Stage22:2062/12/31/12:18:22【-0635:41:38】
三枝さんの異常に気付いた莓田楽さんが、あるてみす工房のブース内で休むように勧めてくれた。
俺と柏木は両側から三枝さんを支えて、ブースの中に入れてもらう。
先輩と莓田楽さんはパイプイスを並べて即席のベッドを作ってくれて、いったんそこに三枝さんを横にした。
「身体冷やすといけないから、近くのブースでバスタオルかなんか借りてくるね。あ、クロブチさん、その間仮想のお客さんの相手お願い。リアルの方は売り切れちゃったけど、DL版は限りないから。これ、サークル参加者のIDとパスね。他のところ回ってるメンバーにも、戻ってくるように頼んでるから。それまでお願い」
「了解です。すいません、迷惑かけて」
「いいっていいって、困った時はお互い様。まぁ、こんな場所だから、デザインには目をつむってもらわなきゃならないけど」
いきなり雰囲気の変わった莓田楽さんは手を振ると、バスタオルを売ってるブースを探して駆けて行った。
柏木も莓田楽さんと同じく、温まれるものを探してどこかに行って、今ブースにいるのは俺と先輩と三枝さんの三人。
先輩は時々来る一般参加者のアバターの相手をしているから、実質三枝さんの看病をしてるのは、俺だけって状態。まあ、看病つっても、隣にいるでけなんだけど。
「ネカマ先輩、三枝先輩…大丈夫?」
「あぁ、咲希。飲み物持ってきてくれたか?」
「はぃ。ネカマ先輩、サークルの人から、持ってけって、コレ」
テーブルの下をくぐって入ってきた咲希は、コントローラー友の会の人からもらってきたスポーツドリンクを渡してくる。
少しぬるいくらいだけで、ちょうどよさそうな感じだ。
俺はそれを受け取ると、フタを開けて三枝さんの肩を叩いた。
「三枝さん、咲希が飲み物持ってきてくれたよ」
「うん、ありがとう」
三枝さんは上半身だけ起こして、ペットボトルを受け取ってくれた。
見た感じだと、そんなに体調悪そうには見えない。
咲希が来るまでの間、ホログラスの自己診断アプリで体調データを送ってもらったけど、体温や脈拍は普通だった。いや、脈拍は少し低めって書いてあったっけ。
なんとかしてあげたいけど、何もできない自分が、なんかむずがゆい。
「ぷはぁ……。ごめんねぇ、咲希ちゃん。迷惑かけちゃって」
「……本当ですよ」
「こら、咲希!」
お前、この状況でなんちゅう事を……!!
「だから、迷惑かけるなら、私のいる場所…で……お願い、します。心配、する…………」
とか言いつつ、ナゼに俺の後ろに隠れる。
ったく、リアルじゃ俺や松井先輩以外には、全っっ然、素直じゃねぇんだから。困ったもんだぜ、ホントに。
俺は軽くゲンコツを落とそうとしていた手を広げて、咲希の頭を撫でてやった。
気持ちよさそうに、目なんか細めやがって。現金なやつめ。
「っふふ。ありがと」
三枝さんは咲希にお礼を言うと、俺にペットボトルを渡してまた横になった。
「すっごい昔なんだけど、私、心臓の手術した事があるの」
「それって、俺達が聞いてもいい事なの?」
「うん。こうして迷惑かけちゃったわけだし、また迷惑かけちゃうかもしれないから」
申し訳なさそうな三枝さんの表情が、胸に痛い。
別に、三枝さんは何も悪くないのに。
「生まれた頃から心臓が悪くってさ、昔からあまり運動とかできなかったの。小学校入る前に手術して、お医者さんからは運動してもいいって言われてるんだけど、親が心配症でスポーツとか許してくれなくてね。実際、手術する前に激しい運動して、救急車で運ばれた事もあったから。それでね、ちょっとでも息苦しくなると、怖くなって体がおかしくなっちゃうわけよ。救急車で運ばれた時の事、思い出して」
最後に大きく深呼吸して、三枝さんは口を閉じる。
俺も咲希も、少し離れた所で聞いていた松井先輩も、何とも言えない衝撃に襲われていた。
ちょっとスケールが大きすぎて、どういうリアクションをすればいいのかわからない。
生まれる前から病気を持っている赤ちゃんの話なら、テレビのドキュメンタリーやバラエティーで何回も見た事がある。
でもそれは、自分の近くにいない、知らない誰かの事だとばかり思っていた。
それが、こんなに身近にいたなんて……。
「だから職業、剣士にしたん…ですか?」
俺の身体から頭だけちょこんと出して、咲希が三枝さんに聞いた。
それに三枝さんは、ゆっくりと頷く。
「うん。仮想空間の中だと、不思議と大丈夫だったの。自分の体なのに、自分の体じゃないみたいに感じるからかな。いくら体を動かしても、全然気持ち悪くならないんだ。まぁ、それでも今まで、仮想空間に没入する事はあっても、ゲームを事なかったんだけどね」
「そういえば、中学の時の何かの課題で将来の自分について書けってのが出た時、3D空間デザイナーになりたいって言ってたっけ。もしかしてそれも、病気に関係してるの?」
「う、うん、そうなんだけど。速水くん、それ覚えてくれてたんだぁ…………!」
「ま、まぁ……。すごい、珍しいなぁって思ってたから」
確か、中学二年生の頃だったかな。
夏休みに一週間の職業体験をして、それに関しての課題で将来やりたい職業について書くって課題があって。その頃にはもうゲームにはまりまくってたから、俺はゲーム会社に入りたい的な事書いてた気がする。
三枝さんのイメージに全然合わないから何でだろうってずっと思ってたけど、そんな理由があったのか。
「まぁ、こんな感じかな。ほんと、ごめんね。みんな楽しんでたのに」
「だから、もういいって。気にしてないから」
「そう、です。理由はわかりました…から。仕方ないと、思う、思います」
「だそうだから美夏、もう謝らなくていいぞ」
珍しく頼りがいのある松井先輩の台詞に、思わず笑いが漏れた。
やっぱ、この人が部長だな。
なんやかんやで、俺達部員の事、ちゃんと見てくれて、いざって時はちゃんと先輩してくれる。
頭はすごい悪いけど。いや、悪いのは成績か。
本当に頭悪かったら、ゲームとか作れるはずないもんな。
「……はぃ、わかりました」
そう言って、三枝さんは笑ってくれた。
俺達の気持ち、ちょっとでも通じてくれてたらいいな。
三枝さんの話を聞いている内に、遠くから莓田楽さんが小走りで近付いて来るのが見えた。
両手には、計三枚くらいのバスタオルのようなものが見える。
まあ、白い液体のかかった物凄いカッコの美少女柄なのは、この際目をつむるしかない。
ちょっとしんみりとした空気を豪快にぶち壊されて、俺達は苦笑いを浮かべていた。




