Stage31:2063/01/08/15:07:25【-0454:52:35】
さて、これはいったいどういう状態なのでせうか。
うん、まずは状況を整理してみよう。
理由は全くの不明だけど、三枝さんはインフェルスの過激派に狙われている。
で、建前上は全ての電子情報を可視化できる仮想空間では、高度な技術を持つクラッカーでも侵入は難しいとされる。
こっそり侵入したってそれは何らかの形で可視化されるんだから、普通は無理なはずなんだけど…………なぜか過激派の連中は空間のかなり奥まで侵入できる。しかも誰にも気付かれず、痕跡も全く残さずに。ナニコノ反則ツール。
それで仮想空間だといつ襲われるかわからないから、没入する時は一緒に入ろうってなって……。
「で、スキルの事なんだけどね、どれ上げるのがいいかなぁって」
それで現在、わたくしめの仮想の部屋の仮想のベッドの縁に、三枝さんと並んで座ってます。ブレゴスのアバターじゃなくて、本人仕様のやつ。
ユニコーンスタジオの仮想空間に没入した時の設定のままなんですね。わかります。俺もそうなので。
……………………なんで俺、三枝さんと自分の部屋で二人っきりになってんだ。
「って、聞いてる速水くん?」
「聞いてる聞いてる! で、どんな感じのプレイがしたいの?」
「……えっとぉ、前出てずばぁぁあああってやって、できれば魔法をドカドカ撃ちたい」
恥ずかしがる三枝さんかわえぇ。
なんか、こっちまで熱気ぐわぁあああああ!!
はっ!? 落ち着け俺、まずは冷静に頭を冷やすんだ。
「それじゃあ、基本は俺と同じ、かな。俺は、魔法はザコ用の広域攻撃と、ステータスアップの補助系で組む予定だけど……」
「あ、そんなのもあるんだ。私てっきり、咲希ちゃんみたいな、ドッカーンてやるやつばっかりだと思ってた」
まあ、アニメとかだとそんなの多いもんな。
そういや、ガチで戦う魔法少女アニメって、いつからあるんだろ。この前も、何十年も前の魔法少女アニメが完全リメイクされて、色々話題になってたけど。
「まぁ、魔法使うんなら、まずはMP自動回復スキル取得しなくちゃな」
「条件って、どんなのだっけ?」
「累計で魔法使用による一定値のMP消費」
「うわぁ~、大変そう」
「この前知り合いのショップからごっそり買い入れたから、とにかく魔法使いまくろう。俺もまだ出てないから」
「それじゃ、行こっか」
「だな」
NoVAのメニュー画面を開き、ゲームの起動画面を呼び出す。
『Bravery Symphonia Gothic を起動します。よろしいですか? ◎Yes/×No』
西欧風の唐草模様で装飾されたダイアログが、お馴染みの文章を浮かべる。
俺と三枝さんは、そろって『◎Yes』のボタンを押し込んだ。
三枝さんもとい、ユイさんのレベルに合わせてレベル帯のやや低いフィールドにいた。
三枝さん基準で低いって事は、俺からすればほぼ安全地帯みたいなもんだし、ヘマする事はないだろう。
それに、まだ大して強い魔法も覚えてないから、数使う必要があるなら敵のレベル低くても量の湧く方がいい。
そんなわけで、俺達は【シルフィーダ】から村二つを経た森にいた。
村では念のため、HP回復用のポーションや、移動アイテムのペガサスの靴(一度行った街や村に行ける。もちろん消費アイテム。)も買ったし、これで準備おーけー。
「ねぇねぇ、速……瑛士くん。モンスターって、アレだよねぇ」
「えぇ~っと、やっぱり女の子にはキツいデザインだよね。虫って」
「それは~、うん、そうなんだけど。でも、この前みたいに迷惑かけるのも嫌だし、がんばる!」
両手を握って、三枝さん小さくガッツポーズ。
装備はまだ、NPCのショップで売ってるやつだ。
そろそろ、性能の高いハンドメイドの装備屋に連れてってあげなきゃな。
俺のお世話になってる、別ゲームの知り合いの店でいいのがあったはず。先にメール送っとくか。
「魔法の使い方は、大丈夫だよね?」
「うん。大丈夫。予行演習もバッチリだったし。いける、と思う……」
まあ、ダメなら俺がカバーすればいい事だしな。
入念に準備を終えたところで、ついに相手の認識範囲内に飛び込んだ。
前が俺、その後ろがユイさん。
そして敵は、
「うぅぅ、やっぱり気持ち悪いぃぃいいいいい!!!!」
赤アリの大軍団。
名前はそのまま、レッドアント、十レベル後半辺りのレベル帯のモンスターだ。上のレベル帯に行くと、クリムゾンアントとか、スカーレットアントなんかもいる。
名前だけで強そうだな、おまいら……。
「グローム!」
雷系の広域攻撃魔法、その一番下の魔法だ。振り抜いた剣先から、青白い閃光が放射状に広がった。
前側にいたレッドアントが、びくびくと痙攣する。
一番下でも、十レベル近いレベル差があれば、かなりの威力だ。でも、十発も使えばMPはゼロになるのは、ちょっとシビアすぎる気が。
ちなみに剣の必殺技スキルは、MP消費を抑えるスキルのお陰でだいぶマシになってる。
『────────!!』
声にならない甲高い悲鳴を上げて、レッドアントの大軍団は崩れ去った。
それでも動けなくなった前側のレッドアントを乗り越えて、後ろ側のレッドアントが雪崩こんでくる。
「グローム!」
「ウォーティス!」
負けじと、ユイさんも樹木を唱えた。
俺の雷撃を追いかけて、水の砲弾がどかんと最前列のレッドアントを吹き飛ば……せてはいないっぽい。
ま、ユイさんまだレベル近いし、仕方ないよね。
「うわ~、私の地味ぃ」
「俺のは一応、ユイさんのと比べたら上位のスキルだしね」
「むぅぅ。いいもん、頑張って覚えるもん」
時には剣で牽制しつつ、ポーションでMPを回復。
そのたびに、グロームとウォーティスでレッドアントを攻撃する。
始めの方こそ気持ち悪がってたユイさんだったけど、途中から魔法で弱らせたところを広範囲攻撃の必殺技スキルでまとめて吹き飛ばすのに快感を覚えちゃったらしく、けっこうすごい事になってる。
魔法によるMPの消費が条件だから、魔法も使ってれば武器で倒す事自体は問題ないんだけど……。
「うっはぁぁ! これ気持ちいい!」
ユイさんが別人に見える。
良い意味で、めっちゃイキイキしてるせいで。
「ウォーティスタ!」
そして一個上の水系攻撃魔法を覚えた今は、なんと俺の助けがほとんでいらないレベルで無双してる。
MP回復の関係で、けっこうな頻度で入れ替わってるけど、もう見ていても安心感がわくくらい。てか、もう柏木──じゃなくて、ライトフォーゼより強いんじゃね?
「ユイさん、下がって!」
「了解!」
MPが切れそうになったところで、ユイさんが大きくバックジャンプ。
そこへ滑り込むように、俺が入って直前まで近付いて来た軍団に必殺技をぶちかます。
「くらえ! ブラストスラッシャー!」
ブラスト系の、かなりの上位スキル。威力はもちろん、ブラストエッジの比じゃない。
ユイさんがHPを削っていた前側はポリゴンになって消し飛び、その後ろの軍団も瀕死の重傷。
そこへ、
「グローム!」
雷撃をぶちかます。
ぎりぎりまでHPの削れてた連中は、雷の青白い光に混じって消えた。
その後もグロームを連発して何十匹か消し飛ばして、ユイさんとバトンタッチ。
可憐なアバターが、上からレッドアントを急襲した。
前方の敵を蹴散らすと、後方めがけて水の砲弾を乱射、最後にまた必殺技スキルで掃討。
そしてまた交代。
二人とも精神的に疲れるのと、三枝さんが飽きるのとで、結局一時間近く俺達はアリを退治し続けていた。




