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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
26/62

Stage25:2063/01/04/19:03:30【-0532:56:30】

 叔父さんからもらった一回限定の入場許可証のコードを打ち込むと、俺と三枝さんはすぐさま別の場所へと飛んだ。

 まばたきくらいの瞬間でガラリと景色が変わる様は、仮想空間でしか味わえない感覚だ。全身をくすぐられるような電流が流れるのも同じ。これがあると、仮想空間にいるんだなぁって感覚になれる。

「うわぁ…………。なにこれ、すごい白い」

 俺の隣では、三枝さんが目をいっぱいに広げて驚いていた。うんうん、俺も初めてここに入った時は驚いたもんなぁ。

 ブレゴスの開発期にはけっこう頻繁に来てたから、今なら懐かしさを感じちゃうレベル。

 床、壁、天井やその他構造物まで全部が、水色の縁取りがある白い六角形のパネルで構成されている。

 近未来をイメージして、VR空間デザイナーの人達が気合いを入れまくって作ったらしい。当初は外注の予定だったのを、若いデザイナーの人達が猛反発して自分達でデザインしたって言ってたな。

 でも、これは自作して正解だったと思う。だってすんげぇカッコいいもん。

 ちなみに、照明の類は一切ない。叔父さんの話によると、空間の光度が最適な明るさに調整されてるらしい。

 ようは、何もないけど明るいんだと。

 ところで、一緒にリンク先に飛ぶのに繋いだ手は、いったいどのタイミングで話せばいいんでせうか。教えてエロい人。

「ようこそ、ユニコーンスタジオへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 入場ゲートからすぐ近くの場所にあるカウンターから、受付嬢の人が営業スマイルで声をかけてきた。

 こっにの服装も部屋の内装に合わせて、レースクイーンとかの衣装をだいぶマイルドにしたような感じ。

 白に水色の縁取りをした、全体的にタイトなスーツ。独特の光沢があって、ちょっとビニールっぽい感じがする。

 頭には会社のロゴの入ったミニ帽子がちょこんと乗っかっていて、SF系ゲームのオペレーターみたいだ。

「えっと、叔父さん……。速水裕三(ゆうぞう)さんにお会いしたいのですが。アポは取ってます」

「承りました。少々お待ちください」

 オペレーターみたいな受付嬢さんは、複数のホロとコンソールを宙に開いて、複雑に指を動かして操作する。

 すげぇ、松井先輩とタメ張れる指裁きだ。

 ちなみに、受付嬢さんの出力したホロは、俺達の方向からは見えない仕様になっている。

 もしかしなくても、見られたくなかったり、見せちゃダメだったりする情報が載ってたりするんだろうな。

 すると突然、奥の方にある入場ゲートが光って、一体のアバターが構成された。

 試作パーツや増強パーツを付けすぎてゴテゴテになった最新式のホログラスが特徴的な、自慢できるのかできないのかよくわからない俺の叔父さん、速水裕三さんだ。

 リアルの身体だけならともかく、なぜかホログラスまでアバターに組み込んでるのかは俺もよく知らない。

 ってか、まただいぶラフな格好してんのなぁ。上はちょっと青っぽいワイシャツに、下は黒とグレーのチェックのスラックスで、ノーネクタイって……。

「やぁ、瑛太くん。元気にしてるかい?」

 片手を上げると、叔父さんは日頃の激務を感じさせない軽やかな足取りで近付いてきた。

「はい、おかげさまで。ブレゴス、毎日楽しくやらせてもらってます」

「はっはっはっはぁー、最後に君に手伝ってもらったβ版の頃から、かなり手を加えたからねぇ。細かいところまで含めれば、相当変わってるはずだよ」

「やっぱり、ブリガンゴーレムが前より鬼畜な仕様になってたのって」

「あぁ。適性レベルが十レベル代前半のクエストを、君らが五レベルそこそこでクリアしちゃったのが悔しくってなぁ。確率で、強いのが出るようにしてたわけさ。いや~、瑛太くんには絶対強いの当てようと思って、強制介入してその時だけ確率変えたんだけどねぇ~。クリアされちゃって、叔父さんちょっとガッカリしてるんだぞ?」

「そういう子供っぽい理由で勝手に難易度上げるのやめてくださいよ!」

 ほんとにもう、この人は!

 悔しさで難易度上げる事くらいはするかもって思ってたけど、あのミニガンゴーレム付きの戦闘も叔父さんの差し金だったのかよ。

 職権濫用して憂さ晴らしって、ギャグすぎて泣けてくるわ!

「それで、瑛太くん。そちらの手を繋いでいる可愛い彼女は、君のガールフレンドなのかい?」

「なっ!!」

「はうぅ!?」

 叔父さんに言われたのが急に恥ずかしくなって、慌てて手を離す。

 変な汗でべたべたにはなってないだろうなぁ。こういう、無駄なくらいすごいフィードバックとか、NoVAってすごそうだけど。

「はっはっはぁ。いいねぇ~、若いってなぁ」

「……叔父さん、そういうのどうでもいいから」

 受付嬢さんとか、もう笑い押し殺すのに必死だよ。てか、なんで受付カウンターの前でそんな事言うかなぁ。

 何この羞恥プレイ。

「いやぁ~、すまんすまん。まさか本当に女の子連れてくるとは思ってなかったんでな。さぁ、こっちだ」

 俺も三枝さんも恥ずかしさから抜けられない内に、叔父さんは元来た入場ゲートの方に歩き始める。

 ちらって横目で三枝さんの方を見ると、向こうも同じように俺の方を見てきた。さすがに、手を繋ぐ必要ないよね。

 俺達は受付嬢さんから逃げるように、小走りで叔父さんを追いかけた。




 ゲートをくぐった俺達の視界に現れたのは、けっこう距離のある歩く歩道だった。

 その歩道を包み込むように、透明なトンネルが形成されている。

 トンネルの向こうには、俺の部屋みたいな電子の海が広がっているんだけどぉ……、規模が全然比較にならない。

 一万倍とか、それ以上って言っても納得するくらいの空間を、秒間数千ギガ、あるいは数テラバイトの情報が行き来している。

 可視化された電子情報が長い尾を引いて流れていく様子は、まるで流星群でも見ているみたいで凄く綺麗だ。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は速水裕三。瑛太くんのお父さんの弟で、瑛太くんの叔父さんってわけだ」

 電子名刺を三枝さんに渡しながら、叔父さんは三枝さんに自己紹介。

 渡された名刺をタップすると、名前や会社名以外にも、電話番号やメールアドレス、会社の住所や役職名、証明写真等のデータが空中に投影された。

「さ、三枝美夏です。速水くんとはその、同じ部活動に入っていて…………いつもお世話に……」

 いやいやいや、世話される事はあっても、俺からお世話した事とかありませんですから。

 てか、恥ずかしすぎて出来ません。

「いや、世話になってるのは、うちの(おい)の方だろ。まぁ、見ての通りコミュニケーションが少々苦手なヤツでね、色々と気を揉んでいたんだが。今後ともよろしくしてやってくれると嬉しい」

 さすが叔父さん、俺の事をよくわかっていらっしゃる。

「は、はぃ……」

 叔父さん、これわざと言ってるよね。三枝さん困らせたくて。

「それじゃあ二人とも、もう少し待っていてくれ。手続きしてくる」

 歩く歩道を渡り終えると、また六角形の白タイルに囲まれた部屋が現れた。

 今度はちょっと広めの空間で、ちょっとした病院の待合室みたいになっている。

 俺達以外にも、三人の人がいた。ソファーで寝転がっている人、新聞を読んでる人、SNS経由で誰かとチャットを楽しんでいる人。

 その人達も、叔父さん同様に派手すぎない私服だった。やっぱあんなSFのオペレーターみたいな服装してるのは、受付嬢さんだけらしい。

「二人ともいいぞ。こっちに来てくれ」

 手続きが終わったらしい。

 叔父さんは妙にニヤニヤした顔で、手招きしている。

 どこに連れて行かれるのかわからない三枝さんは、ちょっとだけ心配そうな感じだけど。

 でも、きっと喜んでくれるだろう。

 いよいよ緊張が最高潮まで達しながら、俺はそれを悟られないように顔を引き締めた。

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