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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
28/62

Stage27:2063/01/04/19:24:32【-0532:35:28】

 俺の指先操作によって、夏の砂浜が再構成される。

 リアルが真冬の真っ最中なのを考えると、ちょっと変な気分かも。

 でだ。当然服装はデフォルトの冬物だったわけで、着替える事になったんだけど…………。

「三枝さん、どんな水着にするんだろ……。気になる」

 海で遊ぶなら、水着になるのは当然。三枝さんは、リアルでは経験した事のない海で思いっきり遊びたいんだから。

 それでそれぞれ、更衣室で着替える事になった。アバター設定をいじれば、服をダイレクトに水着に再構成できるんだけど、それじゃ面白くないって理由で。

 俺は無難に青い海パンにしたけど、三枝さんどんなので来るつもりなんだろ。それとも、色々選んでるのかな。

 そういえば、プライベートスペースの制御メニューの中に、アバターの衣装データがあったな。

 リンク先からホログラスにダウンロードして使うやつで、ユニコーンスタジオ関連の仮想空間で使えるとかいう。

 女物の水着って、いったいどんなのが…………。

「………………まだ、大丈夫だよな」

 ちらりと更衣室の方を見てみるけど、まだ出てくる様子はない。

 大丈夫、別にダウンロードして、誰にも見せた事ない女性型アバターに使おうとか、全然考えてないから。

 見るだけ、本当に見るだけだから。だからちょっとくらいなら……。

 衣装データ、ダウンロード一覧とタップして、データを呼び出そうとしたその時、

「わぁっ!」

「うわぁあああああああああ!?!?」

 耳元でいきなり声がして、盛大にすっ転んだ。

 て、今のなに!?

「はははははっ。速水くんったら、驚きすぎぃ~」

 ま、一人しかいませんよね。

 このプライベートスペースには、俺以外にはもう一人の人しかいないわけだし。

「三枝さん、びっくりさせないでよ」

「だって速水くん、女の子の水着データ見てるんだもん。そんなの見ちゃったら、懲らしめないわけにはいかないかな~って」

「ごめんなさい、俺が悪うござんした」

 隠すどころか、完全に見つかってた模様。

 もう弁解の余地なさすぎて無条件降伏するしかない。

「まあ、反省してるみたいだし、許してあげるかぁ」

 土下座からの平謝りでお許しいただけたようです。

 ……………………ごくり。

 ここから顔を上げたら、目の前には水着姿の三枝さんがいるんだよな。

 はぁぁ、多少なりとも落ち着いてた心臓が、またえらい事になってきた。

 息が詰まりそうなくらい、またまた緊張が高まってきた。

 今日一日で一生分くらい緊張しとるのではないでせうか、ワタシ。

 でも、いつまでも頭下げてるわけにはいかない。これじゃ、ホントに時間の無駄になるわけだし。

 でも、なんか見るのにもすごい勇気いるし……。

「さ、行こう。速水くん!」

 そんなこっちの気持ちなんてお構いなしに、三枝さんは俺の手を引いて走り出した。

 思ったより力が強くて、思わず引っ張られてしまう。

「ちょ、三枝さん!?」

 海に入り、思わず足を取られてつんのめった。

 もちろん、俺の手を握ってた三枝さんも道連れ、もとい巻き添えにして。

「ぷはぁ、三枝さん、大丈夫?」

 バッシャーン――。

 鼻や口から海水が入って、のどの奥が焼けるような感じがした。

 俺は三枝さんの手を取って、ぐいっと引っ張り上げる。海水でびしょびしょだ。

 三枝さんはその場に座り込んで、両手で顔の海水をぬぐう。

「うわぁ、海水ってこんな味するんだ。なんか、しょっぱいって言うか、変な味がする」

 変な味するって言っときながら、わざわざ海水につけた指を舐めなくても。

 ただ、俺の視線は三枝さんに釘付けだ。

 白い紐で縁取られた、レモンイエローのビキニ。あまり過激なデザインでもない、割と平凡なデザイン。

 でも、三枝さんにぴったりの色で、すごい似合ってると思う。

 可愛いくて、綺麗で、釘付けになるって、こういうのを言うんだな。

 全然、三枝さんから目が離せない。

「どう、かな」

「へ?」

「その、水着。着たことないし。それに、ビキニって、仮想(こっち)じゃないと着られないから」

仮想(こっち)って、どういう……」

 言いかけてる途中で気付いた。

 昔、心臓の手術をしたって。それってつまり、胸とかに手術跡があるって事だよな。

 いくら医療技術が進歩しても、消せない傷というものがある。

 三枝さんの手術跡も、そういう部類の傷なのかもしれない。

「それで、どう? 私の水着姿」

 なんか、三枝さん、両手を組んで頭の後ろにやって、やたら胸を張って強調しておられるのですが、これは幻でせうか。

「に、似合ってると、思う」

 さっきまでの感傷的な気持ちなんて、こんなの見せられた瞬間どっかに行っちまいましたよ。

 あーも。可愛いなちくしょう!

「そぅ。ありがと!」

「うぉっ!?」

 三枝さんに手を引っ張られて、俺はまたまた海にダイブ。

 しかも今回、顔からいったせいで顔面がやたら痛い。

「っははははは! こっこま~でお~いで~!」

 バシャバシャと沖に向かって駆けて行く三枝さん。メニュー画面から浮き輪を出現させて、さらに遠くまで行こうとしてる。

 ふふふふ、鬼ごっこですか。いいじゃん、やってやるよ! なんでかよくわからんけど!

 でもなんか、水着で鬼ごっこって、なんかエロくね?

「待てぇぇえええええ!」

 変なテンションになってきた俺は、言われるがままに三枝さんを追って泳ぎ始めた。

 体育の成績は五段階評価で二.五くらいだけど。

 それでも、三枝さんと比べたらけっこう速い。

「っぷはぁ、捕まえた」

「ははは。捕まっちゃった」

 クロールしていた手が、浮き輪の端をつかんだ。

 俺はそっちに体重を預けて、水面から顔を上げた。

 目があって、二人ともなぜか知らないけど互いに吹き出した。

「やっぱり、体動かすのって楽しい。ありがとね、速水くん」

「よかった、喜んでくれたみたいで」

 いつの間にか、緊張はほぐれていた。

 三枝さんも、喜んでくれてるみたいで嬉しい。それに、いつも以上にいきいきしているように見える。

 俺もよくわかんないけど楽しいし、本当によかった。

「プールにも行った事ないから、泳ぐのってちょっと怖かったんだけど、すごい楽しい」

「怖かったって言う割には、躊躇がなかった気がするけど」

 やっぱり、性格はすごくアクティブなんだな。

「うん、それは、まぁ……。もしかして、私って変だったりする?」

「どうだろ。俺もシューティングゲームで初めて銃撃った時は、それなりに怖かったけど。それにここ、あくまでも仮想空間だから、現実の事をそのまま当てはめるのも難しいと思うよ」

「そんなもんなのかぁ」

「まあ、俺個人の意見だけど」

 と、その時、サーフィンでもできそうな一際大きな波が、ざばーっと上から降ってきた。

 思ってた以上に衝撃が強くては、浮き輪から手が放れてしまう。

 空気が空っぽの肺だとすぐに息が苦しくなって、慌てて水をかいた。

 そんなに深い位置にはいない。一、二秒で海面まで浮上した俺は、大きく息をした。

「三枝さん、大丈…」

「こっち見ないで!」

 三枝さんは大丈夫なのかと思って振り向こうとしたら、凄まじく拒絶された。

 え、なんで?

「見ちゃダメだから、絶っっ対に見ちゃダメだから! 振りとかでもないから!!」

 しかも念まで押してきた。

 大事な事なので二度言いました、的な。

「いやでも、俺も浮きっぱなしってキツいんですけど」

「わ、わかった……。わかったから、ちょっとだけ待ってね。振り向いたら、私帰るから」

 後ろの方から、水のちゃぷちゃぷする音がする。

 気になる、いったい何がどうなっているのか。

「ぃぃゎょ」

 やっとお許しがでたので、俺は反転して浮き輪に捕まった。

 ふぅぅ、手も足も限界が近かったんだよなぁ、助かっ……

「三枝さん、あの上が……」

「……な、流されちゃって。紐、緩かったみたい」

 振り向いた俺は絶句した。

 だって三枝さん、ビキニの上の方がないんだもん。

 今は浮き輪から出て片手で捕まりながら、もう片方の手で隠している状態。

 ……………………あぁ、俺から少しでも距離を取りたかったわけですね。

 周囲をきょろきょろしてみたけど、レモンイエローの水着はどこにもない。

「は、速水くん私、どうしたら……?」

「と、とりあえず、浜まで戻ろっか」

 俺の提案に、三枝さんは肩まで真っ赤になりながら頷いた。

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