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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
24/62

Stage23:2062/12/31/19:25:49【-0628:34:11】

 あるてみす工房のブースで休ませてもらったお陰で、三枝さんは完全復活を果たした。

 莓田楽さん始め、サークルの方々には足向けて寝れねぇや。

 苦笑いのままバスタオルを三枚受け取った三枝さんは、さすがに恥ずかしいから反対にして使っていた。

 極稀にリバーシブルな仕様のものもあるけど、今回は片面でよかった。いや、選んで来てくれたんだろうけど。

 柏木はどっかからワッフル買ってきて、くたくたになってた。どこにあったんだよ、あんなの。見覚えないぞ俺。

 そうしてどうにかこうにか諸々終了して、松井先輩を待って、今は電車に揺られている。

「眞鍋。その袋、恥ずかしくないのか?」

「ふん……。これだから、リア充は」

 いくら柏木に言われても、咲希には全く動じる気配がない。うん、お前のそういうとこ、尊敬するよマジで。

 幼い女の子が要所だけ泡で隠した袋は、さすがに肌色率高くて厳しいのでございますです。

 あぁこら、そんなよだれの垂れそうな顔で袋の中を見るなって。

 松井先輩を連れてった時点で、だいたい察しはついてるから。

「これのよさ、わからないって…先輩人生損してる。ぐへへぇ」

「いや、オレはそっち方面のゲームはご遠慮させていただきます」

 ちなみに、席順は松井先輩、咲希、俺、三枝さん、柏木の順。俺と三枝さんをはさんで言い合いすんなよ。

 席なら替わってやるから。

「ところで松井先輩、どんぐらい売れたんですか?」

 俺は席の端でダンボール一箱を携帯している先輩に聞いてみた。

 ちなみに、他にも痛い袋とそうじゃない袋が、合計で三つくらいある。

「そうだなぁ。四割近くは売れたし、けっこう良かった方だな」

 四割近くって、じゃあ六割以上も残ったんですか。それで良かった方って、どんだけ厳しいんですか同人業界。

「いや~、最初サークル参加した時とか、二枚売れただけだったからな。あの頃と比べたら、かなりの進歩だなぁ~」

 怖い、コミケ怖すぎる。

「はははぁ……。でも、コスプレも凄かったですよねぇ。アバターの人もいるのかな~って思ったら、全員本物でびっくりしました」

 ありがとう、三枝さん。

 疲れてるはずなのに、泥沼化しそうな咲希と柏木の論争アンド、聞くだけで悲しくなってくる松井先輩の話をぶった切るナイスプレー。

「そりゃ、アバターなら似せて作れば終わりだからな。でも、それじゃつまんないだろ? リアルの体で着るから、やっぱりいいんだろ」

「手作りの、すごかった。アレ…どうやって作ったんたろ」

 よかった、二人とものってくれた。

「だよなぁ。オレもホログラス外して見たときは驚いたぜ。この寒い中、めっちゃ薄着の人とかもいたし」

「いたなぁ、そんな人も……。雪降ったらでうすんだろうな、アレ。やっぱ降ってもするのかなぁ?」

「柏木くんも速水くんも、いったいどこ見てたのよ。エッチ……」

 し、しまった。つい正直な感想が……。

「ち、違うって! 純粋に疑問に思っただけで。なぁ、柏木!」

「お、おう! そうだって! オレらめっちゃ厚着だったから、すげぇなぁって!!」

 あぁ、三枝さんの視線がどんどん冷たいものに。

 やめて、そんなまるでゴミを見るような目はやめてぇ!

 確かに、フェロモン全開の胸の谷間とか、ムチムチの太ももとか、くびれたウエストとか、柔らかそうなヒップに目がいっちゃったけど、あれは男の本能のようなもので、仕方がなかったんです!

「せ、先輩! 視界スクショ、一杯撮ったんで、あ…ああ、後で交換しましょう!」

 で、隣に冷たい視線を向けてくる人がいる一方、もう片方には鼻息荒げてる女子もいたり……。

 咲希、お前は優秀なくせにどうして天然に俺に追い打ちかけてくるかね。

 三枝さんの俺を見る目が、また一段と冷たくなったじゃないか。

「速水くんも撮ってたんだぁ、視界スクショ」

 ほらね。もう泣きたい。

「えっと、いや、そのぉ……」

 なんて、俺が口どもっていると、

「速水くん、あぁいうのが好きなんだ」

 あぁ、誤解された。絶対に誤解されたぞ。

 なんか、こっちの顔見てくれないもんな。

 せっかく隣に座ってるのに、なんでこんな複雑な気分にならなきゃなんねぇんだよ、ちくしょう!

「ネカマ先輩」

「咲希、松井先輩って呼ぶか、せめて『ネカマ』の部分は外してくれ。で、なんだ?」

「私も…なにかしてみたい」

「コスプレか?」

 うんうんと、咲希は何度も頷いた。

 まあでも、咲希の事だから薄着とかは絶対にないんだろうけど。

 松井先輩は、空中で指をタップしては横にスライドしてを繰り返す。

 たぶん、画像ファイルでも開いてるんだろう。

 松井先輩も視界スクショ撮ってたんかい。ま、先輩なら全然驚かねぇけわな。

「じゃ、こんなんなんてどうだ?」

「露出多いのは、ちょっと」

 P2Pで接続してんだろうけど、仮にも女の子の咲希を恥ずかしがらせるって、先輩どんな画像見せたんですか。

「なら、これならどうだ?」

「こんな重武装、ムリ。それに、モデルガンとか…絶対高い」

 これは、自宅警備員の画像かな。色んな意味で咲希にピッタリだけど、さすがになぁ。

 それに、それだと味気なさ過ぎる。顔だって、完全装備なら見えなくなるんだぜ?

 一応は可愛い顔してんだから、もったいない。

 俺達の注目は、当然の事ながら松井先輩の見せている画像の方に向いていく。

「先輩、どんな画像見せてるんですか?」

 三人を代表して、俺が松井先輩に聞いてみる。

 すると期待を裏切らない、全くの予想通りに松井先輩はホログラスのレンズをキラリと光らせて、

「気になるか? ならば見せてやろう!」

 P2Pで、画像閲覧ソフトのホロを出力してきた。

 そこにいたのは、全身黒尽くめで武装した兵士だった。ただ、ヘルメットには“NEET”、防弾チョッキに見立てた上着には“自宅警備員”とか書かれてる。

 冬はともかく、夏とか見てるだけで暑そうだ。ゴーグルにガスマスクとか特に。

 今冬だからいいけど。

「咲希ちゃん、これはやめといった方がいいと思うな~、私」

「眞鍋、オレもこれだけはやめとくべきだと思う」

「大丈夫、です。これ、どう考えても……絶対ムリ…………」

 と、リアルでは普段から小さい声が、もっと小さくなってきた。

 ちらっと咲希の方を見てみると、紙袋は足元に置いて、頭はぐったりと下がってきている。ついでにまぶたも。

 俺はP2P接続のまま通話アプリを起動すると、眼球移動で咲希以外の四人に回線を繋いだ。

『咲希が眠そうだから、静かにしようぜ。先輩も、それでいいですね』

『あぁ。それじゃ、俺も寝るかな。今日一日疲れたし』

『そういや、オレもさっきから眠気が……。走り回ったせいかな』

 思考から入力された言葉が、スピーカーから声として出力される。

 全員とも納得してくれたのは良しとして、咲希の眠気が伝染したのか、松井先輩と柏木まであくびをし始めた。

 でも、あの人混みじゃ仕方ないか。ホログラス越しなら、もれなくアバターまで増えてたし。

 それからしばらくして、隣近所から寝息が三人分聞こえてきた。

 なんか、俺まで眠くなってきたかも。

 そういや、電車の振動って眠くなる効果があるって、前に何かで見たな。

『なんか、みんな寝ちゃったね』

 P2P接続の思考発声で、三枝さんが話しかけてきた。

『だな。俺も何か、ちょっと眠くなってきた。咲希の眠気でも移ったかも』

『ふふふ、そうかもしれない』

 すかさず、俺も返事を返した。

 事実上の二人っきりな状況に、俺の心臓はさっきから暴走しっぱなし。意識すればするだけ、緊張してきた。

『体調、もう大丈夫なんだよな?』

『うん、もうバッチリ』

 頑張って横を向いてみると、ちょうど顔を向けてきた三枝さんと目があった。

 恥ずかしくて、慌て目をそらしちゃう俺ってどんだけ情けないんだよ。そのせいで、三枝さんもなんか気まずそうに目ぇそらしちゃうし。

 そもそも、隣にいるのに機械越しに会話ってどうよ。いや、口で上手くしゃべる自信もないんだけど。

『でも、ありがとうね。速水くん』

『いや、俺ただ横にいただけだし』

『ううん。でも、お陰ですごく安心できたから』

 今度は気付かれないように、横目でちらっとのぞき見た。

 ほっぺがちょっと赤くなってて、なんか可愛い。

 それに、なんかすごく楽しそうというか、嬉しそうというか、足して二で割ったような顔してる。本当に、安心しきったような感じで。

 まぁ、俺ヘタレだし、手とか出さないとか思われてるんだろ。いや、本当に出しませんけどね?

 でも、三枝さんの“あんな話”を聞いちゃったせいか、柄にもなく何かしてあげたいって、そんな思考が俺の中でどんどん大きくなっていた。

 仮想の世界の中なら、三枝さんはもっと自分らしく、やりたい事ができるのかもしれない。

 決して現実(リアル)から逃げるわけじゃない。

 現実(リアル)でも仮想(バーチャル)の世界と同じように、過去のトラウマから解放してあげたい。

 そのための練習を仮想(バーチャル)の世界に求めるのは、別に間違っちゃいないはずだ。

『三枝さん、明日以降で、予定の空いてる日って、ある?』

 だから俺は、いつもよりほんの少しだけ、勇気を持ってみる事にした。

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