Stage27:2063/01/04/19:24:32【-0532:35:28】
俺の指先操作によって、夏の砂浜が再構成される。
リアルが真冬の真っ最中なのを考えると、ちょっと変な気分かも。
でだ。当然服装はデフォルトの冬物だったわけで、着替える事になったんだけど…………。
「三枝さん、どんな水着にするんだろ……。気になる」
海で遊ぶなら、水着になるのは当然。三枝さんは、リアルでは経験した事のない海で思いっきり遊びたいんだから。
それでそれぞれ、更衣室で着替える事になった。アバター設定をいじれば、服をダイレクトに水着に再構成できるんだけど、それじゃ面白くないって理由で。
俺は無難に青い海パンにしたけど、三枝さんどんなので来るつもりなんだろ。それとも、色々選んでるのかな。
そういえば、プライベートスペースの制御メニューの中に、アバターの衣装データがあったな。
リンク先からホログラスにダウンロードして使うやつで、ユニコーンスタジオ関連の仮想空間で使えるとかいう。
女物の水着って、いったいどんなのが…………。
「………………まだ、大丈夫だよな」
ちらりと更衣室の方を見てみるけど、まだ出てくる様子はない。
大丈夫、別にダウンロードして、誰にも見せた事ない女性型アバターに使おうとか、全然考えてないから。
見るだけ、本当に見るだけだから。だからちょっとくらいなら……。
衣装データ、ダウンロード一覧とタップして、データを呼び出そうとしたその時、
「わぁっ!」
「うわぁあああああああああ!?!?」
耳元でいきなり声がして、盛大にすっ転んだ。
て、今のなに!?
「はははははっ。速水くんったら、驚きすぎぃ~」
ま、一人しかいませんよね。
このプライベートスペースには、俺以外にはもう一人の人しかいないわけだし。
「三枝さん、びっくりさせないでよ」
「だって速水くん、女の子の水着データ見てるんだもん。そんなの見ちゃったら、懲らしめないわけにはいかないかな~って」
「ごめんなさい、俺が悪うござんした」
隠すどころか、完全に見つかってた模様。
もう弁解の余地なさすぎて無条件降伏するしかない。
「まあ、反省してるみたいだし、許してあげるかぁ」
土下座からの平謝りでお許しいただけたようです。
……………………ごくり。
ここから顔を上げたら、目の前には水着姿の三枝さんがいるんだよな。
はぁぁ、多少なりとも落ち着いてた心臓が、またえらい事になってきた。
息が詰まりそうなくらい、またまた緊張が高まってきた。
今日一日で一生分くらい緊張しとるのではないでせうか、ワタシ。
でも、いつまでも頭下げてるわけにはいかない。これじゃ、ホントに時間の無駄になるわけだし。
でも、なんか見るのにもすごい勇気いるし……。
「さ、行こう。速水くん!」
そんなこっちの気持ちなんてお構いなしに、三枝さんは俺の手を引いて走り出した。
思ったより力が強くて、思わず引っ張られてしまう。
「ちょ、三枝さん!?」
海に入り、思わず足を取られてつんのめった。
もちろん、俺の手を握ってた三枝さんも道連れ、もとい巻き添えにして。
「ぷはぁ、三枝さん、大丈夫?」
バッシャーン――。
鼻や口から海水が入って、のどの奥が焼けるような感じがした。
俺は三枝さんの手を取って、ぐいっと引っ張り上げる。海水でびしょびしょだ。
三枝さんはその場に座り込んで、両手で顔の海水をぬぐう。
「うわぁ、海水ってこんな味するんだ。なんか、しょっぱいって言うか、変な味がする」
変な味するって言っときながら、わざわざ海水につけた指を舐めなくても。
ただ、俺の視線は三枝さんに釘付けだ。
白い紐で縁取られた、レモンイエローのビキニ。あまり過激なデザインでもない、割と平凡なデザイン。
でも、三枝さんにぴったりの色で、すごい似合ってると思う。
可愛いくて、綺麗で、釘付けになるって、こういうのを言うんだな。
全然、三枝さんから目が離せない。
「どう、かな」
「へ?」
「その、水着。着たことないし。それに、ビキニって、仮想じゃないと着られないから」
「仮想って、どういう……」
言いかけてる途中で気付いた。
昔、心臓の手術をしたって。それってつまり、胸とかに手術跡があるって事だよな。
いくら医療技術が進歩しても、消せない傷というものがある。
三枝さんの手術跡も、そういう部類の傷なのかもしれない。
「それで、どう? 私の水着姿」
なんか、三枝さん、両手を組んで頭の後ろにやって、やたら胸を張って強調しておられるのですが、これは幻でせうか。
「に、似合ってると、思う」
さっきまでの感傷的な気持ちなんて、こんなの見せられた瞬間どっかに行っちまいましたよ。
あーも。可愛いなちくしょう!
「そぅ。ありがと!」
「うぉっ!?」
三枝さんに手を引っ張られて、俺はまたまた海にダイブ。
しかも今回、顔からいったせいで顔面がやたら痛い。
「っははははは! こっこま~でお~いで~!」
バシャバシャと沖に向かって駆けて行く三枝さん。メニュー画面から浮き輪を出現させて、さらに遠くまで行こうとしてる。
ふふふふ、鬼ごっこですか。いいじゃん、やってやるよ! なんでかよくわからんけど!
でもなんか、水着で鬼ごっこって、なんかエロくね?
「待てぇぇえええええ!」
変なテンションになってきた俺は、言われるがままに三枝さんを追って泳ぎ始めた。
体育の成績は五段階評価で二.五くらいだけど。
それでも、三枝さんと比べたらけっこう速い。
「っぷはぁ、捕まえた」
「ははは。捕まっちゃった」
クロールしていた手が、浮き輪の端をつかんだ。
俺はそっちに体重を預けて、水面から顔を上げた。
目があって、二人ともなぜか知らないけど互いに吹き出した。
「やっぱり、体動かすのって楽しい。ありがとね、速水くん」
「よかった、喜んでくれたみたいで」
いつの間にか、緊張はほぐれていた。
三枝さんも、喜んでくれてるみたいで嬉しい。それに、いつも以上にいきいきしているように見える。
俺もよくわかんないけど楽しいし、本当によかった。
「プールにも行った事ないから、泳ぐのってちょっと怖かったんだけど、すごい楽しい」
「怖かったって言う割には、躊躇がなかった気がするけど」
やっぱり、性格はすごくアクティブなんだな。
「うん、それは、まぁ……。もしかして、私って変だったりする?」
「どうだろ。俺もシューティングゲームで初めて銃撃った時は、それなりに怖かったけど。それにここ、あくまでも仮想空間だから、現実の事をそのまま当てはめるのも難しいと思うよ」
「そんなもんなのかぁ」
「まあ、俺個人の意見だけど」
と、その時、サーフィンでもできそうな一際大きな波が、ざばーっと上から降ってきた。
思ってた以上に衝撃が強くては、浮き輪から手が放れてしまう。
空気が空っぽの肺だとすぐに息が苦しくなって、慌てて水をかいた。
そんなに深い位置にはいない。一、二秒で海面まで浮上した俺は、大きく息をした。
「三枝さん、大丈…」
「こっち見ないで!」
三枝さんは大丈夫なのかと思って振り向こうとしたら、凄まじく拒絶された。
え、なんで?
「見ちゃダメだから、絶っっ対に見ちゃダメだから! 振りとかでもないから!!」
しかも念まで押してきた。
大事な事なので二度言いました、的な。
「いやでも、俺も浮きっぱなしってキツいんですけど」
「わ、わかった……。わかったから、ちょっとだけ待ってね。振り向いたら、私帰るから」
後ろの方から、水のちゃぷちゃぷする音がする。
気になる、いったい何がどうなっているのか。
「ぃぃゎょ」
やっとお許しがでたので、俺は反転して浮き輪に捕まった。
ふぅぅ、手も足も限界が近かったんだよなぁ、助かっ……
「三枝さん、あの上が……」
「……な、流されちゃって。紐、緩かったみたい」
振り向いた俺は絶句した。
だって三枝さん、ビキニの上の方がないんだもん。
今は浮き輪から出て片手で捕まりながら、もう片方の手で隠している状態。
……………………あぁ、俺から少しでも距離を取りたかったわけですね。
周囲をきょろきょろしてみたけど、レモンイエローの水着はどこにもない。
「は、速水くん私、どうしたら……?」
「と、とりあえず、浜まで戻ろっか」
俺の提案に、三枝さんは肩まで真っ赤になりながら頷いた。




