Stage34:2063/01/12/20:08:26【-0339:51:34】
最近はレベル上げや素材集めの関係で遠くの村や街にいたせいか、【シルフィーダ】の風車の山がやたら懐かしく見える。
それはユイさんも同じみたいで、初めてログインした時みたいに目を輝かせていた。
「やっぱり、何度見てもすごいなぁ……。この風車」
「この前のユニコーンスタジオの電子の海と、どっちがすごい?」
「う~ん……。それはすごさの方向性が違うので、両方でお願いします」
さてと、いつまでも出入り口に立ってたら邪魔だし、さっさと移動だ移動。
そんなわけで、俺は【シルフィーダ】のメイン通りから少し離れた、プレイヤールームのエリアに移動した。完成品の家を買って自分の家にできる、そんな販売用の家が集まったエリアだ。
もうちょっとしたら、家を建てれるらしいけど、そっちはいつになるんだろ。
【シルフィーダ】の中心付近でも、大量のプレイヤーがNPCに店番任せた市場をやってるけど、そっちはどちらかと言えば余った素材のまとめ売りが多い。
武器や防具を売っている店もあるにはあるけど、探すの面倒だし。
それに、そこだと小さなホロに、サムネイルが表情されて紹介文が書いてあるだけだから、現物を見れないって難点もある。
「あった。ここ、ここ」
「『ショップ・とらのあなば』ってなんか、虎に襲われそう」
その点、ゲーム内で自宅を購入していたりすれば、その中でリアルの世界みたいな店も再現できる。
少人数だけど、アイテム作りに全てを費やすような人のいるお陰で、そんな店もぽつぽつあるわけ。
普通は、気の知れたパーティーの人達が集まってわーわーするのに使うんだけど、“ショップ・とらのあなば”はお店をやってる貴重な場所だ。
「すいませーん」
フレンド一覧だと、一応ログイン状態にはなっているけど……。
中の様子をうかがうように、俺はゆっくりと扉を開いた。
「いらっしゃ~いって、なんだぁ瑛士くんじゃな~い」
こじんまりとした店のカウンターに肘を突くアバターが一人。
この店の店主、ボビー・メリダさん。
金髪のミニアフロにバンダナで、肌はかなり日焼けしたムキムキの男性アバターを使ってる。ただまあ、ネタなんだろうけど、完全なオネェキャラやってるからまだちょっと絡みづらいのが問題と言えば問題かも。
カウンターに十種類以上の布が並んでるのを見るに、服を作っていたらしい。
近くには、針やらハサミやらの道具が並んでいる。
「あら~? 一緒にいるのは、レヴィちゃんかしら? でも、あの子のアバターにしては、狙ったようなデザインじゃないわねぇ。ラピスちゃんならこの前来たしぃ……」
ボビーさんはユイさんを見るなり、いきなり確信を突いてきた。
やっぱり、デザイン系を専門にしているだけあって、アバターの特徴もよく見ている。
「は、初めまして。ユイと言います」
と、ユイさんは頭をぺこり。
「あら、ゴメンなさい。新顔さんだったのね。こちらこそ、初めまして。ボビー・メリダよ。よろしくねぇ、ユイさん」
ボビーさんは出しっぱなしにしていた素材や道具を片付けると、
「それで、今日は何をお求めなのかしら?」
店主らしく接客を始めた。
らしくというか、店主なんだけど。
「ユイさんの装備、まだNPCショップのやつだから、そろそろ新調しようかってなって」
「なるほどねぇ……。確かに、プレイヤーの作ったアイテムは着けてないみたいね。ちなみに、レベルは?」
「えっと、二四です」
ユイさんからレベルを聞くと、ボビーさんは何かの設定画面を出して、ちょこちょこと操作を始める。
オススメの商品とかでも出してくれるのか?
「それなら、この辺りがオススメかしらね」
寒気のする笑い方をしながら、ボビーさんがホロをポチッと押し込む。
すると、店の中の装飾が、がらりと変わった。手の込んでいそうな服や武器が、店内のあちこちにディスプレイされる。
これには、俺もユイさんもそろって驚いた。
「そういえば、瑛士くんにもまだ見せてなかったわね。うちの店、お客のレベル帯ごとに内装をセットしてるのよ。ほら、スペースも限られてるじゃない? それに、この方が適正レベルの商品探さなくて済むでしょ?」
「すごい……。これって、全部ボビーさんが作ったんですよね?」
「そうよ、ユイさん。って言うかぁ、公募に出したあたしのデザインも、いくつか採用されてるのよぉ? スゴいでしょ」
「すごいです! どれなんですか!?」
「ほ~ら、これとか。どぉ? 素敵じゃないかしらぁ?」
ボビーさんが見せてきたのは、剣士用の戦闘服だ。赤と青を基調に、アクセントの水色が可愛い。
露出もそんな多く全体的に落ち着いたデザイン、確かにこれは良品かも。
「スペックはどうなんですか?」
「うふふ。瑛士くんも気になるみたいねぇ。これがスペック。二人で仲良く見てね」
ボビーさんは、スペックの表示されたホロを渡してきた。
空間を滑るように近付いてくるホロを受け取ると、ユイさんと一緒にのぞき込む。
…………近い。うぉぉ、またなんか甘い、いい匂いが。
いかんいかん、自制しろ俺。
「三〇レベル後半くらいまでなら、その防具で十分いけるわよぉ? それ以降でも、NPCショップのアイテムには絶対に負けない自信はあるわ」
今はユイさんはいいから、ホロに集中しなきゃな。
って思って見てみたら、なにこのスペック。俺のやつより全然良い。俺のも一応、プレイヤーのハンドメイドなのに。
まあ、武器はともかくとして、防具に関してはたたき売りのやっすいのだけどさぁ。
「どう、瑛士くん。そちらのガールフレンドにプレゼントしてあげたら?」
「ボ、ボビーさん、ななっ、何を!? 私と瑛士くんは、そ、そういうのじゃ……」
「ガガガガ、ガールフレンドって、へっ、へっ、変な事言わないでください!!」
「うふふ~。仲が良いのね、二人とも。初々しくって可愛ぃ。二人そろって否定しちゃうとこなんか特に」
恥ずかしすぎて黙っちゃった、俺とユイさん。
してやったりって感じのボビーさんが、すごく恨めしい。
…………完全に弄ばれた。
「ってことは、やっぱりユイさんって正真正銘の女の子なのね。レヴィちゃんみたいなパチモンと違って」
「まあ、はぃ……」
う、しまった……。確かにあんな反応したら、ユイさんの中身が女の子だって言ってるようなもんだよな。
からかわれるネタを自分から提供しちゃうなんて……。泣きたい。
「見たところ、ルーキーみたいだし。サービスしとくから、これ瑛士くんにプレゼントしてもらいなさいよ」
「えぇっ!? でもそんな、瑛士くんに悪いですから!」
「今なら、このアクセサリーもオマケしちゃうんだけど?」
「あぁ、可愛い。でも、私に似合うかなぁ」
「あなた、自分の作ったアバターならんだから、自信持ちなさいっての。ほら。瑛士くん、どうせクレジットいっぱい持ってるんだから」
俺を完全に置いてけぼりにして、美少女とオカマが密談してるよ。はたから見たら、スゲーシュールだぜ、これ。
まあそれはそれとして、なんか俺がユイさんの防具をプレゼントする方向で話が進んでんだけど、だったら本人放置するのだけは止めてくれませんか。
とか思いつつ、ユイさんのためなら多少の出費はいとわなかったりする俺なんだけどね。キリッ!!
とか、俺が勝手に何か思ってる間に、話が終わったみたいだ。
気まずそうな雰囲気を漂わせるユイさんが、もじもじしながら近付いてきた。
「あのぉ…………。瑛士くんに、お願いが…………」
「いいよ、聞こえてたから。俺が買って上げる」
「あ、ありがと! あとで絶対、ちゃんと返すから!」
「それだと、プレゼントにならないからダメって、ボビーさん言うと思うからいいって」
「あったり~。あたしの事、よく分かってくれてるのね、瑛士くん。オネェさん嬉しいわぁ」
「あははぁ……。ごめんねぇ、ほんとに」
「いいって。それじゃ、次は武器見に行こっか。それで、ボビーさん、一式でいくら?」
俺はクレジットの残高を改めて確認しつつ、カウンターに向かった。




