Stage32:2063/01/12/12:25:48【-0347:34:12】
アリンコと一時間近くにらめっこを繰り返した俺達だけど、MP自動回復スキルは現れなかった。
剣士に魔法が厳しいのはわかってるけど、やっぱ精神的に来る。経験値は低すぎて、レベル上げの足しにもならねぇし。
その代わり、俺は魔法スキルが一つ、三枝さんは三つ増えたわけだけど。
さすがにアリはしばらく見たくないとの理由で、次の日は三枝さんのレベル帯とぴったりな、砂漠のモンスターを狩りに行った。
移動に少し時間がかかるから、こっちは夕食の後に深夜まで。砂漠のモンスターは雷は効きにくいけど、水は弱点なおかげでまたまた三枝さんが無双状態。またまた新スキル獲得したらしい。
戦い方にも慣れたみたいで、距離の取り方や体の動かし方はだいぶ様になっていた。もう俺から教える事とか、何もない。
おかげで、レベルの方も順調に上がってきている。
次の日も、そのまた次の日も、そのまたまた次の日も、俺と三枝さんは一緒にプレイしていた。
そこにラピスやレヴィたん、時々ライトフォーゼも混じりながら。
それから、俺の学校生活にもちょっとした変化が訪れていた。
「はぁぁ、終わった」
なんで日本人なのに英語とか勉強しなくちゃいけないんだよ。それに、ホログラスにリアルタイムの同時通訳アプリだってあるのに……。
とか心の中でぼやきながら、行きがけにコンビニで買ってきた昼飯のビニール袋を引っさげて、俺は教室を出た。
「やっほぅ、速水くん。なにやら、お疲れのご様子みたいだけど?」
「あぁ、さっきまで英語だったから」
階段の踊場には、三枝さんがいた。
自分でも信じられない事なんだけど、ここ最近三枝さんとお昼を食べてるんです。
しかもリアルで。もう俺的には、夢ん中みたいですの事よ。
「英語かぁ……。休み明けテスト赤点で補習」
「嘘、俺でも補習は回避したのに!?」
休み明けテストの話をしながら、俺達は屋上へ向かった。
あ、屋上って言っても、半世紀以上前から続く自殺の問題があるから、扉にはしっかり施錠がされてる。
まあ要するに、人の来ない屋上出入り口のある小さなエリアで、お昼ご飯食べてるわけ。
使わなくなった椅子とか机とかが放置されてるから、そっちの問題も大丈夫。いやほんと、いい穴場見つけたもんだ。
『それで、今日はどこ行くの?』
『今日? 昨日、松井先輩と咲希と今日の約束したし、そっちに合わせるかな。たぶん、松井先輩のレベル上げに付き合う事になるかな』
ちなみに、侵入禁止ではないけど、見つかったら先生に怒られそうなのとみんなに冷やかされそうだから、会話は思考発声を用いた近距離通信アプリでやっている。
『はははぁ。先輩、どんなペースでゲームしてるんだろ。私もそろそろ追い付かれそうで、けっこうびっくりしてるんだけど』
『確か、家帰ったら飯食べて風呂入って、時々休み挟みながら朝の五時までしてるって言ってた』
『朝五時って、先輩いつ寝てるの!?』
『学校で』
『あぁ……。納得』
俺や咲希でも裸足で逃げたくなるような鬼気迫る廃人プレイを強行する松井先輩は、初回の遅れを挽回しようと猛烈な勢いでレベル上げをしている。しかも、スキルの取得にも余念はない。
選択国ブーストの付く風・雷系魔法を中心に、お前どこのRPGヒロインだよみたいな状態になってたなぁ。
真の廃人って、ああいう人の事を言うんだぜ。
『一昨日も、三枝さんが帰ってから松井先輩とやったんだけど、今はこんな感じになってる』
視界データを共有させて、昨日撮ったスクショを三枝さんにも見せてあげた。
『うわぁ……。なにこの衣装……』
『知り合いに、本業でアバターの衣装作ってる人がいるらしいよ』
肌の七割以上が露出してる服を始め、巫女服、チャイナドレス、ウェディングドレス、各国の軍服に、セーラー服等々……。
色々決めポーズをとっている松井先輩ことレヴィたんのスクショに、三枝さんは苦笑い。
『昨日、装備の話とかしたら連れて行かれてさぁ……。店主の人が、よし、なら新作試着してみようか、とか言い出して……』
『ようは、モデルみたいなもの……なわけねぇ、コレ』
装備作りが実装されているといっても、素材と道具さえそろえれば必要な作業を行うだけで装備はできあがる。
デザインは一般公募も含めて随時追加されていて、どれがでるかは運次第。スペックに関しても多少は決まっているものの、詳細なところはランダムなのだそうな。
だから思ったデザインのができると、ついついテンションが上がってしまうらしい。それの暴走した結果が、昨日の先輩の惨状ってわけ。
ただ、装備作るのも専用のスキルが必要だから、俺はやってないけど。
『店の人もスクショ撮ってた。ショップで出すときに、広告代わり使うんだってさ。『装備したら、こうなります』的な感じで』
『先輩、出遅れた分だけ楽しみまくってる感じだねぇ。若干引きそうになったけど』
でしょうね。
俺も高い声のトーンで変な声出す先輩見て、鳥肌立ったもん。ゲームの中で。
『あはははぁ……。でも、普通に鎧とかちゃんとした服とかもあったし、今度行ってみる? 【シルフィーダ】に戻れば買えるけど』
『買えるって、その人のお店?』
『そうそう。商品と値段決めれば、NPCが店番してくれるようになってる』
『そうなんだ。じゃあ、今日行ってみよっか』
この前も思ったけど、そろそろデフォで売ってる装備から変えてもいい頃合いだし、ちょうどいいな。
『それじゃ、今日は何時頃来る?』
『う~ん。そういえば、松井先輩と咲希ちゃんはいつぐらいに来るの?』
『九時前くらい』
『それじゃ、その前に見て回りたいから、八時前集合で』
『了解』
画面隅の時間を確認すると、まだ休憩が終わるまで三〇分くらいになっていた。
こんな時間なら、何時間でも続けばいいのに。
『はぁぁ、英語の補習……』
『…………何か評判のいい英語の学習アプリでも、紹介しようか?』
『…………ありがと』
いやぁ、ホントに嫌ねぇ、英語って。




