイツは。
俺と三枝さんはなんか保護者みたいな気分になりながら、トテトテと迷走する咲希を追いかけた。
売り場を一通り見たから松井先輩と柏木の様子を見に行くと、まだパーツ選びと予算で店員さんと話し合いの最中だった。
というわけで、せっかくなんで一階上のゲームコーナーを見に行った。
『いらっしゃいませ。現在売り切れとなっております“Bravery Symphonia Gothic”と“NoVA”は、販売元の在庫不足のため、入荷予定未定となっております。両商品とも、次回入荷分の予約を承っておりますので、ご用のお客様はレジにてお声をかけてください』
ゲームコーナーに一歩入るなり、いきなりホログラスにブレゴス公式アバターの一体が出現した。
「……す、すごい。先輩……私……今猛烈に感動してます」
「あぁ、俺もびっくりしてる。確か、パッケージイラストにいたな。お前と同じ、僧侶ポジションの」
「速水くん、これってコミケの時のミーシャと同じで、AR表示のNPCなんだよね」
「あぁ、たぶんな」
俺達三人ともそろってホログラスを外して見ると、やっぱりそこには誰もいなかった。
で、かけ直すと、
『本日はどのようなご用でしょうか?』
白い法衣を着た女性型アバターのNPCは、にっこり笑顔で接客してくれた。
「ちょっと見に来ただけだから、大丈夫」
『そうですか。では、ごゆっくりお楽しみくださいませ』
そう言うと、NPCはコーナーの奥の方に移動して行った。
「それに、しても。最近、増えましたね……。接客型NPC、とか、案内型NPC、とか」
「ほら、あれじゃない? 経費削減とか最近うるさいでしょ」
言われてみれば、最近AR表示のNPC増えてきたよなぁ。ホログラスの普及もあるんだろうけど。
その内、AI積んだロボットとかが接客するようになったりして。
「お、NoVAのソフト売上ランキングか」
ちょっと歩くと、NoVA専用ソフトのコーナーがでてきた。
一位はもちろん、売り切れ続出で入荷予定未定のブレゴス。二位以下とは、十倍近い差がある。
「あ、PV見れるみたいですよ、先輩」
近付いてみると咲希の言う通り、ソフトの前に動画サイトに投稿されてるPVのサムネイルが表示された。
空中のそれをタップすると、他のソフトのPVのサムネイルが引っ込んで、タップしたやつが五倍くらいにでっかくなり、あらかじめ設定されてたPVが再生される。
「ねぇねぇ咲希ちゃん、これってどんなゲームなの?」
「見たまんま、戦争シューティングゲーム……です。痛みのフィードバック、かなりリアル、みたいです。リミッターはかかってますが」
「リミッターか」
つぶやきつつ、ついつい目が左肩に。
ブレゴスも痛みのフィードバックはあるけど、あれは現実の半分くらいだし、上限もなんだかんだで後まで痛みを引かない程度にはなってある。
でも、あのプライベートエリアで左肩を斬られた時は、リミッターも無効化されてたんだよなぁ。じゃないと、回線から強制解除されるなんて事有り得ない。
「先輩?」
「速水くん、まだ痛むの?」
変な顔してたみたいだな。
咲希は不思議そうに見てくるし、三枝さんは心配そうな目をしてる。
左肩見てたの、気付かれたか。
「いや、何でもない。お、アイドル育成ゲームもあるのか」
俺は再生中のPVを消すと、咲希ってこんなの好きだろとソフトを指しつつ、別のPVを再生させた。




