Stage29:2063/01/08/14:21:32【-0455:38:28】
あの後、俺は気が付いたら病院に運ばれていた。
やっぱり、脳への過剰な痛みのフィードバックが原因らしい。
脳波異常を察知したNoVAがネットへの接続を強制的に解除したせいで、俺はプライベートスペースからいきなりいなくなったそうだ。
例の仮面野郎が消えてからすぐに諸々の回線が復活して、三枝さんは叔父さんに内線で連絡してくれたんだそうな。
だから目が覚めた時には、叔父さんがいた。叔父さんは、父さんは出張中だから母さんに電話してくれたらしいけど、やっぱり来てはくれなかった。
息子が襲われたってのに。薄情なもんだぜ、ったく。
元々外傷はなかったんだから、入院はその日の夜だけで翌日の昼には退院。カプセルタイプの痛み止めは処方されたけど、左肩にもう痛みは残っていない。念のため、二、三日な仮想空間に没入するのを禁止されたけど。
それも終わって、冬休み開けの月曜日。
久し振りの学校は、すげぇ寒かった。室内は冷暖房完備なんだけど、道中が寒いのなんのって、ねぇ?
そして面倒な始業式も終了して、現在は教室で待機中。
ブレゴスの追加情報がないか、攻略Wikiのページを広げて眺めていた。
でも、内容は全然頭の中に入ってこない。
そりゃそうだ。今は別の事で頭が一杯なんだから、入ってくるわけがない。
「ったく、何だったんだよあれ」
周りの声に溶け込んで、誰にも聞こえなかったろう。
真ん中を陣取っている攻略Wikiの端の方に、小さなホロがある。
ユニコーンスタジオのプライベートスペースに侵入してきた、インフェルスの仮面野郎。そいつの事を調べたホロだ。
過激派が色々と問題をやらかす時、どんな手段を使っているのか。授業中に色々調べてみたけど、具体的な物は一つもわからなかった。
でも、もしあれが本当に過激派の仕業だとしたら、あれはとんでもない脅威だぞ。
通信回線を一方的にハックしたり、仮想空間に科せられているルールに反して武器を出現させたり。
外部の通信回線だけならまだ納得もできるけど、内部の回線すら使えないってどんな事やりゃできるんだよ。
警察に通報しようって話も出たんだけど、あまりに証拠が少なすぎるってんでそっちもお流れになった。でも、映像データにも音声データにも相手の姿や声が残ってないんじゃ、しゃあないか。叔父さんは、会社で色々調べてくれるって言ってくれてるけど。
「よっ、速水。相変わらず暗い顔してんな~。ブレゴスの中だと、だいぶイケメンなのに」
「うっせぇよ。で、そっちはレベル上げどうなってんだ?」
「あぁ、それなりにな。お前や眞鍋に体の使い方とか教えてもらったおかげで、野良パーティー組んでもけっこう重宝されてるぜ?」
こいつのコミュニケーション能力は、リアルだけじゃなく仮想の世界でも有効なわけか。
こちとら仮想の世界でも四苦八苦してるのに。声かけるのとか怖いし。羨ましい。
「あっそ。まぁ、がんばってくれや」
「ちぇっ。さすが、生粋のゲーマーは違うねぇ」
「ほっとけ」
でもまあ、柏木がいくらレベルを上げても、追い付かれるような事はないだろうけど。これでも、地味にハイランカーの一つ下辺りをうろちょろしてんだから。
あ、でも最近ログインできてないから、もう二つ三つ下がってるかも。
上の連中のプレイっておかしすぎて、どう考えても付いていけん。あいつら人間やめてるぜ。いや、プレイ時間的な意味で。
「それで、レベルどれくらいになったんだ」
「やめとけ。聞くと自信なくすか呆れる」
「いいだろ、ケチ」
「わかったから。じゃあ、そっちも言えよ」
「わかってるってぇ~、大統領~」
ため息をつきつつ、俺はブレゴス公式サイトにホログラスのデータでログインして、プレイデータの視界スクショを柏木に送ってやった。
そしたらうきうきで受け取った柏木の目から、いきなり光が消えた。
「お前、何やってんの?」
「だから事前に言っただろ。だったら引くなよ」
「だからって、二八レベルって何だよ!? 俺まだ十九レベルだぞ!? 十五過ぎた辺りから、なかなかレベル上がらなくなって!!」
「お前の場合、人数いても効率が悪いの……。割と経験値くれるモンスターが無限増殖するフィールドとか、報酬で経験値くれるクエストとかあるから、自分で調べてやれ」
「タイチョー! レベル上げに付き合って欲しいのであります!!」
「松井先輩が同じレベル帯だから、一緒に付いてけ」
「嘘、俺もう先輩に追い付かれてんの!?」
そりゃ、俺や咲希に、先輩のサークルの人達も手伝ってるからなぁ。
ある程度時間も経ってるから、効率的なレベル上げの方法も攻略Wikiに載ってる。
ただ、連日の長時間プレイもそろそろ限界だろうから、レベル上げのペースは落ちるだろう。学校も始まるし。
そうこうしている内に、HRの時間になった。
電子音のチャイムが、本日の終わりを告げる。
まったく、学期始めからいきなり六時限まであるとか、これなんて拷問だよ。これで先生の話し聞いて終わりだけど。
「そんじゃ、放課後は先に行ってるわ。教室掃除、サボんじゃねぇぞ」
「お前が言うな」
チャイムが鳴り終わってから一分かそこらして、ようやく先生が入ってくる。
それと同時に、ホログラスに着信が入る。
電話主は、なんと俺の叔父さんだった。




